日月戦争   作:デクシトロポーパー

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筆が乗ったため、わりかし素早く書き終わりましたが。
もう、勢いで書いてるだけと化してきてる気も。
だったらだったで、行き着くところまで行くまで。
風呂敷のたたみ方だけは一応キープしてます。

※このSSに出てくる国家は、実際の国家とは無関係です。
 1980年代初頭から深海棲艦の出現で歴史がズレにズレて、
 現代にある現実の国家とはまったく別物です。
 鋼鉄の咆哮シリーズに出てくる、超兵器建造競争時代の日米英独みたいなモノ。
 ドリル戦艦やら巨大UFOやらが当然のように跋扈してる世界の世界情勢が
 現実に適用できるワケがないです。艦娘世界も同じことということで、
 何卒ご容赦のほど、お願いします。


密会・神楽坂

「……と、いうことがあったんです」

 

雪風が話を締めくくったところで、加古は茶をすすり、ぷはぁと息を吐いた。

ここは東京都内。神楽坂にある高級料亭である。

雪風脱出をニュースで聞いてから半日後、長門からメールが来たのである。

私的な懇親会にて一席設けるので同席されたし、と。

このタイミングで、しかも長門が忙しく去った直後に飛んできたこのメールを

文字通りの意味で受け取るわけにはいかなかった加古は

大急ぎで古鷹に業務を引き継ぎ、一日のみの休暇をとって駆けつけた。

果たしてその通り。貸しきられた料亭にいたのは、

長門と雪風、他、艦娘と提督が何人か。

加賀がいたことにビクッとしたが、不機嫌そうな本人いわく呉の加賀であるそうだ。

それもそれで横須賀の長門と同じくらいの戦歴を持つ英雄なのだが。

そして外人のおっさん一人である。

名は鳴子助(なるこ たすく)。明らかに偽名。

しかし、それに対して空気の読めない突っ込みをするには、

すでに加古は汚れすぎている。

今、脱出してきた雪風と一緒にいて、名前が地名と符合する、このおっさん。

この時点で何があったのか多少呑みこんだ加古が話を促し、今、聞き終えた。

 

「と、いうことらしいぞ。敵は我らと同じ人類で、しかも正真正銘の月人だ」

 

したり顔でうなずく長門が、加古には少し恐ろしい。

雪風が脱出してきてから三日程度でこの場を整えた古艦娘の手は、

いったいどこまで伸びているというのだろうか。

雪風を保護したのは自衛隊なのに、それが今すでにここにいるとは。

名目としては、女川要港部の今や最高責任者である自分と、

その旗下にいた雪風を引き合わせて、無事を喜ぶことであるとのことだが。

だが回りにいるのは、言ってしまえば全員、横須賀長門閥。

今や自分もその一人でしかないのか。

 

「今一度聞きます。 地上侵攻軍の戦力は一個軍規模ですね」

「その通り」

 

加賀の質問に頷いた助は、軍の内情について続ける。

もともと Aegis Overload Luna の地上侵攻軍は、

死の大地にて破損したまま放置され、今では一部族の砦となっている

機動要塞 Cesar を占拠、制圧。その巨大な攻撃力と防御力を以って拠点とし、

連邦防衛軍と渡り合うことを目的としていた。

ゆえに、兵站構築、資材確保よりも戦闘能力に偏重した編成となっており、

その継戦能力には著しい問題を抱えている。

だが、この日本国は死の大地よりはるかに豊かな土地である。

時間を与えてしまえば自給自足体制を遅かれ早かれ整えてしまうだろうが、

それでも、メック戦力を保つための金属や触媒については鉱床を確保しない限り

どうにもならない。時間が経てば経つほど彼らは戦力を維持できなくなっていく。

 

「彼らは、それを座視しているほどの無能者なの」

「いいや。残念だが、そればかりは違うね」

 

かぶりを振った助は長門の方を向き、長門が頷くと、再度、口を開いた。

 

