なにも見えない。光が無い。
聞こえるのは不気味な呼吸音と心臓の鼓動。
鼻にするのは生臭い匂い。
身体中に感じるぐにゃりとした肉の圧迫感。
身体と肉の認識が鈍くなってしまうような粘液。
生暖かい空気が嫌悪感と共に肺に入る。
しかし、呼吸をしないと死んでしまう。
嫌なのに激しく空気を求めてしまう。
このままでも死んでしまうというのに。
激しく漏れる嗚咽。胸が痛い。心が痛い。
思わず、膝を抱え込み、身体を丸める。
巨大なカエルのバケモノに丸呑みにされた。
か、カエルに。
子供の頃からカエルは苦手だった。
その姿を見た瞬間、背中に冷や汗をかき、膝から力が抜けてしまった。
きっと、自分がこうなる運命を無意識に悟っていたのに違いない。
か、かえる、大嫌い。
思わず、悲鳴をあげる。喉が痛むほど悲鳴をあげる。
しかし、あたしは許されない。
誰がこんな酷い運命を考えたの?
あたしになんの恨みがあるの?
無謀な事をした罰なの?
生命を捨てて使命を果たすのはいけないことだったの?
貴族は生命を捨てて守る為に戦う。
でも、その戦いを誰も見ていないのなら、死ぬ意味はあるの?
生命をなくしてなにか意味があったのだろうか?
いや、無謀な行動をした時、本当に生命を捨てる覚悟はあったのだろうか?
あたしに。
死ぬ覚悟はあったのだろうか?
あたしに。
力の無いあたしに。
魔法学院に来た時からあんまりいい思い出は無い。
でも、いやな思い出ばかりというわけでも無かった。
いつも口喧嘩していたキュルケ。
キュルケと一緒にいたタバサ。
使用人だけど、いろいろお話したシエスタ。
もう、みんなともお別れなんだ。
まだ恋人もいなかった。
キス、はしたな。
それも先日、召喚の儀式で。
なんだかひょうひょうとしていて妙に軽い少年、サイト。
怪物と闘ってくれたよくわからない青年、ガイ。
ガイは闘ってくれた。サイトはあたしを守ってくれた。
守ってくれた。
あたしは思わず、サイトの背中に隠れていた。
サイト、まだ、あんたとなにもお話できていなかった。
でも、なんだかあんたといると心が落ち着いたの。
あんたの背中に隠れると安心したの。
なんでだろう。
でも、もう、おしまいなんだ。
「担い手よ」
深い絶望で疲れ果て、心と身体から力が抜けていたルイズの心に声が響いた。
「破壊神は敵なり。刺客の力となり、殺すべし」
なんだか最近、良く聞く声。
この声を聞くと、なぜかガイに向けて殺意が沸く。
なんだったのだろう。
ガイはみんなの為に闘ったのに。
でも、なぜかこの声はガイを殺せという。
あたしの心にも不吉な感情が湧いてくる。
最初は怖かった。恐怖を感じた。
でも、あたしはそれを否定した。否定してきた。
よくわからないけど、でも、残念ね。
あたしはここで死ぬんだから。
「担い手よ。お前は死なぬ。『世界』の為に力となれ」
…『世界』?
