では、弥生の過去、平安編です(1話っきりですけどね)。
―時は遡り、平安京―
その頃私は天皇や貴族御用達の予言者としてそこそこ名も知れていた。神様だとか半妖だとかそこまで驚かない時代だったから堂々と力を使って助けていた。
ある日のことだった。いつもの依頼先へいくと、変わった女性がいた。平安京では見たこともない服装で、貿易で手に入れたものなのか、それよりも目についたのは、私達では有り得ないだろう、金の髪をしていた。
「来てくれたか弥生よ。今日はこの女子よ。怪しき髪色なれば、いかに見る」
…うーん、胡散臭いお人だ。ま、軽く見てみ…
「…!?」
「うふふ、どうぞお手柔らかに」
私の力が、効かない…何がお手柔らかに、だ。軽くあしらわれている、私が。
「ええ、この女子には良くない相が見えます。私の方で何とかしておきます。とりあえずこのお札を16方向に貼ってください。これで妖の類は防げます」
「おお、ありがたい。これ、反物と金子を持て参れ…あれ?弥生は?」
…なんなんだ、こいつは…
とりあえず適当に場を誤魔化して連れ出したは良いが、さっきから殺気がだだもれなんだよね。どうしたものか…
「うふふ、そんな身構えなくてもいいわ」
瞬間、私は20mほど距離をとり、私特製の退魔札と愛用の刀の封印を解く。
「その刀…普通では無いわね」
「ああ、妖怪と人間、両方の血を大量に吸った曰く付きの刀だよ。こうやって護符で封印をしとかないと暴れだすのでね」
「…良く気づいたわね。1発で仕留めるつもりだったのに」
「やるなら場所を代えないか、人が増えてきたからね」
騒ぎを聞き付けて来たのだろう、いつのまにか観衆が大人数になった。
「ここは郊外、被害がでても大した話題にはならない…それに、人間が死んでもあなたが妖怪退治の際に巻き込まれたということにすればいい」
「死ね、外道」
私は縮地で近づき、結界を張る。
「怨刀"螺鈿阿修羅"」
私は結界の中で動けないだろう外道に刀を振る。
「喰らい尽くせ、"怨念大喰らい"」
刀に閉じ込められた怨念の集合体が結界内で標的を喰らう。
「終わったか…戻れ!!」
刀に怨念を戻す。これでまた一つ、怨念が増える。
「ひいぃ、ば、化け物じゃー!!」
「助けてー、殺される!!」
「予言者なんて嘘だったんだ!!」
………あれ。
なぜ、何で、みんな?どうしたの?
観衆は怯えた目、蔑む目、恨む目、様々な目を向けてくる。
まさか…!!しまった…、今日は…!!
空を見上げる。今日は、新月…
すっかり夜になった中、私の影は、四肢とともに、歪な形をした八枚羽の骨だけの左翼と、血に塗れたように赤い羽がびっしりと生えた六枚羽の右翼、そして先に火の灯った尻尾が三本、伸びていた。
「あら、てっきりちょっと力のある人間かと思ったら…あなた、半妖だったのね」
「…どうやって怨念の攻撃を防いだ?」
「私の能力…と言えば良いかしら?」
「…私は半妖でもない。ヒト・妖怪・神の血が混ざった不安定な存在さ」
「ふふ、あなたは面白そうね。私の夢、手伝う気は無いかしら?」
「夢…?」
「そう、人間と妖怪の共存、それを実現させるの」
「あっそう。私には関係無い。私は人間でも妖怪でもない」
「帰る場所はもう無いでしょ?一緒に旅をしてみない?」
「そうなったのはお前のせいだというのに…はあ、良いだろう。お前の夢、私も見させてもらおう。これから暇になるのだしな」
「ふふ、よろしく、えっと…」
「弥生。古時 弥生だ。」
「弥生、よろしくね。私は紫。八雲 紫よ」
「よろしく、これからは世話になる」
「…とまあ、こんな感じで私と紫は出会ったんだよ」
弥生が一呼吸あけた。普段何事にもあまり興味の無さそうな霊夢や、藍までもが興味津々で話を聞いている。
…弥生。
高熱を出していたので看病してから1週間。なんとか完治して今博麗神社で霊夢や藍、魔理沙、アリスにスカーレット姉妹など多くの住人が弥生の話を聞いている。
今は式も従えているしこの幻想郷に暮らしてからある程度月日も経ったからか、口調も性格もかなり丸くなった。あの時はかなりトゲトゲしていたものだった。
「紫との出会いよりもちょっと前に闘ってた時の話が聞きたいわ」
ヒョイと弥生を持ち上げて自分の胡座のなかに入れながらそう話すレミリア・スカーレット。
「いいよー、えっと…」
「駄目よ、弥生。それは面白話にするものでは無いわ」
「ちょっと紫、いきなり何よ」
「霊夢、すまんな。あまりいい話では無いんだ」
「紫、藍、別に私は気にしてはいないから。聞きたいと言ってるんだ、話しても良いだろ?」
