魔法学園の中庭で春の召喚の儀式が行われていた。
二年生に上級するための大事な儀式であった。
そこで衝撃のハプニングが起きた。
ルイズが召喚魔法を唱えた時、高さ30メートルの巨大な緑色の竜巻が発生したのだ。
「ルイズが召喚魔法に失敗したぞー!」
「ゼロのルイズがまたやりやがったー!」
「も、ものすげえ竜巻だーー!」
「死ぬ死ぬ、死んじゃうー!」
「みなさん、避難です! 避難するんですぞ!!」
「なんでサモン・サーヴァントで竜巻が起きるのよ!」
「風魔法…じゃない」
緑色の竜巻が消えた後、地面にえぐられた穴が残っていた。
その穴の底に呆然と立つルイズと、二人の人間が倒れていたのだった。
魔法学院の生徒達は、異常事態に身体が動かなかった。
召喚された様々な幻獣達も怯えていた。
穴の底でルイズと召喚されたと思われる人間が話し出した時、教師であるコルベールが穴に駆け下り、
続けて、キュルケとタバサが穴に降りていった。
そして、召喚の儀式が終わったとみられると、やっと魔法学園の生徒達の緊張が緩んだのだった。
「…なんて奴だ、ゼロのルイズめ!」
「ほんと、迷惑な奴だ。失敗ばっかりしやがって…」
「見ろよ、ルイズの奴、平民を召喚したみたいだぜ」
「ああ、どっかから逃げてきた敗残兵みたいなのも召喚したみたいだ」
穴を恐る恐る覗き込む生徒達にルイズを罵倒する気力が戻って来た時だった。
轟音がした。なにかが爆発したような音がした。
生徒達が音がした背後へ振り返ると、魔法学園の中庭に新たな穴ができていた。
何者かが落ちてきたのだ。どこから? だが、今はそれを気にする事はできなかった。
生徒たちは砂煙が立ち込める穴の中に動く影がいる事に気がついたのだ。
「馬だ」
それは馬の首だった。
異様に長いたてがみが長い首にもつれている。
「いや、あれは亜人のオークだ」
それも正解だった。浅黒い筋肉の身体がゆっくり穴から出てくる。
「ば、ばけもの…だ」
そのとおりだった。穴から出てきたのは首から上が馬のオークだったのだ。
「キメラ・ホース」「馬頭巨人」とでも名付けるべきその巨体は3メートルを超え、
不吉な死の気配を漂わせていた。
それは呆然と立ち尽くす生徒達を見下ろすと、巨大な斧をもち上げ、馬の鳴き声と、
人間の悲鳴をあわせたような声を上げた。
その音だけで、魔法学院の石壁がビリビリと揺れる。
その声を聞くだけで背筋が凍り、寿命が縮むような地獄の声だった。
そして、その声はたやすく魔法学院の生徒たちの心をへし折った。
「うわあああああああああああああああああ!!」
「怪物だーー!」
「死ぬ死ぬ、死んじゃうー!」
「な、なんなのね! あんなバケモノ知らないのね!」
「きゃああっ!」
「モンモランシー! ぼ、僕に任せたまえ、我こそは~」
フライの魔法で逃げようとする者、悲鳴をあげる事しかできない者、怯える少女をかばい、
逃げ腰ながら、怪物に立ち向かおうとする者。
しかし、「馬頭巨人」はそれらの存在を無視し、跳躍した。
大木のような筋肉の脚をきしませたその跳躍は、生徒達の頭上を飛び越えた。
「ルイズ、大丈夫? 顔色悪いわよ」
よろけて立ち上がったルイズの肩をキュルケが支えた。
ルイズとキュルケは普段は、あまり仲が良くない。
しかし、今のルイズにはそんな余裕は無かった。
「あ、ありがと。だ、だいじょうぶ…」
大丈夫ではなかった。
その瞬間、二人の背後に巨大な影が舞い降りたのである。
再度の轟音を間近で聞き、ルイズとキュルケは後ろへ振り向いた。
浅黒い肉体の下半身と強烈な獣の匂いがそこにあった。
「ブルルルル」
二人は音のした頭上を見上げる。
うつろな黒い目をした馬の顔が見下ろしていた。
「危ないですぞ! あぐっ!」
コルベールが「馬頭巨人」と二人の間に割ってはいろうとした。
しかし、大人一人ほどある巨腕にはらわれ、数メートル飛ばされてしまったのだ。
その巨腕が、今度はルイズとキュルケにむけて唸りを上げる。
金縛りのように動けないルイズとキュルケ。
それを救ったのは…
「この馬野郎!」
才人だった。才人はルイズとキュルケに体当たりをかまし、巨腕の軌道から逃したのである。
ルイズとキュルケは尻餅をついた。
「きまった! これ、夢! 決定!」
「な、なんであんた、わたしに体当たりするのよ!」
「バカヤロウ! あんなんに体当たりしたら怖いだろうが! 夢だろうと!」
夢の出来事と決めた才人だったが、その脚はがくがく震えている。
「馬頭巨人」と相対すかっこうになった才人は、うつろで黒いその目を見てしまった。
魂を吸われそうな恐怖を感じ、身が震える。
怖ええ! 怖ええよ! なんだこれ!
