結論から言ってしまえばタバサ、キュルケ、ウラヌスの3人はそれほどわけなくルイズたち一行に追いつくことに成功していた。
対象の進路が順調そのものであったとしても、タバサのスノーウインド・ドラグーンの速度を考えれば十分追跡可能範囲内だったのだが、
それに加えてルイズたちが道の途中で足止めを食らっていたということも大きかった。
「あのねえツェルプストー、これは極秘の任務なのよ!? アンタなんかお呼びじゃないの!!」
「あら、相変わらずねヴァリエール。せっかく窮地を助けてあげたって言うのに、感謝の1つも無いなんて」
で、突然の宿敵の登場に声を荒げるルイズにそれを涼しい顔でいなしているキュルケというお決まりの光景が出来上がってもいた。
率直に言うとルイズたちは突如として襲撃してきた野盗の集団に応戦をしていた。
そこに丁度タバサ一行が到着と同時に各々で魔法や能力を行使、あっという間に蹴散らしてしまっていたのだ。
野盗の男たちは口々に文句を言いながらも身体を縛られて身動きが取れず、側にいるギーシュが尋問を始めようとしていた。
「まあアンタのことなんかどうでもいいのよ、お髭が素敵な紳士様? 情熱はお好きかしら?」
ルイズを弄り倒すのもそこそこに、早速キュルケが目を付けたのは羽帽子に黒いマントを纏い、レイピア型の杖を腰に携える立派な髭を生やした魔法衛士隊の隊長。
キュルケが王女の来訪時からマークしていたジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵である。
「手助けは感謝するがあまり近づかないでくれ、婚約者に要らぬ誤解を与えたくないのでね」
「ええっ? よりにもよってあの子の婚約者? ふーん……なーんだ……」
キュルケのアタックなどまるで意に介さずに興味無さげに呟くワルドはルイズの方に視線を促していた。
何を隠そう、彼は魔法衛士隊隊長というエリートの肩書きだけでなく、由緒正しい血筋を持つ名家ヴァリエール家の三女であるルイズの婚約者でもあったのだ。
キュルケからしても結構な爆弾発言だったのだが、その意味を理解するなりワルドへの熱が急速に下がってつまらなそうに離れていった。
「……アンタの親友にしてはやけにあっさり引き下がったな?」
「彼女は他人の1番は狙わない、命のやり取りになることを嫌うから」
側にいたウラヌスでさえ珍しい物を見たといわんばかりにそんなことをぼそりと呟いていた。
返答するタバサの言うキュルケの信条は、タバサがキュルケと親友になるキッカケの事件にも関連のある事だったりする。
「ああでも! 本当は貴方のことが誰よりも心配だったのよダーリン!!」
「今の流れで臆面も無くそんなこと言えるか普通?」
そのキュルケはと言えば人目も気にせずあっさり気持ちを切り替えて満面の笑顔でサイトに抱きついていた。
普段なら少しくらいは狼狽えているサイトであったが、流石に他所の男にちょっかいかけた直後にこの態度では胡散臭さしか感じていなかったようだ。
キュルケはキュルケでそんなサイトの態度をヤキモチと捉えて更に抱擁を強めていたりもしたのだが。
放置されたルイズはと言えば、残るワルドと見つめ合っていつもの高圧的な態度とは程遠い乙女な空気を醸し出している始末。
合流直後の一行の空気は何やら色々と混沌としたものになっていた。
「子爵、あいつらはただの物取りだと言っていましたが」
カオス空間から唯一離れていたギーシュが戻ってきて尋問の結果をワルドに伝えていた。
初撃のが矢による攻撃であり、メイジもいなかったことからこれから向かう先であるアルビオン側が仕向けた戦力でも無いのだろう。
となれば、本当にたまたまルイズたちを狙っただけの野盗だったということで。
「ならば捨て置いても問題はあるまい、このままラ・ロシェールに向かって一泊し、明日の朝にアルビオンへと向かう」
方針の決定を伝えてワルドはルイズと共に再び使役しているグリフォンへと跨る。
