ポケモン達は早々に昼食を終えると二匹でなにやら話し合っていた。
これものすごく疑問に思うんだけど、いくらポケモンという括りで一緒くたになっているからといって、種はそれぞれ違うんだから意思疎通ってどうなってんの? そもそもポケモンに言語ってあるの?
私が最初にそれに気づいたのは、ジャンボが初めて他のピカチュウと対面した時だ。
その時のピカチュウは野生から人に飼われていたペットだった。当然同じピカチュウ同士仲良くできるものだと思いこんでいた私は、まずコミュニケーションを取ろうとしない彼らに驚いた。というか、成り立っていなかったと言った方が正しいのだろう。最初にお互い数回鳴いただけで、それからはどちらも相手に見向きをしようとしなかった。
どうしてピカチュウ同士仲良くできないのだろう。そう感じた私が両親に問うても答えは相性が悪いんじゃない? とだけ返ってくるだけ。
何かがおかしい。そこで違和感を感じた私はそのピカチュウとジャンボを見比べてみた。人と同じように生活するジャンボと、人の生活を知りながらもどこか理解していない様子のピカチュウ。一体何が違うのだろう。
そこで私はジャンボに聞いてみた。
「あの子と仲良くできなかったの?」
少し考えた様子のジャンボは珍しく答えを文字に書いて私に教えた。
『あのこ、しゃべれないからわからない。ぼくとちがう』
違うとはどういうことなのか。
うちのジャンボは人間の言葉を理解している。そして意思疎通も可能だ。逆に言えば、卵から孵したジャンボにはピカチュウの言語がわからないのではないのか。そもそもピカチュウに言語は存在するのか。
ここで疑問はさらに増える。ピカチュウに限った話ではない、他のポケモンはどうなのだろう。それぞれの種別に言語が存在しているとなると、それはすごいことになるだろう。だがこの推測を決定付けるには、人間がどうやってポケモンの鳴き声から言葉を知るのか、確かめる手段がない現状それは難しい研究になるだろう。
しかし、一般的にトレーナーが多数種別のポケモンを持っていても彼らは総じて意思疎通が可能であり仲もよい。両親の言うとおり、相性も確かにあるだろう。それでも、どうやってポケモン同士でコミュニケーションを取っているのか。ジェスチャーだけじゃ伝わらない部分だってあるだろうに、彼らは種族の壁などまったく気にせずコミュニケーションが取れている。
ジャンボもどうして喋れないのか不思議に思ったのは最初だけで、後に自分以外のポケモンともなんとなくだがコミュニケーションが取れるようになった。本人に聞いたところ、本当になんとなくらしい。その部分が知れれば大きな発見になるのだが、とりあえず会話はできないようだ。
学会では昔、ポケモンと人間のシンクロ説が唱えられたことがある。
バトルなどの互いが極限状態に陥っている最中は、何も指示しなくともポケモンがトレーナーの思ったとおりに行動することがある。それは経験に則った行動かもしれないし、一種のトランス状態なのではないのかと否定されたが、私はあながち間違いではないと思っている。
ポケモンにはエスパータイプというのが存在するが、そもそもポケモンという存在自体が超能力を持っているのではないのか。私はその仮説をたてた。
ESPを持つことから他の種ともコミュニケーションが取れる。シンクロ説をいうならば、トレーナーの心を読み取れる。ボールに収めるきっかけとなった『衰弱時に縮小して狭いところに隠れる』本能だって、普通に考えればありえないことだ。総じてまとめてしまうには簡単すぎるが、一般的な言い方をすればこれは超能力と言わざるを得ない。
そもそも体積の問題を丸無視してモンスターボールに収まることがおかしいのだが、いくら西之森教授が本能だと訴えてもその真相は未だ納得いかない者が多く、学会でも永遠の課題である。
ポケットに入るからポケモン。そう言い出したのは一体誰なのだろう。
この世界で生まれた人たちは何の疑問をもつことなく、ポケモンとはそういうものだと理解して生きているようだが、生憎と私には前世の記憶がある。それもポケモンとはゲーム、架空の物だという認識が。その誤差から違和感を感じてこの疑問に目をつけたのかもしれない。
かくして私は、歪ながらも父親に助言をもらいつつこの仮説を論文にまとめた。認められるには程遠い出来だったが、大学側はこれを入試小論文扱いとして、特例だが私の研究者としての将来が決定した。超能力と称したこれが一体何なのか、私は大学に入り研究していくことになる。
父親は私が研究者になることを素直に喜んだ。私は父と同じくポケモン学科に配属となったが、後で聞いた話によると勧誘をすべて蹴り倒してもぎ取った結果らしい。何よりも生物学の研究者が私の論文を読んで、今取り組んでいるポケモンの脳に発見された共通部分の証明をしないか、としつこかったと副室長は語った。こんな幼児に青田買いとか大学はそこまで困窮しているのか?
