原点にして頂点とか無理だから   作:浮火兎

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 それからほどなくして、バトルが再開された。

 グリーンの二番手にはイーブイを選出。イーブイにはサイホーンの攻撃に耐えられる体力も防御力もない。唯一誇れる素早さで耐久戦狙いといったところか。

 かわせ続ければグリーンの勝ち、一撃でもいれればタケシの勝ち。これは双方判りきっていることだろう。

 

「準備はよろしいでしょうか? それでは……始めっ!」

 

 審判の開始宣言と同時に、タケシの猛攻撃が始まった。それをイーブイも必死に回避していく。

 

「サイホーン、つのでつく攻撃!」

「電光石火でかわせっ!」

 

 掠る程度でもいい、なんとか一発当てられれば。相手の体勢を崩すことさえできれば、我武者羅に攻撃するサイホーンからはそんな気概さえ感じる。

 グリーンは相手の切羽詰った迫力に飲み込まれないよう、大声で指示を飛ばしていた。

 戦局はグリーンが有利だが、勢いがあるのはタケシだ。さすがのジムリーダーと言ったところか。

 かといって、このまま闇雲に攻撃を続けていてもジリ貧には変わりない。むしろ、毒によるタイムリミットが迫ってきている。

 何か決定打が欲しい。タケシは必ず仕掛けてくるに違いない。それがわからないグリーンでもない。

 観戦しながら自分なりに有効打を考えていると、背中を登って肩に落ち着いた重みを感じた。

 

「打って出るのはどっちだと思う?」

「チャー」

 

 相棒はグリーンを指して問いに答えた。ほお、そうきましたか。

 ブルーにも聞いてみたいところだったが、横を見ればバトルの一挙一動を見逃すまいと固唾を呑んで試合に見入っていたので止めておく。邪魔しちゃ悪いよね。

 つのでつく攻撃から体当たりに切り替えたサイホーンにだんだんと焦りが見えてきた。

 かわされた際の勢いを殺すために踏ん張る前足が、ふらついてきているのが見てわかる。自らを奮い立てるために、サイホーンが咆哮をあげた。

 

「グオオオオオオオオ!!!!」

 

 至近距離であげられた轟音に、思わずイーブイの足が竦んだ。それを見逃すタケシではない。「今だサイホーン!!」とタケシが言うが早く、サイホーンの突進がイーブイに迫る。

 

 ――しかし、その攻撃がイーブイに届くことはなかった。

 イーブイに一直線へ向かっていったサイホーンが、突然足を踏み外すと同時にグリーンが歓喜の声をあげる。

 

「――っしゃあ!」

「何っ?!」

「今だイーブイ、あくび!!」

 

 落とし穴に落ちたサイホーンは、自然と頭上を見上げてしまう。穴の一歩手前にいたイーブイを見事視界に納めてしまう位置上、あくびを逸らしてかわすこともできない。毒が回っている上瀕死に近い体力では睡魔に敵うこともできず、サイホーンの瞼は重力に逆らうことなく落ちていった。

 審判が目線でタケシを伺う。勝負は見えたも同然だった。苦しそうに眠るサイホーンを見て、タケシが降参を告げた。

 

「相棒の言うとおりだったな」

「ピカチュ」

「は……え……どういうこと、ですか……?」

 

 急展開に付いていけないブルーに説明をする。

 サンドは毒針のためだけに穴を掘っていた訳じゃなかった。地中で何層にも渡って穴を掘り進むことにより、重い岩ポケモンが飛び掛れば崩れ落ちる落とし穴を作っていたのだ。

 

「岩ポケモンは総じて重量級ばかりだ。そして、イーブイは軽量だから落とし穴の上に乗っても落ちることはない。グリーンはあの局面で落とし穴の位置とタイミングを計っていたんだ」

「す、すごい……!」

 

 うん。普通に考えて、一介の新米トレーナーにできる芸当じゃないよな。さすがはオーキド博士の孫といったところか。並大抵の努力じゃ無理な作戦である。

 ただの生意気なガキだと思っていたが、これは見解を改めなければならないようだ。

 タケシからバッヂを受け取るグリーンがこちらを振り返り、勝利の証を高らかに掲げているのを私とブルーは笑顔で見ていた。


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