提督ニ捧グ巡恋歌   作:サッドライプ

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第2話は、正体バレバレのロリおかん、雷です。

まあ、ダメ提督製造するまでもなくこの鎮守府にはクソ提督しかいないんですが。





 司令官の寝室のドアを開ける。

 

 時刻はマルロクマルマル、まず間違いなく司令官はまだ寝ている時間帯。

 ノックはしない、声も掛けない、勝手に開ける鎮守府の立てつけの悪いドアが軋む音で司令官に不快な目覚めを提供しないことだけには注意する。

 

…………部屋に何の断りも無く入れる―――司令官が寝ているかどうかは関係ない―――のは、鎮守府最古参の艦娘であるわたし、雷の特権であり密かな優越だった。

 その権利を行使して、今日も朝一番に提督の寝顔を見る至福に浸る。

 

「しれーかん、今日もぐっすり………ふふ、かわいいっ」

 

 そこそこに質のいい、戦時中である今ではすっごくぜーたくなベッドに身を埋める司令官の横に手をついて、彼の体を上から覆い被さるようにして覗き込む。

 あどけない、と言って差し支えない寝顔―――普段の荒々しい言動、戦闘に何よりも価値を見出す凶暴性と裏腹に、外見だけなら司令官は線の細い優男だ。

 まあ艦娘との繋がりで重要視される、すなわち〈提督〉である資格を有するかどうかは、昨日司令官が金剛を通じて受けたような“魂の痛み”に対する反応と、何よりそもそも艦娘と繋がれるかどうかだから外見は関係ないし、生まれも運動能力も品性も倫理性も重要視されてなんかいない。

 

 格闘訓練も礼式作法や戦術理論の勉強もしないでいい………そんなものが深海棲艦相手に何の役に立つ。

 必要なのは、ただ艦娘という名の兵器(ぼうりょく)を操る力のみ。

 

 『寝転がっているだけで女任せで戦争が出来る御身分』。

 その寝転がっているだけのことが出来ない一般士官が資質によって“提督”を名乗れる司令官達に対して言うお決まりの陰口だけども、一面真理でもあった。

 その陰口自体には一顧だにする価値もないけれど、ただ私はこう思う。

 

 

 もし司令官がずーっと寝転がってるだけだったら、それはとても素敵なことよね。

 

 

 だって司令官が自分で何もしないってことは、代わりに彼が生きる為に必要なもの全てをわたしが世話してあげないといけないんだから。

 食欲性欲睡眠欲、物欲支配欲征服欲嗜虐欲幸福欲快楽欲、おいしいものが食べたい気持ちよくなりたい眠っていたいあれが欲しいレイプしたい何もかも思い通りにしたい気まぐれに誰かを傷つけたいあったかい場所でぬくぬくしていたい気持良ければ何でもいい、そんな司令官の欲望全部ぜんぶぜーんぶわたしが世話してあげないといけないんだから!

 

「くすくす…………しれーかん、わたしがいるじゃない」

 

 とろとろと、甘く、司令官の欲望の器がすべてこの雷で満たされる至福を望む欲望を乗せた声が、囁きとなって眠っている司令官の耳に這入りこむ。

 侵入して、侵蝕して、彼の見ている夢まで届くといいな。

 

 世間一般の基準で言えば、司令官は品性がなく粗暴、社会不適合のダメ人間らしい。

 でもわたしは全然そうは思わないわ。

 

 だって――――雷がいないと生きていけない“ダメ人間”じゃないんだもの、司令官。

 

 ああ、ああ。もどかしいわ、悲しいわ、苦しいわ。

 

 

 

「だからね?もーっと、わたしにたよっていいのよ?」

 

 ねえ、助けてしれーかん。

 

 

 

 ぐい、と。

 勢いよく引っ張られて、軽く小さな体がベッドに堕ちる。

 

 抱きすくめたのは司令官で―――にやりと笑みに歪んだ眼が、見上げたすぐ近くでわたしを犯していた。

 

「じゃあとりあえず――――ヤらせろよ、雷」

 

 いつから起きてたんだろう。

 そんなどうでもいい疑問が現れてすぐに押し流される。

 

 求められてるんだもの。

 起き抜けの働かない頭で、起き抜けの昂った性欲に突き動かされて。

 司令官が、わたしを求めてるんだもの。

 

「ぁ――――」

 

 承諾の返事も訊かずに、わたしの服を乱暴に剥いで行く司令官。

 いきなりのことに、女としてのわたしの準備が………出来てないなんて、そんな訳ないじゃない。

 

 

「くすっ…………わたしにまかせて、司令官。なんだって、してあげる――――――――」

 

 

 応える私の表情も、司令官に負けないくらい反社会的な、淫蕩な歪み方をしていただろう。

 

 

 

 

 

 でも。

 

 司令官に抱かれる快楽の絶頂の中で、わたしは思う。

 

 わたしが本当の意味で司令官を満たせることは未来永劫無い。

 だって彼の原初の欲は“闘争欲”。

 殺意を持って傷つけあうこと、自分に痛みを与えてくる相手を叩き潰し、踏みにじる快楽こそが彼を彩る真実。

 

