原点にして頂点とか無理だから   作:浮火兎

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07-4

 ピッピに案内されること30分。一体今どこにいるのか皆目見当もつきません。入り組んだ横穴を通ってきたおかげで、現在地が全くわからない。

 先頭を行くピッピの後ろで、私とジャンボは何度視線で会話をしただろうか。本当にこの道であってるの? 迷ってないよね? 大丈夫? 怖くて聞けないよ……。最悪、カビゴンの破壊光線で縦穴開けて、リザードンで脱出するしかないか。スクーターは犠牲になったのだ……無念!

 更に不安に駆られること10分、そこでようやく道がなだらかな坂になっていることに気がついた。

 

「これってもしかして、頂上に向かってるの?」

「ピィ!」

 

 肯定されても正直複雑な気持ちにしかならないよ。

 なぜなら――

 

「ようこそ前人未到の地、ここはお月見山の山頂でございます……てか?」

「ピカピ……」

「ははっ、どうしようジャンボ……」

 

 思わぬ形で到達してしまったが、着いたからには職業上色々としなければならないのが研究員たる勤めでして……。

 くそっ、仕事増えた!!

 嘆いていても仕方がない。スクーターを持ってきていてよかった。道具はあるし、ある程度の記録は取れると願いたい。これはすごいお土産になりそうな予感。

 考えているうちに、あっという間に頂上へと出る穴に辿り着いてしまった。時刻は夜だというのに、穴からは僅かな光が漏れている。不思議に思いながら潜れば、そこには幻想の世界が広がっていた。

 

「すげえ……!」

「ピッカチュー!」

 

 眼前に広がる湖には巨大な満月が浮かんでいる。火山湖に映った満月は光り輝いていて、水面が揺らいでいなければ本物の月と間違えてしまうほど。その周囲をピッピたちが楽しそうに飛び回っていた。

 しばしその光景に酔いしれていると、足元にいたピッピが光を纏いだした。急な出来事に驚いたが、ピッピ自身はなんともなさそうにしているので見守っていると、背中の小さな羽根が透明になり大きく広がっていく。

 そして、助走も何もなしにふわっと飛び上がりピッピの群れに混ざっていった。

 アンビリーバボー……はっ、しまった今の録画しておくべきだった!!

 仕事を思い出したおかげでようやく我に帰ることができたのはなんだか癪だが、とりあえず周辺調査のために私はその場から動き出した。

 休火山の窪みにできた湖のおかげか、少数だが植物が生息している。ピッピ以外のポケモンが見られないことから、ここは隠された生息地なのだろう。

 そうだ、すっかり忘れていた。私はポケットからポケギアを取り出す。よし、洞窟を抜けたおかげで電波が立っている。私は警察ではなく、とある人物へ電話をかけた。

 

『はい、もしもし』

「もしもし、増田ジュンサーですか?」

『こんばんわシンク君。こんな夜更けに電話してきたってことは、何かあったのかな?』

「夜分遅くにすみません。今お月見山にいるのですが、怪しい二人組みに襲い掛かられまして」

『詳しく聞こう』

「はい。男たちは黒ずくめの格好をしていて、自分たちをロケット団と名乗っていました。堂々とした出で立ちだったんで、他にも複数潜り込んでいるかも。最悪、お月見山全体にいるかもしれません。包囲網を張った方がいいと思います」

『その口ぶりだと、無事に撃退したみたいだね。あんまり危ないことをしてはいけないよ』

「すみません。二人組みはロープで拘束して転がしてあります」

『了解。すぐに向かわせてもらうよ。今どの辺りにいるの?』

「どこと言われれば答えられますが、行き方はどうにも説明し辛く……」

 

 事のあらましを説明すれば当然驚かれたが、バーナードを置いてきているので問題なく二人組みを引き取ってもらえることとなった。その際に、バーナードを回収してもらうことも頼んでおく。だって此処から案内無しで元の場所に帰れないよ。きっと横穴に詳しいピッピたちのことだ。帰りは外まで直通の穴があると信じたい。

 何事もなく通話を終えて、改めて探索を開始する。湖の周りを辿るように歩いていると、大勢のピィたちがこちらに向かってきているのが見えた。

 しゃがんで待ち構えると、騒がしい声と共に駆け寄ってくる小さなピィたちに癒される。無事でよかった。怪我はなさそうだと一匹ずつ念入りに見渡せば、一匹だけ遅れてやってきた子がきた。さっき私の頭に乗ってた子かな?

 そのピィは手に持っていた石を私に差し出した。え、これってまさか……。

 

「月の石、だったりする……?」

「ピィ!」

 

 元気なお返事をありがとう。うん、ちょっと今日は色々と現実離れし過ぎてて、正直何が何だがよくわからないよ。

 こんな漫画やゲームみたいなこと、日常生活でありえるはずが……まさか。

 

「こ、これが主人公フラグとでもいうのか……!?」

 

 恐るべし、レッドの名が持つ魔力。

 いきなり驚愕した私を見てピィたちが不思議がる。ああ、怖がらせてごめん、何ともないよ大丈夫。そう、大丈夫……きっと大丈夫……きっとダイジョーブゥー……。

 病気でもないのにとてつもない絶望感に苛まれた。いかん、混乱を避けるためにも余計な思考は切り離せ。今は職務に殉ずるんだ。私は研究マッシーン日下部真紅、今から記録を開始します。

 馬鹿なこと言ってるって? そうでもしなきゃ真面目に調査なんかやってられねーんだよ、こんちきしょーめ!!

 

 

 

 

 

 それからのことは、とにかく夢のようなことばかりでいまいち判断し辛いものとなった。

 空を見たら相棒が宙を飛んでいたり、幻聴なのか音楽が聞こえたり、何か変な物を見たような気もする。

 確かに覚えていることと言えば、記録を一段落終えて座り込んで休憩していたら、またピィたちが寄ってきて眠りだしてしまったことぐらいか。何故かって? デジカメで何枚も撮るくらい寝顔が可愛かったんだよ。

 問題はその後だ。全く記憶がない。またまた、そんなはずがないだろうって?

 ところがどっこい。いつの間に眠ってしまったのか、起きたらそこは山頂ではなく、ハナダシティ側のお月見山入り口横でした。

 ご丁寧にも、私と相棒にスクーターを含めた荷物全部がきちんと存在していた。唯一昨夜と違うところといったら、ピッピたちの姿がないことか。

 当然、そんなところにまで移動した覚えはとくとございません。いっつあーみらくるー。ははは……乾いた笑いしか出てこないよ。

 とにかく、しっかりと手元に残っている記録が昨夜のことを証明しているのは間違いないことで。

 

「……行きますか」

「チャー……」

 

 この世界にはまだまだ不思議が溢れていると再確認した私たちは、進路をハナダシティへと向け歩き出した。


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