神様のちょっぴり非日常な神生   作:黄川人

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若干の戦闘描写と残酷な描写があります。苦手な方は注意です。


2章 諏訪と大和、諏訪子と神奈子
古き日本の神よ、何故この地を訪れるか


60年周期で起こる花の異変も何時の間にやら終わりを迎えて季節は秋になろうとしている。そろそろあの秋の姉妹が精力的に活動を始めるだろう。そんなことをふわふわした心持ちでのんびりと早めに色をつけてもらった紅葉を私の自宅で眺めていた。

「これは…アップルティーとか言うものですね…中々に良い香りがします」

「そう?それは良かった。やはりアップルティーには紅玉の皮が一番だね。こっちのアップルパイも食べてみてよ」

「はい、いただきます…おお、美味しい!!」

この季節は美味しいものが沢山出てくるが、とりわけ果物類が豊富なので私は秋と冬には甘味処として店を開いている。今日もみんなに売り出す物として作ったアップルティーとアップルパイを通りすがりにいた椛に試食してもらっている。味の方は…上々のようだ。

「しかし、良かったー。外界のリンゴは甘い物ばかりでね、生食なら美味しいんだけどこの2つの調理には合わないからね、幻想郷にそのままの紅玉があってラッキーだったよ」

「ありがとうございます、弥生様。こんなに美味しいものを食べさせてもらえるなんて、夢のようですよ」

「うんうん、椛はいつも頑張ってるからねー、たまにはご褒美をね。ほら、なでなでー」

「うー、わふ…」

私が頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めながら尻尾を揺らしていた。どうやら相当にご機嫌らしい。

「…弥生様。そろそろ任務に行ってもよろ「ダメ」…」

さっきから度々このやり取りの繰り返しである。全く…椛は可愛いし白狼天狗の中ではかなりの才覚の持ち主なんだがいかんせん生真面目すぎる。もうちょっと気楽にしてもいいとは思うんだが…

「大丈夫だって、余程の事が無ければ緊急召集もないだろうし、もうちょっとのんびりと紅葉でも見ていようよ」

「それ完全に前振りですよね…」

「良いじゃない、尻尾の手入れをしてあげるから」

 

暫く椛の尻尾の手入れをしながら紅葉を楽しんでいると、1羽の鴉天狗がやって来た。葉団扇を持ち珍しく仕事をしているようだ。

「ああ、いたいた。椛、緊急召集です。すぐに準備して集会所に来てください」

「ほらー、弥生様があんなことを言うから…」

「まあまあ、ねぇ、文。何があったの?」

「えーと、秘密事項なんですが…あなたは天魔様に平気で詰め寄れるから隠しても仕方ないですね。山にいきなり神社が現れたのです。もう何が何やらで、天狗も混乱しています」

「神社?一体どこの神様が…ああ、一人、いや二人か、心当たりがあるなぁ」

そう言いつつ懐かしい友人を思い出す。私に神としての在り方を教えてくれた恩人であり親友でもある。

「えっ、知り合いなんですか!?なら説得してくださいよ、縄張りにあんなに堂々と侵入されていたら天狗の面子がたちません」

「やだよ、めんどくさい…そういうのはおじい…天魔に任せればいいよ…それに、悪い神では無いから、大丈夫だと思うよ」

「はあ…あなたが来てくれればすぐに終わるかもしれないのに…」

「そもそもこれは天狗の話…私には関係がないから。まあ、いざこざになったら呼んで、助けてあげるから」

「確かに、あなたの話には筋が通っています。では、椛、行きますよ」

「はい、文様」

二人の天狗が去っていった。あとに残るはさわさわと揺れる紅葉の音。

「美味しいお茶と菓子ね」

突然横から声が聞こえる。慣れたもの、といってもやはり少しは驚いてしまう。

「せっかく静かに葉ずれの音を楽しんでいたのに…まあ、誉めてくれてありがとうね」

「あら、邪魔しちゃったかしら。まあ、私にも自慢の紅葉を見せてくださいな」

普段と何も変わりの無い幻想郷の管理人は本当に美味しそうな顔でアップルティーを飲んでいる。中々珍しいので特に突っ込んだりはしない。

「…それで?この異変はどうなの?」

「大丈夫よ、この異変は特に問題なく解決するわ」

紫のお墨付きだ、その通りに収束するのだろう。

「さて、今回はいつもの二人で十分だろうし、どうせならあなたとあの山の神社の神とのお話を聞かせてちょうだいな」

「まだあの二人とは決まってないけど…」

とは言うものの、確かにあの二人の懐かしい雰囲気を肌で感じている以上それは決定事項だ。

「まあ、いいか、ゆっくり、異変が解決するまでには話終えられるよう努めますかね」

「私はゆっくりお茶を飲みながら聞いてますわ」

そういって私は話し出す。私がまだまだ若く、幼かった頃の苦くて、でも楽しくて忘れられない思い出を―

 