 それに対して、この身は艦娘とは言え駆逐艦。

 役回りとしては、金剛や榛名のように高い火力で正面切って相手とぶつかり合うものでは断じてない。

 条件さえ整えば、格上の相手すら一方的に蹂躙する瑞鶴のような能力も無い。

 夕立のような外れてイカれた存在にも―――あれを艦娘だとは個人的に絶対認めない―――わたしはなれない。

 

 その意味では、私は負け犬だった。

 司令官の唯一(しんじつ)には絶対になれない、司令官の身の回りをお世話をして時折慰み者になるだけの下賤な端女がいいところ。

 

 それでも、胸の内で張り裂けんばかりのこの想いを、睦言として放つ。

 

 

「愛してるわ、しれーかん………」

 

 

 例え那由多の果てを超えても叶わぬ愛だとしても、それを知って尚どんなに応えて欲しいと望んでも。

 見返りなんて、求めてはいないのだから。

 

 提督は、そんなわたしをただ性的欲求だけでいつものように乱暴に汚した。

 気持良くて、とても幸せだった。

 

 

 

 

 

「…………なんか忘れてる気がする」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

 至福の時間から少しだけ落ち着いて、司令官の腕枕でほんわかした暖かさを堪能する。

 そこまで頑張ってはなかったと思うけど、朝日がもうすっかり昇って窓からわたしたちを照らしていた。

 そろそろ皆が起き出してくる時間、だろうか。

 

「んー?」

 

 ふとソナーと違う人間のような艦娘(わたし)の聴覚が、どたどたと廊下を走る音を捉えた。

 それは、すぐに大きくなって何やらこの部屋に向かって一直線に進んでいるようで――――、

 

 

「おはよう、提督さ―――、―――――」

 

 

 勢いよく扉を開けた瑞鶴が、ベッドでいちゃついてる司令官とわたしを見て、元気よく挨拶を最後まで言い切れずに固まる。

 

「あ、そっか。今日は昨日の作戦でMVP取った瑞鶴が司令官といちゃいちゃする予定だったかしら?」

 

 言いながらわたしは、締めに一段と司令官に密着してあごを擦りつけたあと、ベッドから降りて放り投げられた服を拾っては着直した。

 気だるさもあってゆっくりした作業。

 やってる間になんとなく瑞鶴の神経を物凄い勢いで逆撫でしている行為だなあと思ったけど、その間に予想していた怒声や罵声、悲鳴に恨み声は欠片もない。

 

「……………んー?さすがに反応なさ過ぎるけど、ショックのあまり気絶してるの、瑞鶴?」

 

「あ?雷、お前知らなかったのか?“瑞鶴の生態”」

 

「ああ、これが」

 

 納得と共にわたしはまじまじと瑞鶴を観察した。

 好きな人に会いに来た乙女の笑顔のまま――――時間を凍らせたみたいに固まりきっている瑞鶴を。

 

 リアルな彫像と言われても納得するかもしれない。

 きゅぅ、ひっ、きゅぅ、ひっ、と締まった声帯を空気が通過するだけの気持ち悪い呼吸音が彼女が生きて動く存在であることを示す唯一の証拠だった。

 それでも再び動くことはないだろう―――――わたしがこの部屋を出て、瑞鶴と司令官が二人きりになるまでは。

 

 まあこの状態を長く続けて悦に浸る悪趣味も持ち合わせていないので、わたしは一度だけ司令官と苦笑を交わすと暇を告げて寝室を後にした。

 

 

 ドアを閉めた瞬間、後ろから瑞鶴の“溌剌とした元気な挨拶”が聴こえてくる。

 

 

 

――――おはよう、提督さん。今日はとてもいい朝ねっ!!

 

 

 

 元気な、でも想い人に向ける愛情がちょっとだけ艶になって含まれているのが分かる声。

 とてもとても上機嫌そう、“愛する人と二人きりで朝からいちゃいちゃするんだから当然”だから?

 

 不快極まりないだろう部屋に充満していたわたしと司令官の情事の残り香も、瑞鶴は認識しない。

 認識しないから、提督さんが他の娘といちゃいちゃしているという不快な現実も“存在していない”。

 

 

「『大好き、あなたしか見えないのっ!』なんて。

――――――ある意味この上無く幸せなんでしょうね」

 

 

 なんて都合のいい頭と記憶をしているのか。

 世界に自分と愛する人しかいない、なんて幼い少女の妄想を綴ったような甘ったるい物語が、瑞鶴という艦娘の“生態”。

 どう考えても醜悪なそれが。それでも。

 

「いいなあ………」

 

 わたしには、少し羨ましかった。

 

 




…………ブラックサンダー(ぼそっ

 いや、なんでもない、なんでもないですよ?

 ということでお察しの通り“堕落誘引(もーっとわたしにたよっていいのよ)”雷ちゃんの話でした。
 本人も言っている通り、戦闘狂という外的欲求の強いここの提督と彼女の相性は最悪です。

 まあそんな理屈で気持ちを抑え込むようならヤンデレなんてやってないし、相手も相手で雷にとってはご褒美ね!なクソ提督であるのも事実だし、という残念な現実。
 そしてそれ以上に残念な子の区分も明らかになりまして。

 次回、“排他無望(あなたいがいなんのかちもない)”瑞鶴話。

 そんなに待たせはしないと思います。…………たぶん。

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