雪風と氷碧眼《ディープフリーズ》   作:LR-8717-FA

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CALL.11 "覚醒、誓い"

「う…………」

 

 タバサが重い瞼をこじ開けて最初に目にしたのは見慣れた天井、学院女子寮の自分の部屋の風景である。

 

「ここは……確か私はあの時…………」

 

 ぼやーっとする頭を抱えたままタバサは体を起こしてベッドの端にぺたんと座り込む。

 フーケ討伐の完遂と夜に行われたフリッグの舞踏会、その最中で自身が望んで行ったウラヌスとの闘い。

 完膚なきまでに叩き伏せられ己の情けなさに打ちひしがれていた矢先、突如として起こった体の異変。

 高熱と多量の鼻血を出して意識を手放したその後の自分がどうなったかはわからないが、あの時のことが嘘のように今の自分の体調はすっきりしている。

 決闘でのダメージは残っているが、少なくとも熱は感じないし鼻も特に変わった所は無い。

 

「目が覚めたか? 悪いが勝手に運ばせてもらった。あのままあそこで倒れたままでは俺も困るしな」

「貴方が……」

 

 と、数秒もしない内に声をかけてきたのは、タバサから見て右側の壁に寄り掛かっていたウラヌス。

 本人が言うように、意識を失ったタバサのことを彼女の自室まで運んでいたのはウラヌスであった。

 

「……ありがとう」

「礼などいらない、そんなことよりもアンタには話しておかなくちゃいけない重要なことがあるからな」

 

 一応のお礼も一蹴しながらウラヌスはスタスタとタバサの方へと近づいていき彼女の正面に立つ。

 タバサもそれを受けてベッドから立ち上がり、ウラヌスと向かい合う形になる。

 タバサにしても今の自分の状態を含めて聞きたいことが山ほどあり、目の前の男はきっと自分の知りたい情報を知ってるのだろうという根拠のない確信さえも浮かんでいる程。

 

「アンタが目覚めた以上、俺もこのまま知らぬ存ぜぬというわけにはいかなくなった。これから話すことは別に他言するなとは言わないが、それでもある程度弁えた方がいいだろうな」

「……貴方がそう言うのなら、それだけ重要なこと?」

 

 タバサの瞳をジッと見つめるウラヌスの瞳もまた普段と変わらぬ無機質で冷たい物。

 だが、短いながらも最も同じ時、同じ場所で行動していたタバサには今のウラヌスが持つ異質の空気を感じ取っている。

 念には念を入れ、タバサはウラヌスのすぐ傍らに立てかけておいて自身の杖を手に取り、自分の部屋の中を指定してサイレントの魔法をかける。

 これでよほどの手練れのメイジが聞き耳でも立ててない限りは、部屋の中の会話が外部に漏れることは無い。

 

「聞かせてほしい、目覚めたとはどういう意味?」

「率直に言おう、アンタはPSIの力に目覚めたんだ。昨日の鼻血と高熱はその初期症状、俺も見るのは初めてだったが」

「……? サイ?」

「言ってしまえば俺の持つのと同質の力がアンタにも備わったということだ」

「……!!!」

 

 そして直後、ウラヌスが語った内容はタバサのこれまでの人生の中でも十指に入るであろうレベルの衝撃的な内容であった。

 PSI、と呼ばれるそれがタバサにとって何なのかはただ言われただけではわかる筈も無いが、それがウラヌスの持つ力と同じというキーワードが加わるだけで話は一気に変わってくる。

 ウラヌスにしても自分で言っておいて半信半疑ではあったが、それでも前日のタバサの不調はそれ以外に考えられないと結論を出している。

 本来は自分たちが支配していた崩壊世界の大気を吸うことによって起こる感染症状のようなものの筈だったが、それと全く同じことがタバサに起こっていた。

 何より、ウラヌスが今のタバサに感じている物、本当にほんの僅か微弱な量でしかないが、魔力とは違う自分の持つ物と同じ力の循環。

 

「少々長い話になるが、聞く気はあるか?」

「詳しく、今の貴方が話してくれること全て、余すことなく私に教えてほしい」

「……いいだろう」

 

 結論を提示した上での確認、それに対してタバサはいつもとはまるで違う熱の篭もった声でウラヌスに先の説明を要求している。

 もし彼女の親友であるキュルケもこの場にいたとしたら、これ以上ないくらいに困惑や動揺を浮かべていたことだろう。

 それほどまでに今のタバサの持つ真剣さは、普段の無感情な彼女とはかけ離れたものだったのだから。

 

