原点にして頂点とか無理だから   作:浮火兎

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04-1

 開店と同時を狙って、リーフとジャンボはポケギアショップに突撃していった。私は後からのんびりと追いかけたが、店に着くころにはすでに契約書にサインをするところまで進んでいたことに驚く。君たちどれだけ張り切っちゃったの。

 店を出て早速番号とアドレスを交換したら、リーフは急いで出発していった。

 

「すぐにレッドみたいに強くなってみせるんだから!」

 

 「またね~!」と元気よく手を振って走って行く妹の姿は、とても輝いて見えた。若いっていいね。あれ、私たち双子のはずだよな……? いいや、気にしないことにしよう。

 妹の見送りを済ませると、山越えのために必要な物を買いにショップに向かう。

 わざわざトキワで揃えずとも、勿論ニビにもショップはある。むしろ、向こうのほうが山に近いおかげで品揃えは多いといってもいい。だが、値段に差が生ずるのだ。

 これでも自称倹約家。向こうよりこっちで買うと安いものは先に買い込んで行きます。道中に最近こもっていたトキワの森もあることだし、多少多めに買っても消費は可能だ。備えあれば憂いなし。

 三軒ほど店を周り、購入した商品はすべてある所へと配送を頼んだ。

 

「あとはフレンドリィショップぐらいかな」

「ピー、ピカピー……」

「どうした?」

 

 ジャンボが情けない声と共に、買ったばかりの彼専用ポケギアを見せてきた。まさか買って早々壊したのか!?

 違う! ここ、ここを見て! とデジタル時計を指差す相棒。時間はちょうどお昼時。なるほど、腹減りコールでしたか。失礼しました。

 「何が食べたい?」と聞くと、彼は珍しく私の背中に乗ってきて、首元から前方右方向にあるハンバーガーショップを指差した。妹が旅立っちゃったから、寂しくて甘えてきてるのかな。愛いやつめ。

 仰せのままに、うちのお坊ちゃんをおんぶしながら店に入る。お昼の時間帯なだけあって店は込み合っていた。レジにも長蛇の列が並んでいる。

 

「あちゃー……もう少し早めにくるべきだったな」

「チャー……」

「しゃーない。席取りよろしく。食べたいものはメールして」

「ピッピカチュー!」

 

 役割分担をして、私は列に並んで順番を待った。

 並ぶこと5分。ようやく回ってきた会計を済ませて商品を貰い、注文と一緒に送られてきたテーブル番号の席へと向かう。

 途中でガラの悪いグループが集まって食事をしているのが目に付いた。チラリと視線を向けると、十代後半のやんちゃ盛りで派手な格好をした男たちだった。いるよなー、そういう奴ら。

 公共のマナーなどおかまいなしに騒ぎ立てる彼らに気分を害しながら、テイクアウトにするべきだったと後悔する。

 食べ物に恨みはないと割り切り、早足で席に着いた。こちらに手を振って出迎えてくれた相棒の頭を撫でる。テーブルには、二人分の手拭きが用意されていた。うちの子最高。

 さあ食べよう、とイスを引いたところで店内の一角から悲鳴があがった。

 さっきの奴らがいる辺りから響いたそれは女の子のもので、すぐに男たちの下衆た笑い声にかき消される。

 

「ちょっと行ってくる」

「ピカピ?」

「一人で大丈夫だよ。冷めない内にポテト食べちゃいな」

「ピッカー」

 

 デザートのアップルパイは最後だからダメだぞ、と言い残して声がする方向へと向かう。

 現場は一人の女の子を囲む男たちが7人、誰も助けようとせず店員さえも遠巻きに見ているだけだった。

 いくらなんでもそれはないだろ……。私は女の子に詰め寄る男たちに向かって、歩きながら声をかけた。

 

「すみません、その子ツレなんでこっちで引き取りますね」

 

 突然出てきた私に向かって7対のいかつい視線が向けられる。残念だったな、そんなもので怖気づくほど私は軟な育ちをしていない。

 進む足取りは止まらず、男たちの輪へと入っていく。

 

「はぁ?お前いきなりなんだよ」

「しゃしゃり出てんじゃねーぞ小僧!」

 

 怒鳴りながら向けられる暴力をひらりとかわして、余裕を見せながら悠々と女の子の元まで歩いていく。

 

「ふざけんじゃねーぞ!?」

「なめんなよクソ餓鬼!!」

「はいはい、失礼しますよっと」

 

 全員がこちらに向かってきたおかげで、女の子がフリーとなった。これはチャンスだ。

 殴りかかられるも全て避けた結果、自滅して机にぶつかる者や床に転がる者が出来上がる。それらを無視して、呆然としている女の子の手を掴む。

 ビクりと痙攣して恐怖を示されるが、視線を合わせてくれたので警戒心を解くようにニコリと笑う。強張った表情が少しだけ解けた彼女に私は囁いた。

 

