しかも話が急展開です。頑張って着いてきてください!!
―お母さん、お父さん、お帰りなさい!!今日はどんなお話を聞かせてくれるの?―
古時 弥生は孤独だった。"弥生"としての記憶が最初にあるのは、誰もいない廃屋だった。目を開ければ日差しの差し込まぬ暗闇の空間、得体のしれない結界により外へ出ることも出来ない。音も届くこともない無音の世界。
一方、弥生の中に存在するもう一つの心、彼女の記憶は常に温かい心だった。
両親に囲まれ、"何か"を作っているのを楽しそうに眺めたり、両親の土産話を楽しみに待ったりと、真逆の心を持つ彼女の心は、弥生を常に蝕んでいた。
幸か不幸か、弥生は強い精神力を持ち合わせていた。最初こそ外への憧れと束縛からの解放を願い結界を壊そうとしていた時もあった。
しかし。
そんな努力は全て徒労に終わるとわかったとき、彼女の心は"壊れた"。
何をやっても今の環境が変わることはない。
ならば。
彼女は、空っぽになってしまった―
外では珍しいくらいの大雨の日、といっても弥生には外の事などわからないし知りたいとも思っていなかったがー
不意に束縛していた結界に綻びが出来たことを感じ取れた。
もう期待などしていなかったのに、諦めがついていたのに、その現象は、弥生に外への想いを再燃させるのには十分過ぎた。
少し力を綻びた結界にぶつけると、今まで弥生を束縛していた結界が弾けた。
思わず弥生は破顔した。ついに憧れの外の世界を、自分の目で見て、鼻で嗅いで、耳で聴いて…
だが。
彼女が目にした光景は、何もない、荒廃した大地だった―
「っは!!…ここは…」
目が覚めると、どこか見覚えのある天井が見えた。
…一体何があったのか…確か、諏訪子を助けようとして、胸を貫かれたはず…なら、何故私は生きているのか?
「おはよう。随分長いお休みだな」
状況がわからない中、諏訪子ではない、別の声が私に発せられた。
「あ、あなたは…確か…」
「神奈子。八坂 神奈子だ。あの時はろくに挨拶出来なかったからな。改めてよろしく」
「あっ、ああ…よろしく、私は弥生。古時 弥生…」
「?元気が無いな、よほどの傷だったか。とりあえず、状況を」
「それは私から説明するよ」
いつの間にか聞きなれた声の持ち主が扉の所に立っていた。
「諏訪子…無事だった…?」
「他人の心配している場合じゃないよ…弥生は3ヶ月も意識無かったんだよ!!…このまま死んじゃうのかと思った…」
「えっ、3ヶ月!?」
驚いた。てっきり長くて1週間程度だろうと思ってたのだが…
「まあ、説明するのだろう?落ち着いたらどうだ」
「うん…あの時、あなたは確かに心の臓を貫かれた。そして私は敗北した。結果から言えば、私たちは負けた。もうここは私の国では無い…表向きはね」
「表向き…とは?」
「そこからは私が説明しよう。簡単に言わせてもらう。私は勝ち、国を貰おうとした。しかし、皆諏訪子が恐ろしく認めてはくれなかった。だから、周辺の国々は私が支配していることにし、実情は諏訪子が支配することにした」
「…結構複雑な仕組みだね…」
とは言え、この仕組みが結局は一番丸く収まるのだろう、それくらいは諏訪子でもわかってるはずだ。
「それより弥生、傷大丈夫なの?つい最近まで全く傷が塞がらなくて…いきなり塞がったから驚いたよ」
それは…理由はわかってる。しかも、たった今判明した。
だが…
「うーん、何だろうね?あんな怪我今までしたことなかったから、よくわからない」
「そう…とにかく、無事で良かった…」
そういって諏訪子は、弥生に思いきり抱きつき、そして…
「お熱いことだ。居づらくなる私の事も考えてくれよ」
目を覚ました新月の夜、諏訪子が寝ている間、私は神奈子とちょっとした会話をしていた。
「ごめん、私もあんなことを諏訪子にされたのは初めてで…」
「ふ、まあ良いさ。しかし、いきなり今日旅立つって言われたときは驚いたが…まさか、そんな姿になるとはな」
そういって神奈子は弥生の正面に掛け直す。ちなみに今の場所は諏訪大社の屋根、神奈子の遮断結界の中である。
そして、弥生の変化してしまった姿を見やる。
背中から一対の骨の翼が生えている。どちらもまだ皮膜も羽根も無いが…
「なるほど、生死の境を彷徨ったときに、自己防衛をするため眠っていた妖怪としての力が表に一部出てしまった、そんな感じだな」
「うん、同感。多分新月の時にしか出てこないとは思うけど…今後どう変化していくかは私にもわからない」
「…良いのか?諏訪子に別れの言葉は」
「うん、いらない。だって、」
弥生は一呼吸あけて、
「また会えるから」
「弥生、行っちゃったね」
静かになり一人で夜酒を楽しんでいた神奈子の所へ、諏訪子がやって来た。
「何だ、話を聞いてたのか」
「そりゃそうよ。すっごい暗い顔して私に元気でねとか言ったらまるわかりだよ」
「ははっ、弥生は嘘つくのが下手そうだからな、短い付き合いでもわかってしまう」
「案外まだ近くで話を聞いてるかもしれない。探してみる?」
