ゼロと勇者王   作:tonebon

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第02話 「桃色の髪の少女」 Bパート

 

 

 トリステイン魔法学院は石造りの5つの塔で構成されている。

 塔は五芒星「ペンタグラム」を描くように配置されている。

 それぞれ「火の塔」「水の塔」「風の塔」「土の塔」、そして中央の「本塔」である。

 女子寮は「火の塔」にあった。

 

 ルイズが召喚した使い魔二人は女子寮のルイズの部屋に運ばれた。

 凱はタバサとキュルケが浮遊の魔法で運んだ。

 才人はルイズがおぶって運んだ。ノックアウトした本人だからしょうがない。

 小柄な身体のルイズは見かけによらずパワフルな少女だった。

 しかし、さすがに才人をおぶった状態だと辛いため、フラフラしながら愚痴を言いつつ、

階段を登っていく。

 そんなルイズを冷やかす生徒達の後ろでコルベールは呆然としていた。

「魔獣の死体が無い…」

 

 

 ルイズの部屋は十二畳ほどの広さで、高級な家具がそろっていた。

 タンス。ベッド。そしてテーブル。

 かなり広く、そして豪華な作りなのだろう。

 しかし、今晩のルイズの部屋はそれでも狭く感じられた。

 

 ルイズとキュルケがテーブルの席に座り、その対面に才人が座っている。

 キュルケの足元には真っ赤で巨大なトカゲが尻尾をまるめておとなしくしている。

 キュルケが召喚したサラマンダーだった。名前はフレイム。

 

 ベッドには凱が寝ており、その側でタバサが治療薬を併用して魔法をかけ続けていた。

 さらに、窓の外から青く巨大な竜の顔が覗いている。

 タバサが召喚した竜だったが、この大きさでも幼生らしい。

 名前はシルフィード。

 

「くわ~、なんだこれ。ファンタジー全開じゃんか…」

 

 才人が目覚めたら部屋の中で、女の子3人と怪物2匹と相部屋していたのだ。

「もう、今日は散々な目にあったわ!」

「ほんと、そうね。誰かさんの召喚魔法の失敗からずうっとね」

「失敗してない! キュルケ、使い魔つれて自分の部屋へ戻りなさいよ!」

「タバサの治療が終わったらね」

 ルイズとキュルケが夜食のパンを食べながら言い合っている。

 

 あ~やっぱ、ファンタジーすぎるわ…やっぱ夢かな?

 赤くなった頬の痛みを感じ、才人はやっぱ現実なのかな、と思った。

 

「気がついた」

 タバサの声に、視線がベットに集まった。

 凱が上半身を起こしたのである。

 長く赤い髪の頭に手をあてながら、軽く首をふる。

「ここは…」

 傷だらけだった身体の傷は、まだ血がついているがおおよそ塞がったようだ。

 タバサが身長ほどもある長い杖をもった腕で顔の汗をふき、一息つく。

「よかった、おじさん、気がついたんですね」

 女の子やドラゴンやトカゲよりは、なんとなく自分の世界に近そうな感じの印象をうけ、

才人は凱に駆け寄った。

「君たちは?」

「俺たち、なんだかファンタジーなところに召喚されちゃったみたいですよ」

「ファンタジー?」

 凱は部屋を見渡すと、床に寝そべりながら自分を見つけるサラマンダーのフレイムと、

窓から首を突っ込んで見つめてくる青い竜の顔を見た。

「…これはすごいな。本物かい?」

「俺もまだ信じられませんけど」

 

 ここで、ルイズとキュルケが会話に割り込んだ。

「ねえ、あんた。何者なの?」

「気がついたのね。でも、まずはあなたの治療をしたタバサに礼を言うべきよ」

「君たちは? 俺はどうしてこんなところに?」

「…別にいい」

「あたしがあんたを召喚したのよ。まずは名前を教えなさい」

「GGGのみんなは? 傷が治っているのは…君たちのおかげかな?」

 

 才人は凱と少女3人の会話について行けず、混乱した。

 おかしいな。会話になっていないような気がする。

 

