「僕をこの貸本屋で雇って下さい」
単なる思いつきで、軽率な発言だったかもしれない。
だけど、諦めることができなかった。
こんな世界で死ぬかもしれない、元の世界に戻れないかもしれない。
そんな事は頭にあったはずだったのだがどうしてか、この世界に残ることを決めた発言をしてしまった。
しかし、後悔はなく、寧ろ清々しい気持ちでいっぱいだった。
「え?…えぇ⁉︎本気で言ってるの⁉︎」
「はい、本気です。」
まあ、当然の反応だろう。
今までの経緯を聞いて普通はここに残ろうとは思わないだろう。
「えっと…親御さんとか心配しないの?あと、友達とかも!」
「えっと…僕は元々捨て子なので…親はいません。友達もいる…とは言い難い生活を送って来ましたし。」
苦笑しながら答える。
「あう…ごめん不用心に私…」
「いえ、気にしないで大丈夫ですよ。」
「そっか、ありがとう!」
凄く眩しい笑顔で返される。
どうやら気を使って返事したことがばれたらしい。
「うーん…でもなぁ…夜考君住むところもないでしょ?」
「え、えぇ…厚かましいですが、そちらも用意して頂ければ…なんて都合良くないないですよねぇ…」
「んー…ちょっと私一人じゃあ決めきれないからお母さん呼んでくるね!」
パタパタと小鈴さんは店の奥に入って行ってしまった。
暫く待っていると…
「えぇーーー‼︎」
小鈴さんの悲鳴にも近い叫び声が聞こえてきた。
と、思ったらこちらにトボトボと帰ってきた。
「えっと…どうしたんですか?…」
恐る恐る聞いてみると、小鈴さんは濁った目で一枚の紙を差し出してきた。
その紙に書いてあることをよく読んでみる。
『お父さんと一緒に古書集めの旅に行ってきます。
暫く戻って来れないと思います。
小鈴なら一人で頑張れるよね?
私の娘なんだから大丈夫よね?
店の事は小鈴に一任します。
それでは、二人で行ってきます。
いい子にしててね!
愛しの母より
追伸:暫く生活出来る分のお金は戸棚に入ってます。
売り上げ金も自由に使ってね!』
これは酷い。
率直な感想だった。
小鈴さんの反応から見て前以て知らされてなかったのだろう。
流石に小鈴さんに同情を禁じえなかった。
「えっと…小鈴さん大丈夫ですか?」
「…よ…」
「え?」
「夜考君!」
「は、はい!」
いきなり呼ばれて背筋が伸びる。
「うちに泊まってもいいよ!寧ろ泊まりなさい!」
「え、あ、はい!…え?…いいんですか?」
突然の事で驚きまくる。
はっきり言って了承を得られるとは思ってなかった。
そして、小鈴さんの凄い剣幕に驚いていた。
「いいよ!あんな勝手な親の了承なんていらない!第一店の事は一任するって書いてあるから私がいいって言ったらいいの‼︎」
「は、はい!」
物凄い勢いで言うのでつい返事してしまう。
触らぬ神に祟りなしというか余計な事を言うととばっちりを受けそうだったのでこれ以上は何も言わずただ、小鈴さんが落ち着くのを待っていた。
その間、ずっと小鈴さんは高速で多分親に向けてだろう愚痴を零していた。
段々口数が減りようやく落ち着いたところで話かける。
「小鈴さん…落ち着きました?」
「…はぁ…はい、何とか。お見苦しいところをお見せしてしまい、すいません。」
「大丈夫ですよ。見ていて面白かったですし。」
少し笑いながら答える。
「はう…すいません…」
「大丈夫ですって…ところで、この貸本屋で僕は寝泊まりしてもいいんですか?」
勢いで言った可能性があるので、確認のために聞いてみる。
「大丈夫だよ。空き部屋もあるし。」
問題はそこじゃない気がするが、本人がいいのならいいだろう。
「それに私、家事が一切出来ないからやってくれる人がいると助かるし!…夜考君、家事出来るよね?」
「えぇ、まあ一人暮らししてたので一通り出来ますけど…」
「よし!決まりだね!」
結構大きなミスをしてしまったかもしれない。
まあ、結果として住食を確保出来たみたいなのでよかった。
「じゃあ、改めて!ようこそ、鈴奈庵へ!管理人の本居小鈴です‼︎」
「えっと…外来人の白木夜考です。これからお世話になります。よろしくお願いします。」
挨拶をし直しながら頭を下げる。
「それと、もう一つ…ようこそ、幻想郷へ‼︎」