「やめとけ、諏訪子。代わりに言伝を貰っている。"仲良くやること"とね」
「そっか…うん、わかった。私、待ってる。だって、」
諏訪子は一呼吸あけて、
「また会えるから」
物陰で話を聞いている影が一つ。
「うん、諏訪子、神奈子、また会おうね」
二人の会話を盗み聞きしていた弥生は今度こそ、闇夜に紛れてその場を去った。
「それが山の頂上にいる神様との思い出ってことね」
ゆうに5リットルは飲んだだろうアップルティーを置いて、紫は心底楽しそうに笑みを浮かべている。
「また会えるからとかいって今日まで会えそうに無かったから、正直嬉しい。だけど、私と違って二人は幻想郷に"入らざるを得なかった"のでしょ?やっぱり、神も妖怪もよっぽど外に残るのは難しそうだね…私が知ってるなかで外に残れそうなのは…狸の姐さんくらいかな…」
「そのための幻想郷よ。消えるくらいならここで一発賭ける、そういう者たちが集まる」
「うーん、そんないちかばちかのギャンブルをするような人たちでは無かったと思うんだけど…性格変わったのかなぁ」
「ふふ、命あるもの不変であるのは中々難しいわ。時代が変われば一緒に変わる。そういうものですわ」
突然、外が騒がしくなった。そして、甘味処の扉を開けて―
「弥生さーん、新作出すって聞いたけど、食べれるかしらー?」
入ってきたのは秋姉妹や厄を流す鍵山 雛、河童の河城 にとり、白狼天狗の犬走 椛など、恐らくあのコンビにやられたのだろう面子が一斉にやって来た。「やあ、この間はどうも、おかげで綺麗な紅葉が楽しめるよ」
「そういってもらえるとやった甲斐があるってものよ」
「わあー、良い匂いー」
「聞いてくださいよ弥生さん、あの巫女ったら問答無用で攻撃してくるんですよ!!」
「どれも美味しそうで目が回っちゃうわー、くるくるー」
「弥生、面白いもの発明したから見に来てよ」
「…収集つかないわね」
「そう?いつもこんなものだよ…みんな、今日は試食会だから好きなものを好きなだけ食べて良いよ」
「…変わったわね、弥生」
「うん?何か言った?」
「いいえ…何でも無いわ…私はそろそろ帰らせてもらうわ、眠くなってきたし」
「わかった、おやすみ、またね」
弥生は昔と比べて大分変わったわ。出会ったときは天涯孤独、孤高、一匹狼…そんな雰囲気だったのに…
でも、この変化は良い方向だと信じてる。弥生が"弥生"でなくなれば、幻想郷は滅びるかもしれない。
もし、そのようになったときは…私が命と引き換えにでも、弥生を"殺さなければならない"…
直ぐに負の方向に思考をもってくのは良くないわね、弥生を信じてあげなければ…
「紫様?今日の夕食はお揚げの味噌汁と鶏の唐揚げ、弥生様から頂いた季節野菜のサラダでよろしいでしょうか」
「唐揚げ!?もちろんよ、藍の作る唐揚げは絶品だから、今からでもヨダレが出ちゃうわ」
「紫様…幽々子様が憑依したかのように変わりますね、唐揚げの時だけ」
「まあまあ、美味しいものを食べるのが幸せの第一歩だと言うじゃない」
…そうね、彼女は大丈夫、私と一緒に、ずっと幻想郷を見守るのだから―
「やあ、元気にしてるかい?」
皆が帰り静かになった丑三つ時、さあ寝ようかと思った矢先、赤い髪とメロンが特徴の、死神 小野塚 小町が訪ねてきた。
「うん、まあまあ、かな。何しに来たの?お迎え?」
「あはは、そんな物騒なことでも…あるんだよねぇ」
「どういうこと?」
「結論から言わせてもらうよ。弥生、あなたの寿命はもって2年だ、それ以上は持たない」
2年。その数字は、私にとって短すぎる時間だ。
「…そう、2年、か…」
「すまないねぇ、お友達もやって来て楽しくなるってときに」
「いや、いいよ、教えてくれてありがとう。いきなり連れてかれるよりは嬉しいよ」
「ところで、あのスキマさんには見られてないのかい?」
「大丈夫、小町が来た瞬間遮断結界を張ったから、会話は聞かれてない…けど、怪しむことはあるかも。だから、酒を飲みに来たということにしよう」
「お、いいねえ、夜酒とでも洒落こむかい」
困った。どうしようか、でも私の能力では助けられない。しかし、放ってはおけない。
「うーん、どうしようかしらー」
「どうしたのですか?幽々子様、まさかまだ食べたりないのですか?」
「いーえー、もっと深刻な悩みよー、どうしようかしらー」
弥生の命の蝋燭は、残り2年。
何故彼女の寿命が尽きようとしているのか。
彼女は1度"消えている"。彼女の存在はこの3次元世界に"固定、貼り付け"されている存在なのだ。
つまり、彼女は3次元世界から"剥がれようとしている"。
再び貼り付けるには、"のり"が必要だ。しかし、今の弥生が貼り付くような"のり"などない。くっつかないのだ。
結論、彼女を助ける術は、ない。
ここからは、彼女の最期の時までを覗くことになる。
諸君、楽しんでくれたまえ―
筆者:古時 飛鳥
まさかのオリキャラ二人目。彼女は弥生にとって良くも悪くも影響を与えるキーパーソンです。
死の運命を変えることは出来ないのか、今後の展開を楽しみにしてください。