「すぐに中庭に来て欲しい。僕が勇者になるところをお見せしよう」
金色の巻き髪のフリルがついた豪華な服装の少年。
バラの枝を胸のポケットに差しているその姿は「キザ」。
その2文字であった。
優雅に頭をさげ、モンモランシーに言うセリフも「キザ」。
才人は思わず、「死んでくれ」と思った。
ルイズもさっき言ってたがこんなんが「貴族」なのか?
「勇者ってなによ?」
モンモランシーと魔法薬の代金の交渉をしていたルイズが呆れたような視線で問う。
「おや、ルイズ。それにキュルケにタバサまで。
そんなに僕が勇者になるところを見たいとは。なんて罪な存在なんだ僕は」
一人で身体をくねくねさせるギーシュを見て才人は思わず「滅びてくれ」と思った。
そんなギーシュを無視して、タバサが部屋の窓から外を指さす。
「…あれ?」
ルイズとキュルケとモンモランシーが窓にかじりつく。
広場の一角に剣がつき立ち、その周りを魔法学院の生徒達が囲んでわいわいやっていた。
「なにあれ?」
「…剣?」
そんな疑問を言う少女達の後ろでギーシュが胸のバラを抜いて両手を広げた。
「あれこそは、昨夜の内に現れた伝説の剣。
あの剣を抜けた者はこの世の神秘と伝説の力を得た勇者になれるんだ!」
そして、バラの杖をくるりとまわし、ギーシュは自分に向けた。
「その勇者こそ、この、ぼくというわけさ!」
才人は思わず、「腐ってくれ」と思った。
モンモランシーが巻き毛をゆらしながらギーシュに視線を向けた。
「昨晩、現れたのにそんな伝説があるの?」
「そうだよモンモランシー!
あの剣に魔法探知をかけた人が伝説級の感触があると言ってたんだ。
それに、すでに数十人試したけど、まだだれもあの剣を抜けていないのさ。
これはもう、で・ん・せ・つに決まっているようなものじゃないか!」
「勇者、ねぇ…」
ギーシュとモンモランシーの会話を背中に、ルイズは窓に頬杖えをついてつぶやいた。
冷たい視線を広場の生徒たちに向け、続けて自分の使い魔を見る。
見慣れぬ服を着た、いいかんげんな感じの軽い雰囲気の少年。「サイト」。
あたしを何回か助けてくれたけど、勇者ってかんじではない。
傷だらけで現れ、突然現れた怪物を撃退した謎の青年。「ガイ」。
言葉も通じないが、悪い人ではなさそうだ。
怪物からみんなを守って闘ったこの人は勇者ってかんじがする。
まあ、あたしには伝説の力だとか勇者とか、関係ない話だわ。
「ゲコ」
げこ。ゲコ?
声のする方に向く。モンモランシーの腰があった。
腰のポシェットの蓋が開いて、そこからカエルの使い魔が顔を出していた。
ヌメヌメした皮膚。平べったい顔。一文字に横に裂けた口。大きな2つの目玉。
背筋に冷たいものが走り、全身の髪の毛が逆立つ。
だ、だめ。あたし、カエルはダメなの。
「ひゃあ!」
ルイズが声をあげて才人の背後に隠れ、パーカーの裾を握る。
「なんで俺の後ろに隠れんの?」
才人が背中のルイズに言う。
「う、うっさい。あたしの使い魔なんだからいいでしょ」
「へいへい」
そんなルイズを見て、ギーシュが笑った。
「おやおや、ルイズ。カエルが怖いのかい?
