境界の彼方-ゴジラを継ぐ者- 短編&番外編集 作:フォレス・ノースウッド
高校生でありながら、〝妖夢〟と呼ばれる怪物を退治する異界士でもある俺こと黒宮澤海、またの名をと言うか〝ゴジラ〟ってもう一つの名を持つ自分は、手にとっていた〝芝姫〟ってタイトルの書物を一通り読み終えて、あくびを大きく上げた。
この本は俺も部員として所属している長月市立高校文芸部の季刊誌であり、今年の春号は過去の文芸部員たちが書いた小説たちの選りすぐりの傑作選な記念号として出す羽目になり、下宿先の新堂写真館に帰宅してからも一時持ち帰った文集たちをこうして読んでいる。
さすがに活字ばかり相手にしていたのでは体力に自信ある自分とて疲れるので、気分転換に録画したテレビ番組を見ることにした。
〝迷走戦隊マヨウンジャ―〟
某特撮チームヒーローのばったもん感漂うタイトルな深夜放送のアニメは、第一話が放送されるやいなや、巷では予想だにしない大ヒットをかましている。
そういう俺も、異界士稼業の相棒で一緒に写真館に住まわせてもらっている妖夢な妖狐のマナから録画してほしいとせがまれ見たのを切欠に嵌ってしまった口だ。
前半、子ども向け特撮の王道を行く作風でハッタリを掛け、後半でドンでん返しのカウンターと言う構成な第一話は、掴みとしての効力が抜群過ぎたのである。
以来、毎週毎話欠かさず録画しては気分転換に見るのが日課の一つとなっていた。
ちなみに今週で第七話、なのに未だに戦闘らしい戦闘はない。
まあそこが面白さの一つとでも言っておこう。
見る前にちょっと喉を潤しとくか。
自室になっている部屋を出て、台所に行き、清涼飲料水のボトルをガラスコップに注いで一飲みしていると、人並み以上に鋭い自分の耳が二階から響いてくるメロディを捉えた。
「まだマナのやつ練習してんのかよ」
確か……〝約束の絆〟ってタイトルのアイドル系ソングだった筈だ。
今マナは、その曲の振りつけを一心不乱に練習している最中だった。
いや……練習しているのはあいつだけじゃない。
今頃、俺を除いた文芸部員全員が振り付けの練習に明け暮れている。
なんでこんなことになったのかと言えば……とある〝妖夢〟が長月市立高校の屋上を占拠、もとい陣取ったことから始まってしまった。
そこからてんやわんやあって、俺以外の部員は揃いも揃ってマナと一緒に歌にダンスに熱中して撃ちこむ日々を送っている。
写真館の家主も、これは見物と手を貸しまくっている有様だ。
お陰で、まともに選考作業しているのは俺だけと言う状態である……こんな調子で発行日まで間に合うのだろうか、と溜め息をついた。
これからお話するのは、彼らの輝かしくもくだらない青春の一幕である。