魔理沙さんの話をバレンタインにあげたかった。が、叶いませんでした。
無縁塚はその名の通り縁の無い物が集まる。つまり、無縁のものを埋める墓場である。
春に咲く紫の桜は妖怪桜と言われ、その花が散る様はあまりに悲しく騒ぐ者は殆どいない。
魔理沙は無縁塚まで辿り着き、ゆっくりと地面に足を着ける。
妖怪桜は今年も咲き、その独特な花びらが沢山散っている。
その景色に魔理沙は息を呑む。不気味な程に花びらが沢山散り、紫に染まっているのかのような空間を作り出していた。
「今年もすごいな…」
魔理沙は暫く宙を舞っている花びらを眺めた後、周りを見渡す。
いつものようにお墓の様に積み上げられた石の山、何に使うかわからない外のガラクタ。
いつもの無縁塚のように見えた。
しかし、魔理沙がいる反対側に無機物な、ガラクタや、石ではなく、生きている何かが転がっていた。
桜が舞う中、魔理沙は目を凝らしてしっかりとその生きている何かを確認しようとする。
もし、妖怪だった場合、不用心に近づいて襲われたら戦闘状態に入ってない魔理沙ではひとたまりもない。
それは人間だった。
人間の男だった。
魔理沙は近寄って確かめようとするが、この死体自体が罠だった場合を考え足を止める。
もし、妖怪の罠だとしたら男に近づいた瞬間どこからか現れ自分の首を吹き飛ばすかもしれない。
もし、避けれたとしても複数体現れ囲まれるかもしれない。
そんな悪い考えが脳裏をよぎる。
そんな事になるかもしれない。
死ぬかもしれない。
死ぬより酷い事をされるかもしれない。
「そんな…覚悟はとうの昔にしたじゃないか…」
再び、魔理沙は歩き出す。
そんな事で怯えていてはこの世界では生きていけない。そんな事は魔理沙自身よく分かっていた。
「なんで今更そんな事を思うのか、不思議だぜ…」
魔理沙は妖怪退治を生業にしているだけ、その焦りは不可思議に思えた。妖怪に会う為に無縁塚に来たのに妖怪に怯えている。
そんな感情を魔理沙は滑稽に思った。
もしかしたら、本当に妖怪の罠の場合があるかもしれないので、一応自分の武器である八卦路を取り出す。
男に近づき触れる。
人間独特の温もりが服ごしに手に伝わる。
生きている事を確認して安堵する。
気を抜かずに辺りを見渡す。
先ほどと変わらずに紫の桜が舞っているだけで何かがこちらに襲いかかろうとする事はなさそうだった。
再び安堵しそこに座り込む。
魔理沙は心底その男のことを運がいいと思った。
妖怪が多発する無縁塚で気絶していて妖怪に会わずに無事でいるのだ。運がいいことこの上ないだろう。
魔理沙は運がいい男を観察する。
服装から見て幻想郷の外から来た人、つまり外来人だった。
黒いワイシャツに藍色のおかしな記事のズボン、髪は黒で少し長めで、
顔立ちからして魔理沙と同い年か、少し上くらいだった。
それより魔理沙は別の物が気になっていた。
その男は手に何か持っていた。
見た感じはただの巻物だったが何度も妖怪退治をし、妖怪を見慣れていた。魔理沙にはわかっていた。
手に持っている巻物から尋常じゃない程の妖力が出てる事が。
魔理沙は魔法使いをしていた。日々魔法の研究をし、実験を繰り返し、強くなろうとしていた。
だから、人一倍好奇心が強かった。
恐れや良心的に巻物を取らないという選択肢もなく、すぐにその巻物を手に取り題名を見てみる。
「百鬼…夜…行絵…巻⁉︎…妖魔本じゃねーか‼︎」
妖魔本とはその名の通り妖怪の書いた本で、妖怪が書いた古典文学や、人間に宛てたものや、はたまた落書きまでもあるが、多くはその妖怪がいた事を示す為に書いた物だ。
妖魔本は妖怪が書いた為に妖怪の力、妖力が宿る。
そんな、稀覯本な妖魔本を魔理沙は何度も見た事があった。
好奇心旺盛な魔法使いは外来人の持っているその妖魔本が見てみたくて仕方がなくなっていた。
一瞬にして魔理沙の好奇心は膨れ上がった。
道徳心の欠片もないような事を思い付く。