「そんな感じで、6歳にして研究者人生が決まりましたとさ。めでたしめでたし」
「ろっ、6歳ですか!?」
「実際は5歳から研究を始めたかな。元から学校に通う気はなかったし、通信教育だけしてるのも暇だったから一年かけて論文に纏めたんだ」
おやつに取ってきてくれた果実を食べながら、私は自分の過去について話していた。
ジャンボとキャタピーを見て、異種族間の会話という切欠をブルーが話題にしたのがいけないんだ。そこで私が自分の論文テーマだと言ってしまったから、大学の話になって……どうしてこうなったし。
まあいいや、と気を取り直したところで相棒を呼ぶ。ジャンボはキャタピーを抱えて側までやってくると、地面に下ろして私の隣に座った。
なあに? とこっちを見てくる相棒が可愛くてつい撫でてしまうのは仕方がないよね。
「キャタピーはそろそろ帰らなくて大丈夫?」
「ピカピ」
ジャンボは首を縦に振ると、ブルーを指差した。ちょっと視線を離した隙に、いつの間にか地面にいたはずのキャタピーはブルーの帽子の上によじ登っていた。
全く動く気のないキャタピーを見て、相棒と共に苦笑いをする。これは、ある意味ラッキーなのかな?
そんな私たちを戸惑いの目で見ながら、ブルーはおずおずと喋りだした。
「えっと……この子、どうしましょう?」
「ブルーさえよければ、手持ちに加えればいいよ」
「いいんですか!?」
喜んで言う彼女からは、女の子特有の虫ポケモンに対する嫌悪感は全く感じられない。すげえ、うちの妹と大違いだ。
聞けば、学校の授業で一時期キャタピーをクラスで飼っていたことがあるそうだ。あーなんか前世にもそんなようなことあったわ。
モンスターボールを取り出して、いざ捕まえようとしたところで彼女の手が止まる。
「どうした?」
「あの……野生ポケモンは弱らせてから捕まえろって私習ったんですけど、この場合はどうしたら……?」
キャタピーは見るからに元気いっぱい。さっきお昼を食べたばかりだから、体力も減っていない状態だ。
彼女はモンスターボールに入れても抵抗されて出てきてしまう、捕まえられないと考えているのだろう。
「キャタピーにお願いすればいい。今から君を捕まえるためにモンスターボールに入れるから、抵抗しないでねって」
「そんなのでいいんですか?」
「そもそもモンスターボールの仕組みってどうなってるか知ってる?」
首を横に振るブルーのために、私はまた語りだした。今日は喋ってばかりだな。
モンスターボールの起源は、西之森教授の弱ったオコリザルが生存本能から体を縮小させて教授の老眼鏡ケースの中に入り込んだことから始まる。つまり、ポケモンは弱らせないと縮小しないためボールに収められない。それを強制的に行うために、モンスターボールから出る赤外線にはポケモンを仮死状態にする性質が含まれている。
データで通信できるポケモンだからこそできることだよな。私はそっちの分野にあまり詳しくないのでわからないが、赤外線にはそういった性質があるらしい。
仮死状態といっても、体を動かなくさせるだけで死に及ぶことはないし脳は動いている。ボールの中に収められても、そこでポケモンが出たいと抵抗してしまえば仮死状態は解かれ、拡大される前にモンスターボールは自動的にポケモンを排出する仕組みになっている。
「だから、抵抗さえしなければポケモンの体力がある状態でも捕まえられるってわけ」
「わかりました」
そう言って彼女はキャタピーと向かい合って説得を始めた。
あのー、ブルーさん? すっかりジャンボに慣れちゃってるから忘れてるだろうけど、本来ポケモンに人間の言葉は通用しないのよ。頼み込んだってわかるはずがないのだから。
確かにお願いすればいいと言いましたけどね、実際には怖がらせないようにモンスターボールの中に入れるしかないんだよ。
ちょっと心配になりながらも後ろで見守っていたが、無事にキャタピーはモンスターボールの中に入ってくれた。よかったよかった。
喜んでいるブルーに、おめでとうと声をかける。
「ありがとうございます!」
「あとはジム戦にむけて二匹を鍛えるだけだね」
「よろしくお願いします、レッドさん!!」
ブルーは手持ちが増えてテンションが上がったのか、気合十分といったところだ。
それなら期待に答えてあげるとしよう。私も腰のベルトからモンスターボールを取り出す。
「お昼もとったことだし、ここからはうちの子たちとバトルして教えていこうか」
「はい!」
夕方になる前にバトルはやめて、野宿の仕方と野外でのご飯作りを教えて、まだまだ教えることはたくさんあるな。
予定では森を抜けるまで三日間。この間いかに野外生活の基本とバトルの基礎を、みっちりと教えられるかにかかっている。
さーて、いっちょ頑張るとしますか。
小難しいこと書いてますが、多少公式から設定引っ張ってアレンジしたフィクションですので。