ラブライブ 〜Anather story 〜 作:ナンジョルノ
そこは私だけの空間だった。入学してからずっとここに来るのが日課で、自分でも暇なものだなと少し笑ってしまう。
いつものようにその部屋に入り、ピアノの前に立つと気分が落ち着いた。毎日来てみると不思議なことにこのピアノにも愛着が持てた。家にあるピアノよりも多少大きさが異なるが、このぐらいのサイズの方が私には合っている気がする。
白と黒の鍵盤に手を置いて音を出してみる。いつもの音だと、少し安心して、外を眺めてみた。ここに来るのは決まってみんなが下校した後だ。それに音楽の先生は産休でお休みらしく、下校した後にこの部屋に来る生徒などいない。私だけの空間がいつもここには用意してあった。
さて弾くかとイスに座り、いつものように自分の頭の中に流れてくる音を一つ一つ表現していく。自慢じゃないけど、新しい自分だけの曲を作るのは得意だった。小さい頃からコンクールでは常に上位だったし、なによりピアノを弾いていると胸が踊った。
楽しい楽しい。気持ちが高ぶっていけばいくほど、弾くペースも速くなっていく。そして弾き終わると同時にやり切ったと満足できた。今日も楽しかった。そろそろ帰ろうとカバンを手にとった。
「もう帰るの?あんなに楽しそうに弾いていたのに。」
誰だと声の方へ視線を向けると、そこには私と同じ赤毛で背の高い男の子が立っていた。男の子というよりも青年といった方が表現は正強いのかもしれない。顔は恐ろしいほど整っていて、綺麗だとさえ思ってしまった。だが今はそれどころじゃない。私の演奏を聞かれていたのだ。
「な、なによ!あなた誰?いつから聞いてたの?」
自分でも顔が火照っていくのがわかってしまうほど、顔が熱かった。
「いや、ごめんごめん。俺はこの学校に明日から赴任することになった臨時教員だよ。さっき理事長と面談してね。その時に音楽室の奥が、俺の部屋になるってカギをもらったんだ。それで音楽室まで来てみたら、ここに入っていく君を見て、つい気になって少し様子を見てたんだよ。」
「臨時教員?あ、とゆうことは最初から?い…いるならいるって言いなさいよ///い、意味わかんない!!」
恥ずかしい。恥ずかしい。私はカバンを持って教室を出ようとした。
「待ってよ。もう帰るの?」
気づけば手を掴まれていた。さっきよりも近い距離で彼の顔を見てしまった。素直にかっこよくて、瞳に映る私の顔が赤いのも確認できた。
「な、なによ!貴方には関係ないでしょ!?帰るわ!」
「まぁまぁ、いいじゃない!もうちょっとだけ聞かせてよ。君のピアノとても上手じゃないか。」
そういって彼は私をピアノの前まで引っ張って、イスに座らせた。女の子を手を引っ張るなんて強引な男とも思ったけど、不思議と私の体は素直に彼に従って、気づけばイスに腰掛けていた。なんなのよこいつ、むかつくわ。
「さっきの曲さ、もう一回弾いてよ!俺も隣で同じように弾くからさ!」
そういって彼は私の横にイスを置いて座ってきた。そしてさぁ始めるよと私に合図をしてくる。
「はぁ?意味わかんない!なんでわたしが!」
頭では嫌がりながらも、私の体は鍵盤に指を置いていた。そして音を奏でる。隣の彼も同様に私と同じように演奏している。彼はひたすら楽しそうで、私は不思議とその笑顔に引き込まれた。
「ほら、楽しいでしょ?」
「べ、べつにそんなこと……ない」
「ははは!そっか、おれはたのしそうに見えるんだけどな〜。」
なんなのだろう。彼にはペースを乱されてばかりだ。気に入らない。
「ねぇ、歌ってもいいかな?この曲聞いた時に歌詞が自然に出てきたんだ。君さえ良ければなんだけど……」
「す…好きにすればいいじゃない!」
「はは!ありがと!じゃあ!」
そういって彼は私が作った曲に歌詞と言う名の音を重ねていく。希望に満ちた歌だった。名前すらまだつけていないこの曲に《命を吹き込む》その彼の歌声に聞き惚れていた。とても落ち着く。気づけば私は弾くのを止めて彼の歌を聴いていた。
「ふぅ……どうしたの?気に入らなかったかな?途中で演奏やめちゃったみたいだけど。」
歌い終わると彼は私にどうしたのと顔を覗かせてきた。どうやら私が機嫌を損ねたと思ったみたいだ。
「べつに……その…楽しかったわよ。ありがと。」
いつもの自分ならこんな素直にありがとうと言えないだろう。でも今の私は彼に良い意味で影響されていた。
「そう、よかった。俺も楽しかったよ。」
「あの……」
「ん?何かな?」
「この曲…まだ名前がないの。だから……付けてよ。」
「ふふふ。そうだよね、せっかく良い曲なんだから名前がないとね!」
彼はうーんと考えながらブツブツ言っている。そして閃いたよとイスから立ち上がって私の瞳をまっすぐ見て、こう言った。
「愛してるばんざーい!!」
そのジェスチャー付きの動きは、見た目と反して子供っぽくてなんだか可愛かった。
「ふふ!なにそれ〜!意味わかんない!歌詞そのまんまじゃない。でも……愛してるばんざーい……か。ありがと。」
「あれ?良いとおもうんだけどな。でも君が喜んでくれてよかったよ!」
私の曲に初めて歌詞が付き、そして《名前》ができた。今まで曲は作ってきたけど、名前まではつけていなかったから、どこか新鮮だった。
「あ!!君帰ろうとしてたんだよね!ごめんね!引き止めたりして!!」
「べつにいいわよ。そんなに急いでないし。」
「そっか。俺は綺羅春人。音楽の臨時教員だから、大抵ここにいるから、いつでも来てよ!」
「そんな暇人じゃないわよ!でもまぁ、たまには来てあげてもいいわ!」
「そう。じゃあ“たまに”は来てね!」
彼はニコニコ笑いながらこちらに手を振っている。同じように手を振り返そうとしながら、ハッと我に返り寸前で止める。危ない危ない。私は何をしようとしてるんだろう。火照る顔が見えないように急いでドアに手を伸ばした。
「ねぇ、君の名前は?」
後から綺羅先生が名前を聞いてくる。それに私は振り向かずに
「西木野真姫よ!」
とだけ言って外に出た。
「ふふ!照れ屋なのかな。」
赤髪の青年は彼女の座っていたイスを見つめながら微笑んだ。
真姫ちゃんと春人の出会いを書いてみました。
物語としては一話の前半だと思います。
やっとヒロイン1人目のエピソードが書けたと考えると、先は長いですね笑
今後もよろしくお願いします!