「PSIってのは人間の脳をフルに活用して引き出す思念の力と言われている」

「思念……私たちの使う魔法に近い物?」

「根底は同じかもしれないが、それを証明する術は無いからそこは置いておいてくれ。そもそもPSIは俺のいた場所の古代の人間なら誰しもが使っていたらしいが、時の流れで負担の大きいその力を危険視し、脳にリミッターをかけることで封じ込めるようになったらしい」

「……そのリミッターが、私の脳の中にあったそれが昨日のあの時に外れてしまった?」

「話の飲み込みが早くて助かる」

 

 部屋の中で直立不動、視線を全く逸らすことなく会話を交えていく2人。

 感情を隠しきれずに高揚していくタバサは勿論、必要以上のことは決して話そうとしなかった筈が今までにないくらいに饒舌なウラヌスもまた珍しい。

 口にしてはいないがウラヌスが推測していることは、タバサが自分と最も長く共にいたことが原因だろうということ。

 全盛期より力は衰えてはいるが、それでもウラヌスの持つPSIの力は最高クラスの物。

 一度力を振るえば大気諸共周辺の空間を氷結させるくらいの力を発揮することができる。

 それだけの力を発揮する自分のPSIに当てられて、本来はあの崩壊世界でなければ開くはずの無かったリミッターが無理やりこじ開けられたのだろうと、

 ウラヌスはそんな風に考えていた。

 

「話を続ける、脳の機能をフルに発揮して使われるPSの力でできることは多種多様だ、身体能力の強化からアンタ達の使っている魔法みたく、何もない場所から炎や風を発生させたりとな」

「虚無や先住のような?」

「虚無ってのはわからないが、翼人や吸血鬼の連中が使っていたのと同じことくらいなら使い方と応用次第でいくらでも可能だ」

「………………」

 

 一端会話が途切れ、タバサは視線を落として自分の両の掌を見つめ始める。

 熱の篭もった口調はそのままに、タバサは心の中の興奮が強まる一方であった。

 理由はどうあれ、今の自分はその強さと人となりをもっと知りたいと願ってやまなかった目の前の男と同じ力を身に付けている。

 ハルケギニアでは強力とされる先住の魔法、それに匹敵する、あるいはそれすらも超えることができる力に目覚めたのだと。

 その事実だけでも、タバサにとってはこれ以上ないくらいの物なのである。

 

「尤も、人間が生まれた時点でリミッターをかけるような代物だ。力量を顧みずに無茶な使い方をすれば昨日の様な鼻血や頭痛、最悪脳が潰れて死に至ることもある」

「貴方がそういう風になった姿は見たことが無い」

「そんじょそこらの雑魚と一緒にするな、これでもPSIの扱いには長けている」

 

 わかってはいたが、やはり目の前の男はどこまでも規格外なのだろうということをタバサは再認識する。

 ハルケギニアのメイジが使う魔法であれ何のリスクも無くいくらでも使えるわけではない。

 自身の持つ精神力という容量の限界が存在しており、それが切れれば過度の疲労と共に魔法は使えなくなる。

 故に、タバサからしてもPSIにそれだけのリスクが伴うことくらいは十分に予想の範疇であった。

 

「PSIの資質や限界は個人によってよりけり、アンタがどれほどの力の持ち主かはわからないが……まあ、説明よりも実践で試した方が早いか」

 

 言うなりウラヌスは部屋の隅にあった本棚の一つから適当に一冊本を取り出してテーブルの上に置く。

 タバサがそちらに視線を向ける中、ウラヌスは何をするでもなく無言で力を集中。

 すると、テーブルの上の本が誰の手にも触れられていないにも関わらずフワリと宙に浮かび上がったままピタリと動きを止める。

 しばらく何が起こるでもなく本は静止したままで、ウラヌスがPSIの行使を止めると同時に重力に引かれてまたテーブルの上へと戻っていた。

 

「これがテレキネシス、アンタ達の使う魔法で言うところのレビテーションに近い。基本中の基本という意味ではこれが最適か」

「基本中の基本……」

「力に目覚めたばかりのアンタでもこれくらいは出来る筈だ、逆にそれすらもできないんじゃここから先を説明する価値も無くなる」

 

