原点にして頂点とか無理だから   作:浮火兎

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 手の平で光るグレーバッジに、自分で手に入れたものなのだという実感が沸かない。

 ぶっちゃけ私、何もしてないよね。本当に私が貰ってしまっていいのだろうか。ジャンボが持ってる方が相応しいのでは?

 そんな悶々とした思考をしながらフィールドを下りると、待ち構えていた二人が詰め寄せてきた。

 

「すごいですレッドさん!!」

「あれくらいでいい気になんなよ!!」

「あんなに強いジムリーダーを一瞬で倒してしまうなんて!!」

「俺だって勝ったことには変わりないんだからな!!」

 

 同時に喋るな。私は聖徳太子じゃない。

 大声で白熱する二人の主張など聞き取れるはずもなく、私は暫くスルーして燃え草が無くなるのを待った。が、それも失策に終わる。またもやタケシがこちらにやって来たからだ。二人はさらにヒートアップ、本末転倒である。

 しかし、はしゃぎ立てる二人をやんわりと宥めて私に向かい合うタケシ。さすがの貫禄である。大人の対応って奴ですな。

 

「いや~まいった!軽く揉んでやるつもりが、逆に揉まれていたとはな!!」

「大げさですよ」

 

 手を差し出されたので、躊躇うことなく握り返す。ジムリーダーからの握手なんて光栄なこと、拒否できるはずもない。二人からの視線が痛いが、無視することにした。片方は明らかに嫉妬なのがバレバレで、余計に背中が痒い。

 

「謙遜するな。力量差は今ので一目瞭然だ」

「それこそ買いかぶりすぎです。自分は修行中の身ですから」

「ほう、まだ上を目指すというのか?」

 

 んなはずなかろうに。適当に返した答えに食いつかれても、どうしようもない。体裁ってやつですよ。仕方がないので、またもや苦笑いでその場を凌ぐ。便利だなこれ。

 

「君ならチャンピオンも夢じゃない。ぜひ他のジムにも挑戦して、リーグに出てくれよ」

 

 最後にタケシは太鼓判を押して戻っていった。それを恨みの篭った視線で私は見送った。

 くそがぁああ!! 置き土産に盛大な死亡フラグ残していきやがって糸目野郎!!

 主人公にはなりたくないとこっちは必死なんだよ、いい加減にしてくれ!!

 タケシの後姿に怨念を送っていたが、審判に退室を促され、沈黙を貫いていた二人を引っ張り私たちはジムを後にした。

 

 

 ジムの外に出たことで、ようやく肩の力が抜けた。大きく深呼吸して一伸びし、強張った体を解す。ふぅ、と一息ついて背後の二人を振り返ると、見事な落差がそこにあった。歯軋りが聞こえそうなほど般若な顔をしているグリーンと、天女のような微笑を浮かべるブルー。

 とりあえず「お疲れ様」と声をかけると、グリーンの手が喉元に迫ってきたので軽く回避する。襟首を掴みたかったのかな? やんちゃな年頃なのはわかるが、喧嘩は売る相手を見定めようね。

 彼は思いっきり舌打ちして大声で私に怒鳴りつけてきた。

 

「ジムリーダーに認められたからっていい気になんなよ!! お前より先にジムを制覇して、俺がチャンピオンになるんだからな!!」

 

 わめき散らして、足早にその場を去っていくグリーン。え、これってライバル宣言? そんな馬鹿な。私主人公ジャナイヨ。きっとあれは負け犬の遠吠えだ、そうに違いない。

 現実逃避する私に今度はブルーが話しかけてきた。

 

「レッドさん。ジム戦勝利おめでとうございます」

「ありがとう。ブルーもお疲れ様」

「レッドさんは、これからお月見山に向かうんですよね?」

「うん。今から麓のポケモンセンターに向かえば、夜には間に合うだろうし。ブルーはどうするの?」

「私は目標通り、まずバッジを手に入れたいと思います。そのために、暫くここで修行しようかと」

「そっか……じゃあ、ここでお別れだね」

 

 彼女との旅はニビシティまでの約束だった。その後の進路が別れても、何ら仕方がないことだ。

 それでも、数日一緒にいた仲間との別れはやっぱり寂しいものだ。

 皆それぞれ、夢がある。そのために進んでいるんだ。別れは必然的にやってくるもの。

 道は違えど仲間だったことに変わりはない。私は、ブルーに手を差し出した。

 

「短い間だったけど、楽しかったよ。ジム戦頑張ってね」

「はい! 私、絶対に強くなってみせます!」

 

 お互いにしっかりと握り締める。ジャンボもブルーにぎゅっと抱きついて、別れの挨拶とした。

 

「今まで本当にありがとうございました。お元気で」

「うん。またどこかで会おう」

 

 最後に、何かあったら遠慮なく連絡してと伝えて、私たちはその場で別れた。

 出会いがあれば、別れがある。その逆も然り。大丈夫、旅をしていればまた会えるさ。

 私はジャンボを肩に乗せて、オートスクーターに跨った。目指すはお月見山。そこでもきっと新しい出会いが待っている、そんな気がした。




【グリーン】
本名:大木戸 翠(おおきど みどり)
年齢:10歳
身長:143cm
性別:男
アレコレ:地元の同年代の中ではガキ大将。祖父の栄光から付いてくる肩書きを鬱陶しいと思いつつも、大好きな家族に恥をかかすわけにはいかないと影ながら努力する負けん気の持ち主。性格は意地っ張りで負けず嫌い。

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