「頭、痛い…」
蝉の声もほとんど聞こえなくなった秋の朝。私は、風邪を引いていた。
え、神様も風邪を引くのかって?私は神であると同時に妖怪でもあり人間でもある。人間は風邪を引くでしょう?だから私も風邪を引く。それだけ。
こういう季節の変わり目は大抵体を悪くする。鬼と殴り合いをしても平気な体だが、体は弱い。何とも微妙な体だ。
「ご主人、永遠亭に行こう。今すぐに!!」
「桃~、弥生は私が連れてくの~」
二人は相変わらずだ。私が体を崩すとすぐ病院に行かせようとする。
「桃、安土、私には薬は効かないんだって…」
そう、私は免疫は弱いくせに薬剤への抵抗は強い。簡単に言えば永琳の薬ですら効かない。だから安静にしてるしかない。
「とりあえず私は外の世界で食料を買ってくる」
「私も手伝う~」
…行ってしまった。
………
………
………
静かだ。
「寂しい…」
体調が悪いとき一人だと寂しくなることはない?私はなる。「こういうときは誰も訪ねて来ないんだから…」
私は、氷枕に頭をのせ、目を閉じた―
―助けてくれー―
―お母さーん、お父さーん―
―嫌ああああ!!―
ここは、幻想郷、なのか…?
―おい、慧音、無事か!?―
―妹紅…すまん、思ったよりお別れが、早い、ようだ―
慧音!?何があったんだ!?
………
………
………
今度は…?紅魔館か…?
―咲夜、助けて!!お姉様が、私を殺そうとしてくるの!!―
―妹様!?お嬢様が、まさか―
―咲夜、フランをこっちに渡しなさい―
…!?レミリアが何故!?
………
………
………
妖怪の山…
―にとり!?まさか、椛…あなたが…?―
―気をつけて、文…そいつは…私達が知ってる、椛じゃ…―
ザク。ビシャ。
―はたて!?どうして…椛!?なんで、こんなことしているの!?―
―何って…日頃の恨みを晴らしている、でいいですかね―
もう見たくない!!やめてよ…やめて!!
………
………
………
…博麗、神社…
―所詮博麗の巫女と言えど人間!!そのように急所を突けば脆くも死ぬ!!―
誰?あいつは…どこかで…
―紫…私…私、死にたくない…死にたくないよ!!―
―霊夢!!意識をしっかり保って!!すぐ永琳の所まで連れていくから!!―
―ここは私が時間を稼ぐ!!紫は早く…―
あれは、私…
―弥生…?何で、何で、串刺しに、なっているの?―
―あはっ、今のやり取りの間こいつは隙だらけだったから、殺っちゃった―
―私の守ってきた、幻想郷が…育ててきた、幻想郷が…―
私、死ぬの…?紫は、逃げて、生きて―
「うわあああ!!」
「あら、やっと目が覚めた?かなりうなされていたけど、どんな夢を見ていたのかしら」
いつのまにか、私の家に何人か来ていた。
「紫…」
「あら、どうしたのかしら」
生きてる。皆を見渡す。慧音。妹紅。咲夜。フラン。レミリア。文。はたて。にとり。椛。霊夢。紫。
「みんな、生きてる…」
「お、おい、勝手に人を殺すなよ」
妹紅が突っ込む。
「妹紅は死なないだろう?」
慧音も突っ込む。
生きてる。そうわかると、自然と、涙が出てきて…
「ううっ、ぐすっ」
「ちょ、ちょっと、本当にどうしたのよ」
「霊夢、生きてる…生きてる!!」
もう、涙は止められない。
「まったく、私がいないと全然ダメね。だから、ちゃんと、かまって…」
レミリアが普通に喋っている。
「あやや、これはどうしましょうかね…はたて、記事にする?」
「いや、ダメでしょ」
「文さんには良心ってものがないんですか?」
「さすがにそれはダメだね」
文も、はたても、椛も、にとりも。
「弥生、どれだけ怖い夢を見たのかしら」
「かなりうなされていましたからね」
フランも、咲夜も。
絶対、死なせない。私は、あの時、自分にそう誓ったから。
「落ち着いたかしら?」
「うん、ごめん、みんな…」
「いいって、レアなもん見れたからな」
「それにしても、こんな大人数でどうしたの?」
「紫が皆をスキマでさらって来たのよ」
「あなたの家で宴会をやろうと思ってね」
なるほど、しかし、微妙な面子だ。私は全員に面識があるが、初顔合わせもいるのではないか?
「親睦を深めようという意味も込めてね」
怪しいが、疑うだけの根拠もない。そういうことにしておこう。
「でも、食材は?今ちょうどないんだよね」
「その点は大丈夫よ。皆で持ち込みだから」
そういって紫はスキマから大量の食材を取り出す。
「結構あるね…ん、鶏肉はまずくないかな?」
「そうですね…出来ればやめて欲しいですね」
「せっかく私が捕ってきたのに…」
「でも誰が作るの?」
「それは私がやるよ。せっかく皆食材を持ってきてくれたからね、それぐらいはやらないと」
「弥生さんは病人なんだから私がやります」
「私はもう大丈夫だから。じゃあ2人でやろうよ」
「弥生ー、お酒は無いの?」
「えーとね、地下収納にびっくりするくらいあるから好きなだけ取り出して飲んでいいよ」
「おおー!!いろんなお酒があるぞ!!」
「妹紅、落ち着け。酒は逃げないんだ、ゆっくり味を楽しもう」
…足りるかな
「じゃあな、またいつでも来ていいか?」
「もちろん、楽しみにしているよ」
「たまには紅魔館にも来なさい。パチェや美鈴が会いたいって言ってたわ」
「わかった。明日にでも出向くよ」
「私のところにも来てください。将棋の相手をして欲しいので」
「わかった。酒持って近々行くよ」
「神社でお賽銭をしてよね。あなたがしてくれないと収入が半減だわ」
「はいはい、沢山持ってくよ」
皆それぞれ言いたいことを言って帰っていった。ただひとり、紫を除いて。
「…あなたの夢、みさせてもらったわ」
「覗いたのね。それで?どうするの?あんなことになったら」
「させないわ。幻想郷は私が守るのだから」
「頼もしいね」
「あなたにも手伝ってもらいたいわ…あんなことにはさせない、皆も守る、もちろん、あなたもね」
「私は守られるほど弱くないよ」
「あなた、あのままだと死んでたわよ」
「…え?」
「鈍いわね、あなた、熱が43度もあったのよ。普通の人間なら死んでもおかしくないわ」
「…」
「気をつけてね…そんな、人間みたいな死に方、しないで…」
「…善処するよ」
「…じゃあ、また来るわ」
そういってスキマを開き、帰っていった。
私が、死ぬ…?
神の力はまだある。寿命はまだ全然あるが…仮に、神の力も、妖怪の力も使いきってしまった場合、私は、人間のように、儚く、脆く死ぬのか…?
「…考えても、仕方ない、ね」
二人はまだ帰ってこない。
「朝帰りだな、これは」
風呂に入っても、布団に入っても、死という嫌な感触は、まるで実感しているかのようにリアルで、纏わり付いて離れてくれなかった。
やけにリアルな夢を見ることありませんか?あれって、今までの自分の行動や言動を元にこれから起きることをシミュレーションしているらしいです。いわゆる予知夢ですね。