流石にこれだけの人数がいる前でPSIを表ざたにしたくないとしたタバサはサイトたちが乗ってきた馬の1頭を借りてキュルケと共に使わせてもらうことにした。
ウラヌスはウラヌスで気にした様子も無く、ディープフリーズを解除してライズの肉体強化による脚力で一行に付いて行く。
*
日も完全に沈みきった時間帯、ルイズたち一行は無事にとりあえずの目的地である港町ラ・ロシェールへと辿り着いていた。
ここから出向している船に乗り最終的な目的地であるアルビオンを目指すことになる。
「港町と聞いたが見た所ここは山地のようだが」
「だよなあ……海岸っぽいのがあるような雰囲気でも無し……」
到着するなり疑問を述べるのはハルケギニアの人間ではないウラヌスとサイト、この時ばかりは意見が一致しているようだった。
両脇を溪谷に挟まれ光が灯っているラ・ロシェールの港町、その周辺に船そのものや海らしき物が見えるとは到底思えなかったから。
港町、というワードを耳にして一般的に浮かべるのがそういった風景なのだから無理も無い話なのであるが。
「あんた何言ってんの? アルビオンは浮遊大陸よ、ここから飛行船に乗って向かうんだから当然じゃない」
「そうよダーリン、ウラヌス。まさかアルビオンのことも知らなかったの?」
前を歩くルイズとキュルケが振り向きながらサイトとウラヌスの疑問に返答していた。
サイトは当然、これにはウラヌスもほう、と声を漏らして多少なりとも興味を示しているようだった。
常識など粉々になった崩壊世界に長くいたとはいっても、流石に大陸そのものが浮かび上がっている国というのは、
(……あの男なら出来るか)
と、そこまで考えた時点でそれとほぼ同じことを人為的にやってのけるだろう人物に心当たりを付けてしまったりもしていた。
「どうやら船は明後日にならないと出航しないようだ」
「急ぎの任務なのに……」
と、その段になって船頭から話を聞いて戻ってきたワルドの言葉と、それを聞いてあからさまな落胆の色を見せるルイズ。
何でも明日は月が二つ重なる『スウェルの月夜』と呼ばれる日で、その翌朝がラ・ロシェールとアルビオンの距離が最も縮まるからという理由によるらしい。
そういうわけで一行はこの港町で夜を明かすことになり、貴族専用の宿である「女神の杵亭」で部屋を取ることになった。
部屋の確保をしたワルドの右腕に握られている鍵束、そこにぶら下がっている部屋のカギは3つ、その範囲内で部屋割りをすることになったのだが、
「僕とルイズは同室だ。婚約者同士だし、いいだろう?」
「だ、ダメよ! だってまだ結婚すると決まったわけでもないのに……」
最終的に決まった部屋割りがキュルケとタバサで一室、サイト、ギーシュ、ウラヌスの男3人で一室、残りがワルドとルイズ。
涼しい顔してサラリと言ってのけるワルドに対し、ルイズは耳まで真っ赤にしてそれを拒んでいた。
側にいるサイトでさえそうだそうだ! と声を荒げている。
しかし、ルイズとサイトの態度を見てさえワルドは全く気にするそぶりも見せずに首を振っていた。
「僕はルイズに大事な話がある、だからここは譲っては貰えないか」
「ワ、ワルド……でもっ……て、きゃ!!」
言うだけ言ってワルドは渋るルイズをお姫様抱っこの形で抱きかかえ、残りの鍵を置いてからさっさと自分たちの部屋へと行ってしまっていた。
呆然と見送るしか無い他メンバーの内、いくら婚約者だからって何だアイツ、などと言わんばかりにサイトの顔には不満が溢れている。
尤もそれ以上にサイトを不機嫌にしていたのは、されるがままのルイズの方も満更でも無さそうということだったのだが。
「う、うむ……いつまでも文句を言っても仕方あるまい。ここは子爵の好意に甘えて――――」
「部屋ならお前たち2人で好きに使え、俺には必要ない」
「――って、ちょっと君? もしもーし」
長時間の乗馬でクタクタなギーシュの言葉にはとっとと部屋のベッドで横になって休みたいという気持ちがありありと表れている。