盗めば…いや、借りればいいじゃないか死ぬまで。
その時、だった。
「んん…」
男がうめき声をあげたのだ。
魔理沙は自分の悪巧みがばれたのかと思い焦る。
咄嗟に巻物を男の手に戻し、音もなく近くの茂みに隠れる。
魔理沙がちょうど隠れた所で男は目を覚まし立ち上がった。
そして、男は紫の桜に目を奪われていた。
しかし、魔理沙はそれどころではなくなった。隠れてしまったので下手に動くことが出来なくなったのだ。
男が自分の知らない世界に急に飛ばされて慌てふためいている中、魔理沙は今後どうするか考えていた。
咄嗟に隠れてしまったが普通に居れば良かったじゃないか、普通に声をかけてあげれば良かったじゃないか、なんで隠れたんだろう。
いや、そんな事はどうでもいい。重要なことじゃない。
今後どうするかだ。今更、普通に出て行きにくい状態だ。
だったらどうする…とりあえずバレない様に見張ってればいいのか、去るのを待てばいいのか迷うが、外来人が何故妖魔本を持っているのか気になる。
もしかしたら、幻想郷に攻めて来ようとしているのかもしれない。そんな事、妖怪退治をしているだけあって見逃す訳にはいかない。
よし、監視しよう。あわよくば、あの妖魔本を手に入れよう。
そんな事を考えていると、外来人はもう既に、無縁塚から居なかった。
無縁塚と魔法の森を結ぶ一本道で背の高い草が周りに生い茂っている。
無縁塚同様に妖怪から狙われやすい。
男はもうその道に入っていた。
監視することを決めた魔理沙は背の高い草に紛れつつ後を追いかけた。
暫く、歩いていくうちにだんだん緊張感が薄れ、徹夜の眠気が襲ってくる。疲れが襲ってくる。
しかし、魔理沙は根気よく男を見張り、後を付けていた。
魔法の森が見える頃には、大分眠くなっていた。
やはり、限界が近くなってしまい足がすくみ忍び足をしてたが、バランスを崩し音を立ててしまう。
慌て体制を治し、男の方を見る。
こちらを見ている。
何がいるかはまだ分からないが未知な物が潜んでいるだろうという顔をしていた。
魔理沙もまだ、自分が居るとはばれてないとはいえ、後を付けてきた自分は今更出て行きにくい状態が更に増しただけだ。
双方、全くといって動かなかった。
いや、動けなかった。
二人の間に長い時間が流れた様に感じる。冷や汗をかき、心拍数が上がる。
その時突然、突風が吹き魔理沙を隠していた背の高い草が揺れる。
少しだけ魔理沙の姿が露わになる。
男はその姿がどういう風に見えたかは分からないが青ざめ脱兎の如く走り逃げる。
魔理沙は咄嗟の反応に動けず、少しだけ遅れて動き出す。
魔理沙は徹夜と先ほどの緊張感の疲れが一気にのしかかり、思うように走れない。
みるみる男の姿は小さくなる。
そんな、男の背を見ながら魔理沙は必死に追いかける。
魔法の森に入り男の姿が見えなくなるが魔理沙も諦めずに魔法の森に入り後を追いかける。
幸い、魔法の森は湿気が多く地面がぬかるんでいるため男のものだろう足跡がくっきり残っていた。
魔理沙はそれを頼りに追う。
少し歩いた先にさっきまで追っていた姿が見える。
何やら座り込んで何かを見ているようだった。
極度の疲労で考える間もなく気になり近づいてしまう。
先ほどの目的などもう頭にない程疲れていた。
何を見ているのか気になったから覗いた。ただそれだけしか頭になくなっていた。
男はキノコと対面していた。
空腹で食べるか否かを自問自答しているかのようにジッと見つめていた。
魔法の森に住んでいる魔理沙はそのキノコが毒入りだということを知っていた。
魔理沙は止めて教えなければ食べるなということも何と無くだが分かっていた。
その時が一番疲労のピークだったが最後の力を振り絞り、男がキノコに向かって伸ばした腕を掴み忠告した。
「そのキノコは毒入りだぜ!まあ、死にたいってなら別だがな‼︎」
最後の叫びのような感じだった。
そこで霧雨魔理沙の意識は途切れた。