やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

46 / 51
五話 ついに戦禍の幕が開ける。

 

 

 

「違う、そうじゃない......こうだ」

 

 

六回連続で空を裂き、さらに硬直を埋めるように右足での回し蹴り、からの踏み込みで前方に跳んでさらに六連撃を叩きこむ。体術と短剣の複合ソードスキル《テンペスト・エッジ》だった。

 

 

「むぅ......難しいです」

 

「ま、蹴りのタイミングが少し独特だからな。慣れるしかない」

 

 

そう言って、俺は壁に寄りかかる。蹴りのタイミングに試行錯誤するシリカを見ながらくぁ、と欠伸した。ちなみにシリカは当然ながらスカートでなく、ジーンズにブーツ、というスタイルである。

シリカは暗緑色のエフェクトを纏った回し蹴りを空に放った。さらに六連続の斬撃。ふわり、とポニーテールにした白髪が揺れる。

さながら、どこぞの格闘映画の主人公のようだった。

 

 

「やった、出来ましたよハチさん!」

 

「......そうか、よかったな」

 

 

はしゃぐシリカを見つつ、俺は苦笑した。『俺』はユウキに師事されていたらしいが、こんな気分だったのだろうか。

 

―――ユウキと、ラン。あの双子の姉妹は、こちらにもちゃんと存在している。

ユイに聞いてみたところ、「《月夜の黒猫団》所属みたいですねー。それなりにレベル高いですし、攻略組ですよ」とのことだった。

どちらも将来的には超一流の剣士になる奴等だ、最前線で戦っているのだろう。

 

 

「どうしました?」

 

「や、なんでもない。それよりもう昼だ、下に降りるか」

 

「はい!」

 

 

たたた、と階段を降りていくシリカを追いながら、俺はユウキ達に会えないことを―――僅かながら、残念に思ったのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「タバスコに唐辛子、ガラムマサラ。豆板醤も捨てがたい......」

 

 

うーん、とユイは唸る。直後、かっと目を見開いて顔をあげた。

 

 

「―――逆に考えるんだ。全部ぶちこんじゃってもいいさ、と......うみゅっ!?」

 

「やめんか」

 

 

サンダークロススプリットアタック......ではなく、ただのチョップをかましつつ鍋を覗きこむ。コンソメもどきのスープのようだった。

 

 

「痛いです......」

 

「お前がまた紅蓮地獄(インフェルノ)かまそうとしたからだろうが」

 

 

不満そうにこちらを見るユイを無視し、俺は皿を取り出していく。それを見て諦めたのか、ユイは残念そうに溜め息を吐きつつもコンロの火を切った。

 

 

「美味しいのに」

 

「そりゃお前だけだ、アホ」

 

 

以前にも一度同じことをされて絶望したことがあった。一面真っ赤なスープを見た瞬間、きっかり三秒間硬直してしまったことはよく覚えている。

 

 

「あとさ」

 

「はい?」

 

 

俺は頭の上を指して言った。

 

 

「これ、どかしてくれね?」

 

「......よくなついてますね」

 

 

『これ』扱いされたのが気に入らなかったのか、後頭部にべしべしと尻尾が叩きつけられる。同時にきゅい、という鳴き声。

 

 

「俺の頭は巣じゃねえんだけどな」

 

「竜の巣ですよ竜の巣。きゃーかっこいー」

 

棒読みで煽ってくるユイにアイアンクローをかましつつ、俺は頭を振ってみる。だが意地になっているのか、ピナはかじりついて離れない。頭が重いんだが。

 

 

「あはは......すいません」

 

 

苦笑いするシリカ。普段は彼女の肩に乗っているのだが、先程の訓練の途中くらいから頭に乗っかっているのだ。だから俺の頭は止まり木じゃねえっつの。ええい離れろ水色ドラゴンもどき。

 

どうにかこうにか格闘しつつ、ようやくピナをひっぺがす。

不満そうに鳴きながら俺の指に噛みついてくるピナ。だがピーナッツの袋を置くと、途端にすっとんでいった。フハハハ所詮動物にすぎんな!......というかこれ、最初からやりゃよかったんじゃねえか?