 

 

 

 

 

 

 

―時は1500年程遡り、弥生がまだ若輩者だったとき―

「おおー、旅の途中で弥生神に会えるとは…これを…わずかながらですが…」

そういって物々交換のために旅をする一行は弥生―この時何故か旅の安全を保証する神として扱われていた―に供え物を出していた。

「ああ、良いよ良いよ、これは大事な物なんでしょ?私に供え物はいらないから」

「し、しかし…」

「私が良いっていっているんだ、大丈夫だって。ほら、お守り。どんな獣も寄ってこない特製のお守り。上手くいくといいね、取引」

そういって弥生は一行にお守りを手渡す。効果は抜群で、獣どころか妖怪や病気、果てには多少の疲れさえ寄せ付けないという少々強すぎるお守りだ。

「ありがとうございます…弥生神にお守りだけでなくお言葉まで…」

「では、またどこかで会えると良いね…じゃあ」

そういって弥生は歩き出す。どこに向かっているのか。それは本人にもわかっていない。ただ、歩いていたい。だから弥生は歩く。その途上で会った人にはお守りを渡す。何となくやり始めたことだが、やる度に力が増していくので何時の間にか旅の安全を保証する神として信仰されているのだろう。

「…しかし、最近は何か物々しい雰囲気があるんだよねー、近いうちにイクサでも起こるのかな…」

付近のムラを伺ってみると弓の手入れをしていたり兵の訓練等をしている。

これは本当にイクサかな、とは思うけど私には関係がない。私はどこの勢力にも所属していない、はぐれ神様なのだから。どことどこが戦って、どっちが勝った負けたなどは興味が無かった。ただ、自分への信仰さえ失われなければそれでいいと考えていた。

そう、ある神様に会うまでは。

 

 

 

 

 

今日も弥生は歩いていた。目的もなく、只々のんびりと。

しかし今日も熱いな、こんな日に取引をしにいく人は大変だと他人事のように考えながら歩いているとまるで真冬のような、ヒヤリとした殺気を感じた。

そして声がする。

「お前が旅の安全神、古時 弥生か。私の地に何用で来た?侵略か?制圧か?それとも八坂の手先か?」

これはもしかしてしなくても不味い所に来てしまったのではないか、そう思ったがもう遅い。ここは諏訪の地、ここを治めるはあの悪名高い土着神の頂点 洩矢 諏訪子だ、厄介な神に捕まったものだと心の中でため息をつく。

「無言ならば敵意ありとして排除するが」

「ちょっと待って、私の名前を知ってることはとりあえず置いといて、私の何処にあなたの土地を制圧できる力が有るとお思いに?」

「それは、このお守りだ」

そういって諏訪子神は私の特製お守りを取り出す。

「このようなそこそこの神まで寄せ付けないような強力な厄除けが出来るのだ、実のところソレくらいは出来るのだろう?」

「そこまで強い効果とは思ってもいませんでした。ですが、私には一定の土地に留まり治めるなど向いておりません。ましてや諏訪子神の治められる土地を制圧するなど私では到底無理でございます」

「まったく口だけは達者な奴だ…ならば気づいておるか?ここのところ辺りが物騒なことに」

「…ええ、流石にそれくらいは私も気づいてはおります、されど私めには関係の無いこと」

「ならば、交換条件といこう。お前は私に協力をしてくれ。私は神としての在り方を教えてやろう。どうだ?悪い条件ではないが」

…やっぱり面倒事に巻き込まれた。断ったら何をされるかわかったものじゃない。大人しくしたがって逃げる機会を探すしか…

「ちなみに逃げようとすれば祟る」

「考えた事はお見通し、ですか。わかりました、何を協力するのか知りませんがお手伝いしましょう」

「うん、じゃ行こうか」

突然親しみやすい口調に変わる諏訪子神。そういえばここは諏訪地方の末端…だったはずだ。どうしてこんなところまで諏訪子神はいたのだろう?