「彼の者は破壊神なり」
光がまったく無い世界。
なのに、突然、目の前に異様な光景が見えてきた。
そこに異様な怪物の姿があった。
人の形をしているがとてつもなく巨大な影。
鎧を着ているのか、足先は爪のように尖り、両膝に一角のツノがある。
胸の中央に巨大なライオンが口をあけ、肩は異様に飛び出ている。
その両腕の先は凶暴な肉食獣のような爪がある。
背中には巨大な漆黒の翼。長いたてがみがなびく。
魔獣、いや、魔神のごとく光る両目。
その身体から放たれるのはたしかに「破壊神」とでも言うべき雰囲気だった。
「破壊神の真の姿なり」
破壊神。破壊神の真の姿…。
サイト、助けて…。
ルイズは破壊神の姿をサイトの姿に上書きしながら、気を失った。
突如、空から舞い降りた蟻人間。
黒く細い外骨格の身体は二足で直立し、頭部からは長い触角が垂れている。
大きな牙をカチカチと鳴らし、巨大な黒い複眼はどこを見つめているのかわかない。
長い両手の先には黒く鋭い爪が2本あった。
それが20匹は下らぬ、もはや軍隊とも言える規模で降りてきたのだ。
凱はカエルの怪物からルイズを救うべく体勢を整えていたが、突如出現した大群を前にして、
一つひらめく事があった。
あのカエルの怪物は、あの少女を飲み込んだ後、怪光を発し、身体を変質させた。
昨日の馬の巨人の時も、あの少女に関連した物を得て、同じように変質していたように思える。
正体はわからないが、あの怪物達の狙いは、あの少女なのだろう。
あの少女には怪物にとって力を得るなにかがあるのだ。
この蟻のような人の形をした怪物達は、カエルの怪物を守護する存在なのか。
カエルの怪物をあのままにはしておけない。
少女を救わなければならない。
両腕の感覚はいまだに鈍い。先ほど無理やり肩の関節を押し込んだ痛みはまだある。
だが、今は動く時だ。
両手を強く握りしめ、凱が立ち上がった。
凱の身体から闘気が見えるように発していた。赤く長い髪がその闘気になびく。
凱はカエルの怪物に、蟻人間の軍隊に右手を振り上げ、力強く指さした。
「その少女は返してもらう!」
蟻人間が一斉に凱を向いた。
蟻人間の大群がまったく同じタイミングで凱に顔を向け、ぞろぞろと向かってきた。
それはまさに軍隊蟻の行進だった。
その軍隊は異様な事に、この場に残って魔法で闘おうとしていたタバサやキュルケ、そして、才人達を無視して、凱に、凱にだけに向かってきた。
しかし、凱はそれを見て、ふっと笑う。
ちょうどいい。
「才人君! こいつらは引き受けた。そっちを頼む!」
才人は、蟻人間の大群が凱に向かっていく光景に戦慄していた。
凱さんはなんだかわからないが、異常に強い。
だけど、あんな大群を相手にできるのか?
今の俺なら、この剣なら、この能力なら、力になれると思った。
しかし、
「才人君! こいつらは引き受けた。そっちを頼む!」
凱から聞こえた力強い声。
蟻の大群の向こうに見える凱が笑顔で右指を立てていた。
その笑顔はなぜか才人から不安を吹き飛ばし、力を与えてくれた。
よし。
「わかりました! 凱さん」
俺はカエルの怪物を倒す。
そしてルイズを救い出す!
「なんだ、あの傭兵はガイっていうのかい?」
蟻人間の矛先が凱に向いて、ほっとしつつも戦闘体勢を保つギーシュが聞いた。
「ああ、獅子王凱って言ってた」
「どこかの傭兵なのかい?」
「知らね! よく知らん!」
「そうなのかね! でも、彼は、なんだか不思議な男だね」
ギーシュは思った。凱の言葉はわからない。しかし、なんだか彼の笑顔は、闘う僕達に力を与えてくれる。理由はわからない。
「…あれだね。きっと、彼のような男が「勇者」なのかもしれないね。
モンモランシー、僕は行くよ。彼に、彼らに負けていられないからね」
ギーシュは背中に守る金髪の巻き毛が美しい少女、モンモランシーへ笑顔を作った。
そして7体の「ワルキューレ」を創りだす。
ギーシュの横に並び立つ7体の鉄の女騎士。今度は手に長い槍をもっていた。
それを見て、才人はうめいた。
「お、おまえ、こんなに作れたのか!」
「当然さ、手の内は隠しておくものだろ。君のその能力のようにね」
才人はギーシュにケンカを売った時、なにも考えていなかった事を思い出した。
ただ、むかついただけだった。
後の事なんて、なんにも考えていなかった。
そういえばルイズが言ってたな。
「あたしはなんにもできない! でもね! 危害を加える敵には立ち向かう義務があるのよ!
あたしは貴族なの! それが貴族の使命なのよ!」
よくわからんが、ルイズには貴族の使命で闘おうとしていた。
生命をかけようとしていた。
だが、俺はなんだ?
なにも考えていなかった。
ただ、頭に来て、ケンカ売って、相手の力も考えずにケンカ売って、腹殴られて、吐いた。
……
だっせぇ…
だせえな、俺。
ルイズの行動も無謀だったと思うが、俺はもっと無謀でダメでダサい。
生命の危険なんて、頭にこれっぽちも考えていなかった。
ルイズに生命が大事だろ、とか言っておきながら。
ルイズ、ごめん。
ルイズの姿を思い出す。
なんだかドキドキする。理由はわからないが、心臓の鼓動が速くなる。
ルイズ。
ルイズ、いますぐ助けてやる!