「逆を言えば、鉱床を確保するだけの時間を得られればいいということでな。

 それを妨げさせないために、一個の作戦案がすでに参謀部を通過した」

「それは……」

「『夜明け』作戦。爆撃機による首都の核攻撃作戦だ」

 

一瞬、全員の動きが停止し、そして総立ちとなった。

加古もむろん、そうなった。全身の毛までもが全て逆立っているようだ。

日本艦娘でこれを聞いて怖気が立たぬ者など存在しないだろう。

おそらくは事前に知っていたであろう長門も、

奥歯をきりきりと噛み締めているのが見てとれた。

その中で、いち早く戻ってきた加賀が、名を変えた亡命者に詰め寄る。

 

「作戦の概要を言いなさい」

「言っておく、私は技術将校だ。全容すべてを掴んでいるわけでは」

「……なら、知っているだけ言いなさい」

 

加賀が今にも掴みかかりそうで、雪風などは飛び掛ろうと身構えていたが。

鎮守府を代表する艦娘として、指揮官として、精一杯の忍耐を働かせたのだろう。

吐き捨てるようにそれだけ言うと、加賀は元いた席に戻った。

あっけに取られていた他の艦娘や提督も、それを境にようやく動きを取り戻した。

 

「わかった。どのみち、知っている限りは言うつもりだよ。

 私は亡命者だ。恩には報いるさ……」

「そう。余計なことを言ってすまなかったわね。続けて」

 

そう言う加賀の態度は明らかに、さっさと本題に入れ、でしかない。

小さく肩をすくめた助は、言われた通り先を続ける。

地上侵攻軍の目的は、首都の制圧ではなく破壊である。

もっと正確に言うなら、首都機能を長期に渡って麻痺させること。

そのためには、政府機関やインフラを強大な破壊力で吹っ飛ばしてしまえばいい。

宮城県にて確保した情報から、国家機能のほとんどが

東京に集中していることはすでにわかっている。

そして東京は、宮城から爆撃機を飛ばせば指呼の距離にすぎないのだ。

今まで Aegis Overload Luna と直接戦ってきた加古には、

その恐ろしさがすぐ理解できた。

 

「迎撃しようにも戦闘機飛ばせないじゃんか」

「どういうこと?」

「ジャミングだよ。奴ら、ものすごく強力なジャミングに守られて、

 それで自衛隊も動けなくされてたんだよ」

「それは私がどうにかする」

 

加古の不安に助が答えた。

 

「誰があのごろつきどもを好きにさせるか。

 この私、専門分野は医学と生物工学だが、メック工学にも覚えはあるのだ。

 この国の脆弱な電子機器に、初歩的な対策を施すだけでいい。それだけである程度は戦える」

「……出来るの?」

「現物は確認した。ハードも、ソフトもだ。

 間に合うのはソフトの改修だけだが、それさえ完了すれば、

 近づかれただけで無力化などと、マヌケなことにはならんよ。

 要は、ECCMの定石を可能な限り押さえる。それだけなのだ」

 

ふう、と肩をなでおろす加古。

迎撃することすらできない爆撃機の大群が東京都上空を埋め尽くし、

終末のような核攻撃が降り注ぐ。

そんな悪夢に絶望するには、まだ早いということだ。

 

「だが、それでもミサイルは使い物になるまい。

 せいぜい機関砲で目視攻撃できるのみだろう。戦闘機のみでの迎撃は難しいな」

「じゃあどうすんの。一発でも撃たれたらこっちは致命傷だよ?」

「メックを使う。雪風と私が脱出する時に乗ってきた Ice Wind だ。

 あれならば成層圏の爆撃機にも会敵できる。こちらならミサイル攻撃も可能。

 これにより敵の半数近くを損傷させられれば、あるいは」

 

加賀が冷たい目をしている。

たった一機で爆撃機の編隊を攻撃し、半数に打撃を与える。

現実的だとは到底思えないし、第一、それを誰がやるというのか。

 