モンモランシーの使い魔のロビンを怖がるなんて、「ゼロのルイズ」にも弱点があったんだね」
「ゼロのルイズ」
才人ははじめて聞くルイズの呼び名を聞き、ルイズを見た。
「ゼロのルイズって、なに?」
ルイズは視線を才人からはずし、下を向いてしまった。
パーカーを握り締める手が震えている。
なんだかわからないが、ルイズが悔しがってる。
……
こんにゃろ、キザ野郎め。
「ルイズがカエルが怖くてもいいじゃねえか。可愛いじゃねえか」
才人がギーシュをにらんで言った。声に怒りが含まれている。
場の雰囲気が一変し、緊張感が漂った。
ギーシュがバラの杖を口にしてため息を吐いた。
「まあ、たしかに。
カエルを怖がるレディは可愛いよ。それには同意しよう。
でも、君は平民だろう? 貴族に対する口の聞き方には注意したほうがいい」
「平民だからどうした、このキザ野郎」
ギーシュの視線と才人の視線がぶつかりあう。
モンモランシーはカエルの使い魔のロビンが入っているポシェットの蓋をしめながら、
雰囲気の変化におろおろしている。
キュルケは大きな胸の上で両腕を組み、呆れていた。
タバサは無表情な視線で睨みあう二人をみつめている。
凱はベットに座りながら苦笑していた。
ギーシュは深い溜息をした。
「はあ。まあ、たしかにレディに対する僕の言葉に非礼があったね。
ルイズには悪いことをした。
さ、モンモランシー、行こうじゃないか」
モンモランシーの手を軽くつかみ、ギーシュが部屋を出ていく。
だが、才人の心は収まらなかった。
「まてよ、こら。逃げんのかよ」
ギーシュが冷たい視線を才人に向けてきた。
「僕はルイズに謝罪したぞ。君はそれでも喧嘩を売ってくるのか?」
事態の変化に呆然としていたルイズが才人の背中をつかむ。
「も、もういいわ。サイト、ありがと。もういいから」
「うっせ。いいわけないだろ。あんなひょろっとした奴に負けやしねえよ。」
「だ、だめよ。平民が貴族に喧嘩を売っちゃだめ」
「貴族がどうしたってのよ!」
そんなルイズと才人のやりとりを見て、ギーシュは笑みを浮かべた。
「ちょうどいい。勇者になる前に平民に礼を教えてあげよう」
「おもしれえ。ここでやんのか」
「ここは女子寮だ。こんな場所で闘えるものか。
中庭に出よう。今なら調度、人も多い」
「いいぜ」
ギーシュと才人が部屋を出ていく。
モンモランシーがおろおろしながらついていき、続けてキュルケとタバサも部屋を出ていく。
残されたルイズはベットの凱を見た。
「ね、ねえ! 止めて! サイトが殺されちゃうかもしれない!」
言葉はわからない。だが、雰囲気で内容を把握した凱が苦笑しながらベットを立った。
「才人君は君の為に闘うんだ。信じよう。大丈夫、様子を見て止めるから」
ルイズの頭に軽く手をのせ、爽やかに親指を立てた。
ルイズは頭に凱の手の平の感触を感じた。
この手は怪物から私たちを守って闘った手だ。
でも、この人は苦笑いするだけで動いてくれない。
なんで?
平民が貴族にメイジに喧嘩を売る事がどれだけ危険かわかっていないんだ。
最悪、殺されてしまう事だってありえるのに。
「もう、いい!」
頭の手を払いのけ、部屋をかけ出る。階段を駆け下りる。
貴族に平民が勝てるわけがない。
そんなの無謀すぎる。
力のない平民が勝てるわけがない。
そんなので死んだら、意味ないじゃない。
意味ない。
意味ないのよ。
そう、力の無いあたしが怪物に立ち向かっても死ぬだけだったのよ。
でも、それは名誉の戦死。貴族の使命なの。
でも、でも。
今のサイトは昨晩のあたしとなにが違うのだろう。
違わない、のかな。同じ、なのかな。
とにかく、昨晩はサイトがあたしを止めてくれた。
今度はあたしが止めるのよ!
中庭の生徒たちは突然はじまろうとしているイベントに興奮していた。
剣が立つ広場に、才人とギーシュが2メートルほどの距離をあけて睨み合っている。
「決闘だ! ギーシュとルイズの使い魔が決闘するぞ!」
「この決闘に勝った方が剣を抜くんだと!」
「ルイズの使い魔ってあいつだけだっけ?」
「ギーシュ、そんな奴、メタメタのギタギタにしてやれ!」
盛り上がる観衆に応じてギーシュがバラの杖を持った右手を上げる。
歓声が上がった。
周りは全部相手の味方か。俺の味方はいない。才人はそんな状況を鼻で笑った。
ムカツクんだよね。貴族だかメイジだか知らないがお高く止まってる奴ばっか。
「それじゃ行くぞ、このヤロ」
「待ちたまえ平民君」
「なんだよ、ビビッてんのか」
「僕はメイジだ。だから魔法でたたかう」
ギーシュがバラの杖を振るった。
バラの花弁がヒラヒラと地面に落ちると、その場所から金属の鎧を着た女騎士が出現した。
陽光を受けて輝く金属の鎧。顔の部分も金属だ。金属製の女騎士の人形だった。
「僕の二つ名は「青銅」。「青銅のギーシュ」だ。
君とは魔法で作った人形「ワルキューレ」でお相手する。よもや文句はあるまいね?」
「な、なんだそりゃ!」
才人の返事をまたず、金属の女騎士が突進して来た。
「げふっ」
そう認識した瞬間、金属の拳が才人の腹に決まっていた。
金属のパンチである。凶器である。
さらに油断したところに腹にくらった一撃だ。
才人は息ができず、苦悶の表情を浮かべてしゃがむしかない。
脂汗が出る。視界が涙で滲む。
地獄の苦しみの中で才人は思った。
き、昨日、馬のバケモンに突っ込んだ時は俺、凄く速く動けたんだよな。
はは、やっぱ、あれ、夢だったのか?
