この少しおかしな幻想郷で私は   作:puc119

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第7話~船頭多くして~

 

 

 最初の目標と比べて随分と変わってしまったが、漸く私がこの世界でとりあえずのやることは決まってきた。

 

 ――宴会を開く。

 

 それが今の私の目標。

 レミリアとの会話を考えるに、どうやらこの少しおかしな幻想郷では、宴会もあまり開かれていないらしい。私の知っている幻想郷は、酒好きで騒ぐことが好きな奴らばかりだと言うのに、なんとも変な気分だ。

 

 紅魔館でご馳走になった後、私は一度自分の家へ帰ることに。お酒が入っていることもあるが……色々とありすぎたせいで少し疲れていたんだ。

 思っていた以上に疲れていたのか、帰りの記憶は曖昧。随分と可愛らしくなってしまった自分の家へ着くと、ベッドへ倒れこむように直ぐ寝てしまった。

 

 

 

 

 そして、次の日。

 寝て起きたら全て終わってしまうかもしれない。なんて思っていたが、どうやらこの不思議な現象はまだ続いてくれているらしく、見えてきた景色は見覚えのない私の部屋だった。

 

「ん~……っと。さて、まずは何処から行こうか」

 

 現在、私が会ったのは霊夢に紅魔館の住人だけ。いくら狭い幻想郷とはいえ、宴会へ誘いたい相手はまだまだたくさんいる。

 ただ、今の幻想郷って時期的にどの辺りなんだろうな? もしかしたらまだ早苗たちも来ていない時期なのかもしれない。まぁ、そのことを確かめるためにもふらふら出かけてみるとしよう。

 

 そうなると……次に行くのは人里が無難か。てか、この幻想郷の人里がどうなっているのか気になる。

 さて、思いついたら即行動。それじゃ、早速行くとしようか。

 

 

 家を飛び出し、箒へ跨り、全力で人里へ向けて出発。

 私の家から人里までそれほど距離はなく、全力で飛べば直ぐに着く。そして見えてきた人里だけど……

 

「なんだ、人里は普通だったか」

 

 私が見慣れている人里と変わった様子は特になかった。

 もしかしたら、人里も私の家や紅魔館のようにモフモフ成分がやたらと多くなっているかもしれないと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 とはいえ、この幻想郷は根本的に私の知っている幻想郷と違うのだし、おかしなところだってあるとは思う。

 

 客引きや楽しそうな話し声なんかを聞きながら、ふらふらと人里の中を探索。

 うーん、どうやら本当に人里は私の知っているものと変わらなそうだ。それはちょっと残念……いやいや、私は何を考えているんだ。むしろ良いことだろうに。

 この幻想郷へはまだ来たばかり、戸惑いばかり。そうだというのに、もう悪い感じに毒されている気がする。

 

 それからも何か変わったことや面白いものでもないかと適当に歩いてみた。

 そして、ようやっと何かを発見。

 

「いや……なんでコイツは道のど真ん中で寝ているんだ」

 

 其処は人里の本通りといっても良い場所。

 そんな場所で、大きな瓢箪を抱え気持ちよさそうに寝ている、一匹の子鬼――伊吹萃香の姿があった。

 確かに、萃香が人里に現れることはあったし、お酒を飲んでいる姿も何度も見ている。けれども、此処まで大胆に姿を現しているのは初めて見た。何やってんだコイツは。

 

 鬼である萃香がこんなにも堂々と人里で寝ていたら、皆だって迷惑……

 

「あーっ、お母さん見て見て! 今日も萃香が寝てるよー」

「ふふっ、そうね。でも気持ち良さそうにしているのだから、あのままにしておいてあげましょ」

「おーい、誰か掛ける物を持ってきてくれんか? いくら丈夫な身体とはいえ、風邪をひくかもしれん」

「あいよー、んじゃあ、俺が持ってくるわ」

 

 迷惑……してないな。

 

 ……なんだ? 私がおかしいのか? 萃香が怖くて誰も近づけないとかならまだ分かるんだ。そうだというのに、人里の人間の対応が優しすぎる。心がポカポカする。私の知っている人里じゃない。

 

 その後も、人里の奴らが萃香をどうするのか見ていたが、本当に誰かが掛ける物を持ってきて、寝ている萃香へ掛けてやっていた。道のど真ん中で寝ているのだ。邪魔に思う奴だっているだろうと思っていたが、萃香の近くを通りかかった奴らは皆優しい目をするばかりで、文句を言う奴なんてひとりもいない。

 なんだろうか、この言い表せない妙な気持ちは。いや、別に悪いことじゃないんだ。優しさ溢れる素晴らしい世界だと思うが……戸惑いしか感じない。

 

「おーい、萃香ー」

 

 寝ているところ申し訳ないが、とりあえず萃香を起こしてみることに。

 別に無視しても良かったが、せっかく見つけたんだ。会話のひとつや二つくらいはしておきたいところ。それに萃香の能力を使えば宴会を開かせることもできる。

 

「うー……なんだよぉ……」

 