その時、才人は自分の異変に気がついた。
左目がおかしい。真っ暗だ。
右目と左目が別々の景色をみているようだ。
思わず、左目の上をペシペシ叩いてみる。
「どうしたね、相棒」
デルフリンガーがカタカタと聞く。
「うわ、なんだ、この剣、インテリジェンスソードなのかね!」
驚くギーシュをよそに、才人は左目に見える暗闇を見た。
凝視した。
涙で濡れている。怯えている。
才人は確信した。
この左目に見えるのは、ルイズの視界だ。
理由もなにもない。しかし、絶対にそうに違いない。
才人はルイズとの絆を感じた。心と心の、魂と魂の絆。
自然に身体が動き出していた。
身体から力が溢れてくる。
「ルイズうううう!」
才人はルイズの名前を雄叫びのように叫び、カエルの怪物へかけ出した。
まるで矢のような、凄まじい速さの駆け込みだった。
やっぱり、こんな凄い能力を隠してたのか!
ギーシュは目の前の平民とバカにした少年を見て、油断しなかった自分を褒めた。
そして、同時に思った。
いいね。この状況では、心強いじゃないか!
2体のワルキューレを護衛に残し、5体のワルキューレに才人の後を追わせた。
才人は巨大なカエルの怪物に肉薄し、そのままデルフリンガーを叩きつけた。
しかし、今や機械的な黄色い体色となったその身体に流れる妙な液体によって力がそれる。
何回も斬撃を叩きつけても、その力が流されてしまうようだった。
カエルの怪物の巨大な目がギョロリと才人を見た。
「このやろ! ルイズを返せ!」
才人は感情を叫びにのせ、デルフリンガーを振り下ろした。
「!?」
今度の剣の感覚はこれまでと違った。
なにかの力が加わったような一撃。
カエルの怪物の流体装甲を抜き、身体を剣が切り裂いていた。
デルフリンガーが緑色に輝いている。
「な、なんだ?」
「相棒! それだ! 心を震わせろ!」
「心を震わす!?」
「『ガンダールヴ』の強さは心の震えだ! 怒り、愛、悔しみ、なんだっていい!
その心の震えを俺にのせて戦え! そうすれば、こんなのに負けやしねえよ!」
才人は思った。
だったら!
ルイズ!
ルイズの名前を心で叫んで一撃を切り込んだ。
しかし。
「なっ!?」
斬り込んだ先に巨大なカエルはいなかった。
3、4メートルはある巨大なカエルだ。
見失うはずがなかった。しかし、目の前から消えてしまている。
「んな、あほな!!」
凱は叫びを上げてカエルに立ち向かう才人の姿を見た。
彼の立ち向かう心が、勇気が自分の力にもなる。
「よっしゃあ!」
目前に蟻人間の大群が迫る。
「いくぞおおおおっ!!」
相手が大群といえど、こちらは一人だけだ。
まずは押し潰されなければいい。
凱は蟻人間の大群に向け、両脚の力を開放した。
電光のような動きで大群に駆け込み、そのまま体当たりで蟻人間の数匹を吹き飛ばした。
その力のまま、右拳を一体の蟻人間に叩きこむ。
サイボーグ体と一体化している凱は、生身といえど、驚異的な力を発揮できる。
生機融合体エヴォリュダーとしての真価である。
そのパンチ力は数トンを超えるのだ。
右拳による一撃を受けた蟻人間は拳を受けた箇所からひしゃげるように破壊された。
相手は生物だ。
しかし、大群である。気を抜けば、瞬時に押しつぶされるだろう。
とすれば、凱にためらいはなかった。
すまないが、ここで倒れるわけにはいかない!
