花妖怪と青年   作:TKI

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始めまして、NJTと言います。
この作品は東方projectの二次創作であり、オリジナル展開となります。

また、感想の方は厳しい意見を募集しておりますので、厳しい意見でも感想でも応援でも何か書いてくれると嬉しいです。感想や評価を貰えると作者のやる気が上がります。


トンネルを抜けるとそこは

坂道を登りながら、ある小説の冒頭を思い出す。

『智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい』

何ともこの言葉は短いながらもこの世の心理を語っている。本当にこの世は住みにくかった。住むべきかいのある世の中とはとても思えない。

この世に生まれて二十年。この本は最早、俺のバイブルとまでになっていた。何度も何度も読み返し続けた結果、冒頭なんかは諳んじて言えるまでになってしまっていた。もちろん、その本は今、背負っている大きなカバンの中にしっかりと入っていた。俗世を嫌って気ままに旅立つつもりだったのだが、どうしてもこの本だけは捨てられなかった。どれだけ人が嫌いでも、この本だけは捨てることを厭われたのだ。

 

立ち止まり汗を一つ拭う。夏の暑さが容赦無く俺に降り注ぐ。足元のアスファルトが熱を吸収し、発する。上からも下からも熱気に包まれては至極たまったものではない。さらに蝉の声も辺りから鳴り響く。サウナや蒸し風呂といった言葉が脳裏によぎる。背負っている荷物も相当の重量なので余計に暑さを感じるばかりだ。

 

ふぅ、と一つ息を吐き出し、右を見れば木々が生い茂った山の斜面が見える。今歩いている所は舗装された山路と言っていい道だ。

 

そのまま今度は左を向けば、真っ白なガードレールの向こうに鬱蒼と碧く生い茂る一面の木々の森。遥か向こうにごく僅かだが、海が太陽を反射して光って見えた。

 

場所は分からない。とりあえず、適当に歩きたどり着いたのがこの道だ。海を超えていないから、日本であり、本州であることは間違いないのだが、後のことはてんで予想出来ない。東北であるかもしれぬし、中越であるかもしれぬ。はたまた、近畿かもしれない。

 

当てもない旅を始めて早、半月。今では自分の立っている位置すら分からない。もしかしたら、県越えすら出来ていないかもしれない。まぁ、それはそれで全く構わないのだが。

 

しかし、こうも連日暑いとエアコンの効いた室内が恋しくなることもある。都会のコンクリートジャングルに思いを馳せることもある。だが、しかし文明の利器がある所には人がいる。人がいれば人情が生まれる。苦しんだり、怒ったり、騒いだり、泣いたりする。俺も生まれてこの方二十年、それを繰り返した。繰り返して、飽き飽きした。

 

だからこそ、俺は今こうしてただただ自分の足で歩いて旅に出ている。人が人情を感じるのは、自分に関係があるからだ。当事者だからだ。例えば、会社。例えば、学校。例えば、住んでいる地域。そんなコミュニティにとらわれていては人情を感じざるを得ない。ただただ当事者の内は、苦しんだり、怒ったり、騒いだり、泣いたりを避けられない。

 

その人情を逃れるには旅をするしかない。旅先ながらば純粋に人々の行動を第三者の目線でただただ楽しめる。そして、その澆季溷濁の俗世の風景を清くうららかに画架に収めることが出来る。なにぶん、絵師ではないため、画はお世辞にも上手いとは言えないが自らの心を長閑にさせるのにこれ以上のものはない。

 

カバンの中には無論、画架や筆、絵具やパレットも入っていた。非人情の旅だ、気が向いた時に書く、気ままな旅だ。

 

そんなことを考えながら、山路と言っていいほどの坂路を上がって行けば、曲がりくねった先に大きなトンネルが姿を表した。薄暗いトンネルの遥か向こうには明かりが見える。どうやら直線でまっすぐと伸びているようだ。長さにして、約300mほどであろうか。その位の距離なら五分もあれば出口に着きそうだ。

 

何分、急ぐ旅でもない。終わりも決めていない旅だ。時間は一杯あるとも言えるし、無いとも言える。休憩しようかとも思ったが、急ぐ旅ではないが、ここでカバンを置いて、腰を下ろせば、しばらく間は歩くのが億劫になるのが目に見えている。

 

なら、休憩はトンネルを抜けた辺りでやるのが適当であろう。抜けた先で、一刻の休憩と、タバコを燻らせることにする。

 

俺は一度カバンを背負い直すとトンネルに向かって足を進めた。そんな、俺の背中をセミたちはうるさい位の合唱で見送ってくれた。

 

 

 

 

 

トンネル。それは場所と場所を繋ぐ物であり隔てる物でもある。ある時は都会と田舎を隔て、ある時は国と国を繋ぐ。

人はトンネルに何かを期待しているのかもしれない。よくあるネット小説では、トンネルを抜ければ異世界で在ると言った設定は掃いて捨てるほどほどあるし、これまたある文豪もその小説の中で、現実と理想郷を分けうると書いてある。もちろん、そうなればトンネルを通して、日常から非日常の世界へ飛び立つことも当たり前のようにありうる話である。

 

トンネル内は日が当たらない分、気温が幾分か低く涼しかった。時たま、トンネルを吹き抜ける風が吹き火照った体を冷やす。どこかでポチャンポチャンと水溜りに水滴が落ちる音が響く。

 

夜ならほどほど恐怖を感じるであろう光景だが、何分今は昼まっ下がり。トンネルの出口と入り口からは日光が漏れている。蝉の声も遠くから聞こえてくる。かくあれば恐怖なぞほどほど起こる物ではなかった。涼しげな風に汗を乾かしながらも俺はゆっくりと足を進める。その先の情景を思い浮かべながら。

