東方白化雪 ~ White wonder wizardry.   作:夢哉

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その24

 

 

目の前に見ることができる少女。容姿としては霊夢さんと魔理沙さんを足して割ったようなものだろう。頭に赤いリボン、そして手には六角二胡を持っている。

 

そしてここがどこであるか、ということがわからない。辺り一面が暗く、しかし相手を視認することができるという不思議な空間に僕たちが立っていた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

霊夢さんと紫さんから新しいスペルを伝授してもらってから幾日、神霊というものが幻想郷中を浮遊していた。霊夢さん、魔理沙さん、早苗さん、そして白玉楼の庭師の妖夢さんがこの異変の解決に向かった。

 

異変は程なく解決された。概要としては遥か昔に眠った聖徳太子を復活させる、というものだった。

 

聖徳太子さんってここにいたんですね。今では存在しなかったとまで言われていましたが、ここにいるとは思いませんでした。

 

そして今日、何も起こりませんように、と六華と一緒に幻想郷を散歩していた。特に目的もなく進んでいたせいか、魔法の森の深層部分近くに来てしまっていた。

 

そんな中で見つけたのが、今目の前にある空間の亀裂。

 

「これって、まずいやつじゃないかなぁ……」

「間違えなく何かあるんじゃないでしょうか。入ってみます?入りましょう?」

「なんでそんなに六華は乗り気なの……」

 

行こう行こう!と目をキラキラさせる六華を見て、思わず溜め息が出る。六華に意外な一面があるということをこんな時に知る事になるとは思いもしなかった。

 

「うーん、入ってみる?」

「はい!」

 

目の前にある空間は、まるで誰かを待ち続けているかのような印象を受けた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

そして入ってみた結果がこのザマである。出口は見当たらず、前へ進むしかないこの空間に無意識に焦りを感じてしまうのは仕方がないと思う。現に、かなり焦ってる。

 

目の前にいる少女はじっとこちらを見続けるだけ。ますますどうしたら良いかわからなくなってしまう。

 

「この空間で力が使えなくなる、ということはないみたいですね」

「うん。そうみたいだね」

 

弾幕を軽く展開させていた六華を見て、ひとまず安心した。無力化されていたらさらに厄介だったからだ。

 

再び目の前の少女に目を向ける。

 

「えっと、僕の名前は水上白といいます。貴女の名前を教えてくれませんか?」

「……冴月麟。ここに来たのはあなたたちが初めてだよ」

 

微笑を浮かべる彼女に、ようやく話すことができた、とほっとした。しかし、現状は変わらない。この空間から出る事ができないのだから。

 

意思疎通ができることはわかったのでいくつか質問をしてみた。

 

Q.なんでここにいるの?

A.気がついたらここにいた。

 

Q.ここはどこ?

A.わからない。

 

Q.どうやったらここから出れる?

A.私を倒せば出れる。

 

「えっと……え?」

「だから、私を倒せば出る事ができるよ?」

「えっと、なぜですか?」

「うーん、わからないけどそうみたい」

「もし倒せなかったら?」

「出れないね」

 

どうしてこうなった。確かに不用意にここへ入った僕も悪いだろうが、これは理不尽なのではないだろうか。

 

腹を括るしかないのだろうか……?

 

「対決方法はなんですか?」

「弾幕ごっこ。たぶん、わかるでしょ?」

 

弾幕ごっこ……ということは、ここは幻想郷内という認識でいいのだろう。

 

「……わかりました。指定は?」

「うーん、残機一、かな」

 

スペルカードを指定してこないということは、無制限だろう。そして残機一ということはかなり厳しい。相手の実力がわからない上にこの空間の特性もわからない。ここをよく知っているあちらが有利だろう。

 

それを踏まえて、勝たなくてはならない。六華のほうへ目を配れば、準備できていると頷きが返ってきた。

 

「準備できた?」

「ええ。それじゃあ、いきますよ」

 

麟という少女の表情は、それはもう嬉しそうなものだった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

弾幕を展開させながら、今の状況を考える。

 

有利でも不利でもない。地の利としてはあちらが有利に立っているだろうが、それでも圧されている、ということはないと思う。

 

「強いね」

「それほどでも!六華!」

「はい!」

「「氷星『クリスタルサテライト』」」

 

かなり力を抑えたものではあるが、それでも今出し続けている弾幕よりは威力があるものだ。

 

「『ネームレス』」

 

―――――名無し

 

そう宣言された直後、周囲に弾幕が展開される。タチが悪いことに、レーザー弾が含まれている。

 

なぜタチが悪いのか。それは回避行動を妨害されるからだ。

高速で展開されていくレーザー弾を掻い潜るのはかなり難しい。……それでも、霊夢さんと魔理沙さんの特訓の成果というものを発揮する事ができる。

 

高速で展開されるのであれば、その速度を上回る速度で回避していけばいい。口で言うのは簡単であるが、できるようになるのに時間はそれなりに掛かった。

 

しかし、あまりにもこの弾幕は―――――しつこい。制限時間がわからないがかなり長く設定されているのだろうか。

 

「白紙『ゼロへの還元』」

 

この際仕方がない。能力を使い、弾幕を消していく。だが、それを許してくれる相手ではないらしい。

 

「風花『華鳥風月』。……頑張ってね」

「え?……!」

 

宣言した後、麟の姿が見えなくなった。

 

「耐久スペル……ですね。どうしますか、マスター」

 