 ルイズは小首をかしげた。

 キュルケは不満そうな表情をうかべ、豊かな胸の上に腕を組んだ。

「…言葉が通じない」

 タバサがつぶやいた。

「え、そんな。使い魔の契約の儀式をしたら言葉が理解できるようになるんじゃないの?」

 ルイズが才人を見て言う。

「し、しるか。俺が知るわけ無いだろ」

「で、でもあんたとはお話しできてるのに」

「ルイズ、契約魔法に失敗したの?」

「そ、そんな!」

 ここでタバサが才人を指さした。

「あなたは彼と会話しているように見えた」

 

 才人は凱を見た。

 たしかに、会話できていたように思う。

「あ、あの、おじさん」

 凱が才人を見て苦笑した。

「おじさんはやめてくれよ。俺はまだ20代…」

 

 その時だった。

 女子寮のある「火の塔」が揺れだしたのだ。

「じ、地震?」

 才人が叫ぶ。こりゃ、震度5以上ある感じだ!

 

 しかし、震源は地下では無かった。

 窓からのぞくドラゴンがなにかに引っ張られるように引っ込んだ。

「な、なんなのねー!」

 その代わりに、巨大な腕が窓から飛び込んできた。

 その腕はルイズをつかもうとしていた。

「あ、あぶねえ!」

 たまたま近くにいたのもあったが、ルイズに体当たりをかましたのは、またも才人だった。

 

 ルイズをつかみそこねた巨腕はタンスを倒し、散らばった下着をつかむと、外に引っ込んだ。

「あ、あたしのパンツ!」

 

 凱はいまだ万全ではなかったが、異常事態に身体が反応していた。

 巨腕を追って、窓から飛び出す。

 外は夜だった。

 月夜で明るく、巨腕の正体を見る事ができた。

 それは、倒れたはずの「馬頭巨人」だった。

 飛び降りる凱に対して振り上げられた拳を蹴り、凱は空中で軌道を変え着地する。

 

「あ、あの馬野郎、生きてたのか!」

 窓から才人が叫んだ。そして凱が窓から飛んだので、思わず飛んだ。

 飛んでしまった。

「あ、あ、しまったー!」

 ルイズの部屋は3階だった。

 しかし、続けて出ようとしたタバサとキュルケの浮遊魔法で助かった。

「し、死ぬかと思った~~」

 才人を地面に下ろすと、続けてタバサとキュルケがフライの魔法で着地する。

 ルイズは階段で塔を降り、息を切らせながら走ってきた。

 

 凱と「馬頭巨人」は再度、学院の中庭で対峙していた。

 

 そして、次の瞬間、ルイズは信じがたい物を見たのである。

 

 「馬頭巨人」が握っていたルイズの下着を口に放り込み、咀嚼し出したのだ。

「あ、あたしのパンツがーーっ!?」

 呆然と叫ぶルイズと同時に、空気が固まった。

 あまりの変態行為に?

 ちがう。

 「馬頭巨人」がこの世の物全てを震わすような鳴き声を発し、白光に輝き出したのだ。

「ル、ルイズ! あなたのパンツ食べて光ってるわよ!」

「ししししし、知らないわよ!」

 だが、さらに異変は続く。

 突然、輝く「馬頭巨人」が炎に包まれたのである。

「怪我はありませんか!」

「ミスタ・コルベール!?」

 

 ルイズ達の背後から聞こえた声は、魔獣が消えた為、学院内の調査をしていたコルベールだった。

 怪我は水魔法の教師に応急治療してもらったが、痛みはまだある。

 しかし、教師として学院の生徒達の安全確保の使命感と、好奇心が彼を動かしていた。

 そして、火の塔の振動と馬頭巨人の鳴き声を聞いて駆けつけたのだった。

 「炎蛇」と呼ばれ、恐れられていた過去を持ち、ある事件から自分を戒めている彼だったが、

「馬頭巨人」に放った魔法は生徒を守るための、手加減なしのフレイムボールだった。

 消し炭も残らずに消滅するはず。

 だった。

 しかし、炎は突然吹き払われ、中の「馬頭巨人」は。

「なにっ!?」

 凱はその姿を見て驚愕した。驚かずにはいられなかった。

 

 大きさは3メートルほどでそう変わってはいない。

 しかし、長いたてがみは放射状に槍のごとく逆立っている。

 その両手は拳が異様に大きくふくらみ、指ではなく甲殻類の爪のようになっていた。

 なにより、浅黒く筋肉のかたまりのようだった体色は薄い紫に変色し、生物というより、

ゴーレムやガーゴイルのように見えた。

 