喉の奥から熱く苦い物が溢れ、嘔吐した。
「なんだ、もう終わりかい?」
才人を見下ろす金属製の脚の向こうで、ギーシュが笑っていた。
笑うギーシュであったが、内心は不安でいっぱいだった。
眼の前にうずくまる平民は、昨日、怪物に立ち向かっていったのだ。
ギーシュはその瞬間を目撃していた。
目の前の平民にしか思えない使い魔が、常人とは思えぬスピードで怪物の懐に入り、
なにやら電撃のような攻撃をした、その瞬間を。
なにかとんでもない力を隠し持っているのかもしれない。
笑いながらも注意深く、うずくまる使い魔をみつめていた。
「サイト!」
ルイズが周りの観衆を押しのけて才人に駆け寄った。
桃色の長い髪をゆらしながら、しゃがみこむ才人の背中をさする。
「おお、ルイズ。すまないね。君の使い魔をお借りしているよ」
「ふざけないで! だいたい決闘は禁止されているはずよ!」
「禁止されているのは貴族同士の決闘さ。貴族と平民の決闘は禁止されてない」
ルイズは言葉に詰まった。
言葉は詰まったが、なんがか腹の底の方から熱い物が上がってきた。
「だいたい、平民が貴族に喧嘩を売るなんて行為が無謀じゃないか。当然の報いさ」
無謀。
無謀のなにが悪い。
行動しないより、行動する方が、あたしは好きだ。
それが無謀と呼ばれるなら、あとで反省する。
反省すればいい。ようは動けるかだと思う。動いてしまえば。
動いてしまえば、そのあとは。
あとは勇気で補えばいい。
「ギーシュ、あんたせこい!」
ルイズはすっくと立ち、ギーシュを指さした。
「魔法なんかつかわず、正々堂々とケンカで才人と勝負しなさい!」
よく通るルイズの声が中庭に響いた後、観衆から笑い声がした。
「さ、さすが「ゼロのルイズ」。魔法を使うなだってよ」
「魔法を使えないルイズ様ならではのお言葉ですな!」
しかし、そんな笑いをルイズは断ち切る。
「そうよ! あたしは「ゼロのルイズ」よ。魔法は失敗ばっかりだわ。
でも、二人の使い魔を召喚できた!」
うずくまる才人を見た後、周りの観衆の後ろを見た。
そこに、腕を組んで見守っている獅子王凱がいた。
「使い魔の危機なら、あたしだって闘う! 逃げない! 堂々と進んでやる!」
ルイズは突き立つ剣を見た。
「ギーシュ、魔法を使うんなら、剣を使ったっていいわよね!」
あっけにとられていたギーシュの表情が真剣になった。
「いいだろう。でも武器を使うんなら手加減はしない。
それに、武器はどこにあるんだい? その剣を抜く気かい?」
ルイズは地面につき立つ剣にかけよった。
サビついたロングソード。
その柄に両手をかける。
「才人、この剣を使いなさい!」
すぽん
空気が凍った。
ルイズはよろめきながら、ロングソードを両手でもち、頭上に掲げた。
「抜けたー!」
「る、ルイズが勇者の剣を抜いたー!?」
「ルイズが勇者だって事!?」
生徒達が歓声を上げた。
しかし、その瞬間。
「な、なに!?」
ルイズが掲げたロングソードが強く輝いたのだ。
同時にガラスを割るような音がして、ロングソードのサビた剣が弾けた。
サビていた剣身は美しく輝く片刃の剣になっていた。
瞬間。
剣は飛んだ。
柄をつかんだルイズを引き釣りながら。
獅子王凱の胸元へ。
強烈な光で目がくらんだ誰もが、次に見た光景を見て声を失った。
凱の胸に剣が刺さっていたのである。
いや、剣は胸の前で止められていた。
凱は両手を拝み手のようにして、剣を胸の前で止めていた。
しかし、両腕は魔法で回復したばかりなのだ。
「くっ、感覚が鈍い!」
両手で止めた剣がずるずると進んでくる。