 

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

 

ようやく席についた俺はスプーンを手に取る。今日はスープとトースト、ついでにベーコンという組み合わせだった。

そして、皿や料理を運んできたユイも着席する。

 

 

「いただきま―――」

 

 

―――と、そこで停止した。

不審に思って斜め前を見ると、驚愕の表情を浮かべたユイがいた。

 

 

「どうした?」

 

「......兄さん。悪いニュースと、もっと悪いニュースのどっちから聞きたいですか?」

「何......?」

 

 

俺は思わず眉をひそめる。

 

 

「じゃあ、悪いほうから言いますね。......低層、32層の洞窟で大規模なプレイヤー間抗争が勃発しています。《攻略組》と、《ラフィン・コフィン》です」

 

「な―――」

 

 

俺は愕然とし、シリカは息を飲んだ。ユイは淡々と続ける。

 

 

「では、もっと悪いニュースです。―――現在、《攻略組》が劣勢。犠牲者はすでに数名でています」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

ふざけるな、と俺は内心呟いた。

 

なんのために殺してきたのだ。結局、予想通りに討伐作戦は決行され、あろうことか攻略組が劣勢。

 

『犠牲者はすでに数名でています』

―――もし、その犠牲者にアスナとユキノ......キリト達が、いたら?

 

 

「......くそ」

 

 

ギリ、と歯を食い縛る。ふざけるなよ。そうそう上手くいくことなんてない、とは思っていたが。

 

 

「間に合えよ―――」

 

 

......じゃないと、『俺』に合わせる顔がない。

そう内心で呟き、俺は地を駆けていく。

 

木を。枝を。岩を。川を越えて森を抜ける。

 

「―――そこか!」

 

 

走りながらウィンドウを開き、位置を確認する。とある小さな洞窟ダンジョン。そこがラフコフの本拠地らしい。

 

 

「――――――ッ」

 

 

100メートルの距離を三秒で走破し、俺は速度を落としながら洞窟内に侵入し......絶句した。

 

 

「ひぃ、やめ―――!?」

「ひはははは」

「......せ。殺せ」

「来るな!来るんじゃ―――」

 

 

「は、はは」

 

 

地獄だった。

 

プレイヤー同士が恐怖と狂気に駆られて殺しあう。狂騒と混乱の中、俺は思わず笑ってしまった。

―――ああ。くそったれ。

 

ガキリ、と引き金を引くような感覚。一気に脳が冷えていき、第三者のような視点に切り替わる。俺じゃない俺への変革。

 

悩むのも後悔も全て後回しだ。―――今は、奴等を殺せ。

 

 

「......」

 

 

たん、と地を蹴った。さらに天井を足場にして狂騒の中へ突っ込む。

 

 

「......」

 

「え」

 

 

着地、と同時に抜刀。オレンジの二人の首を跳ね、切り刻む。さらに視界の端に笑う棺桶のマーク。

 

 

「......」

 

 

無言でナイフを投擲。目を貫き、相手が怯んだところであっさりと頭蓋に黒刀を刺し、抉る。さらにしゃがんで両手剣を回避し、腹を裂いた。驚愕と恐怖の表情。―――だが俺はなんの躊躇いもなく、眼窩から脳に白剣を突きいれた。爆散。

 

ひゅんひゅん、と双剣を左右に振るう。四人ぶんのポリゴンの嵐の中、俺はすたすたと歩いて前へと進んだ。

背後から畏怖と恐怖の視線が貫くのを感じる。

 

ごくり、と誰かが息を飲んだ。

 

 

「ハ、【ハーミット】......」

 

「嘘だろ?」

 

