原点にして頂点とか無理だから   作:浮火兎

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ニビシティ編


06-1

 荒野を想定した巨大なバトルフィールドの挑戦者側にある観戦席。私はそこに座って、ブルーの初ジム戦を見守っていた。

 ニビシティジムは岩タイプ使いのタケシがジムリーダーだ。シングル戦で使用ポケモンは二体、入れ替え自由だが先に二体ともダウンした方が負け。

 ブルーは懸命に戦うも、タケシの一体目であるイシツブテに苦戦しており、すでにバタフリーのパメラは戦闘不能。そして今、ゼニガメのモニカもほとんど歯が立たず、虫の息な状態であった。

 フラフラと足元がおぼつかないモニカに、とどめの体当たりが当てられる。ブルーの呼びかけにも応えられず、モニカは立ち上がることができない。審判が唱えていたカウントが0になり、判定は下された。

 

「勝負あり! 勝者、ニビシティジムリーダー、タケシ!」

 

 敗北を目の当たりにして数秒固まっていたブルーだったが、すぐに我に返り「ありがとうございました!」と挨拶をしてポケモンのもとへと走った。

 バトルフィールドから下りてくるブルーを迎えるために私も席を立つ。こちらに向かって歩いてくる彼女の顔は、無理して堪えているのが一目でわかるほど痛々しかった。

 悔しいんだね。でも、それでいい。

 私は彼女の帽子の上からワシャワシャと強めに撫でて労う。

 

「お疲れ様。よく頑張ったね」

「すみません、せっかくレッドさんにたくさん教えてもらったのに……負けちゃいました」

「謝ることなんて何一つないよ。また修行して何度も挑戦すればいい。君はきっと強くなれる」

「……はいっ!」

 

 応えながら顔を上げたブルーの目尻は赤く腫れていたが、沈んだ様子もなく、向けられた瞳の奥は闘志に燃えていた。

 敗北を知らなければ勝利へ必死になることもできない。ブルーはトレーナーにとって一番必要な渇望を知ったんだ。

 うん、この子なら大丈夫。私はそう確信する。

 さて、次の挑戦者のためにさっさと部屋から出ないと。私たちは荷物を持って移動しようとしたところで、背後からかかった声に足を止めた。

 

「あれ、もしかして葵?」

 

 反応したのは、私の目の前にいたブルーだった。声の掛けられた入り口へと駆け寄るのを、私はのんびりと目で追う。

 

「翠君!」

「グリーンだっつの」

「それを言うなら、私だってブルーですよ」 

「おっと、わりぃわりぃ。お前もジム戦に来てたのかよ?」

「はい。残念ながら、負けてしまいましたけど」

 

 苦笑いをしながらブルーと会話をする相手は、ライバルことグリーンだった。トレーナー名でなく名前呼びをしているなんて、仲が良いんですね。なんて内心ニヤニヤしながらそちらを眺めていたら、ブルーに呼ばれたので二人の方へと向かう。

 

「紹介しますね。私のポケモンバトルと旅の先生で、レッドさんです」

「あ……ああー!! お前、あの時のッ!?」

「どーも。また会ったね」

「ピッカー!」

 

 相棒と共に営業スマイルで挨拶。ところで少年よ、人を指差してはいかんと習わなかったのかね? 失礼だぞ。

 仰け反ってオーバーリアクションを取る彼の指を掴んで腕を下げさせる。すぐさま手を振り払われたが、気にせず私は彼に警告した。

 

「早く上がらなくていいの? 審判がこっち見てるよ」

「ちっ、わかってるっつーの!」

 

 グリーンは私に一瞥くれると、早足でバトルフィールドへと進んでいった。その後姿に向けて、ブルーは応援の言葉をかける。

 

「せっかくだし、あの子のバトルを見ていこうか」

「いいんですか?」

「ブルーも気になってるんだろ?」

「実は、ちょっとだけ」

 

 そして私たちは並んで観戦席へと腰を下ろした。

 気になるのも勿論だが、同期のバトルを見るのは良い勉強になるだろうと、考えあっての行動でもある。

 上手なトレーナーの戦いを見るのも勉強にはなるが、自分に近いトレーナーの戦いを観戦するのは最も自分の力に繋がると私は考える。私ならこうする、ここでその技は悪い、など色々考えながら見ることができるからだ。

 ぶっちゃけ、この世界のポケモンバトルって上手い人ほどアニメみたいに、トレーナーがいちいち指示出したりすることは滅多にないんだよ。アニメ見ていた時も思ったけど、テンポ悪いじゃんね。戦場はそんなに待ってくれないのと同じ。

 ポケモンを育てるのがトレーナー。その通り、実際のバトルではポケモンの自主的な行動がほとんどで、時たまトレーナーから少々の助言が出されるくらい。例えるなら、ポケモンが野球選手でトレーナーが監督かな。

 毎年新年には、テレビ特番で各地のジムリーダーやチャンピオンがバトルするの見ることができるが、解説を聞かなければ視聴者は何が起きているのか全くわからない。だって素早さ高いうえに指示が全くない状態の戦いだよ? 目が追いついていけないから、所謂ただのヤムチャ状態。それでも凄いのは一目瞭然なので、彼らに憧れる子供たちは後を絶たない。うちの妹もその口だ。まあ、うちの場合は身近にそういう存在がいたから特にだろうけど。

 

「驚きました。レッドさんって、グリーンと知り合いだったんですね」

「オーキド研究所にトレーナーカードを受け取りにいった際、少し顔を合わせた程度だけどね」

「それにしては、やけに敵視していましたけど?」

「んー……その時にちょっとバトルして勝っちゃったんだけど、どうやらそれが彼の逆鱗に触れたみたい」

「なるほど。彼、無駄にプライド高いですもんね」

 

 今もフィールド上にいながら時折こちらを鋭い視線で伺っているグリーン。そんな彼はいったいどんな戦いを見せてくれるのか。

 前回は砂かけを使った搦め手主体のバトルだった。きっとグリーンは戦略重視のトレーナーかな。今回も事前に策を練ってきていることだろう。

 ここはひとつ、お手並み拝見といこうか。


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