「メックパイロットについては、今から選抜を重ねる他はないだろうな。

 しかし、練成をするにも搭乗経験が欲しいが……」

「博士(はかせぇ)」

 

手を上げたのは、雪風である。

どうやら、このおっさんのことを博士と呼んでいるらしい。

おそらく、本名を知っているのだろうが。

 

「雪風は搭乗しましたよね。最大戦速も経験してます」

「いいのか」

「雪風がお願いしたいんです。見てるだけは嫌(や)です」

 

待てよ、と思った加古。

メックは、この日本国においては戦車や戦闘機と同じ扱いになるだろう。

すると、それに乗るのは艦娘の仕事だろうか。

艦娘は軍人ではなく、そして決して軍人になれない。

艦娘に人権を認めるために在日外国人扱いした以上、それは公然の事実である。

雪風がそれを望んだところで、どうにかなるものだろうか。

周囲を見る。同じように思考を進めた艦娘、提督は多いようだった。

少しの沈黙の後、長門が席から立ち上がる。

 

「雪風。お前の望みを叶える手、無くはない」

「長門さん?」

「だが、それと同時にお前は雪風ではなくなる。

 艦娘としてのアイデンティティをその日限り、捨ててもらうことになる。

 それでも、いいのか」

 

雪風が息を呑んだ。

加古にもわかる。どうやら、ただ解体する、ということではないらしい。

艦娘の艦たる本体は艤装であり、艤装の心臓部となるコア部分である。

これが破壊されるか、解体されるかすると、

艦娘から艦が永久に失われ、ただの娘となるのだ。

霊的な能力はほぼ失われ、思い出したように歳を取り始める。

それでも、艦娘が艦娘であった頃の記憶を失うわけでもなし。

共に戦った仲間は解体されても戦友であり続ける。

アイデンティティを失うなどということはない。

しかし長門は、それをも捨てろと言った。

艦娘であったことを、忘れろ、と。

雪風は、少し間を空けて答えた。

 

「なら、わたしはわたしとして戦います。ただのわたしとして。

 それが雪風の望みです」

「……そうか」

 

ならば何も言うまい、と長門は軽くかぶりを振った。

それから、助に向き直る。それでうまくいくのか、と目でたずねた。

 

「心配するな。ここまで言わせたからには、どうにかするのが技術者の仕事だろう。

 練度が低くともどうにかなる武装と手段は、いくつか考えてあるからな」

「頼む。私個人としても、核の炎ばかりは御免だ。

 あれが無辜の人々に向けられるなど……」

 

長門の声は切実で、その原因を求めるのは野暮だった。

助には、それがわからない。時間までも共有しえない異邦人には、それが当然だ。

 

「とはいえ、今が超大国時代の初期であるならば。いずれは炎の夜となるのか」

「なんだ、それは」

「超大国時代を終わらせ、地球のほとんどを死の大地に変えた核戦争だよ。

 時代の全てが過去となった終末戦争が、いずれたどりつく未来なら」

 

言い切る前に破裂音が鳴り響いた。長門が机を平手で叩いていた。

勢い余って、机が真っ二つに裂けていた。

 

「いい加減なことを抜かすな! そんなことは我々がさせん!」

「確かにそうだ。戯言だな。時代を決めるのは、今を導く人間達だろう」

「未来が決まっているというのなら、何もかもが道化だ……

 言葉に気をつけろ」

 

我を忘れるほどの激怒を見せてしまった長門はそれを恥じ、

周囲に頭を下げてから座り込む。

亡命者を非難するような視線を向けていた加賀も、

それに伴い怒気を引っ込めた。

話を再開するぞ、かまわないか。見渡して確認してから、助が口を開く。

 

「すまなかった。諸君らは敗北主義者ではないということだな」

 