そんなギーシュの言葉もお構いなしに、ウラヌスはくるりと背を向けて外へと行ってしまった。
元より纏まった睡眠は必要なし、興味など微塵も抱いていない人間2人も同部屋で一夜を明かすのはごめんだったのである。
*
夜なのに未だ明かりが爛々と輝く雑多な港町の中をウラヌスは1人歩いている。
別に極寒の地でも無いのに全身を隠すようなロングコートとマフラーという出で立ちをしたウラヌスのことを、道行く人々は奇異の目で見ていたりもしたが、
有象無象が自分のことをどう思おうがそれこそウラヌスにとっては些末なことでしかない。
「別段、目新しい物があるわけでもなさそうだな」
ハルケギニアに呼ばれてそれなりの日が経っているとはいえ、まだまだウラヌスが立ち寄っていない場所は数多い。
というよりタバサの立場上の関係で、足を運んでいるのは殆どがガリア国内の任務地。
トリステインに限っても一応の拠点となっている魔法学院とその周辺くらいしか散策したことは無く、ラ・ロシェールも初であった。
その他主要国家であるゲルマニアやロマリア、今回の目的地であるアルビオンもまたウラヌスにとっては未知の領域。
まだ見ぬ土地に思いを馳せるとかそういうわけではないが、その先にまだ見ぬ自分に並び立つ強者がいる可能性もあるかもしれないと考えれば少しはマシに思えてくる。
「……考えれば考えるだけおかしなもんだ、あの世界にいた頃を思えば今の俺は何をしているやらだな」
唐突に歩を止め夜空を見上げるウラヌスの視線の遥か先には地球とは異なる双月が今日も地上を照らしている。
崩壊した世界を駆け回って出来損ないや実験型の禁人種を狩ったり、反抗勢力を潰すために力を振るったり
同じ星将のメンバー達と手合せしたりと、激動の世界に相応しい自分としての生き方を送っていたと言える。
そして闘いの中で死に場所を見つけ他と思った矢先、今もまだ自分は生きており新たな世界であるハルケギニアで闘いを求めている。
とはいえ召喚して間もなくの時にも思ったことであったが、やはりあの崩壊世界と比較すればこのハルケギニアは平和そのものと言える。
W.I.S.Eのような絶対的な統治組織も無ければ、荒れ果てた大地に禁人種の様な怪物どもが闊歩しているわけでも無い。
これまでも翼人や吸血鬼、ミノタウロスといった異形の者たちと闘ったことはあるが、そういった連中もこの世界では例外的存在として位置するのだと。
総合して言うならハルケギニアという平和な別天地に自分がそこそこ順応している現状自体が、昔の自分からすれば異質と言えるのである。
「やあやあそこのお兄さん、どうかねおひとつ?」
(毒された、とは違うんだろうな。少なくとも不快には思わん)
陳列された商品を勧めてくる露天商の呼びかけもお構いなしにウラヌスは再び歩き始める。
闘いと強さの探求が己のほぼ全て、そうだった筈の自分があれこれ考え込みながら夜の町を歩いているという現状。
町という概念自体存在しない崩壊世界は愚か、力を隠し闇に潜んでいた10年前までの自分ですらありえなかったこと。
しかもそういった行動に疑問を抱くことなく自然に振る舞えているということもウラヌスにとって大きな変化の1つ。
その変化を悪いことだと、不愉快に感じるようなことだとも思わないからそれもまたウラヌスからすれば不思議な気分だった。
「おいおい、随分と小奇麗な格好してるじゃねえか? ちっとばっかし俺に――はぼばっ!?」
「……がまあ、考えた所でやることは変わらないがな」
道を塞ぐように下卑た笑いを浮かべながら立ちはだかった荒くれ者を裏拳一発で近くの店の外壁に付き飛ばしながら尚も進んでいく。
日本政府の手駒としての自分、政府にすら追われながら只管に宿敵を負い続けていた自分、W.I.S.Eの将として闘いに明け暮れていた自分。
そのどれとも違うのが今の自分、ウラヌスという自分の姿であり、それに対して答えの見つからない自問自答を繰り返すばかり。