だが、背後で腰を抜かしたように座り込む桃色の髪の少女を見て思う。
「お、女の子がピンチの時に、なんとかできないんじゃ、かっこつかねえじゃんよ!」
才人は近くに落ちていた自分のナップザックを拾った。
護身用に入れていたスタンガンを出す。
「そ、それに夢なんだし! 夢なんだからなっ!」
スタンガンを握った時、才人の左手の甲が緑色に光った。
「馬頭巨人」に特攻をかまそうとした時、才人は自分の異常に気がついた。
「やっぱ夢だ! なんか、俺、速いし!」
身が軽い。こんな速く動けるはずがない。
しかし、才人は「馬頭巨人」の懐に飛び込むのに成功していた。
「喰らえええっ!」
スタンガンを思い切り巨人の身体に押しこみ、スイッチを押した。
電撃がスパークする音がした。
才人はなんとなく手応えを感じ、決まった! と思った。
そこに「馬頭巨人」の叫びが響いた。
才人は心の底にも響く不気味な鳴き声に圧倒されながら、それでもスタンガンのスイッチを入れた。
肉が焼き焦げるようなイヤな匂いもした。
そこで気がついた。
この馬野郎、でっかい斧をもってやがったな。
無意識に頭上を見た。
巨大な斧が振り下ろされてくる。
才人は身体の動きが速くなっただけでなく、動体視力も良くなっていた。
圧倒的なパワーが巨大な斧に込められて近づいてくる。
一旦、逃げる!
そう思った時、スタンガンを押し付ける両手が、「馬頭巨人」の片手で捕まれていた。
や、やば、やばいいっ
俺、死んだ!
「大丈夫だ!」
近づいてくる斧になにかが高速でぶつかり、斧が粉々に砕かれいく。
それはこぶしだった。
「はあっ!」
「馬頭巨人」が身体をくの字に曲げてすっ飛ぶのを見た。
それは蹴りだった。
赤く長い髪をなびかせたその身体はスマートなのだが、充分に鍛えられた筋肉が躍動する様は
肉食獣を思わせた。
獅子王凱だった。
しかし、凱は傷つき、血を流して倒れていたはずではなかったか?
倒れていた場所には呆然と座り込んだタバサがいた。
「無理しないで…ほとんど治癒できてない」
才人は凱が、いまだ傷だらけで血を流している事に気がついた。
しかし、それでも。
膝をつく「馬頭巨人」をにらみつつ、凱は才人に親指を立て、笑う。
「君の勇気を見たら、いつまでも寝てられないよな!」
「おじさん、生きてたんですね」
「おじさんはひどいぞ。俺はまだ20代…うわっ」
その瞬間、「馬頭巨人」が突進して来たのだ。
しかし、凱はその突進に真っ向から立ち向かい、その巨大な両手を握りかえす体勢で、
突進を止めた。手の大きさはもとより、体格が違いすぎるはずなのに、凱は止めたのだ。
「君、女の子達を逃がすんだ!」
「あ、は、はい!」
まさに、これこそ夢だなぁなどと思い、一瞬呆けた才人だったが、今の事態を思い出した。
膝を立てて座り込み、呆然しているルイズとキュルケの元に走りこむ。
「お、おい、逃げるぞ。立つんだ!」
「だ、だめよ!」
ルイズは正気を取り戻したが、凱を見て叫んだ。
才人も「馬頭巨人」を止めている凱を見た。
血だ。身体中の傷、特に胸の大きな傷から血があふれている。
凱も長身の男性だが、相手は3メートルを超える化物である。
その圧倒的なパワーを止めている事がすでに奇跡だと言うのに。
「し、死んじゃう、あの人、やっぱり死んじゃうよ!」
ルイズは才人にしがみつき、目に涙をためて叫んだ。
「ウィンディ・アイシクル」
その時、「馬頭巨人」に身体に氷と風が吹きつけ、左脚が凍りついた。
風と氷の魔法を得意とするタバサであった。
「そうね! びびってられない! ファイアボール!」
キュルケが得意とする火の魔法が飛び、馬頭巨人の右脚が燃えた。
両脚に攻撃を受け、「馬頭巨人」の重心がくずれた。
「こいつはありがたいぜ!」
凱の手が巨大な「馬頭巨人」の手を握りつぶす。
「馬頭巨人」の苦鳴がひびく中、凱の動きは止まらない。
「うおおおおおおお!」
握りつぶした巨腕ごと巨人を持ち上げ、空に向け、投げ飛ばした。
魔法学院の塔より高く放り投げられた「馬頭巨人」は、さらに跳躍して来た凱により、
今度は地上へ投げつけられた。
「馬頭巨人」は地上に轟音と共に叩きつけられ、そして動かなくなった。
「やった?」
「やったの?」
「か、勝ったのか」
沈黙した「馬頭巨人」を確認し、魔法学院の生徒たちから安堵の声が聞こえていた。
獅子王凱は地上に静かに着地した。
才人とルイズ、キュルケとタバサが駆け寄ってきた。
「おじさん、すごい! すごすぎますよ!」
「おじさんはやめろ! 俺はまだ20代…」
そこで凱は気を失い、倒れこんだ。
瀕死で重症のまま、凱は闘っていたのだ。
そんな凱をルイズは才人の後ろに隠れるようにして見つめていた。
ルイズは怪物に勝利した使い魔に対し、「恐怖」を感じていたのだった。
第01話「勇者王召喚!!」 了
次回、「桃色の髪の少女」でファイナルフュージョン承認!
これが勝利の鍵だ!「ルイズの下着」