「......本当だったのかよ」

 

 

《攻略組》のメンバー達が後退りする足音を聞いて、俺は薄く笑った。

 

......ああ、それでいい。その反応がベストだ。《攻略組》からは畏れられ、《ラフコフ》から恐れられる、殺人者狩りの殺人者。次なるPoHを出現させないための抑止力となるのだ。

だが、今はとりあえずPoHを殺さねばならない。奴さえ殺せば《ラフコフ》は内部から崩壊する。根拠はないが、そんな気がした。

 

「......はっ」

 

 

双剣を握り締め、俺は戦禍へと身を投じた。

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「キリト......!?」

 

 

混戦と化している洞窟内を、ラフコフ側(オレンジ)のみを切り捨てながら俺は進んでいた。

視界の端にちらりと写った、黒い少年の影。だが、微動だにしないその姿は異常だった。当然、そんな姿をさらすのは敵に隙を見せるのと同義であり―――

 

 

「ッッ、馬鹿が、何つっ立てんだ!」

 

 

思わず声を荒げつつ、キリトに剣を突き立てようとするプレイヤーを切り伏せた。

すると、緩慢な動きでキリトが顔をあげる。

 

「ハチ、マン?」

 

「キリト、お前―――」

 

 

仮面の奥で、俺は驚愕に息を飲んだ。半ば茫然自失のような体のキリト。キリトの手が震え、黒い剣を取り落とした。

......成る程、こいつ―――

 

 

「......殺したのか」

 

 

問い掛けの体を装っていたが、俺は確信していた。

キリトはそれを聞いて、がくりと膝をつく。頬を伝う涙は、罪悪感故か。

 

 

「......」

 

 

不味いな、と俺は内心舌打ちした。混戦となっているここでキリトを放置するのは危険だが、かといってキリトに構ってはいられない。どうにか、戦える程度には復帰して欲しいのだが―――。

 

 

「......キリト」

 

 

だがどうする?おそらく慰めの言葉をかけても無駄だろう。なまじ中学生という中途半端な年齢であるため、感情と行動を切り離すなんてこともできないだろう。ならばどうする。俺は―――

 

 

気にすんな(,,,,,)

 

「......え?」

 

 

ぽかん、とこちらを見上げるキリト。そんなキリトに向かって、わざと陽気に俺は言い放った

 

 

底辺(クズ)の一匹や二匹殺した程度(,,,)で悩むなよ。お前は仲間を守るために、正しいことをしたんだ」

 

「正しい、こと?......これが?」

 

「そうさ。害虫駆除と同じようなもんだ―――」

 

 

と、俺は胸ぐらを掴みあげられる。目の前には、泣きながらも憤怒に染まったキリトの顔があった。

 

 

「っざけんなよ、ハチマン!これが正しいことのわけないだろ!?あいつらだって......」

 

「じゃ、何が正しいんだ?」

 

 

そう俺が言うと、キリトは絶句する。

......ああ、そうさ。こんなことが正しいはずがない。むしろ悪だ。

 

―――ならば、正義はどこにある?真実は、理想は、本物は?圧倒的に正しく、万人が納得する、絶対不変の正義はどこにある?

 

......答えは、『無い』だ。

 

 

「少なくとも、俺はこれが正しいと思うぜ」

 

 

そんな薄っぺらな嘘を吐き、俺はキリトの手を外す。キリトは茫然とし、そしてこちらを睨んだ。

 

......キリト。もしお前が、俺の行為を『間違っている』と言うのなら。

 

 

「お前はお前の思う『正しい』行動をするんだな、キリト」

 

 

―――この何もかもが信じられない、くそったれな世界で。

お前なりの正義を示してみせろ......キリト。

 

 

内心でそんな言葉を吐いた俺は、キリトが正気に戻ったと判断し、背を向けて―――洞窟の奥へと走り出すのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「なっ―――!?」

 

