これまでは二次創作小説サイト「すぴばる小説部」に投稿させていただいておりましたが、こちらでも上げてほしいという声があったため、マルチ投稿させていただくことになりました。
こちらのサイトを使うのにまだ慣れていないため、いろいろご迷惑をおかけするかと思いますが、どうかよろしくお願いいたします。
注意! 基本的にこの話は「にじファン」に投稿しているものとほぼ同じですが、一部話を変えている部分があります。もしかしたら改悪になっているかもしれないのでご了承ください。
第一話
「久しぶりね、啓一郎」
1944年10月――
ブリタニアにある第501統合戦闘航空団が置かれている基地の執務室で、ここの隊長であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は、かつての戦友である扶桑皇国陸軍上坂啓一郎大尉との再会を果たしていた。
「ああ、ミーナが中佐になっているとは……。思ってもみなかったな」
「それは私もよ。それよりも啓一郎がいまだに大尉であるほうが驚きよ。何かやったの?」
「いや、何も」
上坂は肩をすくめる。ミーナは何か思うところがあったが、何も言わないことにした。
「……まっ、いいわ。では、上坂啓一郎大尉。あなたの配属を心より歓迎いたします」
「はっ!」
先ほどの親友同士の会話とは打って変わり、命令口調になったミーナに対し、上坂も真剣な表情になって敬礼をする。お互い信頼しあえる関係だからこそ、最低限の礼儀は守る。それが暗黙の了解だった。
「めずらしいな、ミーナ中佐が招集をかけるのって」
ブリーディングルームでリベリオンから派遣されているシャーロット・イェーガー中尉がおもむろにつぶやく。前方に黒板と教壇があり、教室のような部屋には珍しく全員がそろっていた。
「ミーナのことだ、このところのお前達の行動について苦言を呈す気だろう」
シャーリーにそう返すのは、ミーナと同じカールスラント空軍所属ゲルトルート・バルクホルン大尉。堅物軍人馬鹿と称される彼女の言葉にはトゲがあった。
「あたしはそんな怒られるようなことはしてないけどな~」
「お前な……!」
「まあまあトゥルーデ」
激昂し、勢いよく立ち上がったバルクホルンを、隣に座っていたエーリカ・ハルトマン中尉が諌める。
「ミーナはそんなことで集合を掛けたりしないよ。それにこの前新しく隊員が入ってくるって言っていたからその紹介でしょ~、たぶん」
「む……そうか……」
渋々とバルクホルンが椅子に座ると、ミーナが入ってきた。
いくら少女達とは言っても軍人としての教育を受けた彼女達。全員がサッと立ち上がり、直立不動になる。ミーナが教壇の前に立つと、全員が敬礼をした。
ミーナも答礼をする。そして彼女達が座ると話し始めた。
「おはよう皆さん。今日は新しく501統合戦闘航空団に配属になったメンバーを紹介するわ。……いいわよ、入ってきて」
ミーナが促すと、上坂は大股でブリーディングルームに入る。途端に全員の表情が変わった。新しいメンバーがどう見ても男性であるということに驚いた者もいたが、それはごく少数だ。
上坂はミーナの隣まで来ると、全員の方に向き直った。
「始めまして……というより、久しぶりと言った方がいい奴の方が多いと思うが……本日より第501統合戦闘航空団に配属になった上坂啓一郎大尉だ。よろしく頼む」
「けっ、啓一郎!? なんでお前こんなところにいるんだよ!?」
「……久しぶりだというのに随分な挨拶だなエイラ」
部屋の後ろの方で素っ頓狂な声を上げた主に対して、上坂はため息をつく。
エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉――スオムス空軍所属で、彼女とは東部戦線で一緒に戦った仲である。
「イヤそれはびっくりするだろ普通!」
「知っているのエイラ?」
エイラの隣にいた白い髪の少女が尋ねる。
「ああ、東部戦線でネウロイを破壊しまくって、バルバロッサ作戦の途中段階まで成功したのは啓一郎のおかげとまで言われているんだ」
「さすがにそれは言い過ぎだろう……ところで君は?」
「失礼しました。オラーシャ陸軍所属サーニャ・V・リトヴャク中尉です」
サーニャと名乗る少女がゆっくりと頭を下げる。少し眠たそうな眼をしていた。
「サーニャは唯一のナイトウィッチで夜間哨戒を担当しているんだ」
エイラが我がごとの様に胸を張る。
「なんでお前が威張るんだ……」
上坂はエイラに突っ込むと、前の方の左側の席に座っていたバルクホルン達に向き直った。
「……で、久しぶりだな、エーリカ、バルクホルン」
「ヤッホ~、啓一郎」
「久しぶりだな、まさか501に来るとは思わなかったぞ」
「それは俺もだ。アフリカの砂漠でわがままな鷲の世話をし続けると思っていたからな」
「ああ、あいつか……」
上坂の冗談を聞いてバルクホルンは途端に難しい顔になった。鷲とはアフリカのエース、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉のこと。バルクホルンも昔彼女に色々と迷惑をかけられていたと言っていたからそれを思い出したのだろう。
「ああ、勝負しろ勝負しろとうるさくてな……。全く、もう少し腕を上げてからやってくれた方が俺もやりがいがあるのに」
「全く、マルセイユめ……って! ちょっと待て! その言い方だとお前マルセイユに勝ったのか!?」
