この少しおかしな幻想郷で私は   作:puc119

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第3話~井の中の蛙~

 

 

 箒へ跨り、博麗神社から飛び立ち空を駆ける。目指すは吸血の姉妹が住む紅魔の館。

 

 今の季節はわからないが、私の身体に当たる風は何処か心地よく、何とも良い気分だ。若返った影響か、身体が軽い。今ならあの頃みたいになんだってできそうだ。

 何があって私が生き返り、この幻想郷で何が起きているのかはわからない。けれども、謎解きは嫌いじゃないし、このハチャメチャな感じだって嫌いじゃない。

 

 霊夢との会話のことを考えるに、どうやらこの幻想郷は私の知っているものと違うらしい。もしかしたら霊夢だけがおかしいのかもしれないけど。

 ただ、あの私の家のことなんかも考えると、きっと他にも色々と面倒なことになっていそうだ。

 

 けれども、それで良いんだ。何が起きているのかなんて知らないが、どうせ起きるなら大きなことの方が楽しいに決まっている。あとはその中心へ私が飛び込んでいくだけ。そうしたら、精一杯躍らせてもらうとしよう。

 

 しかし、特に考えもなく飛び出してしまったが、これからどうしようか。私としては、レミリアに異変を起こしてもらいのだけど……なんか上手くいく気がしない。

 まぁ、止まっているよりは良いはずだし、とりあえず動くとしようか。

 即決即断。いつだってそうしてきたし、これからだってそうしていく。私は迷わず進むのだ。

 

 

 

 珍しく霧が出ていない湖を抜けると直ぐにその館が見えてきた。霧の湖と言えばあの喧しい氷精だが、アイツはこの世界でも元気にしているだろうか? 今度時間があったら会ってみるとしよう。

 さて、さてさて、とりあえずこれで紅魔館へ着いたわけだ。時刻はまだ昼間と言うこともあり、あの吸血鬼はまだ眠っているはず。日が沈むまで時間はまだあるが何をしていようか。

 

 とは言え、紅魔館の住民たちがどんな様子なのか知っておきたい。どうせあの門番に止められるだろうが、無理矢理でも中へ入らせてもらうとしよう。

 

 せっかくこんなにも身体が軽いんだ。ちょいと運動するのも悪くない。

 スカートのポケットの中にある八卦炉を確認。うむ、いつでもいける。

 

「おや、お客さんでしょうか? ようこそ紅魔館へ! ただ、お嬢様は就寝中でして……あっ、でもでも、歓迎しますよ!」

 

 ……普通に歓迎されてしまった。思ってたのと違う。

 

 なんだかなぁ……なんだろうなぁ、この気持ち。

 

「えと、ああ、うん。お邪魔するぜ……」

「はい! 多分、咲夜さんがお茶を用意してくれると思いますし、どうぞ、ごゆっくり」

 

 私の知っている門番は、私の姿を見ると何の用事か聞きもせず弾幕をぶっぱなしてくるような奴だった。そうだと言うのに、今は此方が嬉しくなってしまうような笑顔で普通に歓迎してくれている。誰だお前。美鈴か、そうか。

 これじゃあ正直、調子なんて出ないよなぁ。いや、まぁ、別に中へ入れるのならそれで良いんだけどさ……

 

 紅魔館の外面は私の知っていたものと違いは見られなかった。相変わらず趣味の悪い真っ赤な外観。ちょっと……てか、かなり門番の様子はおかしかったけれど、今のところおかしいのはそれくらい。

 そして、美鈴に言われ門を潜り見えてきた景色は――

 

「……此処、紅魔館だよな」

 

 中庭には広い花壇があり、其処に色とり取りの花。庭木なんかはクマとか、レミリアやフランドールの形に剪定されていて、なかなかにすごい景色となっていた。観光名所になってもおかしくないだろう。

 私の知っている紅魔館と違う。どこだよ此処。紅魔館か、そうか。

 

 これが妖怪最強種である吸血の根城であると言って、どれだけの人間が信じられるのやら……

 なんだかとんでもない世界になっちゃったなぁ。

 

 うだうだ考えていても仕方無いため紅魔館の中へ入るとしよう。私がいる時点でもう滅茶苦茶なんだ。もうどうとでもなれ。

 

「ようこそ、紅魔館へ」

 

 いつもなら魔法で吹き飛ばしながら開ける扉もそんな気になれず、ちゃんと手で開け中へ入ると、直ぐにそんな声をかけられた。しかも、すごく良い笑顔で。私が知っているアイツのそんな顔なんてほとんど見なかったから、その笑顔が逆に怖い。

 

「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 そう言えば、咲夜は私のことを知っているのか? 美鈴は私のことを知らないみたいだったが。ただ、あの霊夢ですら私のことを知らなかったんだ。知り合いはほとんどいないと思って良いのかもしれない。

 それはそれで此方としても動きやすいと言うもの。だって、私の知っている世界じゃ少なくとも紅魔館の住民に歓迎されるような人間ではなかったのだから。

 

「この館は目立つからな。ふらっと立ち寄ってみたんだ」

「そうでしたか! えと、じゃあ、お茶を用意しますので、ゆっくりしていってくださいね」

 

 私の言葉を聞き、咲夜の表情はさらに明るくなった。いや、だから逆に怖いって。そしてお客が来ただけでそんなに嬉しかったのか……

 

「ああ、ありがとう。それにしても此処って広そうだよな。ちょっと中を見て回りたいんだが、良いか?」

「ふふっ、はい。ご自由にどうぞ。それでは、暫くしたらまた呼びに来ますね」

 

 ……良いんだ。見て回っても良いんだ。流石に断られると思ったんだが。てか、私が言うのもアレだけど、少しくらい警戒しろよ。私とお前、初対面だろ。

 はぁ……それじゃあ、あの図書館へでも行くとしようか。この世界のパチュリーがどんな奴なのかも気になるし。私の知っていたものと色々と違いすぎるせいで、戸惑いは大きいけれど、なんだか逆に楽しくなってきた。もしかしたらこの世界のパチュリーは滅茶苦茶明るい性格だったりするのかもしれないし。そんなアイツ想像できないが。

 

 しっかし、ホント何が起きたのやら……

 

 


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