では今の自分は何者なのか、どのように変わってしまったのか、そんなことを考え出しても答えなど見つからないと結論付けてウラヌスは一端思考を切り替える。
自問自答という行為そのものが自分にとって異質ではあるが、だからといって今までの自分の在り方まで変化しているわけではない。
自分が求めるのは闘い、自分に匹敵する強者と闘い強さを求めること、それは今後自分がどう変わろうと揺らぐことの無いウラヌスという自分の根底なのだから。
「……こんなところで何をしているの?」
「そっくりそのまま返させて貰おうか、アンタこそ寝たんじゃないのか?」
「なかなか寝付けなかったから散歩、それでたまたま貴方に出会った」
「そうか」
町外れに差し掛かったところで反対側から姿を現したのは、自分のことをこの世界へと呼び寄せた張本人であるタバサ。
特に気にした様子も無くウラヌスはまた歩き続けその後ろからタバサが続いていた。
今では唯一特別とみなしている召喚主、思えば闘いを求めるために彼女と行動を共にするようになってからもそれなりに時間が経つ。
そもそも今回のルイズ一行の追跡に関しても自分とは接点の薄いキュルケがしようとしていたことを、心配だからタバサも付いて行くと言い出し、更にそこに自分が加わるという形で参加している。
一応の説得は受けたが望む闘いが確実に起こるかの保障すらも無い場所へと赴くことを良しとしたのも、やはりタバサという存在がいたからこそ。
言ってしまえばそれだけタバサの持つ力への期待だけではなく、タバサ本人に対する何らかの思いが生じているのだとも言える。
ウラヌスにとってはそれが何なのかはわからないし、知ろうという気も無かったのだが、
「……だがまあ、それも悪くない、か」
「どうしたの?」
「独り言だ」
嘗て地下水との闘いの際にも自覚した、自分にとって特別な誰かが存在していることに対する感情。
それもまた良しとしながらウラヌスは呟き、反応を示したタバサと共に夜の街をふらついていた。
*
適当な時間が経った後にタバサは女神の杵亭の自分の部屋へと戻り、ウラヌスもまた散策を続けている内に朝がやって来る。
それほど広くも無いので夜の内に一所町の様子も見終えたウラヌスはタバサの元へと戻ろうかと考えていた。
「ん? ここにこんな場所があったのか」
その矢先、ウラヌスがたまたま足を踏み入れていたのが女神の杵亭の中庭。
樽や空き箱が雑多に詰まれているそこは、石でできた旗立て台も置かれている嘗ての兵士たちの練兵場として使われている場所だった。
「昔、かのフィリップ三世の時代には、ここでよく貴族が決闘したものさ。王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った、古き良き時代……。名誉と誇りをかけて、貴族たちは魔法を唱えあった。 でも、実際は下らないことで杖を抜きあったものさ。―――そう、例えば女を取りあったりね」
「はあ」
そしてその場所に姿を現したのはウラヌスだけではない。
続けてやってきたのは歴史と伝統を重んじる得々とした騙りを披露するワルドに、異世界人故にそれを興味無さげに聞いているサイト。
両者がそれぞれ得物を用意していることをすぐさま見抜き、ウラヌスは2人が何をやろうとしてるのかを察していた。
「おや先客がいたようだね、君は確かあの学生たちの――」
「俺のことは気にするな、やりたければ勝手にやれ」
紳士的な振る舞いの下で話しかけてきたワルドに対しても、やはりウラヌスは普段通りに淡々と答えていた。
サイトの方は見込みなど無いが、その相手であるワルドは魔法衛士隊隊長というこの世界ではトップクラスのエリートだという話を聞いている。
つまり、ワルドもまた自分が興味を持てるくらいの強さは持ち合わせているかもしれないと、この場で観察することを決めていた。
「……来いって言うから来てみたけど……ワルド、一体なにをするつもりなの?」
「って、何でルイズも来てんだ?」