 言われてタバサは益々瞳に込める感情をより真剣そのものな物へと変えて、先程ウラヌスが浮かばせたテーブル上の本を真っ直ぐに見つめる。

 とはいえ、これくらいはできると言われても具体的にどうすればいいのかがタバサにはわからない。

 同質と言われたレビテーションの魔法もまた、ハルケギニアの中では風属性の基礎中の基礎の魔法。

 それですらメイジには媒介とする自身の杖無しでは1ミリたりとも動かすことは叶わないだろう。

 

「目を閉じて集中しろ、さっきも言ったがPSIは思念の力、アンタが目の前の本を動かすことをイメージしてそれを投影すればどうとでもなる」

「…………ッ……」

 

 似合わないアドバイスまで送るウラヌスの言葉をすぐに咀嚼し、硬く目を閉じてタバサは意識をより強く集中していく。

 目の前の本を動かす、やろうとしていることはレビテーションの魔法と全く同じ、使う力が異なるだけ。

 本を操る具体像を浮かばせ力を込めていくと、タバサは自分の脳がざわめき始めたのを確かに感じていた。

 そのざわつきに身を任せるままに更に意識を本を動かすことへと向け、明確なイメージと共に閉じていた目を見開き解放する。

 

「…………!!」

「ほう、初めてにしては上出来だな」

 

 視界を取り戻したタバサが見たのは先程ウラヌスがしていたのと同じように、テーブルの上の本が宙を舞う光景。

 そのまま意識を切り替えれば、浮かんだ本はタバサのイメージしたとおりに右へ左へと舞っている。

 ウラヌスからすれば児戯にも満たない基礎の基礎の基礎といったレベルではあるが、それでも現時点での及第点は十分超えていると判断している。

 

「く…………ッ……!!」

 

 が、しばらくの間本の操作を行っていたタバサは突如として頭を手で押さえてフラリと後ろへ下がってしまう。

 すぐに踏みとどまったので倒れることは無かったが、その最中にPSIは途切れてまた本は地面に落ちてピクリとも動かなくなる。

 

「さっき俺の言ったことがよくわかっただろう? 目覚めたての段階ではこの程度のことでも脳は過剰反応を起こす。より強い力を使いたいのなら、鍛錬と実戦の積み重ねしかない」

「うん…………」

 

 脳が直接熱を帯びるような奇妙な感覚の下、息を多少荒げながらもタバサはウラヌスの方へと向き直って返事を返していた。

 レビテーションの魔法を使ってなら何時間単位で自在に本を操れただろうに、PSIの力を使ってでは1分も持たないのが現状。

 だがそれでも、タバサは確かな充足と未知への期待に心の震えを更に強めている。

 強くなる為に努力を重ねるなど昔も今もしていること、強くなるための手札が一枚増えたという事実だけでもタバサには十分すぎる事実。

 今はヒヨッコだろうとそれを実戦で使えるまで磨き続ければいいだけのことだとそのように考えていた。

 

「今のテレキネシスのように、PSIを外的な力として発生させるのが"バースト"だ。俺の氷碧眼(ディープフリーズ)がそうだし、アンタの使う風や氷の魔法も似たようなモンだろう」

「……あれだけの力を負担無く使えるようになるまでに、貴方はどれだけ長い時間を要していた?」

「悪いがそこはまだ話す必要が無い。さっきも言ったが才能と鍛錬の時間次第だ。俺と同等は流石に無理だろうが、その辺りはアンタの心がけ次第とだけ言っておいてやる」

 

 脳の熱さが和らいできたのを感じた所での、説明に対して投げかけられるタバサの質問であったが、ウラヌスはそれに関しては明かさない。

 資質や才能の差が大きいとは言うが、そもそもウラヌスはPSIの力を研究する過程で人工的に生み出された実験体の1人。

 あらゆる人間としての常識、要素を犠牲にした結果手にしている力なのであるのだから、

 たまたま力に目覚めたばかりのタバサがそこに到達するには、生まれ持っての才能だけではとても足りないことなど当たり前であろう。

 

「次に腕力や脚力、五感を始めとする感覚器官、自然的な治癒能力などの身体機能を活性化させるのが"ライズ"だ。戦闘に直結するって意味じゃこれが一番だろうな」

「貴方が見せた力やスピードも、そのライズによるもの?」

「俺は素のスペックもそこそこあるが、まあ、基本的にはそうだと言っておく」

 

 ウラヌスの力の真骨頂が氷結能力とはいえ、それだけが全てじゃないということはタバサも理解していること。

 魔法も使わずに一跳びで遠く離れた距離を跳躍し、翼人や吸血鬼といった種族相手にも全く遅れることなく先を行く反応。

 そういった常人離れした戦闘でのスペックが、今言ったライズの強化によるものなのだと。

 実戦に身を置き続ける者として、タバサは魔法の腕前だけでなくそれ以外の力も、いやそれこそが重要なのだと思っている。

 魔法にだけ頼りきったメイジが辿る末路など、それこそあの決闘の時に見たギーシュやヴィリエのような情けない物なのだから。

 

「そして最後、これも説明するよりは使った方が手っ取り早い」

「……?」

(さて、聞こえるか?)