花鳥風月、という言葉から創り出されたのであろう、このスペルはその名に恥じないスペルを展開させている。もし弾幕ごっこをしていなければ眺めていたいスペルであるが、それ故に、難易度が高い。

 

さっきのスペルを見て、麟はかなり力を持っているのだろう。あれだけの弾幕を展開させ続けていたのだから。

 

「このスペルの制限時間はそれなりに長いと思う。だから時間まで弾幕を相殺し続ける。六華、手伝ってくれないかな?」

「もちろんです」

「ありがとう。それじゃあ、いくよ!雪符『ホワイトアウト』!」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

スペルが展開されてから1分が経過した頃。ようやく制限時間に届いたようだった。再び現れた麟は、少し驚いた表情をしていた。

 

「……すごい。強いんだね、白たちは」

「正直、危なかったです。六華がいたからなんとかなりましたよ」

「……私はきっと、白たちと違う」

「それはどういう意味でしょうか?」

 

思っていた事を六華が訊ねてくれた。僕たちと違う、というのはどういうことだろうか。確かに、この空間は幻想郷内にしては異質な場所だと思う。だけど、そんな場所はここにはいくらでもある。

 

そんな中で、麟の展開したスペルや、言動を思い出してみると、彼女が言うように確かに違和感を持つ点はある。

 

“気がついたらここにいた”

 

これは、僕と同じパターンなのだろう。しかし、僕はこんな場所で生まれていない。だが、彼女は幻想郷内にあるのに、そこから隔離されているかのような、この空間で生まれた。

 

次に、「ネームレス」というスペル。名無し、や匿名、という意味を持つスペルであるが、こんなに異質なスペルは今までに見たことがなかった。

 

「言葉通りの意味だよ。……次で決めるよ」

「……僕も次で決めます」

 

互いに一枚のスペルカードを掲げる。あちらを見ると、微笑んでいた。

 

「『イヴェンチュアルドリーム』」

 

これは……

 

「霊夢さんと魔理沙さんのスペル……?」

 

「夢想封印」と「マスタースパーク」。まさにそれを複合したスペルだった。

 

「マスター!!!」

「わかってる!」

 

なんで彼女が使えるのか、それは後でいい。

 

「『スノースパーク』!!!」

 

全身全霊のスノースパーク。負けるわけにはいかない。押し切ってやる。

 

「っ!……本当に、強い」

 

そう呟いた麟は、嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

押し切った。ああ、勝ったのか。

思うように動けない。それでもほんの少し残っている力を使って体を動かす。

 

「これで、いいでしょうか?」

「…うん。この先に出口を開いたから、そこから外に出られるはずだよ」

 

もう息を整えられたのか、何事もなかったかのように返答してくれた。僕なんかまだ倦怠感があるのに……

 

「あの、もう一度質問していいでしょうか?」

「?」

「あなたは誰なんですか?」

「私は……生まれ損ね、かな」

「だから、霊夢さんや魔理沙さんのスペルを使えたんですか」

「その人たちはわからないけど、たぶんそうだと思う。でも」

 

そう区切り、再び微笑みを浮かべて、

 

「私は白と六華に会えてよかった」

 

どうやらここへ来てしまったことは、悪いことだけではなかったみたいです。そして麟が、頭につけているリボンをとって、僕に渡してくる。

 

「お守りにして欲しい。受け取ってくれる?」

「……もちろんです。ありがとうございます」

「うん。それじゃあ、ついてきて」

「はい」

 

ここがどこなのか、少しわかった気がする。たぶん、ここを出たら麟に再び会うことは……ないだろう。そんな、漠然とした予感がした。だからこそ、彼女はこの形の残るものをくれたのだろう。

 

「マスター?」

「ああ、うん。行こう」

 

しばらく進んでいると、ようやく光が見えてきた。そして出口の横に並ぶようにして、そこへ立った。

 

「ここを通れば、入ってきた場所に出られるはず」

「わかりました。……ありがとうございました」

 

先程よりも驚いた表情をしたが、その後には再び笑ってくれた。

 

「私も会えてよかった。また会う機会は―――――」

 

ないだろう。だけど、それは絶対ではない。

 

「あるかもしれませんね。その時はまた」

 

と、六華が話した後に、麟も

 

「……そうだね。…またね」

「ええ。また会いましょう」

 

手を振り合い、出口へと進む。その時、麟が何かこちらへ向けて呟いているように見えた。

 

“楽しかったよ”

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

外に出てみれば、時間は既に夕暮れだった。アリスさんの家へ戻れば、いつもと変わらずにおかえりと言ってくれた。そして、

 

「そのリボンはどうしたの?」

 

手に握ったリボンを見て、今日あった事を思い出した。こんな経験、幻想郷(ここ)でしかできないだろう。

 

「いただきました。名無しさんから」

「……まあ、いいわ。あなたたちのために作り直すからそれを貸してくれないかしら?」

「…えっと、リボンはその……」

「あら?さらに可愛らしくなると思うわよ?」

 

ええ……男なんだけどなぁ……。でも、六華は嬉しそうだった。

 

……また、冴月麟という少女に遇えるかどうかはわからない。ただ、生きている間には、もしかしたら遇う機会があるかもしれない。また一つ、生きていく理由が増えた。

 

そして、アリスさんが作るリボンを苦い笑みを浮かべながらに待ち続けた。




こんなに長くなるとは思いもしませんでした!
今回は没キャラとなってしまった冴月麟を出しました。読み方は何通りかあるのでルビは振りませんでした。

弾幕ごっこの描写は未だに苦手です…頑張らなくては。

それでは、次回もお楽しみに。
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