右拳を振り下ろす、その力の流れのまま身体を回転させ、前方から来る蟻人間の頭にかかとを落とす。
頭を粉砕したかかとをそのまま足場にして蟻人間の腕をとり、引きちぎった。
それでも凱は止まらない。
引きちぎった外骨格の腕を投げつけると、そのパワーは数体の蟻人間の身体に風穴を開けた。
後方からの蟻人間のタックルを左裏拳を叩き込んでさばき、そのまま左の腕に力を入れた。
「はあっ!」
凱の左手の甲に「G」の刻印が緑色に光る。
その光は力場と化す。防御にも使えるそのバリアは使い方によっては武器にもなる。
バリアとなった左腕の力場で強引に周囲をなぎ払うと、緑色に輝く光が凱の周りにいた、
蟻人間5匹を吹き飛ばした。
モンモランシーは離れた場所で凱の戦闘を見て、その凄まじさに呆然としていた。
「す、すご…」
凄いと思った。同時に、恐怖も感じていた。
人間とは思えないその戦いに。
「んな、あほな!」
その時、闘いの最中とは思えない声を聞いた。
才人の声の方を見ると、あの巨大なカエルのような怪物が姿を消していた。
「え、ど、どこにいったの?」
才人とギーシュが周囲を警戒している。
そんな中、モンモランシーは腰のポシェットから自分の使い魔が顔を出したのに気がついた。
使い魔のロビン。カエルの使い魔である。
ルイズには怖がられていたが、モンモランシーにとってはカワイイ大切な使い魔だった。
「ロビン? どうしたの?」
召喚された使い魔は主人との意思の疎通が可能になるという。
そのカエルのロビンが天を見上げていた。
蟻人間と闘う凱の頭上を。
一瞬の間に10匹ほどの蟻人間を倒した凱だった。
見た目は圧倒的な戦いであった。
しかし、凱は限界を感じていた。
固い外骨格をもつ蟻人間達に拳をたたきこんだ。
相手を破壊はできた。しかし。
その右拳の甲に大きな傷ができていた。
脚のかかとや左腕にも大きな傷ができ、出血していた。
サイボーグ体の圧倒的なパワーを用いて攻撃をする事はできた。
しかし、生身の身体なのだ。
固い外骨格で守られた蟻人間達に対しては、自分の攻撃がそのまま傷の元になっていたのだ。
凱は思った。
IDアーマーがあればと。ウィルナイフのような武器があれば、と。
IDアーマーとはサイボーグ体でなくなった凱の為にGGGが作ってくれた強化アーマーである。
様々な機能を有すると同時に、生身の身体を保護する役目もあったのだ。
また、ウィルナイフとは、凱が闘いの際に利用していたナイフであった。
メカライオン「ギャレオン」がもたらした緑の星の技術によりって作られた、精神力によって、
切断力が増す武器だった。
しかし、今、この異世界で、それらの装備は存在しないのだ。
そんな凱の状況を無視し、蟻人間はさらに襲ってきた。
すでに半数が倒されたというのに、まるで怯えているような様子はない。
感情など無い、戦闘専用の怪物なのかもしれなかった。
それだけに、相手の精神を計算に入れた闘いはできなかった。
酷い殺され方をした仲間が出た場合、通常であれば、そこで怯えが出てしまう。
その隙をつくのが多数の敵と闘う場合の手段でもある。
しかし、この蟻人間にはそれが通じないようだった。
凱は突進してきた蟻人間の爪のついた腕に手をかけると、そのまま体をさばいて地面に叩きつけた。
GGGの火麻参謀から伝授された軍隊格闘技のひとつだった。
しかし、相手は多数である。まだ10匹はいるのだ。
そんな数の相手をするには、隙のできないパンチなどの単純な攻撃である必要があった。
一匹の蟻を地面に叩きつけたその隙をつくように、脇から別の蟻人間が突進して来た。
間一髪、体捌きで交わしたものの、右腕の下腕が深い傷ができていた。
蟻の牙による傷だった。
「くっ…!」
さらにその瞬間だった。
「ギーシュ! あの人が危ない!」
モンモランシーが叫んだ。
凱には言葉が通じない。それを知っていたモンモランシーはギーシュに呼びかけた。
腰のカエルの使い魔ロビンが教えてくれたのだ。
同じカエルだから? 水の系統の生物だから?