凱の胸に剣先が少しづつ埋まり、血が流れてくる。
事態に気がついたルイズは柄の両手をはずそうするが、固くくっついてはずれない。
「だ、誰か!」
ルイズは叫んだ。
「誰か、止めて!」
「まかせろ!」
ルイズの声に答えたのは。
腹の痛みをこらえ、いち早く異変に気が付きいていた才人だった。
才人はルイズがつかむ両手の上から、剣の柄を握った。
その瞬間、才人の左手の甲が緑色に光る。
「なっ!?」
今度は剣が緑色に光ったのである。
そして、剣は勢いを失った。
進行を止めた剣を見て、凱は深く息をついた。
才人は腹の痛みに汗を流しつつも、ロングソードの柄をぎゅっと握りしめた。
ルイズはゆっくりと震える両手を剣から離す。
「な、なにがどうなって…」
「おでれーた!」
ルイズの疑問を切り裂いて、声がした。
どこから?
才人とルイズは顔を見合わせた。
「まったくおでれーた! ここはどこだい?」
凱は剣の鍔の部分がカタカタ動く度に声が発しているのに気がついた。
「才人君、この剣」
「つくづくおでれーた! おめえ、使い手か!」
「こ、この剣、しゃべってる?」
才人はロングソードを掲げた。
そして気がついた。腹の痛みがいつのまにか消えている。
そして、こんな大きい剣の重みを感じない。
身体が軽い。あの怪物と闘った時の感覚を再び感じていたのだ。
左手の甲で輝く緑の光。よく見ると文字が浮かび上がっている。
凱はその文字に覚えがあった。
サイボーグ体と融合した際に得た能力、ライブラリーで情報を探す。
「古代ルーン文字!? ガンダールヴ?」
「ガンダム?」
「ガンダールヴって書いてあるように思えるよ」
「そりゃそーだ。おめぇはガンダールヴの使い手だな」
そこで剣がカタカタと言う。
「ガンダールヴってなによ?」
才人がそう言った時、ルイズも会話に参入した。
「い、インテリジェンスソード!? が、ガンダールヴってホント?」
「嘘じゃないよ」
「あのガンダールヴ?」
「ガンダールヴはガンダールヴさね」
ルイズはうつむいて難しい顔をしている。
だが、才人は突然手に入ったしゃべる剣が気に入ってしまった。
「俺、平賀才人。しゃべる剣なんてすげーな!」
「デルフリンガーだ。よろしくな相棒!」
「デルフリンガー、どうして凱さんを刺そうとしたんだ?」
「デルフでいいぜ。知らん。知らんよ。なんもわからん」
「なんだ、怖いな。怖い剣なのか」
「そんな事あるかい! たぶん、なにかに操られてたんだな」
「なにかに?」
「ああ、それでその左手で正気を取り戻せたんだな」
才人は緑色に光る左手を見た。
「これ、そんなに凄いの?」
「あー。伝説って奴さね。「神の盾ガンダールヴ」の証。聖なる左腕ってやつさね」
凱は剣の気配から邪悪な気配が消えているのを確信し、深く息をついた。
しかし、次の瞬間、背中が凍るような殺気を感じたのである。
どこから?
近い、すぐそばだ。
その時、凱は自分の目を疑った。
ルイズの背後の空間が急速に色づき、巨大なカエルに似た怪物になったのである。
「危ない!」
ルイズが凱の声に振り向いた時、巨大なカエルの口が開き、長い舌が伸びた。
それは一瞬の出来事だった。
舌がルイズの身体にからみ、そのまま巨大な口に取り込まれたのである。
パクンと閉じた口から、ルイズのプリーツスカートから伸びる細い脚が出ている。
そして、ルイズの悲鳴が巨大なカエルの胎内から聞こえた時、才人はデルフリンガーを
手に巨大カエルへ駆け出していた。
「ルイズ!」
第03話「聖なる左腕」 了
次回、「光届かぬ世界」にファイナルフュージョン承認!
これが勝利の鍵だ!「ワルキューレ」