「ああ。そうだが?」
「…………」
さも当然に答える上坂と、絶句するバルクホルン。
「あははは……! 相変わらずだねー、ケーイチロー」
呆れ果てるバルクホルンの横で、エーリカがケラケラと笑った。
相変わらずだなこいつらも、と心の中で思いながら左側に目を移す。こちら側には初めて会う者たちが集まっていた。
「ま、というわけでここの部隊にも知り合いが多くいるわけだが……、改めてよろしく頼む」
「お久しぶりです、上坂大尉ガリア空軍所属ペリーヌクロステルマン少尉です」
しかしながら、前に座ってた眼鏡の少女は自分を知っているらしい。上坂は尋ねずにはいられなかった。
「? 君には会ったことが無いはずだが……」
「上坂大尉はご存じないかもしれないのですが、私はカレー撤退戦の時に上坂大尉が守った船に乗り合わせていました」
「カレー……。ああ、あのときか……」
上坂は記憶の中でペリーヌの姿を探すが、どうしても見つからない。
「すまん。残念ながら覚えていない」
「いいえ、気にしないでください。……私はあの時前線には立たなかったので」
「そうか……いや、すまない。これから宜しくよろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
ペリーヌは優雅に頭を下げた。
「なんか相当知り合いが多いんだな~」
「……そういう君は?」
上坂はペリーヌの後ろにいたシャーリーに目を向ける。
「ああ、失礼。リベリオン陸軍所属のシャーロット・イェーガー中尉だ、宜しく」
軽く手を振るシャーリーを見て、リベリオン人らしく陽気な人だと上坂は思う。どことなくアフリカで一緒に戦ったパットンガールズの面々と姿が重なった。
「ああ、宜しく……」
そう言いかけた刹那――。
突然後ろに気配を感じた。
「な―――――」
振り返る前に、二つの小さい手が上坂の胸を掴んだ。
「ん~……やっぱない……」
まだ12,3歳ぐらいの少女が上坂の固く平らな胸を揉みながらガックリと頭を垂れながらつぶやく。
「お、おい。ルッキー二……」
「何やっているんだ?」
上坂はとりあえずルッキー二と呼ばれた少女に尋ねる。その顔は怒りを通り越して呆れの表情があった。
「んーとね。ケーイチローの胸がどれぐらいあるかと思ってね~。でもつまんな~い」
「そりゃ男なんだしあるわけないだろう……。ああ、そいつはフランチェスカ・ルッキーニ少尉。ロマーニャ空軍所属だ」
「ありがとうイェーガー中尉。……さて、ルッキーニ」
「ひっ……!」
ルッキーニは上坂の雰囲気が変わったことに気付き、体を震わせる。
「初対面の奴の胸をいきなり揉むのは……同姓でも失礼にあたるぞ」
「は、はひ……」
ただ少しだけ睨んだだけなのに、ルッキーニの顔が半泣きになる。上坂は心の中で傷つき、苦い表情になる。
「おい……。別に俺は怒っていないんだが……」
「あっはっはっはっは!」
上坂が狼狽えると、突然ドアの方から高笑いが聞こえた。
「いやー、相変わらずの様子で何よりだ。しばらく会っていなかったからどんなふうになっていたのかと心配していたぞ」
入り口には左目に眼帯をかけた少女が腕を組んで立っていた。上坂は体を向けて旧友との再会を喜ぶ。
「坂本か、久しぶりだな」
「ああ。懐かしいな、リバウ以来か」
「まあな」
二人の言葉は少ないが、それでも通じるあたりお互いに信頼し合っているのだろう。いや、もしかしたらお互いが心の中で言っていることが分かっているのかもしれない。
「……さて、皆の自己紹介も済んだことだし、各自待機してください」
ミーナは全員との顔合わせを済ませたことを確認すると、解散を告げた。
「どうだった? あの子達」
執務室に向かう途中、ミーナは歩きながら上坂に尋ねる。
「……そうだな。各自の腕は見ていないから何とも言えないが、なかなか個性的な奴らだと思う」
「そうね。それは私も思うわ」
ミーナが苦笑する。だがすぐに顔を曇らせ、言葉をつづけた。
「……だけどみんな自分勝手っていうか……とにかく連携がうまく取れなくって……個人個人の腕に頼っているのが現状なのよね」
「そうなのか。とてもそうには見えなかったが……」
こういった多国籍部隊はまだ少ないものの、他の部隊では民族や言語、文化や戦術の違いなどで相当苦労していると聞いてる。だがこの部隊では少なくとも表面化するような事態にはなっていない様に見受けられていた。
「確かにあの子達、地上ではそこそこ仲良くやっているんだけど……空だとどうしてもね……」
「ふむ……」
上坂は良い案を考えてみるが、初対面でありまだ戦闘風景すら見ていない状況ではまったく思いつくはずがない。
「……まあそのうちに何か考えてみる」
「お願いね」
ミーナが安堵した表情を浮かべる。そうしている間に、二人は執務室に到着した。
「いいわよ、入って」
「ああ、失礼する……」
そう言いながら上坂は中に入ると、中の光景に思わず声を失ってしまった。部屋の奥にある重厚な机の上には、1m近く積まれた紙の束があるからだ。
「……おい、あれはなんだ?」
いやな予感しかしないが、それでも尋ねずにはいられない。案の定思った通りの返事が返ってくる。
「実はこの頃いろいろ忙しくって……だからお願いね、啓一郎」
(……絶対確信犯だろ)
上坂はにこやかなミーナを見て心の中でそう思いながらも、間違いなくやる羽目になる書類仕事に盛大なため息をついた。