「!!……な、何、今の?」

(アンタの脳に直接思念を送っている。このテレバスの様に人間の内側に働きかける力が"トランス"だ。アンタの知る中では吸血鬼が使ってきた眠りの魔法が近いな)

 

 肉声で会話していた筈のウラヌスの声がいきなり脳に直接響くような形で聞こえてきたとあって、またしてもタバサは驚愕に目を見開いていた。

 バーストの基本がテレキネシスであるように、トランスの基礎中の基礎がこのテレパス能力である。

 

「とまあ、今言ったバースト、ライズ、トランス、PSIの力はこの3つに大別されている。そのどれを得意とするか、どれを磨くかもまた個人個人の違いだ」

「つまり貴方は、その内のバーストとライズを得意としている」

「そうだ。トランスも全く使えないってわけじゃないが、バーストである氷碧眼(ディープフリーズ)を基本に、ライズの身体強化も合わせた感じだな」

 

 考えればすぐにわかることとはいえ、タバサの飲み込みの早さは相変わらずだとウラヌスも評価を高めている。

 一点に特化した力を持つ者がいれば、全ての力を万遍なく高いレベルで行使する者など、PSIの力の使い手は本当に多岐に渡る。

 W.I.S.Eという組織がそもそも戦闘能力に特化した集団である以上、必然的にバーストとライズに力の使い方が傾いていたということもあるが。

 

「自分の得手不得手は力を使っていく内に自分で勝手にわかっていく。がまあ、小手先の技や派手さばかり気にするくらいなら、まずはライズを鍛えて基礎能力を高めておく方がいいだろう」

「わかっている、武器は出来る限り多い方がいい。身体能力だけで魔法の力を超えられるならそれに越したことは無い」

「だろうな、アンタには言うまでもないことだったか」

 

 杖を使わない異なる力、それだけでもハルケギニアでは相当な脅威となることはウラヌスと共にいたタバサだからこそより深くわかっていること。

 先住魔法とすらも根本から違うその力を自分も手にしていることにタバサは期待と、それに匹敵する自制の心を強めていく。

 力を手にする者にとって一番の脅威となるのが慢心、力に溺れたままでいれば予期せぬ者に足下を掬われ呆気なく敗れる。

 魔法が絶対的なアドバンテージになっているハルケギニアでも、非常にレアなケースではあるがゼロというわけでは無い。

 何よりもタバサが強みになるだろうと思っているのは、この力の正体を現時点で知る者はハルケギニアに殆どいないだろうということだ。

 貴族=メイジが平民に対して強みに出れるのは魔法が使えるからであるが、その魔法は自分も含めて杖を手にしているからこそ行使可能な力。

 つまり言ってしまえばその杖を失ってしまえばメイジは平民と何ら変わりのない存在でしかない。

 杖が無ければ魔法は使えない、先住と同じ相手の意表を突ける絶対的なアドバンテージを有効に使うことも考えなくてはいけないのだと。

 

「それともう一つ、特にバーストは初期段階で明確なイメージを決めてから鍛錬をすることだ。具現化するイメージが強力で複雑なほど脳への負担もデカい。あれもこれもと余計なことを考えて居れば早死にするだけだからな」

「明確なイメージ……」

「要はアンタが強くなりたいと考えていることを、力としてどう表現するかってことだ。俺にとってのそれが氷碧眼(ディープフリーズ)だということだ」

 

 尚も続けてアドバイスをくれるウラヌスの言葉を十分に焼きつけながらタバサは思考の海へとダイブする。

 ウラヌスのイメージが形になって力として現れているのがああいった氷結や氷の銃、氷の槍なのだろうと。

 では、自分が思い描く強さ、力は何なのだろう?

