「えと……初めて見る顔だけど、あんたは誰かしら?」
いつか聞いた声と、全く変わらない霊夢の声がした。
そして何故か、霊夢の容姿も私と同じように若さが戻っていた。
……どういうことだ? 確かに霊夢も死んだはず。しかし、目の前にいる奴はどう見てもあの博麗霊夢だ。魑魅魍魎どもを蹴散らし、時には神にすら牙をむくあの博麗霊夢だ。
つまりこれは――霊夢も生き返ったってことなのか?
「ふふっ」
笑いが溢れた。
そっか。そうか、これでまた私はこの巫女に戦いを挑むことができるんだ。また私は挑戦することができるんだ。
私の物語はまだ終わっていない。
私たちに何が起きたのかは知らない。神の気まぐれか、妖怪のいたずらか……けれども、まぁ、この何ともおかしな現象に少しばかり感謝しよう。
霊夢がいるのなら話は早い。早速動くとしようか。
「霊夢。これは異変だぜ!」
「いや、だから誰よ。あんた」
さて、まずは何処へ向かおうか。昔みたいに、また二人でどちらが先に異変を解決するのか競争するのも良いかもしれない。もしかしたら、いつかの異変の時のように二人で協力するのかもしれない。
「ふふっ」
「えっ……あの、話を……」
そんなことを考えると、また笑いが溢れた。
さてさて、これからどうしてやろうか。久しぶりの異変解決。心が踊る。やはり、最初は紅魔館あたりが無難か。
「あのっ!!」
突然、霊夢が叫んだ。
「うん? どうした?」
それにしても、こんな明らかな異変が起きているというのに、どうして霊夢はのんびりとお茶なんて飲んでいるんだろうか? いつも気怠ではあったけれど、異変が起きた時だけは別人のよう動いていたのに。霊夢も突然生き返ったことに混乱しているのかな?
「とりあえず、あんたは誰よ?」
……うん? これはアレか? 霊夢なりのネタ振りか? 久しぶりに会ったものだから、霊夢なりになんとかスキンシップを取ろうと頑張っているのか?
そんな奴じゃなかった気もするが……
「私か? 私は……ハッジ・フィルズ・テペ。ザグロス山脈生まれの今年でちょうど6400歳だ。まぁ、気軽にテペと呼んでくれ」
「……な、なんだか、変な名前ね。それでテペは私に何の用なの?」
「はっ?」
「えっ」
あ、あれ? なんか思っていた反応と違うぞ。
本当は『そんなことあるかーい』みたいなツッコミを入れられつつ、ハリセンでピシャーンみたいなそんな反応を……
それが普通に流されて、普通に驚いた。
あら? もしかして私が思っている状況と違う?
「え、えと。お前の名前は?」
「は、博麗霊夢よ」
う、うむ。これは大丈夫。此処までは合っている。
「私の名前は?」
「えっ……テ、テペでしょ?」
違う。そうじゃない。
どうやら此処からがおかしい。
「ちょっと待て。タイム。少し時間をくれ」
「あっ、はい」
どういうことだ? どうやら、霊夢も巫山戯て言っているわけではなさそうだ。コイツそういうキャラじゃないし。
じゃあ、なんだ? おかしいのは私の方ってことか? いや、しかしだ。霊夢も生き返っているのはおかしいだろ。ん~? 私たちに何が起きた?
私と霊夢が蘇り、さらに若くもなっている。この問題を解決できる答えは……ああ、もしかして、此処って過去の幻想郷か?
なるほど。そう考えると、このおかしな現象がそれなりに説明できる。
「霊夢。お前って今何歳?」
「詳しくは知らないけれど、たぶん10といくつかくらいだと思う」
「……私の年齢は?」
「6400歳」
だいたいわかってきた。つまり、アレだ。やはり此処は過去の幻想郷なんだろう。
なるほど、依然として私に何が起きたのかは知らないが、私は今、過去の幻想郷にいる。そういうことか。
そして、この時代の私と霊夢の間には何の関わりもない。私の名前すら知らないらしいし。それは少しばかり寂しいことだけど、まぁ、それほど問題じゃない。
うん? これって本当に異変なのか? 今のところ被害にあっているのは私だけ。霊夢が動いていない理由も、そういうことなのだろう。
……ま、まぁ、少なくとも私は被害にあっているのだから、これは異変なはず。
「それでだな霊夢。異変が起きたんだよ」
「異変? ……えと、異変ってのは何のことかしら?」
あ~……これはアレか? もしかして、そういうことか?