―ふふ、八坂の者に捕られる前に確保できて良かった。本人は気づいていないが、こいつは恐ろしい存在だ。いざとなれば私達など簡単に滅ぼせるだろう。扱いには十分気を使わなければな―

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、諏訪大社へ」

「おー…すごい」

流石に土着神の頂点様である、立派な神社をお持ちで…なんて軽口を叩く気も起こらないような、畏怖をも感じさせる圧倒的な存在感があった。

「とりあえずみんなに紹介をするね」

「みんなって?」

「信仰してくれる人達だよ。あなたもかなり有名だから、あなたがここにいるとわかればさらに信者が集まると思って」

なかなかしたたかな神だ、なんて思っていると耳元でこっそり話し出す。

「実のところ、かなり遠い地域の信者はここまで来るのはそこそこ危険なんだ。だけどあなたのお守りを持っていると安全にここまで来れるからね、私も信者が増えて助かっているんだ」

確かに、この地域の妖怪は割と強く、時々かなりの手練れがいたりする。ここまで来るのに襲われてしまうのも無理は無い。

しかし、私のお守りはそんなに強いのか。ちょっとは抑えないと奪い合いによるイクサが起きてしまうかもしれない。それは流石に避けたい。

「さて、はるばる私の諏訪大社まで来てくれて感謝する。今日は私の新たな同胞を紹介する。皆も知ってはおるだろう、旅の安全神古時 弥生だ。暫くはここにいる。しっかり信仰するように」

 

「貪欲だね、そんなに信仰が欲しいの?」

信者への紹介が終わり、本殿で二人供え物の中にあったお茶を飲みながら会話をする。諏訪子神の親しみやすい態度と口調で私も何時の間にか砕けた態度と口調になっていた。

「実は近いうちに八坂が攻めてくる。八坂なぞに私の国を盗らせる訳にはいかない。そのために力を蓄える必要があるんだよ」

国を持っておらず持つ気もない私にはあまりよくわからないけど、自分が守ってきた物を盗られるなど誰もが良い気分にはならないだろう。

「私はあなたがこの国を守りたいという思いはわかった。でも、私にはわからない。協力はそんなに出来ないと思うよ」

「なら、八坂が攻めてくる前に、私の国を見せてあげるよ。それで協力してくれるかしてくれないか決めてくれればいい」

あ、しまった…これだと暫くは滞在することになってしまう…でも、時々は休憩も必要だよね…?

 

それから約2週間、光陰の矢のごとく時間が過ぎていった。諏訪大社で行われる祭り、活気溢れる民、豊かな自然、どれをとっても素晴らしい、その一言に尽きるものだった。

ここは本当に良い国だと思う。だから…

「ほんと!?手伝ってくれるの!?」

「うん、この2週間ほど色々と教えも貰ったし、こんなに素晴らしい国を知っておきながら見逃すのは出来ない相談ってものね」

「良かった…私の国、気に入ってくれて。結構自慢の宝物なんだよ?この国は。…さて、ここからは軍議といこうか」

「うん、相手の八坂というのはどのような気質なの?」

「正々堂々とした一騎打ちを好む好戦的な神らしい。だから相手は多分私がすることになる。弥生は八坂の取り巻きの相手をして欲しい」

「ふむふむ、私達の戦力は?」

「土着神が主だった戦力だね。でも私達には兵器がある。鉄製の武器ならば十二分に対抗できる」

「あのさ、一つ面白い案があるのだけれど…」

 

 

 

―場面変わり、大和にて―

「や、八坂様!!凶報が届きました!!」

「何事だ、落ち着いてから話せ」

「は、はい…洩矢は弥生神を取り込んだそうです!!」

「あの強いお守りを配り歩いている放浪神か。なに、大したことはない。どうせろくに戦えない神であろう、捨て置け」

「は、ははっ」

洩矢め、お前のその土地は必ずいただく…首を洗って待っているがいい!!