 

洞窟の最深部、少し広がった部屋のような安全地帯に飛び込んだ俺は、いきなり前方から飛んできたモノを受け止める。衝撃で仮面が外れた。

そして、息を飲んだ。

 

 

「ユウキ......!?」

 

 

腕の中で気を失っている少女は、少し装備が違うものの、明らかにユウキだった。懐かしさと驚愕を感じつつも、俺は前方へと目を向けて......絶句した。

 

 

「あ、ぐ」

 

「......Wow。久しぶりだな」

 

 

首をしめられていたアスナが手を離されて落下し、咳き込んだ。アスナの首を掴んでいた張本人は、こちらを見て嗤う。

 

瞳は蒼く、髪は灰色。中性的な美貌には獣のような笑みが浮かべられ、右頬には笑う棺桶のエンブレム。灰色のポンチョに、右手に握られるのは歪な包丁。

 

―――間違いない、こいつは。

 

 

「PoHッッ!」

 

 

俺はユウキを地面に置き、双剣をPoHに叩きつけた。が―――

 

 

「HA。随分と早いね」

 

「......馬鹿な、なんでお前が」

 

 

ギリリィ、と双剣と包丁がせめぎあう。俺は愕然とした。別に防がれること自体は想定内だ。だが、何故。何故貴様が―――

 

 

「【神速】を、使ってるんだ!?」

 

 

金色に染まった瞳を揺らして、PoHは嗤う。そして同じく金色に染まった腕で、俺の首を掴みあげた。

 

 

「くっ―――!?」

 

「転移、《アイゼンナッハ》」

 

 

PoHはあまりにも速すぎる動作で転移結晶を取り出し、砕く。数秒のラグと同時に転移。俺はPoHを蹴りつけて手から逃れた。

 

 

「......うん、なかなかだな」

 

 

嗤うPoHはひゅん、と包丁を振るう。金色の光は解除されていた。

俺は驚愕を吹き飛ばすようにして踏み込み、PoHに叩きつける。

 

―――違和感。

 

 

「随分と遅くなったモンだな」

 

「な、」

 

 

再びあっさりと防がれた俺は、PoHに弾き飛ばされる。だが、おかしい。これは明らかに、

 

 

「―――遅く、なってる?」

 

 

俺は戸惑った。明らかに以前より遅い。何が起きた?何が―――

 

 

「っと」

 

「がっ」

 

 

とん、とPoHが接近する。だが以前ならば避けられたであろう蹴りは、腹に突き刺さった。

 

―――いや、違う。俺が遅いのもある。だが......

 

 

「Wow......かなり違和感があるねえ。慣れるまでしばらくかかるかな、こりゃ」

 

 

ちらり、とPoHの足を見るが、そこには金色の輝きはない。おかしい。先程の蹴りは、明らかに『速すぎる』。

 

―――嫌な予感。まさか、という思いから俺はステータスウィンドウを開く。

 

 

―――――――――――――――

 

ハチマン Lv85

 

―――――――――――――――

 

 

「......ああ、そういうことか」

 

 

アスナの【神速】を持ち、俺より速くなっている。対して俺は遅くなり、レベルが下がった。

......ああ、ここまでくれば誰でもわかる。おそらく、先程首を掴んだ際にやられたのだろう。

 

つまり、

 

 

「......奪ったのか」

 

「......Surprising(驚いた)。かなり頭が回るんだな、オマエ」

 

 

ひゅう、とPoHが口笛を吹き、嗤う。

 

 

「ユニークスキル【簒奪】。一気に15もレベルが上がるなんて、オレも驚いたよ」

 

「【簒奪】、だと」

 

 

ヤバい。俺は打てる手が無いことに気付き、愕然とした。冷や汗が背中を伝う。

 

 

「さあ―――殺しあおうぜ?」

 

 

殺人鬼が嗤い―――絶望的な戦いが、始まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。