ちょっとだけ嫌な予感がする。
「……今までで、赤い霧が幻想郷を覆ったことってあるか?」
「……ないと思う」
「終わらない冬が来たりとかは?」
「しなかったと思う」
ふむ……なるほど。とりあえず、まだ紅魔の異変も、終わらない冬の異変も起きていないってことか。それなら、あの明けない夜の異変もまだなんだろう。
はぁ、随分と昔に来てしまったものだ。
……ん? いや、違うか? さっき霊夢は異変自体を知らないって言ったよな。
それはつまり、そもそも異変が何なのか知らないってことか? 正直信じられんが、そう言うことなのか?
「なぁ、霊夢。異変ってわかるか?」
「いや、だから知らないわよ。異変なんて」
……ホントかよ。
どうしよう。これはちょっと困った。まさかこんなことになるとは……
「それで、その異変ってのは何なのよ?」
「うん? ああ、異変ってのはだな……あ~……あら?」
よくよく考えると異変ってなんだ?
んと。確かレミリアが起こしたのは、昼間でも外に出られるようになるため……だったかな? んで、幽々子は……桜を見たかったら?
なんだよ、皆勝手な理由ばっかだな。
んで、つまり異変ってのは……なんだ?
「えと……結局、異変って?」
「あ~……その、アレだ。こう、神とか妖怪が起こす、お祭り……的な?」
「いや、だから私は知らないって」
いかん、自分で言っててよくわからなくなってきた。
えと、異変と言えばなんだ? 興奮した妖精が飛びまわること? いや、なんか違うな。異変と言えば……ああ、アレか。
「異変と言えば弾幕ごっこだ!」
「えと……弾幕ごっこって?」
「はっ?」
「えっ」
弾幕ごっこも知らない……? そんなことあるのか? お茶を飲むことと、弾幕ごっこくらいしか生きがいのなさそうな霊夢が、弾幕ごっこを知らないってのはどういうことだ?
「じ、じゃあスペルカードは?」
「知らないけど……」
「タイム!」
「あっ、はい」
そこからか? そこから説明しないといけないのか? いやでも、弾幕ごっこのない異変なんて何も楽しくないし……これは本当に困ったな。まさか、ここまで私の知っている霊夢と違うとは思わなかった。
しかし、異変も解決しない博麗の巫女っている意味あるのか? 一日中、縁側でお茶を飲んでいるだけなんじゃ……ま、まぁ、そんなことはどうでも良いか。
「確認なんだが霊弾は出せるか?」
「まぁ、それくらいなら出せるわよ」
よしっ、とりあえず第一段階はOKだ。霊弾が出せるってことは、流石に空だって飛べるだろう。きっと、弾幕ごっこが何なのかわかれば霊夢だって直ぐに嵌まるはずだ。
「簡単に言うと弾幕ごっこてのはな、神も妖怪も人間も関係なく平等により美しくより魅力的に、考え抜いたパターンで自分の信念と理念を元に弾幕を撃ちあう遊びだ」
「うん……?」
首を傾げられた。
どうやら霊夢には全く伝わらなかったらしい。第二段階の壁は厚い。
……結構、良いこと言ったと思うんだけどなぁ。
「あ~……つまりだな。霊夢の場合は霊弾とか針とか御札を相手にぶつければ良いんだよ」
「えっ、でもそれって危ないじゃない。もし当たったら痛いし」
いや、まぁ、そりゃあ危ないし、当たったら痛いけどさ……遊びって言うのはそう言うものな気がする。危険な遊びだからこそ楽しいのだ。
なんだ? 私がおかしいのか? でも、私の知っている霊夢ならこんなことは言わなそうだが……この霊夢と話をしていると、なんだか調子が狂う。
「よしっ、決めた。ちょっと異変を起こさせてくる。百聞は一見に如かず、だぜ。んじゃあ、またな霊夢」
「えっ……ええ。また」
どうしても口だけでは説明しきれない。
目指す所は紅魔館。ちょいとばかし、レミリアに頑張ってもらうとしよう。
なんだか、どんどん目的がずれてきている気もするけれど、どうせなら全力で楽しんだ方が良いに決まっている。