 

 

 

 

 

―二十日後―

 

「…偵察してみたところ距離にして8里くらいかな、大分近づいてきたよ」

ついに、その日は来た。

「わかった、弥生の策、頼りにしているよ」

「うん、任せておいて」

そういって弥生は大地に手をつける。

「我らが母なる大地よ、子なる我に力を与え賜え、我らの敵にその力で穿て…」

弥生が呪文を唱えると気が練られていく。

「神術"大地讃頌"!!」

弥生が練った気はあたかも敵を穿つ矢の如く前方から迫ってくる侵略者に降り注がれる。

「うわああ!!」

「ぐふっ」

「…洩矢はこんなことは出来ない。まさか、弥生神がこれを…うおっ!?」

仲間の何人かが倒れていくなか侵略者の頭(かしら)は冷静に分析していると、いきなり何かに捕まれたような感覚に襲われる。

「はあーっ、武術"空掴み"!!」

弥生が空気を掌握し対象を引き寄せる事の出来る奥義の一つだ。そのまま頭は投げ飛ばされる。投げ飛ばされた場所にいたのは…

「さて、大将同士勝負といこうか…私は諏訪を治める洩矢 諏訪子だ。そちらも名乗れ」

「…大和を治める八坂 神奈子だ。いざ、尋常に」

かたや鉄の輪を、かたや注連縄を。後に諏訪大戦と呼ばれる勝負が始まる。

 

 

 

―一方、弥生―

「作戦成功っと、あれ、思ったより残存勢力が多いな。ちょっと控えめ過ぎたかな?」

多数の神の軍勢を見ながら弥生は臨戦体制を整える。

「お前が旅の安全神か。想像より可愛いの」

「程々に弱らせて慰みものになってもらおうか」

「そりゃいい」

「げへへ」

汚い会話。醜悪に歪む顔。零れ落ちる唾液。

「本当に、汚ならしい。あなたたち、戦場にいる以上死をもちろん覚悟して来ているよね?」

「ああん?…あへ?」

手前にいた一人の神の胴体と首が離れる。血飛沫をあげて倒れ込む。

「な、神を殺すなど、どうやって…」

「冥土の土産に教えてあげるよ。わたしの二つ目の能力、"変化する程度の能力"さ。"へんか"とも"へんげ"とも呼べるこの能力で今は"神を殺す程度の能力"に"へんか"させているだけ」

「ば、馬鹿な!!そんな能力、何でもありじゃないか!!」

「さて、お別れだね」

「ひ、やめ」

 

 

 

「…さて、やりすぎた気もしなくはないが、とりあえず諏訪子の所まで行こうか」

弥生の足元には神が死屍累々…とはいかなくとも虫の息にまでなった神々を見下ろしながらふわりと翔ぶ。

―だが、弥生は慢心していた。神々の中には丈夫な神もいるだろうという至極簡単な予想をしていなかった―

「くく…俺には気づかなかったか…後ろから奇襲してやろう…」

 

「はあ、はあ…」

「どうした、そろそろ降参か?洩矢」

形勢は最初こそ諏訪子が押していたが、鉄の輪が錆びさせられてからは逆転、手持ちの武器が全て無くなっていた。

「私は…私は守るんだ…諏訪を、だから、負けられない!!」

「その心意気や良し、敬意をもって止めを刺そう」

ここまでか…なんて思っていた。でも、

「お疲れ、大丈夫?」

来てくれた。まさにと言うときにやってくる救世主。

「はは…面目ないね…見ての通り、ほとんど私の負けだ。だけど、あなたは違う。あなたは負けていない!!神奈子と戦ってくれ!!私は…」

「うん、わかっ…」

―なぜこうも悪い運命なのか―

「弥生…?」

―彼女には安らぎなど許されないのか―

ちょうど胸と胸の間、そこから生える腕。口から大量の血を吐く。正面に立つ諏訪子に降りかかる。

「隙有り!!諏訪子!!」

「しまっ…」

御柱が命中、諏訪子は落ちていく。決着はついた。

 

「何が安全神だ、貴様のようなぽっと出の神など認めないわ!!ここで死ね!!」

まずい…血が出過ぎだ…意識が…き…

「貴様、邪魔だ」

弥生は御柱が頬をかすめたのを最後に、意識を手放した。

 

 

 




1話で終わらせようと思っていましたが、ちょっと多くなったので2話に分けました。
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