境界の彼方-ゴジラを継ぐ者- 短編&番外編集 作:フォレス・ノースウッド
定期的に京アニのサイトや作者さんのツイッター確認してるのですが……原作はいつ続きが出るのやら(汗
ちなみに最後の一文は、シンゴジラでもお馴染みの牧博士(の中の人)が監督した映画オマージュ
全ての始まりは、ゴールデンウィークも残り半分を切った日曜日のことだった。
休日ながらもその日は学校で選考作業をやろうってことになって、俺達文芸部員は校舎に足を運び、いつもながら文集ども睨めっこして、お昼休憩に入った頃。
俺は肩に子狐形態なマナを乗せ、自前の弁当が入った手さげ袋をぶら下げて屋上にて昼飯にあり付けることにした。
「ん?」
屋上に繋がる階段の前まで着いた時、俺は〝妖夢〟の気配を察した。
特に殺気や敵意と言うものは感じなかったが………敏感な嗅覚が、独特の悪臭を察知して呻きを上げ、顔も偉くしかめさせられる。
「く~ん……」
マナも同様で、一端鼻を抑えた後、自分と俺の周りに悪臭をシャットアウトする結界を貼った。
「助かったぜ」
「こーん♪」
お礼にマナの頭を撫でると、一応の確認の為、階段を登って屋上の敷地内に入った。
「はは……やっぱりか」
苦笑が浮かばざるを得ない。
案の定……悪臭の〝元凶〟たる妖夢が、銀色のタンクの上にて滞空する形で佇んでいた。
紫にピンクの斑点がいくつも付いた卵状の胴体に、下部からは根っこっぽい蔦、上部からはオレンジのぶつぶつと雪だるまみたいな小さい木の幹、そして中央には白眼の範囲が広くて瞳がやや小さめな癖にドデカい眼。
一応俺たちは、この気色悪い妖夢の〝種〟のことを―――知っていた。
「ぴゅう?」
「〝どうする〟って……今は下手に手を出さねえ方が良い、お前もあいつの〝体液〟浴びたくないだろ?」
こっくりとマナは即答した。
ちょっと癪だが、あの妖夢に刺激させない為にも、屋上で昼飯を食べるのは断念することにした。
ここが人間社会のど真ん中じゃなかったら、さっさと本来の姿に変身して、向こうからの先手に構わずとっとと撃ち落とせるんだが、しょうがない。
当然ながら、この時点では奴のせいで事態があそこまでエスカレートさせることになろうとは、考えても、思ってもみなかった。
仕方なく、部室で食べることにして戻ると。
「あら澤海、屋上で黄昏ながら便所飯にありつくんじゃなかったのかしら?」
この部の女王もとい、部長であり、黙っていれば美人を地で行く美月がいつもの毒舌を展開する。
いつものことだし、むしろ互いに毒な言葉を投げ合うくらい彼女の気質を気に入っている身なので、特に気にしない。
「ある意味で一番性質の悪い〝妖夢〟が屋上に陣取ってたんだよ」
各部員の昼飯であるサンドイッチやらおにぎりやら、コンビニ弁当やらが置かれた机に手さげ袋を置き、豚生姜焼きが主食な自作弁当を取り出して食し始める。
「まさかたっくん……その妖夢と言うのは〝果実型〟か?」
「そのまさかさ」
その美月の兄貴で異界士、五月の初夏でも季節錯誤にマフラー巻いている博臣がずばりと、妖夢の種(タイプ)を言い当てる。
度を越して実妹の美月と、妹と言う概念と愛し過ぎるシスコンと言う、この文芸部の残念な男ども二大巨頭の一人であるが、この辺の洞察力はさすがだ。
「果実型?」
癖っ毛なショートカットと赤縁眼鏡が特徴的な、小動物の如き見てくれながら、これでも叩き上げの異界士でもあるこの部のもう一人の女子部員、栗山未来が、首を傾げ、頭に〝?〟が浮かびそうなきょとんとした表情を見せる。
「何だミライ君、知らないのか?」
「はい」
こっくり未来は頷いた。
意外と思ったが、彼女の、ゴジラである自分から見ても性質の悪い境遇と、果実型そのものの希少さを踏まえると、知らないのは無理ないかもしれない。
「俺もさっき実際に見るまでは知識としてしか知らなかったんだけどな、そんぐらい珍しい妖夢で――」
まず果実型の外見的特徴を述べていく。
「いかにも気味悪そうだよね、その妖夢」
おっと、言い忘れかけていた。
淡い金髪と、その髪色に似つかわしくない〝お人よし〟な匂いを漂わせて、果実型の姿を想像して引いているこの野郎は、神原秋人。
妖夢と、異界士である人間とのハーフと言う悲惨な出生の持ち主であるのだが、一方で未来のような眼鏡を掛けた女子女性と眼鏡をこよなく愛する自称〝メガネスト〟な、この部の変態男二大巨頭のもう片割れで、類希なツッコミセンスの主である(本人から不本意だと言われようが、この辺は譲れない)。
「まあその分の妖夢石の額も結構なもんでね、アヤカによりゃ安くても五十万はすると言ってた――」
「五十万……」
ごくり。
とまで説明すると、誰かが唾を呑み込んだ音がした。
直後、完全に窓を閉め切った部室で、一筋の風が吹いた。
「栗山さん!」
正確には、疾風の如くかつ脱兎の如きな素早さで、部室を出て行った未来っ―――て、不味い。
「アキ、最大全速でミライ君を追って止めろ!」
「え、なんで?」
「説明してる時間はねえんだ、彼女の眼鏡を破壊されたくなければ早く」
「よし分かった!」
俺の〝眼鏡が破壊される〟発言に、事態の深刻さと切迫さを覚えたらしい秋人は、直ぐ様未来の後を追った。
あれでも秋人は境遇上、足は健脚なので、間に合ってはほしいが。
「この腹黒超えた全黒ゴジラ」
「何のことやら」
とりあえず、選考の続きをする前に中断していた昼飯を取ろうと椅子に腰かけた矢先―――屋上の方から地上に、大量の粘液が、振動と妖夢の奇声と一緒に流れ落ちて行った。
「遅かったか……」
かくして、文芸部にはその長い一週間がやってきた。
つづく。