 ペシペシ叩いてやると、萃香はとぼけたような声を出した。気持ち良さそうなところ悪いな。ただ、やっぱり道の真ん中で寝るのは止めとけって。

 

「あー……あ? 誰だい、あんた」

 

 そしてようやっと起きてくれた萃香はそんなことを言った。

 ふむ、やはり萃香も私のことは知らないのか。

 

「私は霧雨魔理沙っていうんだ。普通の魔法使いをやっているよ。それで、どうして萃香は人里のど真ん中で寝てたんだよ」

「魔法、使い? まぁ、良いけど。それで私は眠かったから寝ていただけだよ。それよりもどうして魔理沙は私の名前を知っているんだい?」

 

 この世界でも相変わらず自由な奴だ。

 多分、人里の人間や萃香にとってあの光景は当たり前のものなんだろうけれど、私にとってみれば違和感しかない。

 

「お前は有名だからな、そりゃあ名前くらい知っているさ。それで、お前はいつもこうして人里にいるのか?」

「うん。畑仕事とか家を建てたりとか、皆のお手伝いをしているよ」

 

 お手伝いって、お前……

 あー……つまり人里の人間が萃香に優しかったのは、いつも萃香が色々と手伝っていたからってことか? 私の知っている萃香と比べて随分と丸っこい性格だが、この萃香だって力は私の知っている萃香と同じなんだろう。ただ、その力の使い方が違うだけ。

 

「お手伝いをすればお酒をくれるんだ」

 

 そう言って萃香は嬉しそうに笑った。

 ああ、そうかい。そりゃあ、良かったな……

 コイツの場合は伊吹瓢があるのだしわざわざ手伝いなんてしなくても、酒なんていくらでも飲めると思うんだが。

 

 さ、さてさて、そろそろ本題へ入っていこう。このままじゃ、この変な空気に流されてしまいそうなのだし。

 

「なぁ、萃香」

「うん? どうしたの?」

 

 私の問いかけにこてりと首を傾げた萃香。その姿は私の知っているものよりもずっと幼く見えた。

 

「異変……まぁ、つまり事件をみたいなものを起こしてみないか?」

 

 ぶっちゃけ此処に来て私も何をしたいのか分からなくなってきたが、もう面白いことが起これば何でも良い。いくらこのモフモフふわふわな幻想郷だって、異変が起きれば弾幕ごっこのひとつや二つくらいできるだろう。

 

「事件? それなら起きたばかりだよ」

 

 お? なんと、この幻想郷じゃそういうことに無縁だと思っていたが、そうでもないのか。うむうむ、やはりなんだかんだ、皆心の底じゃ騒ぎたいんだろう。

 

「そうかそうか。んで、それはどんな異変だったんだ?」

「んとね、この前、徳川さん家の鶏が逃げ出して大騒ぎになった」

 

 ……なんか、思ってたのと違った。私の思い描いていた異変とは似ても似つかない。

 鶏が逃げ出したことの何処が事件なんだよ。てか、そんなことくらいで大騒ぎするな。もうやだ、この世界。

 

「あー……その、なんだ? そういう異変に萃香は興味ないかってことなんだが……」

「私に鶏を逃せってこと?」

 

 よし、分かった。とりあえず鶏から離れてくれ。合ってるけど、そうじゃないんだ。

 

 はぁ、なんだかなぁ。全くもって上手くいく未来が見えない。私の最終的な目標は弾幕ごっこを楽しむこと。そのために、異変を起こさなきゃいけない。しかし、この幻想郷じゃ、異変自体が知られていない。

 だから、まずは情報を集めたいし、純粋に騒ぎたいから萃香に萃めてもらって宴会でも開こうかと思ったんだが……この調子じゃなぁ。

 

 さて、どうするか。

 この萃香だって、お酒を飲むことは好きだろうし、それなら宴会だって好きなはず。だから、まずはどうにか宴会を開いてもらいたい。

 

「えっと、だな。さっきの話はとりあえず忘れてくれ。それでだな萃香。私はお酒が好きなんだ。それもひとりで飲むんじゃなく、皆で飲むお酒が好きなんだ。だから、宴会を開こうと思うんだが……どうだ? それに協力してもらえないか?」

 

「宴会……」

 

 さて、これならどうだろうか。

 これで萃香が宴会は好きじゃないとか言ったら本当に手詰まりだが……

 

 

「それは面白そうだね!」

 

 

 パーっと明るくなった良い笑顔で萃香が言葉を落とした。

 あっ、すごい、予想以上に食いつきが良いぞ。なにその笑顔。見ていて眩しいんだが。

 

 どうにも遠回りをしている感じがすごいけれど、少しずつは前に進めている気がする。

 とりあえず、この萃香も協力してくれそうだし、宴会を開くことはできるだろう。そして、問題なのはそこからなわけだが……まぁ、いくら此処で考えたってこの幻想郷じゃ何が起こるのか分からないんだ。

 ぶっつけ本番、当たって砕けろ。そんな気持ちで行くとしようか。

 

 

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