 凱の脳裏に、東京の都庁の前ではじめてゾンダーと戦闘をした時情景が蘇る。

 「EI-02」通称、廃棄物ゾンダー。

 東京の埋立地に出現し、数々の家電廃棄物と融合した60メートルを超すそのゾンダーは、

素体となった人物のマイナス思念により、頭部が馬の形状になっていたのだ。

 

 目の前の怪物の大きさは3メートルほどだ。

 EI-02のように機械の融合体には見えない。

 しかし、まとうその陰のオーラが凱に直感で告げる。

 

 この怪物は危険だ!

 

 「馬頭巨人」はコルベールに向け、左手を上げ、3枚の爪ようになった腕を広げた。

 その中には黒い目玉があった。

 瞬時に空気が氷結し、氷と風の嵐が放たれる。

「ウィンディアイシクル!?」

 タバサが呆然として言う。昼間、馬頭巨人に放った魔法だった。

 しかし、呆然としたのも一瞬。すぐさま前に出てウィディアイシクルで相殺した。

 

「今だ!」

 凱が瞬時に「馬頭巨人」との間合いをつめ、氷風魔法をはなつ左腕に手刀をはなつ。

 唸りを上げるその手刀は巨腕を切断したが、そこで攻撃は止まらない。

「うおおお!」

 凱の雄叫びがパワーを伴い、「馬頭巨人」の巨体を抱え上げ、地面に叩きつけた。

 瞬時に馬乗りになった凱は渾身の力をこめ、「馬頭巨人」の頭部に拳を撃ち込んだ。

 馬のような頭部が砕け、血が吹き出す。

 相手は生物だ。残酷ではあった。

 しかし、手加減できる相手では無い。

 そのとおりだった。

「何っ!」

 拳を引きぬいた馬の頭部が瞬時に修復したのだ。

 一瞬の凱の隙をつき、圧倒的な力をこめられた右手巨腕が凱に叩きつけられた。

「ぐわっ!」

 起き上がり小法師のように、瞬間的に立ち上がった「馬頭巨人」は吹き飛んだ凱へ右手を上げた。

3枚の爪を開いた中にはやはり黒く巨大な目があった。

 しかし、今度は。

「ファイアボール!?」

 キュルケが叫んだ。「馬頭巨人」が凱に向け放ったのは、昼間にキュルケが放った火の魔法だったのだ。

 凱は瞬時に膝立つが、火の玉をかわせないと判断した。

 左手の甲を前に出すと、その甲に「G」の刻印が浮かび、緑の光が迸る。

 緑の光がバリアになり、火の玉を弾いた。

 しかし、「馬頭巨人」の火は止まらず、その勢いは猛烈な流れとなる。

「ふ、フレイムボールですと?」

 先ほどコルベールが放った上級の火の魔法だった。

 さらに。

 「馬頭巨人」の左手が復活していた。その左手も凱にむけられ、中の黒い目が出現した。

 火の魔法に加え、氷と風の魔法が凱を襲った。

「ぐううっ!」

 凱は左手に力を入れてバリアを保ちつつ、歯を食いしばる。

 凱の身体に融合したGストーンから放たれる緑のバリアは攻撃に耐えてはいたが、反撃ができない。

 今の凱には武器が無い。

 ジェネシックガオガイガーを構成していたガオーマシンはもちろん、ギャレオンとも連絡が取れない。

 勇気を絶やさぬ限り、身体から発するGパワーは無限ではある。

 体調が万全では無いが、そんなものは心の強さで耐えられた。

 しかし、この異世界と思われる状況の把握もできおらず、また、GGGの仲間達の状況もわからない。

 前向きな心。プラス思考。勇気が力となる凱にとって、心が整理できていないこの状況は、

さらに危険な悪循環となった。

 緑のバリアが弱まっていく。

 

 凱の劣勢を感じたルイズ達は動揺している。

 しかし、タバサやキュルケ、コルベールも自分の魔法が利用されてしまった状況に動けずにいた。

 

 ルイズは歯ぎしりした。

 自分はなにもできないのか。使い魔が闘い、劣勢になっているこの状況で。

 使い魔が倒されてしまったら、あの怪物は自分たちを攻撃してくるだろう。

 魔法学院を攻撃して、生徒たちも大勢死ぬだろう。

 そんなのは嫌だ。怖いけど。どうしようもなく怖いけど。そんなのは嫌だ。

 自分は貴族だ。こういう時に、貴族はその真価を問われるのではないか?