理由は不明だが、モンモランシーは自分の使い魔を信じていた。
才人とギーシュは反射的に凱を見た。
蟻人間相手に苦戦しているようだった。
その闘いに影がさした。
「なっ!」
才人はその瞬間、凱に向かって駈け出した。
凱の頭上に巨大なカエルが出現し、落下して来たのである。
「凱さん! 上!」
才人の叫びを聞き、凱は同時にその場から飛んだ。
凱がいた空間と蟻人間2匹ほどを巻き込み、巨大なカエルは落下した。
ギョロリと巨大な目を凱に向ける。
そして、凱は目の前の光景に驚愕した。
巨大なカエルが空気をすうように膨らみ、巨大な球体になったのである。
背中のルイズの顔やカエルを構成していた模様、そして巨大な両目は球体にへばりついている。
その球体はふわりと宙に浮くと、凱に向け飛んできた。
なんとか交わしたが、球体は火の塔に激突し、塔を揺らした。
凱は戦慄していた。
この球体、まるでハンマーのようだ。
脳裏に蘇る光景があった。EI-03、巨大な球体ハンマーをふるって攻撃してきたゾンダーである。
先日の馬の怪物は最終的にEI-02と同じような形態に変化していた。
なぜ、異世界の怪物とゾンダーに共通点があるのか。
しかし、そんな凱の疑問の隙をつき、背後から蟻人間が襲った。
「ぐっ!」
左肩に蟻人間がするどい牙で食らいついていた。
身体をひねり、左肩から地面にたたきつけ蟻の頭部を破壊したものの、深い傷を負ってしまった。
前方の巨大な球体。周りにいる残りの蟻人間。
せめて武器があれば、と凱は思った。
その時、駆け寄ってくる才人と、その背後の5体の長い槍をもった青銅の女騎士を見た。
青銅の鎧を来たような女騎士のゴーレム。
その姿を見た凱にひらめいた物があった。
凱は瞬時にそのワルキューレの元にかけよる。
「すまない! 借りるぞ!」
「なん!?」
ギーシュの驚愕をよそに、凱は一体のワルキューレに手刀を叩き込み、破壊した。
青銅製の女騎士を構成する鎧は、中身が空洞であった。
手甲にあたる部分を無理やり両手にはめこみ、長槍を手に持った。
凱を追ってきた蟻人間に対し、手甲の拳で叩きつける。
青銅ではあったが、金属である。蟻人間はぶっ飛び、破壊された。
そして、拳には影響は無い事を確認した。
「いける!」
一匹の蟻人間は、才人がデルフリンガーで切り伏せていた。
凱はワルキューレの破片を残りの蟻人間に投げ込んだ。
鉄製のつぶてとなった破片は、蟻人間に風穴をあけ、倒す事ができた。
火の塔にヒビを入れ、丸い穴を開けた巨大な球体が目にあたる部分をこちらに向けた。
「才人君、残るはあいつだけだ!」
「はい!」
凱は残るワルキューレ4体の長槍を無理やり奪うと、一つに束ねた。
五本の鉄製の長槍を一本のイメージにする。
長槍が融合し、一本の太く、長い槍となった。
生機融合体としての能力である。
生機融合体の能力はまだ未知数であり、凱はあまり利用したくなかった。
以前、闘っていたゾンダリアンと同じ能力だからだ。
だが、そんな事で悩んでいる場合では無かった。
凱はこれまでの情報を思い返す。
あの巨大な球体は周りに液体が流れており、才人の剣の一撃を流していた。
流体装甲といってもよい構造だ。通常の物理攻撃は通じない可能性があった。
そして、その中にはルイズがいるのである。
ピンポイントでルイズを避け、串刺しにして動きを止める。
それを実現するには。
凱は右腕に持った5本分をまとめた長槍を見た。
これでは足りないかもしれない。
ならば。凱の脳内にガオガイガーの戦闘記録が思い浮かぶ。
ブロウクンマグナム。
右腕に破壊の力「ブロウクンエネルギー」を凝縮し、超高速回転によって威力をました上で右腕を撃ち出す。
ゾンダーのバリアをも貫通する強力な力。
素材は劣る、そしてブロウクンマグナムを実現する推進力も無い。
しかし、今はやるしかなかった。
「才人君、俺がやつを止める! 彼女は君が救え!」
才人は凱を見て頷いた。
「はい!」
凱は右腕にブロウクンエネルギーを集中した。
ヘルアンドヘブンができたのだ。エネルギーの操作は可能だった。
エヴォリュダーの能力、いや、生機融合体の能力により、右腕と長槍が同化するのを感じた。
貫通力を生み出す超回転は。
凱は右腕を回転するイメージを浮かべた。
ガオガイガーの右腕が、形がわからなくなるくらい超高速で回転する、あのイメージを。
凱の右腕の肘から先が回転しだした。
そして右腕と長槍の形が判別できなくなるほどの高速回転を実現した。
凱の額に脂汗が流れる。
右腕の先が回転しているのだ。ちぎれるほどに。
激痛であった。
しかし、今、実現可能な方法がそれしかないのなら、やるしかなかった。
「いくぞおおおおおっ!」
高速回転する右腕と長槍をかかげ、凱は突進した。
同時に、巨大な球体に向け、あらゆる手段で内部を確認した。
小柄な少女は球体の中央で胎児のように膝を抱えていた。
狙うべきは少女の少し上にある中心点。
少しでも狙いをはずせば球体は止められず、少女ごと串刺しにしてしまう。
狙いは外さない!