「立ち会いにはそれなりの作法というものがあってね、彼女には介添え人になってもらうように言っておいた」
と、ワルドとサイトに続いて息を切らせながらルイズもその場に駆け付けていた。
事の詳細を知らされずに呼ばれていたルイズからすれば寝耳に水な出来事だったようで、どうにも乗り気じゃない様な雰囲気であった。
そんな婚約者の姿を前にしてもワルドは少しも余裕の態度を崩していない。
「馬鹿なことは止めて、今はそんなことをしている場合じゃないことくらいあなたならわかるでしょう?」
「残念だけどねルイズ、貴族というのは強いか弱いかはっきりさせないとどうにも止まれなくなるのさ」
「もう!! サイトも、そっちのアンタも何か言ってやってよ!!」
見ていられないといわんばかりにルイズがサイトとウラヌスにも声をかけるが、
サイトは己の武器であるインテリジェンスソード、デルフリンガーを構えたまま答えない。
少し離れた場所で2人を見つめているウラヌスも、ルイズの言葉は完全無視であった。
「俺不器用ですから、手加減とかはできませんよ?」
「構わんよ、全力でかかってきたまえ」
互いに自分の実力に絶対的な自信を持っているだろうことが窺えるやり取りである。
その直後、デルフリンガーを前に向けるサイトに呼応するようにワルドがレイピアを引き抜いて決闘が開始される。
真正面から一足跳びで一気に距離を詰めながら斬りかかるサイトの一撃を、ワルドはすぐさまレイピアを構えて受け止めてみせる。
刃と刃が互いに交わり、チキチキと音を鳴らしながら火花が散っていく。
しばらくは拮抗状態が続いていたが、やがてワルドの方から後ろに下がって距離を取ったかと思えば、直後にサイト目掛けて突きの連打が繰出される。
レイピア型の杖という形状に沿った攻撃ではあるが、その手数、速度、1発ごとの威力、どれもが魔法衛士隊の隊長を張るだけある鋭い物。
慌てながらもサイトはワルドの連続攻撃を切り上げた剣によって払うことに成功していた。
「魔法使わねえのかアイツ?」
「錆び錆びのお前を見て舐めてんじゃねえの?」
己の得物であるデルフリンガーと軽口を叩き合うサイトであるが内心では焦りが一気に強まっていた。
攻撃こそ防いだものの、その一撃だけでワルドの実力は段違いだということを悟っていたのだ。
ガンダールヴのルーンを発動している自分すらも手玉に取って見せる強敵、それがワルドなのだと。
「言うだけのことはある、しかし魔法衛士隊のメイジというものはただ魔法を唱えるだけではない、あらゆる行動、事象を戦闘に特化させているんだ」
対照的に余裕の程を保ったままのワルドは羽帽子に手を掛けながらそんなことを言っている。
低く身構えながら風車のように回転しながらのサイトの攻撃をもレイピアで軽くいなし、それでいて呼吸一つ乱れていない。
側で介添え人として決闘を見守っているルイズはハラハラしながら固唾を飲み込むばかり。
単純な観客としてその場にいるウラヌスは眉1つ動かさずにジッと視線を固定している。
「くそっ!」
「伝説のルーンを持つ君は確かにただの平民とは思えない実力を持っている。だがそれだけだ、速さに身を任せただけの素人の動きでは本物のメイジ、騎士には勝つことなどできない」
焦る気持ちばかりが先走る単調なサイトの突きの一撃を回避してから背後を取り、ワルドはレイピアの柄でサイトの後頭部を殴りつける。
脳を激しく揺さぶられるダメージにサイトは倒れ込んでしまうも、すぐさまバネの様に体を跳ね上げながら剣を切り上げてワルドを狙う。
それすらもワルドにとっては十分予測の範囲内、背後にジャンプをして距離を取り直撃を許さない。
「つまり、君ではルイズを守ることなどできないのだよ。デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ――――」
「いけねえ相棒、来るぞ!!」
すぐさまサイトの方へと肉薄するワルドは、さっきまでとは比較にもならない突きの嵐をサイトにお見舞いしていく。