 今まで自分が磨いてきた強さは魔法、風と水、その組み合わせによって生み出される刃や鎚、氷の槍や吹雪といった力の使い方。

 それだけではなく体格の小さいことを活かした小回りと速度を重視して、敵を確実に倒すために訓練をしてきた。

 身体能力を使っての技能はライズで鍛えればいい、では自分がバーストでイメージし作り出す物は……

 

「まあ、1日2日で劇的に変わる事なんぞ期待はしていない。アンタがどうなるかはそれなりに時間をかけて見させてもらう、説明はこれで全部だ。何か聞いておきたいことはあるか?」

「……2つだけ。まず今言ったバースト、ライズ、トランス、その3つの内のどれかを使っての他者に対する治癒や治療といった行為は可能?」

 

 と、その最中でウラヌスが言ってきた纏めと質問事項の確認。

 自分から質問を促すことなどやはり今までには絶対に無かったウラヌスに戸惑いながらも、タバサは解消しておきたいことの内の1つを切り出す。

 3種の力をベースにハルケギニアの魔法を遥かに凌駕する応用性と選択肢を持つPSI。

 ならばそれを使えばあるいは、治療が困難な毒を消すこともできるのではないかと。

 

「流石に目聡いな。さっきも言ったがライズは治癒能力の向上効果もある、それをバーストの形で他人の肉体に放出して治療に使うCUREという力があるのも確かだ」

「キュア……」

「が、俺からすればあれは普通のPSIとは違う才能がいる上に扱いが繊細だ。自分から望んで鍛錬したところで中途半端な使い手にしかなれんだろうし、俺からしてみれば無駄な使い道だ」

「そう…………」

 

 流石にそこまで都合よくはいかないかと、わかってはいたがそれでもタバサは多少の落胆を見せる。

 CUREの使い手というだけで、PSIの力の使い手の中でも限られた存在であり、その行為能力者ともなれば更に一握りのレアケースとなる。

 極めるだけ極めていけば心臓と脳を除いた殆どの肉体組織を再生可能というレベルにまで到達することもできるだろうが、

 それだけの力を使えるとなれば己のPSIを全てCUREを使うことに特化させなければいけなくなる。

 ただでさえ扱いが難しいことを考えれば時間がかかりすぎるし、ウラヌスとしてもせっかく見つけた相手がそのようなことに力を割くことは望んでいなかった。

 

「で、もう1つの聞きたいことというのは何だ?」

「何故貴方は、これほどまでに懇切丁寧にPSIの使い方を私に教えてくれた?」

 

 ずっとタバサが説明の続く最中で疑問を抱き続けていたこと。

 お互いの関係というのもあるが、ウラヌスはタバサが何を問うても基本的にそれに答えを返すことは殆ど無かった。

 それは、ウラヌスが持ちタバサが目覚めたPSIの力に関することであっても、である。

 だというのに今日のウラヌスはタバサに対してこれ以上ないくらいに饒舌、今まで隠してきていたPSIに関しても基本事項を中心にその殆どの情報を明かした形になっている。

 タバサからすればせっかく手にした新しい力の使い方、鍛え方を初期の段階で明確に示してくれたというだけでも非常にありがたいことなのだが、

 それを今までずっと沈黙を貫いてきた男、ウラヌスが自分から積極的にしてきたということに疑問が尽きなかったのである。

 

「成る程、アンタが疑問に思うのも無理はないか。ならこっちも率直に言わせて貰おう、それはアンタが俺にとって特別になったからだ」

「特別……でも私は、貴方と同じ力を手にしたとしても、それでも貴方の存在理由になるだけの力なんて持っていない」

「現段階での話だろう? 俺からすればアンタがPSIに目覚めたというだけでもそこそこに嬉しい誤算だったんだよ」

 

 ウラヌスが求めているのは闘いそのもの、現状ではその渇きを満たすだけの存在には程遠いということは昨日の決闘でタバサ自身も涙を零す程にわかったことだ。

 魔法の力を扱うメイジ、より詳しく言うのなら系統魔法の使い手たちと闘ったところで、ウラヌスからすれば完全に戦いと言える相手がいるか疑問を抱き始めていた所ですらあった。

 自分が知る中での最上、トライアングルクラスの魔法と数々の実戦で養ってきた実力を持つタバサですら満足には至らない相手。

 バーストに近い系統魔法はトライアングルでも自分のバーストには遠く及ばず、スクウェアになった所で劇的に跳ね上がるわけでもあるまい。

 身体能力に関してもハルケギニアの魔法で直接的にそれを上げる魔法は無く、基礎クラスのライズにすら届かない。

 つまりどれだけ魔法を鍛えても、人間の枠組みの中で体や技を鍛えようとも、ハルケギニアの常識の枠組みの外にいる自分と闘えるだろう者はほぼ皆無。

 ならばこそ昨日考えていたように闘いの相手を求めるならば人ではない、もっと強力な人外の者たちを探さなくてはと考えていた程だったのだが、

 