凱に向けて巨大な球体が突進して来た。
だが好都合だった。
「そこだああああっ!」
高速回転する長槍と右腕を球体の中心点に叩きこむ。
長槍の先端と球体の中心点が流体装甲によりゆらぐ。
「うおおおおおおおおお!」
凱は右腕の先端の回転を速め、中心点に槍の先端を突き刺した。
その時、
「なにっ!?」
青銅の素材が限界だったのか、長槍が歪んだ。
高速回転が逆に凱を制御困難な状態にした。
右腕の関節が、右肩の関節が悲鳴を上げる。
ダメか!?
「固定化!」
いつの間にか駆け寄っていたタバサが固定化の魔法を唱えていた。
固定化の魔法は土の魔法である。
ギーシュは土のメイジだったが、ワルキューレを構成する魔法を使用しているため、
固定化の魔法は唱えられなかった。
今、ここで土の魔法を唱えられるのはタバサだけだった。
超高速回転する物質の固定化をし続ける為、タバサの顔に汗が流れる。
長槍の先端が「固定化」の魔法の名前の通り、安定した。
「こいつはありがたいぜえっ!」
凱はもてる力のすべてを右腕に込めた。
「ブロウクンマグナム!」
ルイズは絶望していた。
もう、あたし、死ぬんだ。
このカエルのお腹の中で。
消化されちゃうんだ。
お父様、お母様、ごめんなさい。
エレオノールお姉さま、カトレアお姉さま、ごめんなさい。
サイト、ごめんね。
なさけない主人でごめんなさい。
光なく、なにも見えない世界だった。
しかし、その世界になにかを削るような音が響いた。
瞬間、ルイズの身体を紙一重で超高速回転するなにかが通り過ぎた。
な、なに、なんなの?
そして、暗闇の世界に一筋の光が刺した。
その光は徐々に一本の線になっていく。
暗闇の世界を切り裂いていくのは剣先。
そして、その光をさくように、腕が飛び込んできた。
「ルイズ!」
光の中から現れたのは、黒髪の少年だった。
見慣れぬ異国の服を来た、どこか軽い少年だった。
でも、今は真剣な顔。
怪物の血を体中につけながら、あたしを見つめる顔。
サイト。
そう認識した瞬間、あたしはサイトの身体に飛び込んでいた。
ルイズは胎児のように、怪物の中で膝をかかえて丸くなっていた。
「ルイズ!」
瞬間、ルイズが俺の身体に飛び込んできた。
ぎゅうっと抱きついてくる。
身体が震えている。
「ルイズ、大丈夫か!?」
ルイズが俺の顔を見た。
涙と粘液で汚れ、目にクマができている。
桃色の長い髪は粘液まみれ。
「大丈夫か?」
そう声をかけた時、
「ヴうヴぇえあええええええええ」
ルイズが赤子のように泣き出した。
鼻水も出ていた。
「あだ、あだじ、ががかえかえるに、たべだべたべ」
「うんうん、もう大丈夫だ」
「ごごめごめごめんなはい」
「大丈夫」
「ぼ、ぼうぶちゃなごとはじばせん」
「うん」
「ざいど、ざいどおおお」
「うん」
俺はルイズを強く抱きしめた。
「むぎゅ」
俺はダメなヤツだ。
貴族だのなんだの、変な事にこだわっていた。
ルイズは、こんな小さな女の子じゃないか。
それなのに、勝手にケンカを売って、迷惑かけて。
なさけないヤツだ、才人は。
そう思った時、切なくなって、涙が出てきた。
「ご、ごめん、ルイズ、俺もごめん」
「むぎゅ」
「守るから、俺」
「ば、ばもる?」
「ああ、俺、お前の事、守るから」
「ほ、ぼんど?」
「まもるよ、俺」
「はもってぐれる?」
「ああ、俺はお前の使い魔なんだから」
第04話 「光届かぬ世界」 了
学院に現れた魔獣達
そこには恐るべき秘密が隠されていた!
開始される魔法学院壊滅の陰謀!
獅子王凱vsガンダールヴの才人!
獅子王凱vs「雪風」のタバサ!
勝利は誰の手に!
次回、「明日」にファイナルフュージョン承認!
これが勝利の鍵だ。「シルフィード」