防戦一方で受けるがままのサイトに対して警告するデルフリンガーの叫びに、低く詠唱を織り交ぜていたワルド。
やがて完成したワルドの風の魔法がサイトの体をデルフリンガーごと容赦なく吹き飛ばし、背後にあった樽の山を崩しながら叩きつけていた。
剣を手から離してしまったサイトは痛む体を起こしながら拾おうとするも、その前にワルドがデルフリンガーを踏みつけに死ながらレイピアの切っ先をサイトに向けていた。
「勝負あり、だ」
「サイト!!」
どこか得意げな雰囲気すらも感じられるワルドの勝利宣言。
完全な敗北を突きつけられて動けないサイトの下に、慌ててルイズが駆け寄っていく。
「わかったろうルイズ、彼では君を守れない」
「だって貴方は魔法衛士隊の隊長でしょう! 強くて当たり前なのに!!」
「例えそうだとしてもこれから向かうアルビオンでも敵を選ぶつもりかい、私たちは弱いから杖を収めてくださいと」
「それは……でも……」
敢えて厳しい言葉をぶつけてくるワルドにルイズは何も言えなくなる。
側でそれを聞いているウラヌスでさえ、言っていることの理屈は間違ってはいないと感じている。
敵わない敵を前にして自分は無力だから見逃してほしい、などという理屈がまかり通るわけなどまずあるまい。
力が無ければ自分の身すら守れないのだからそんな体たらくで他人を守ることを考えるのはおこがましいのだと。
「行くよルイズ」
「でもサイトが……」
「しばらくそっとしておいてやった方がいい、男とはそういう生き物なんだ」
呆然と倒れ込むままのサイトを尚も心配するルイズを引き連れて、ワルドはさっさとその場からいなくなってしまった。
サイトはと言えばワルドの最後の攻撃で生じた額の傷から流れ出ている血を拭おうともせずに呆然自失状態である。
(やはりこっちのガキは所詮この程度、あっちはまあ、なかなか見込みがありそうだ……が……)
残ったウラヌスはと言えば今行われた決闘と両者の実力に関する自分の考えを整理している。
サイトに対してはやはり予想通り、ワルドも言っていたように速度はそこそこでも動きが素人では話にならない。
あの程度では自分は勿論、タバサが闘っても何の得にもならないだろうと判断。
一方で、ウラヌスにとって興味があるのはやはりワルドの方である。
1つの部隊を率いる隊長の名は伊達ではなく、レイピアによる剣捌きや回避に際する判断力などもなかなかのレベル。
魔法に関しても剣技に織り交ぜながら確実に命中させられるタイミングを見極め、それでいて威力自体も研ぎ澄まされている。
ハルケギニアのメイジにありがちな、魔法を絶対視して足元を掬われる馬鹿の類ではなく、
タバサと同じ魔法は武器の1つに過ぎないとしっかり認識している洗練された戦士の1人だと判断していた。
タバサが闘うのも自分が闘いを仕掛けるのもいいと、それだけの実力はワルドにはあるだろうと初見でかなりの高評価だったのだが、
「……目的は知らんがどうもな。余計な雑念が透けて見える」
弄ぶかのような戦闘の運び方に、必要以上にサイトのプライドを傷つける言葉選び、
わざわざ婚約者という立場にあるルイズにまでそれを刻み付けるかのような態度。
実力そのものは高レベルであるのに、余計な感情が混じりすぎなことがウラヌスにはマイナスポイントであった。
言葉上では相手の純粋に力量を知りたいようなことを言っていたが、あれだけ余計なことを口走れば別の意図があるだろうことくらいすぐにわかってしまうこと。
何よりも、サイトに負けを宣言した時に見えたワルドの濁った瞳、その裏にあるだろう感情を考えればワルドを今後味方と思うこと自体が、間違いなのかもしれないと。
「……まあ、そうなったらなったで都合がいいのかもしれん」
ルイズ一行にとっては不安要素と成り得ることも、自分個人には寧ろ好都合でしかない。
やはり根底では自分の目的こそが主であることを崩さぬままに、ウラヌスもサイトを無視してその場を後にした。
心境の変化を事細かに書くというのがかなり難しい。