まずは一言わびてから。作戦は爆撃だけで終わりではなかった。

爆撃を成功させるための仕込みとして、福島沿岸部への大規模攻勢が

併せて予定されている。これは陽動でもなんでもない。

成功したらしたで、そのまま東京への橋頭堡にするつもりだ。

失敗しても、その期間中、陸上戦力の多数が釘付けにならざるを得なくなる。

そして、もう一方の本命が、山中経由の砲撃部隊である。

日光から佐野を経由するこの部隊はホバー推進式のメック多数からなり、

自衛隊側がすぐさま戦力を展開するなど不可能な山岳を全速力で踏破する。

そしてその機動力と打撃力で自衛隊の抵抗を強行突破して、

都市包囲戦用メックが都心に核攻撃を行う。

 

「もっとも、山中経由の砲撃については、

 私の亡命で破綻したと言っていいだろう」

 

この作戦は、ジャミングによって自衛隊がほぼ完全に無力化されることを

大前提としている。おまけに侵攻ルートが限られる以上、

作戦が事前にリークされれば待ち伏せが充分に可能。

こうなれば無人の荒野を往くが如しというわけにはいかない。

しかし、知らされた以上、自衛隊はこれを狙う敵に対し、

絶対に備える必要がある。

地上侵攻軍の『夜明け』作戦は、以上三つの軍事行動から構成されるのだ。

目を閉じて聞いていた加賀が、率直な疑問を呈した。

 

「同時に三作戦を展開するようなものね。

 敵はどれだけ戦闘を継続できるのかしら」

「そもそもが兵站が無いことに起因する無茶な作戦だ。

 爆撃と山中突破が失敗した時点で退くだろう。

 福島侵攻部隊も、戦えて三日というところ。

 部隊が物資を補給しようにも、周囲すべてが敵地だからな。

 手持ちを使い果たす前に、尻尾を巻いて逃げるしかなかろうよ」

 

だが、と助は以降を強調する。

ゆえに敵は一切手段を選ばない。占領政策などはまるで考えない。

毒ガスや生物兵器の散布など、侵攻ルートを無人の荒野と化すために、

彼らは何でもやるであろう。

これら全てを止めるのは、もはや不可能ごとと言うしかない。

すでに自衛隊にも進言しているが、すぐにでも福島県民は疎開を始めるべきだ。

 

「……なるほどね。あなたの土産は、確かに貴重なものだわ」

「再度言う。これがすべてとは限らんぞ。

 連中はすでに滅亡を目の前にしているのだからな」

 

今の話だけを聞けば、この作戦を頓挫さえさせれば

地上侵攻軍の命運は潰えるように聞こえる。

だが、かといってそれで全てが終わるのか。

どんな悪あがきでも、するのではないか。

加古は考え、そして少し思いついた。

物資豊富な外部勢力の援助を受けたなら、連中はどうなるだろう。

 

「ちょっといいかな、おっさん」

「なんだ」

「連中の中にさ、外と連絡とろうとしてる奴はいなかった?」

「外だと。いや、我々はすでに時代の迷子だ。そう言ったはずだが」

「たとえば、ソビエト・ロシア……」

 

またもや、長門が机を叩き音を立てた。

今度は破壊こそしなかったが、それでも大きな音だった。

 

「ありえる、ありえるな」

 