「アンタの強さを求めてるって考えは俺も知っている。アンタがその心のままにPSIを鍛えていけば結構な使い手にはなると俺は踏んでいる」

「私が……貴女と同じ強力なPSIの使い手に?」

「せっかく見つけた希少な同類だ、使い方もろくに知らずに自爆して潰れるのを見てるのも惜しい。だから俺はアンタにPSIの使い方を一から説明してやったんだ。俺自身の為にもな」

 

 だが、時間をかければそれに値するだけの相手になるかもしれない対象がすぐ側にいるというならどうか?

 しかもそれが現時点で自分と最も関わりが深い、これまでもそれなりに闘える相手を彼女自身含めて自分に呼び込んできた相手である。

 本気の自分にはまるで届かない相手でしかないが、逆を言えばPSIの力も無しに自分がそこそこ感心できるだけの実力をタバサは既に持っている。

 ならば、そこに至るまでの努力と精神を、今度はPSIの力を鍛えていくことに傾けていったら彼女はどうなるのか?

 PSIの力は個人の資質、才能によって委ねられる部分も大きいがそれでも全くの無駄になるということもあるまい。

 まして説明の途中で挟んだテレキネシスの使い方を見るに、タバサは一定以上のPSIの才能が備わっていることもわかっている。

 魔法の力と強さを求める貪欲な姿勢、自分と同じ在り方の少女が漏らした己の本心。

 その全てを合わせて感じ入ることがあったからこそ、ウラヌスはタバサにPSIの力の詳細を教える気になっていたのである。

 

「無論、今後もアンタの任務にも付いていくし、俺が闘うに満足する敵を探すということも変えるつもりは無い。が、アンタがPSIの力を強めて俺の本気に近づくというなら、それは俺にとって何より俺にも望ましいことだ。だからこそ、そういう意味でもアンタは特別だ」

「私が特別……貴女にとっての特別……」

「母親を守るだの復讐だの、アンタの強くなるための理由についてはどうでもいい。アンタが強くなり、俺と十分に戦えるだけの力を身に付ければ俺はそれでいい」

 

 タバサがそうであるように、ウラヌスもまたタバサと共に過ごし彼女のことをそれなりに理解していたからこそ導き出した結論。

 普通とは違う異質な力の持ち主を任務という形で呼び込むタバサに加わった新しい価値、いずれ自分と闘うに相応しい実力者になるかもしれないという僅かな期待。

 タバサと一緒にいる新しい、それも今まで以上の大きな意味をウラヌスは見出していたのである。

 

「……ありがとう」

「おかしな奴だなアンタも、わざわざ礼を言うことの程か?」

「それでも貴方は、私が知りたいと思った貴方が私のことを特別と言ってくれた、それだけでも嬉しい」

「勘違いしないでもらいたいが、アンタはPSIに関しては素人以下だ。この先の進み方次第で今日の期待も軽く覆ることをわかっておいてくれ」

「無論。私もこの力を無駄になんてしたくない」

 

 結局はどこまでも己の目的に沿ってのことでしかないウラヌスの答え、それでもタバサはその言葉に確かな喜びを感じていた。

 何の打算も意図も無く、純粋に自分の力を認めてくれているというだけでもタバサにはそれが嬉しかった。

 自分が呼び出し圧倒的なまでの力を持ち少しでも近づきたいと、その本心を知りたいと繋ぎとめたいと思った相手、ウラヌス。

 完全な偶然とはいえその男に関心を示される力を、自分の目的の為にも大いに役立つPSIという力をタバサは手にした。

 それだけの代物、タバサにとっても非常に重要な意味を持つ力であり、それを無碍に扱うつもりなど全く無い。

 

「私は強くなる、貴方と同じ力、PSIの力を磨いて……そしていずれは貴方と闘えるだけの強さを手にすることを誓う。だから、これからも共に居てほしい……ウラヌス」

「ああ、期待させてもらうとしよう」

 

 ある意味での本当のスタート、使い魔として呼んだ筈の相手、力にしか興味が無かった筈の相手との本当の始まり。

 それを噛み締める様にタバサは僅かに笑みを零しながら初めてウラヌスのことを名前で呼ぶのであった。 

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