私が振り向かせたい彼は、どうやら二次元嫁しか愛せないようで 作:エーベルヴァイン
「ごめん、俺…二次元嫁しか愛せないんだ」
桜舞う春、別れある春、旅立ちの春、新たな出会いがある春。
そんな輝かしい春の日、私の初恋が砕けた時に言われた言葉がこれだった。
私、
相原翔馬…容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、そして誰にたいしても優しいこの向海高校女子の憧れの人。
そんな人に告白している私のスペックはとても悪い。
スリーサイズは上から82、67、89とプロポーションはまあまあ、でもそれを潰すように出てくる近眼による眼鏡、地雷にしか見えない顔を隠すように垂れてくる前髪、止めに髪をあげたとしてもとても可愛いとはほど遠い普面。
つまり早い話…釣り合わないのだ、私と彼は。
それでも、どうせこのまま想いを伝えずに、別れ別れになってしまうくらいなら。
玉砕しても良いからと想いを伝えたのだ。
でも帰ってきた言葉は、普通に言われる『ごめん』よりも、もっと理不尽で…納得いかなくて…
「ふっ…ふっ…」
「ご、ごめん…大丈夫?」
「ふっざけんなあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!」
私が彼に恋をしたのは、一年前の秋の始まり…つまり、夏休み明けのことだった。
その頃の私は、俗に言う『いじめ』にあってた。
多分、私のこの容姿がそれを加速させてたんだろう。
夏休み前にもそれはあった。
でもその時のはもっと酷くて、先生に言えば良かったんだけど、それをするともっと『いじめ』が酷くなるのが怖くて…
結局私は、その日までずっと誰にも『いじめ』の事を言わないで過ごしてきた。
その日、私は上履きを隠された。
結局、SHRギリギリまで探して、見つけた場所は女子トイレの中。
やっと見つけたと安心した途端にそれは来た。
水だ。
水が個室の上から降ってきたのだ。
個室の外からは、クスクスと悪意の笑い声。
「もう嫌だ…」
いっそ死んでしまえば楽になるのではないだろうか?
そうだ、屋上に行こう…
私は衝動に任せて屋上ヘ向かった。
まるで引っ張られる様に走った、それはその時の私にとっての天国への階段となっていただろう。
扉の前にたどり着き、力任せに無機質で冷たいアルミの扉を開いた。
その先に…そこにいたのが彼だった。
SHRギリギリの時間だと言うのに、彼はそこにいた。
初めて会った時から、私は彼に真面目だというイメージがついていた。
そんな彼が、こんな時間に、ここにいることが何かふしぎだった。
ふと、そこで急に怖くなった。
もしかしかたら、彼も私を『いじめ』るためにここで待っていたとしたら。
今考えると馬鹿馬鹿しい考えだ。
私があそこに行くことは誰にも教えていなかったし、彼があそこに居たのもただの偶然だ。
でも、あの時の私は追い詰められていた。
彼と眼があった。
「ん?君はとなりの席の…」
「あ、うっあ…」
恐怖が頭を支配する。
やっと解放されると思っていたのに、救われると思っていたのに…
もうどうでも良くなった、死という救済すら私には与えられなかったのだから。
「君、びしょ濡れじゃないか!何があったんだい!」
「なんでも…無いです」
「そんな訳ないだろう、何があったのか話してくれないか?」
彼は優しく私に話しかける、でもその時の私には、他の人は皆敵に見えて…
逃げ出そうとした、彼に背を向けて走ろうとしたのだ。
結局、彼の右手が私の左手を掴んだわけだが。
「待ちなよ、何があったかは知らないけど、一人で抱え込むより、喋った方が楽だよ」
「うるさい…」
「え?」
「うるさいって言ったのよ!」
彼の手を振り払って答えた。
「大体なんなのよあんた!いきなり話しかけてきて、何にも知らないくせに、話したとしても、明るいあの場所に居るあんたに私の気持ちが解るわけあるか!もう私を放っといてよ!」
憎しみをぶつける、怒りを、悲しみをぶつける。
何も悪くない彼にぶつけ続けた。
そして全部吐き出してから気づいた。
彼は何も悪くないのだ、何も悪くない彼を攻め立てて、傷つけて…
今度は自分で敵を作ってしまった。
「あぁ、解らないよ…解らないから教えて欲しいんだ」
「え…?」
後悔と自己嫌悪にさいなまれる私に、彼はそう言った。
「確かに俺は偽善者かもしれない、君の事もなにも知らない、名前も知らない程だ」
何気に今の一言グサッときた…
「でも辛そうに、今にも泣きそうな顔している女の子を見てみぬ振りをするほど、俺は薄情者じゃない」
彼は私の眼をまっすぐ見て、そう答えた。
どこまでも透き通った黒い瞳が、まるで私の全部を見透しているかのように見えた。
「俺は君の事を知らない、君も俺の事を知らない。だけど、今だけは…今この時だけは俺を信じて欲しいんだ」
そんな目で、彼は私には答えた。
気がつけば、私は彼に抱かれていた。
優しく、温かく、彼は私を包み込んでいた。
そんなことを実感したら、急に嬉しくなって…涙がとまらなくなって…
「う、うわああぁぁぁぁぁぁぁ…」
あの後、私は彼に全部を話した。
すると彼は、全てを先生に代わりに話して、かつ自分がクラスの人たちに止めるように言うと言ったのだ。
それでもダメな場合、警察や教育委員会に訴えると、先生方を脅す予定だったらしい。
やりすぎだとは思ったけど、逆に嬉しかった。
ただ隣の席に居たというよしみだけで、ここまで親身になって、私をあの地獄から助け出してくれたのだ。
その日から、私は段々彼に引かれていった。
何気ない仕草や、言葉使い、優しい性格。
全部が全部好きになっていた。
だからこそ、彼の側にもっと居たかった、もっと近くにいたかったのだ。
そして現在に至るわけであるが…
何気にこの私が彼にたいして恋をしているわけであるが、この恋は地味に私の初恋であるわけで…
玉砕覚悟までした告白であって…
だから…
『二次元嫁しか愛せない』
などと言う理論で、私が納得できる訳がなくて…
「あぁ、そう、良いわ!宣戦布告よ!恋の宣戦布告よ!!」
「はい!?」
「相原翔馬…貴方に、私露草美雪は恋の宣戦布告をさせてもらうわ!貴方のその『二次元嫁しか愛せない』とかいうふざけた精神、私が改編させてやる!」
これが私にできる、彼へのもうひとつの告白。
宣戦布告、私の切り札。
私は彼に全部を見せたくて、預けたくて…
だからこそ、彼が二次元しか愛せないなら、その思いを追い出してやる。
一番でなくともいい、彼の側居たいから!
だから!
「二次元より
これが私にできる、精一杯の宣戦布告。
この日から、私にとっての恋の孤軍奮闘録が始まるのであった。