ソビエト連邦から、深海棲艦による世界恐慌を経て一度はロシアに戻った

かの北の大国は、現在は軍拡路線を隠そうともしないソビエト・ロシアとなり、

ユーラシアの利権独占を狙い東欧諸国に武力侵攻を繰り返している。

そのすぐ南に位置する中華連邦も今やまったくの同類で、

こちらはインド方面を盛んに戦場としていた。

深海棲艦の跋扈により制海権維持のコストが著しく高騰した現代においては、

陸上の支配者がすなわち世界の支配者という思考は、あながち間違いではなかった。

深海棲艦との戦いは衛星国家に押し付けて、自らは流通を支配する。

艦娘時代の超大国のメカニズムとは、これだった。

アメリカ合衆国も、近年成立した統一ヨーロッパも、やっていることはこれに近い。

きわめて多数の艦娘を擁する日本とイギリスは島国ながら

対深海棲艦の尖兵として国際的な地位を保ち、

そのために表立って軍事行動の標的にされることなど無かったのだが、

陸上の超大国がそれら艦娘までも支配下に収めようと考えたらどうなるか。

かの艦娘最右翼、舞鶴の加賀の主張は、それを恐れてこそのものだ。

ソビエト・ロシアや中華連邦が日本に対して介入するなら、今をおいて他にない。

Aegis Overload Luna が知らずとも、周囲を取り巻く超大国の方が放っておかない。

同盟関係を樹立され、外部から物資が豊富に入り込むようになったら、

勝利条件の前提は崩壊する。

なんたる蒙昧な戦略か。

奴らの脅威の技術力を前にして、奴らが弱者の生存戦略を取る可能性を

最初から除外してしまっていた。

そして、このタイミングで大湊の艦娘達の間に広がる不和。

 

「まさか、すでに用意されていた導火線だったのか。大湊も、舞鶴も」

「さすがに宇宙人の登場は予想してないと思うけど。

 帝国海軍の復活だけでも難癖のつけどころだものね。

 つけいる隙を見た瞬間のために用意を整えていたとしても、不思議は……ね」

「くそっ、舞鶴の弩阿呆め。今すぐに解体してピエロに転職させてやるぞ」

 

同席していた提督の一人が立ち、長門に敬礼して去った。

関係各所に連絡に走るのだろう。事実であれば国家存亡の危機だ。

おそるおそる、加古は尋ねる。

 

「あの、黒幕はソビエト・ロシアでいいの?」

「さあな、中華かもしれんし、アメリカかもしれんさ。

 とにかく、外部勢力の介入を未然に潰さねばならん。

 ただでさえ超技術の塊がうろつき回っているんだ」

 

アメリカは未だ同盟国であり、在日米軍こそほとんど撤兵しているが、

アメリカ艦娘の駐留部隊は横須賀を始めとして、それなりにいる。

あちらの艦娘は正式に国籍を得た市民にして、合衆国海軍に所属する兵隊だ。

少なくとも表向きは。

つまり、米国政府の意向を受けて動き回る存在だということ。

ソビエト・ロシア、中華連邦に並ぶ第三の覇権国家を

手放しで信頼することは出来ない。

現在はジ・アース・パーティー、すなわち地球党なる政党の

翼賛体制となっており、地球連邦政府の樹立を標榜しているが、

それは取りも直さず利権の統一運動でしかない。

フリーダム・イズ・デッド(合衆国の自由は死んだ)と声高に叫ぶ

ミュージシャンや著名人も数多く、その中には元艦娘も多数含まれるのが

かの国らしいところではある。

女子ボクシングアトム級全米チャンプのブルックリンなどは、その最たる例だ。

そして、日本に派遣されている在日米艦娘総旗艦は、

アイオワ級戦艦三番艦ミズーリ。

戦場に出れば堂々たるものだが、それ以外で表に出ることを

本人は極端に嫌っているようで、滅多に見かけることはない。

横浜中華街で肉まんを買うのに、変装してこっそり出てきて、

外人墓地で一人食べていたという噂もあるほどだ。

が、合衆国軍人だ。命令とあらば、暗躍はするだろう。

長門が今こうして動き回っているように。

 

「参ったな。どうやら私の戦場は海じゃない。

 根回しの対空砲火を延々続けなければならないな」

「あら。じゃあ41cm砲では何を撃つの」

「食事の場で聞くんじゃあない。目標が汚物なら、砲弾も汚物だからな。

 気分が悪くなること請け合いだぞ」

「それは一大事ね。じゃあ私は制空権を取ってくさいものに蓋をしましょう。

 各個撃破ということね」

「お前も戦艦だったら良かったんだよ」

「戦艦気取りの私なら、一人いるんじゃあなくって」

「汚物は危険物なんだよ。それがわからない奴は願い下げだ」

「と、いうことで」

 