 しかし、瞬間的にルイズの心に声が響く。

「担い手よ。このままでよい。お前の力は破壊神を滅ぼす」

「え!?」

 それは凱を召喚した後、契約の儀式のキスをした時に聞いた声だった。

「破壊神は敵なり。刺客の力となり、殺すべし」

 ルイズはその声が自分にしか聞こえていない事を理解した。

 なんの声なのか。なんで自分にだけ聞こえるのか。

 破壊神ってなに? 殺す? 自分が!?

 凱に恐怖を感じていたのはその声が原因でもあった。

 しかし。

 あの使い魔は自分たちを守って闘っていると思う。

 その使い魔を殺す?

 ……

「ふっざけんじゃないわよ!」

 ルイズは叫んだ。

 突然の叫びにキュルケやタバサ、コルベールまでもルイズを見た。

「あたしは貴族なんだから!」

 ルイズは「馬頭巨人」に向け駈け出した。

 解決策は無い。援護できるわけもない。なにも思いつかない。

 しかし、このまま立ったままでいられなかった。

「ばっかやろ!」

 しかし、ダッシュでかけ出したルイズを才人が止めた。

 下半身にタックルして。

「ぎゃん!」

 紺のプリーツスカートがずり落ち、脚がからまり、ルイズは頭から倒れた。

 ルイズはパンツ丸出しのまま気絶した。

 

 その時だった。

 「馬頭巨人」から放たれる火炎と氷風魔法が弱まり、陰のオーラが消え去ったのだ。

「ジャベリン!」

「ファイアボール!」

「フレイムウォール!」

 その隙を見逃さず、タバサ・キュルケ・コルベールが魔法を唱えた。

 氷の槍が「馬頭巨人」を貫き、炎が巨体を包む。

 しかし、「馬頭巨人」は倒れない。

 

 だが、ルイズや才人の行動が。

 タバサやキュルケ・コルベールの魔法が。

 立ち向かおうとする心が、凱に伝わった。

「よっしゃあ!」

 凱に力が、勇気があふれてくる。

 そして、凱は思った。

 中途半端な攻撃ではまた復元する可能性がある。

 ならば。

 護は生身で使っていた。

 ならば、俺も使ってみせる!

 

「ゲル・ギム・ガン・ゴーグフォ!」

 凱の右手に「破壊の力」が、左手に「防御の力」が集中した。

 そして、胸の前で両手をあわせた時、相反する力が強制的に混合する。

 溢れでたパワーが緑色の超電磁竜巻となって「馬頭巨人」に向け放たれた。

 「馬頭巨人」はそのパワーに縛られ、宙に固定された。

 

 圧倒的な力が凱の両手を翻弄する。

 両腕の骨がきしみ、肩がはずれそうになる。

 毛細血管が破裂していく。

 エヴォリュダーとはいえ、生身で使うのは危険かもしれない。

 死ぬかもしれない。

 しかし、目の前の危機を乗り越えるため、凱は決意した。

 迷いは無い!

 凱の目が見開かれた。

「ウィィタァァァ!!」

 組み合わされた両手を前に、凱が突進する。

 圧縮された相反する力が込められた両手が、超電磁竜巻を構成していた力の本流を巻き込んで、

「馬頭巨人」に叩きこめられた時、凱の目前にある物質は轟音と閃光と共に消滅していった。

 

 トリステイン魔法学院の火の塔の元で発生したその爆発と衝撃は、遠く離れたトリステイン王宮でも観測された。

 アンリエッタ姫は、遠方の山々の向こうで立ち上る閃光を見た時、なぜか思った。

「この悩みを託せるのは私のお友達しかいない」

 

 

 

第02話「桃色の髪の少女」 了

 




次回、第03話 「聖なる左腕」 でファイナルフュージョン承認!
これが勝利の鍵だ。「魔剣デルフリンガー」
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