ハイテンションでフィールドから降りてきたグリーンは、真っ先に私へ勝利の証を見せつけてきた。
「どーよ! 俺様にかかればこのくらい、楽勝楽勝!!」
はいはい、おめでとう。良いバトルだったことは確かだし、「ナイスファイト」とサムズアップして返す。相棒もそれに続く。ブルーは素直に「おめでとうございます!」と賞賛していた。
「あんなに強いジムリーダーに勝つなんてすごいです!」
「ふふん。俺はブルーと違って、ココの出来がいいからな」
グリーンは頭を指差して踏ん反り返る。貶されたブルーはムッとした表情で言い返した。
「それは私が馬鹿だとでも言いたいのですか!」
「どうせお前のことだ。いつもの騎士道精神に則って、正々堂々真正面から突っ込んで負けた口だろう?」
ブルーは敗因を言い当てられ、ぐうの音もでない。
いやいや、グリーンの戦い方が上級すぎるだけで、ブルーはまだそのくらいでいいんだよ。徐々に経験を積んでいけば自ずと自分なりの戦い方がわかってくるはずさ。急いては事を仕損じるってね。
彼は言い足りないのか、それともランナーズハイなのか。こちらの反応など気にもせず口を開き続けた。
「そこらへんを見抜いて指導するってのが師匠なんじゃないのかよ。お前あいつに騙されてるんじゃね?」
グリーンの言いたいこともわかる。いや、別にやろうと思えばできるんだよ。やらないだけ。
初心者にグリーンのごとく、細かく作戦立ててバトルさせても上手く立ち回れるはずもないし。勝てたとして、それは入れ知恵した私のおかげであって本人の勝利にはならない。
常識的に考えてアウトでしょう。とにかく君は私を目の敵にしたいだけなんだね。まったく、若いなぁ。
内心が表情に表れたのか、つい哀れみの視線で見てしまったようで、それが彼の琴線に引っかかったらしい。グリーンが更にブルーに突っかかっていった。
「大体、あいつは俺と同じ新米トレーナーなんだぜ。師匠面とか何様?」
「レッドさんの悪口を言わないで下さい!」
「俺は事実しか言ってねーし」
「グリーンこそ、レッドさんに負けたくせに!」
「なんだとーっ!?」
両者いがみ合って牽制中。思わず相棒と顔を見合わせてため息を吐いた。
夫婦喧嘩は犬も食わないって言うし、つまり二人とも仲が良いってことだね。馬に蹴られる前にお邪魔虫は退散するとしましょう。
蚊帳の外に追いやられた私は、二人から距離を置いたベンチに座ることにした。腰を下ろし一息つくと、相棒も膝に下りてくる。
鞄からお茶を取り出し飲んでいると、相棒が袖を引っ張ってきて二人とは反対側を指していた。お茶をジャンボにバトンタッチして、私は来訪者を迎えるために立ち上がる。
「騒がせてしまってすみません」
「いや、今日の挑戦者はもういないから気にしなくていい」
なんとこちらに向かってきて私の横に立ったのはタケシだった。彼は疲れた素振りもなく、二人を笑って眺めている。
あれだけのバトルをしてこの余裕ぶり。おそるべしジムリーダー、肩書きは伊達じゃない。
「血気盛んな年頃だからな。俺も身に覚えがある。ところで、お前さんは挑戦しないのかね?」
ご指名ですか? 間違いかと確認すれば、やはり私のことだった。
本音を言えば断固拒否なのだが、好意で言ってくれてる訳だし。母さんからの言いつけもある。せっかくの機会だ、ここは一つ挑戦してみるのも悪くはない。
「そうだな……じゃあ、お言葉に甘えて」
「とっておきしか残ってないが、それでもいいかい?」
「構いませんよ。むしろ、望むところです」
「ははっ、最近の若い子は強気でいいね!」
ニヤリと笑うタケシに営業スマイルで返す。なんだ、いい人かと思ったら見当違いだった。昂りが冷めないからもう一戦の相手探してただけかよ。バトルジャンキーめ。
まあ、中毒なくらい固執がないとジムリーダーなんてやってられないわな。激戦なら一回で相当の体力が奪われるバトルを、日に何度もこなしているのだから当たり前か。
タケシに連れられてフィールドまで上がると、そこでようやく二人がこちらに気づいたようだ。階下から叫び声が聞こえる。
「レッドさん!?」
「お前、なにやってんだよ!」
見ての通り、ジムリーダー試合だけど。
タケシが反対側の定位置についたところで、私も気を引き締める。
「さて、久々に頑張るとしますか相棒?」
「チャー!」