「向こうの奥にピカチュウが座ってる席があるから、そこで待ってて」

「え……?」

「ほら早く、行って」

 

 女の子を無理やり通路側に押し出すと、彼女は一度こちらを振り返るが、私の余裕の笑顔を見るとすぐに駆けて行った。それでいい。

 さて、と内心呟きながら男たちの方を見ると、全員が血走った目でこちらを睨んでいた。店内にあったイスを掴んで、今にもこちらに投げそうな奴までいる。

 

「おいおい、店内では静かにって親から習わなかったのか?」

「ざけんじゃねえ!!」

「この落とし前、どうつけてくれんだぁ? アァ!?」

 

 完全にこいつら頭に血が上ってるな。揃いも揃って常識のない連中め。世界は違ってもこういう輩は存在するんだな。

 と、ここでようやく店長らしき人が出てきて「お客様、店内での暴力沙汰は警察を呼びますよ……」とびびりながら発した。

 それがまた彼らの火に油を注いだようで「じゃあかしいわボケ!!」と大声で怒鳴る男達。店長は泣き出しそうな目をして、逃げるように厨房へと入っていった。いい歳した大人だろうが、情けないなあ。

 はぁ、と自然にため息が漏れたところで、男たちの一人が掴みかかってきた。それを交わして腕を捻り上げる。

 苦痛の声を上げる男を無視して、後ろの集団に向かって言う。

 

「とりあえずさ、他の人の迷惑になるから外に行かない? こっちとしてもお腹減ってるし、さっさと終わりたいんだ」

 

 捻りあげた男を引きずりながら扉へと向かう。これを挑発と受け取ったのか、他の奴らは顔を真っ赤にして後ろから走ってきた。咄嗟に掴んでいた男を突き出すように投げる。すると見事な同士討ち。通路でやってしまったのは申し訳ないが、野次馬共はとうに後方へと避難済みなので周囲に被害はない。

 この後どうするかな、と考えた矢先にパトカーのサイレンが近づいてきた。どうやら誰かが通報してくれたようだ。これで一安心と思う一方、どう被害者だと説明するか一抹の不安が脳裏をよぎる。

 すぐにジュンサーさんを筆頭に、警察官が大勢店内に入ってきて男たちを取り囲んだ。ファーストフード店ならば我が物顔をできる男たちも、さすがに国家権力には気後れるようで、彼らは水を打ったように静かになった。

 明らかに年齢の違う私だったが、側にいても彼らの仲間には数えられていなかったようで安心した。被害者だと思われたのかな?

 何も聞かれない内にさっさとその場を後にする。誰にも止められることなく店の外に出ると、相棒と先ほどの女の子が待ち構えていた。

 ジャンボの両手にはテイクアウト用の紙袋がしっかりと抱えられている。あの状況を判断して、テイクアウト用の袋を貰って外で待機してくれていたようだ。さすが相棒、いい仕事するぜ。

 ありがとさん、とジャンボの頭を撫でていると横にいた女の子が話しかけてきた。

 

「あの……さっきはありがとうございました!」

「いや、気にしないで。それより、君の方こそ大丈夫? 被害届とか出さなくて平気?」

「大事にして、親に知られたくないので……」

 

 聞けば、親の反対を押し切って最近トレーナーになったばかりだという。お互い自己紹介をする時にトレーナーカードを見せあったら、彼女も発行元がマサラタウンのオーキド研究所となっていた。

 もしかしてと思い詳しく訊ねると、彼女は博士と懇意な関係で、旅に出たいという希望を叶える条件として研究の手伝いを請け負ったそうだ。

 前世の子供時代に流行った玩具と全く似て非なる、本物のポケモン図鑑を見せられ私は混乱した。なぜなら、彼女の名前はブルーというのだ。

 えっ、主人公ってうちの妹じゃなかったの? 一体どういうこと……!?

 そんな懸念事項を掘り下げる時間を、相棒は与えてくれなかった。

 

「チュゥウウ……」

「あ、悪い悪い。昼ご飯が先だよな」

 

 相棒の空腹を切なげに訴える目線には適いません。天気もいいことだし、中央公園の広場で食べようかと提案して、ジャンボから荷物を奪う。

 身軽になった手で傍らの少女をぐいぐいと引っ張るジャンボ。戸惑う彼女に、相棒の意を伝える。

 

「よければお昼、ご一緒しませんか?」

「いいんですか?」

「こいつもそう言ってますし」

「ピッピカチュ!」

 

 早く行こうと先頭を行く相棒を追って、私たちも歩き出した。


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