「弥生がそういうなら…」
「良いのですか紫様!?」
「お許しをいただいたのでさっそく…」
―時はさらに遡り、所謂開国の時代―
あの日からかなり月日も経ち―あの日というのはここでは割愛するね―、私はそろそろ紫の言っていた幻想郷とやらを捜すことにしていた。とか言ってかなり月日も経ってしまったが。
当時は出来るだけ人間になれるよう力をおさえながら暮らしていたんだ。
ある夜のこと。
私は江戸に寺子屋を開いていたんだが、そこで寝泊まりをしていた。
いつもと同じように寝る準備に入り出した時、私の部屋に紫がいたんだ。
「こんなところで何をやっているのかしら」
「ん…紫か、久しぶりだな。まあ子供達に勉強を教えてやっているんだ」
「…子供達というのは、この子達であってるかしら?」
紫が手に持っているモノを弥生に突き出す。それは…
「ゆ、紫…?そ、それは、何だ…?」
「あなたが教えているという子供達の首よ。合ってるかしら?」
弥生の教え子である子供達15人の、生首だった。
「まったく、すっかり人間に毒されちゃって、少し渇を入れてあげようと思ったのよ。どう?」
「紫…」
「ああ、とりあえず幻想郷の道はわかるようにしといたから、じゃあね。幻想郷で会いましょう」
そういって紫は歩いて帰って行った。子供達を置いて。
「うう、みんな、ごめん…ごめんね…痛かったよね?苦しかったよね?うくっ、ごめん…」
あの時以来だな、泣いたのは。
「幻想郷か…紫…」
ひとしきり泣いた後、私は感じるままに外へ出て歩いていく。どれだけ歩いただろうか。ふと空気が変わる。知らなくてもわかる。
ここが、幻想郷なのだと。
目の前の空間が裂けて紫が出てくる。いつもの笑みで。
「あら、弥生。久しぶりね。とうとうここに引っ越すのかしら?」
ああ止めてくれ。そんな笑みを見せないでくれ。
「ちょっと人気の無い所に行きたいんだ、連れてってくれないか?」
今にでも聞き出したい。何であんなことをしたのか。
「いいわよ。入って」
みんな…仇はとるから、もうちょっと待ってて。
「それで、どうしたのかしら、人気の無い所に行きたいだなんて」
「…何故、子供達を手にかけた?」
「…?何の話かしら?」
「しらばっくれるな!!」
妖力と神力が溢れ出す。紫も唖然として驚きを隠せないようだ。
「私は紫を信じていた。だからこそ裏では協力もした。なのに!!そのお礼があんなだなんてあんまりだろ…」
「弥生?何の話をしているのかしら?とにかく、落ち着いて…」
ああ、もういいや。
スパッ。
「や、弥生…」
紫の左腕が切り落とされる。
「1発で仕留めてもいいがあの子達の苦しみを味わいながら殺してやる!!」
「紫様!?くっ、貴様…」
「邪魔だ紫の式!!」
どこからか現れた紫の式の頭を掴むと地面へ思い切り投げつける。かなり深くまで沈んだようだ。視認はできない。
「藍!!…弥生、さすがにあなたでも許せないわ」
紫は能力を用いて応戦する。
「螺鈿阿修羅!!私に力を!!そして彼の敵を打ち砕け!!"死神の凱歌"!!」
どす黒い恨みが紫に襲いかかる。今の私にぴったりな技だ。
「くっ…"接続と分離の境界"」
「ううっ!!くっ…」
弥生の右腕と左足が離れて地に落ちる。対して紫は全身に火傷を負っている。
「なかなか上手くいったものだ」
第三者の声が発せられる。すると森からもう一人、紫が現れた。
「いやあこんなに上手く行くとは思わなかったよ。二人ともご苦労さん」
徐々に姿を変えていくもう一人の紫。やがて醜い餓鬼のような姿になり、そこで変化を止める。
「あなたは…餓鬼の…」
「おうおう可愛い女に覚えてもらえるなんて光栄だねぇ」
「まさか…あの夜の紫は…」
「その通りだよ弥生ちゃん。俺の能力でそう見せていたのさ。なかなかの名演技だっただろう?」
「何のつもりでこんなことしたのかしら?」
「簡単さ。何が人間と妖怪の共存だあ!?馬鹿馬鹿しい。そんなの受け入れるわきゃねえのに逆らう奴は片っ端から消していく。なら簡単だ。俺が管理者になればいいんだよ。そうすれば万事解決。ということで…」
「…そんなことに私の教え子達を殺したの?」
「何だ?童の10人や20人どうってことないだろ」
そんな…誰が信用していただ。私は友の事を何一つ信用していなかったではないか。
「…弥生に何をしたのか知らないけど、友人を傷つけるのは万死に値するわ…消えなさい」
「おっと、どうせ死ぬなら道連れにしてやるよ」
しまった!!油断をしていた…!!逃げれない…!!