軽口を叩き合った長門と加賀の二人が、揃って加古に振り向いた。

ビクッとするが、逃げ場などない。今ここにいる時点で。

 

「福島方面、全部任せる。他は私達が担当するからな」

「今もっとも新しい英雄、女川の加古。その手腕に期待します」

 

は、はい。

うわずった声で、そう答えるしかなかった。

その後は流れで解散となったが、加古は雪風と共に残る。

遠からず解体されるだろう部下と、ここで何も話さず

別れてしまうことがためらわれたから。

これが懇親会の本来の目的なのだ。

戦略目標を果たさずにトンボ帰りするわけにはいかない。

 

「まずは一献」

「ありがとうございます。提督」

「よしてくんないかな。正直、あたし自身ワケわかんなくてさ」

 

雪風のお猪口に熱燗を注いで、自身も一口すする。

考えてみれば、ゆっくり酒など飲んでいる暇は今までなかった。

旗艦になってから、忙殺を体現した毎日だと思っていたが、

今や驚天動地が具現化した毎日に摩り替わってしまった。

 

「あーあ、なんか遠くに来ちまったよー。一介の警備艦隊の旗艦がさぁー」

「雪風なんか、もうすぐ雪風じゃなくなりますよ。

 それで多分、空を飛んで戦うようになります」

「ギャグだよねーこれ。

 世の中みんなジェットコースターになっちゃって、もう」

 

お猪口が空になると、今度は雪風が加古に注ぐ。

少し上機嫌になり、なれなれしく雪風の頭を撫でる加古だが、雪風も嫌がらない。

 

「全然、構ってやれなかったなーお前のこと」

「ほとんど司令(しれぇ)か球磨さんの指揮下にいましたから。

 接点なかったですよね」

「球磨だからなー、ほっといても大丈夫なんだよな、あいつ」

 

雪風の生存を知るなり、部屋に飛び込んできた球磨を思い出す。

死んだものだと思っていたときは勤めて平常心を保とうとしていたのに、

生きていたと知るや、我を忘れて大はしゃぎする。

翌日には雪風の部屋を準備し始めていた。

 

「球磨は無事だよ。あたしと一緒に、これからもっと忙しくなってもらうと思うよ」

「良かったです。正直、ダメだと思ってて……司令(しれぇ)は」

 

涙ぐむ雪風の頭に乗せていた手に力がこもる。

ぐりぐりぐり、とつむじに掌が押し付けられた。

 

「助けに行くんだよね、お前がさ」

「……はい。はいっ、絶対」

「なんというか、ズルいよ」

「えっ?」

 

疑問符と共に、上目遣いで見上げる雪風に、

加古は鼻を少しすすり、目元をこする。

 

「ホントはさ、愚痴言いたかったんだ。いつもは古鷹にばっかり言ってるから、

 たまには他に漏らしてもいいじゃないか、って」

「加古さん?」

「でもさ。カッコ悪いとこ、見せたくなくなっちゃったよ。お前見て」

「ご、ごめんなさい」

「謝んなって、もう」

 

からから笑いながら、左手で雪風の背中をばんばん叩く。

右手は頭に乗せられたままなので、全身ががくがく揺さぶられる形になり、

雪風は目を白黒させた。

しばらくそうした後、ふいに左手で抱き寄せるように雪風をそばに寄せ、

額をぶつけるような距離で加古は言う。

 

「勝つよ。死ぬなよ。また会おう」

「はい。勝ちます。死にません。また会いましょうっ」

 

互いにお猪口を取り、淵と淵をぶつけて、チン、と音を立てた。

そして、そのまま同時に、一気に呷った。

 




正直なところ、雪風と加古を合流させてしまいたかった。
次回は多分、雪風。図らずも二重主人公に……

Aegis Overload Luna の都市包囲戦用メックに、
主力爆撃機が搭載してる核ミサイルをみっしり詰め込んで
撃ちまくったことがあるのは私だけではないはず。きっとそう。
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