 

 

国境の長いトンネルを抜けると雪国だったとは、某文豪の代表作の冒頭である。彼は、短いこの言葉を持って日常と非日常を分けた。島村はこの長いトンネルを抜けることによって理想郷へとたどり着いたのだ。

 

もちろん、今は冬ではない。そのためこの長いトンネルを抜けても雪国であることはなかった。

 

その変わり長いトンネルを抜けると一面に向日葵畑が広がっていた。圧倒されるほどの数、見下ろす限りただただ向日葵が咲いている。菜の花が咲き乱れる様子を黄金(こがね)の原と言うのなら、さながらこの風景は黄金(おうごん)の原とでも言うべきだろう。直下に浮かぶ光景はそれほどまでに俺を圧倒する。

 

そのまま、休憩することを忘れ立ち続けることしばらく、ふと思い出したのように後ろを振り向けば、そこにあったはずのトンネルが唐突として消えており、ただただ草の生えた丘の斜面があるばかりだ。もう一度視界を戻せば、そこには悠然として黄金の原が広がっていた。

 

最後にもう一度、トンネルを探す。しかし、二度見てもトンネルは見当たらない。狐に化かされたのかとも思ったが、それはそれで一向に構わない。元より帰る場所もない旅である。ならば別に狐に化かされようが狸に騙されようが構わぬ。帰り道がなくなったのなら、ただただ前に進めばいいだけのことだ。

 

それに化かされた先でこの俗世を忘れられるほどの風景と出会えたのなら感謝こそ、すれぞ怒りや恨みなどは湧いてこない。それよりも俺がすべきことは……。

 

立っていた小高い丘の下、黄金の原の入り口に座りの良い岩があるのが目に入る。俺は少し急ぎ足で重力に身を任せるかのように丘を下り、カバンを置くとその岩に腰掛ける。

 

ふぅと少し息を吐き出す。歩き詰めで疲れた体を癒す。この風景を見れば人事や人情なんてものは忘却の彼方へ置いて行くことが出来そうだ。

 

「元気で美しい向日葵だね」

 

向日葵に向かって一言声をかける。何だか、向日葵が笑っているような気がした。

休憩がてら、紫煙でも燻らそうかと思ったが、この風景とこの空気を汚すわけにはいくまいと我慢する。ならば、酒かと取り出して見てもどうにも気分が乗らない。なので、ここはただただこの風景を楽しむこととする。

 

しばらく、のんびりと見ているとチュンチュンと鳴きながらスズメが二羽ほど黄金の原から飛び出して行った。これが、雲雀ならシュレーの雲雀の詩が思いつくのだが、雀なら小林一茶の有名な句が浮かぶだけだ。俺の博学のなさに自分自身でがっかりする。そこで自分で一句詠むかともふと、頭によぎったが俳人でもない俺には俳句なんか詠めるはずもなく、即座に諦めの二文字を選ぶことになった。

 

汗が引いて、体の疲れが幾分か抜けた後、カバンを開けてタバコの缶や酒の瓶に埋れているのを掻き分け、スケッチブックとノートそして、絵画道具を取り出す。

 

俺がすべきことはこの風景をありのままに書き写すことだけだ。

 

「素晴らしい、向日葵だから一枚絵を書かせてもらうよ」

 

そう、向日葵に許しをこうてキャンパスに筆を走らす。この俗世離れした風景ならありままに書いたところでも五彩の絢爛は自ずから心眼に写るのだ。そして、ただ筆を持ち絵を描いている内は全ての事柄を忘れられる。ゆえに絵は尊い。

 

ただひたすらに筆を走らせていた時だった。不意に後ろから物音が聞こえた。気になり、筆を置き振り返る。

 

えらい美人がそこにいた。所々で癖のある翠の髪は肩まで伸びており、真紅の双眼がこちらを見抜く。白い日傘をさして優雅に歩く姿はさながらモデルのようだ。服装は白のカッターシャツに目と同じく紅いチェックのロングスカート、そして同じくチェックのベストを羽織っていた。とてつもなく、美人だがどこかこの世の者とは思えないただならぬ雰囲気を感じる。この幻想的な黄金の原に溶け込んでいるといえば正しいのか。普通の人間では浮いてしまうはずの風景にやけにマッチしていた。だから、こそ俺は一目で人と違う匂いに気づいた。

 

そんな彼女と目が合うと、彼女は笑顔を作りこちらに笑いかける。

 

「貴方はこんなところで何をしているのかしら?」

 

ただただ普通の言葉であるはずなのにこれほどまでにこれまでに感じたことのないような不気味さを感じた。

 

「ただただ、この素晴らしい風景を画に収めているだけだ。貴方がこの畑の管理者か?」

 

描いている途中の絵を見せれば、彼女はその絵を見つめると少しだけ不気味な笑みを柔らかい物に変えた。

 

「上手くはないけど、気持ちが篭っている絵ね。嫌いじゃないわ」

 

彼女は俺の絵をバッサリと切り捨てると続ける。

 

「そうね、ここは私の畑。私は風見

幽香(かざみ ゆうか)。花妖怪よ。よろしくね、人間さん、下手な行動をすると殺すわよ」

 

そう言って、日傘の先を俺へと向ける。もちろん、柔らかな笑みなぞ最早かけらも無い。ただただ獲物を射抜く笑みであった。

 

これが俺と花妖怪、風見 幽香とのインパクトが大きいファーストコンタクトであった。

 

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