「弥生ーーー!!」
ああ、これは死ぬかもな…。紫…
「紫…ごめんね…わた」
「はっはっは!!俺は死んでも構わないが友も死ぬかもな!!残念だな、管理者さんよ!!お前の夢は友の犠牲により完結するんだ!!それが永遠にお前を蝕むの」
餓鬼は消えた。私が存在の境界を操ったから。
でも。
弥生も消えてしまった。私が巻き込んでしまったから。
「弥生…私は、どうしたらいいの…?あなたを犠牲にしてまで作りたかった訳では無いのに…」
………朝日が私を照らす。
…弥生に会った時はまだ夜だったはずだ。かなり長い間放心状態だったようだ。
「なーに黄昏てるの紫?今は朝だけど」
声。昔から私に馴染みのある人物の声。
私は聞こえるわけが無い声に期待してしまった。もしかしたら…そう思い後ろに振り向く。そこに立っていたのは―
「や、さっきぶり」
―かなり背は低くなって、胸は大きくなって、声が可愛い声になって、口調が丸くなって…それでも、
「や、弥生…?」
「うん、弥生。何?私があれで死ぬことは無いよ。能力使ったけどね。何か色々姿とか変わっちゃったけど」
生きてる。確かに私の前で弥生は喋っている。幻聴でも幻覚でもない。
「紫…ごめんね。私、紫のこと、友達の事を信用していなかった。ほんと、ごめんね…」
「いいわ、そんなこと。あなたが無事でいてくれて、ほんとに良かった…」
「うん…ここは」
「や、お目覚め?大丈夫かな」
藍が目を覚ます。瀕死の状態だったが弥生が能力で治してくれた。…弥生が瀕死にさせたんだけど、あれは仕方がなかった。
「…!!貴様!!」
「藍、大丈夫よ。この人は私の親友よ」
「どうもー、古時 弥生です。さっきはごめんね」
「えっ、ああ、どうも…八雲 藍だ…って何故お前が私の橙の足の中に座っているんだ!?私がそうされたいのに!!というかそんなに声が可愛いかったか!?そもそもそんなに小さくはなかっただろう!?」
「落ち着いて藍。色々あったのよ。とにかく、これからは弥生もしばらく私の家に住むから」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」
「にゃー」
「…なかなか複雑な事があったのね…」
霊夢はお茶を飲むのさえ止めて話を聞いていた。
「つまり、弥生がこんなに可愛いのは紫のおかげってことね」
そういってフランドールがレミリアからひょいと弥生を持ち上げて抱き締める。
「まあ、そういうことかな…さて、今日は帰らせてもらうよ。やることがあるしね」
「あ、なら後で私の家に寄ってよ。見せたいものがあるの」
「魔法の森かー、わかった。待ってて、アリス。なるべく早く行くね」
そういって弥生は飛んで行った。
―妖怪の山、弥生宅付近―
「みんな、今日でもう何周忌になるのかな…ごめんね、覚えていなくて」
弥生が訪れたのは、大きめの墓。あの時殺されてしまった教え子達を供養するために作ったものだ。
「人はいずれ死ぬ。だから悔いの無いよう毎日を生きるんだ…そうは教えていたけど…あなた達は悔いは無かったのかな…」
日が沈み、辺りは暗くなっていく。今日は新月だ。
一瞬にして姿が変わる。新月の時にのみ現す妖怪としての本当の姿。月明かりが無いときに現れるというのも不思議なものだが、もう慣れている。ここでは闘うことは滅多にないのだから。
「おい、弥生…何だ?その姿は…?弥生…だよな?」
振り返ると、そこには魔理沙がいた。
「しまったなー、この姿を見られたのは文以来だよ。どう、ビックリした?」
「ああ、やることがあるってなんだろうなと思ってついていったらそんな姿になるんだからな。ビックリもするぜ」
「そっか…なら、口封じするしか無いなー」
弥生は手をワキワキさせながら近づく。
「お、おい、冗談だろ…!?」
「えいっ!!」
魔理沙に飛び付き押し倒す。
「一晩ここで過ごしてもらうよ…おっと、アリスに今日は行けそうに無いということを伝えないと…文、いるなら伝えてきて」
「何でばれてるのよ…まあ、いいわ、伝えてくるわ。代わりに後で私の相手もしてよね」
「了解了解…さて、今日は寝かさないよー?」
「助けてくれー!!」
「ほんと、あの子は変わったわね…あんなに攻めるなんて昔は無かったもの。いつも受けでいわゆるツンデレだったものね。それも良かったんだけど」
今日もお熱い夜が始まる。
何故弥生は復活したのか?
彼女の能力その2によるものです。詳しい中身は次回、判明します。
何故弥生は小さくなったのか?
紫は餓鬼の妖怪に対し存在の境界を操り消そうとしました。弥生は自身の地力により干渉を弱めましたが、完全には防げず1度消滅、能力で復活しますが存在の代わりに重量が消えたということです。後は上手く復活できず幼くなってしまった…ということです。
無理矢理感ありますがね…