雪風と氷碧眼《ディープフリーズ》   作:LR-8717-FA

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CALL.2 "ゼロ"

 夜の夕闇が薄れ始め辺りが段々と明るくなってくる早朝の時間帯。

 前日に2年生の生徒による使い魔召喚の儀が行われた学院の一画にある広々とした草原。

 そのほぼ中央に1つの影、タバサに召喚されたウラヌスがジッと佇んでいる。

 本来なら昇りかけの朝日だろうと、イルミナス・フォージを受けたウラヌスには致命的な猛毒となる筈だったが、

 やはり肝心のイルミナの核が停止している影響か、ウラヌスは日の下にいようが何の異常も感じていない。

 

「……ディープフリーズ」

 

 そんなウラヌスがロングコートとマフラーに覆われた口元で一言つぶやきながら右腕を前に突き出す。

 直後、何も無かった筈のウラヌスの右腕に握られているのは氷で構成された1丁の銃。

 何の躊躇も無しにウラヌスはその銃から数発の弾丸を発射。

 放たれるのは銃と同じ氷の弾丸、それらが草原の一地帯に直撃すると同時に、周囲を瞬時に凍てつかせる。

 ハルケギニアで言えば水と風の属性を掛け合わせることで発生させる、修得難易度が高いとされる氷の魔法、

 その更に限られた術者でも相当な練度を積まねば起こせないような氷結をウラヌスは容易く起こして見せていた。

 

「やはりな、理由はわからないが機能を停止している以上、イルミナの恩恵にはあやかれないということか」

 

 尤も、この結果はウラヌスにとっては予想通りであり、不満の残るものでもあった。

 イルミナはリスクが大きい反面、施術に無事成功した際における利点も非常に絶大。

 栄養摂取の不要化や老化の抑制、それにPSI能力の純粋な何倍もの強化がもたらされる。

 イルミナス・フォージを行ったウラヌスも当然、本来の能力を更に強化されていたのだが、

 ハルケギニアに召喚され、どういうわけかイルミナが停止してしまっている故に、自身の能力も施術前の物へと大幅に減少してしまっていたのだ。

 

「まあ、この世界の環境を考えるに、こっちの方がまだマシだったのかもしれんがな」

 

 フウと溜息を一つ吐いてからウラヌスが空に浮かぶ太陽の光を見上げる。

 メリットこそ失われているが、同時にそれはデメリットも解消されているということでもある。

 そもそもイルミナの栄養摂取の不要化、老化抑制といった機能は、あの過酷な崩壊世界で生き延びるための物という面も大きい。

 召喚されてから1日足らずでありまだまだ詳しい内情はわからない状態ではあるが、

 それでもあの世界と比較すれば、生きていくという行動に関してはこちらの方が遥かに簡単なことであろう。

 それにイルミナの最大の欠点である太陽光による汚染、それが無くなっただけでも良しとしておくべきなのか。

 ウラヌスにしたって、まともに外も出歩けないのでは闘いどころではないのだから。

 

「さて、このくらいにしておくとするか」

 

 氷の銃を消失させ、次いでウラヌスはライズによる身体強化を発動。

 元の肉体から何倍ものスペックへと跳ね上がったウラヌスは、たった一度の跳躍で学院女子寮の一室の窓へと到達する。

 念の為に簡易的な氷の足場を作り上げてから、部屋主のことなどお構いなしに勢いよく窓を蹴り開けて中へと入っていく。

 

「おはよう」

「ああ」

 

 既に着替えを終えていたタバサも、窓から部屋に飛び込むという行為を行ったウラヌスも、交わす言葉はたった一言だけ。

 コントラクト・サーヴァントのことなど、面倒なゴタゴタは昨日の夜の内にタバサが済ませてあるものの、

 現時点における2人の関係は非常にドライな物でしかない。

 ただお互いがお互いに未知の存在と力に興味があり、それを間近で見たいがために行動を共にすることを承諾しているというだけ。

 

「朝食の後は授業、貴方はどうする?」

「食事は要らん、アンタが終わるまで食堂の外で待っている。授業には一応出させてもらう、魔法とやらを観察してみたいしな」

 

 傲岸不遜、ロングコートの両ポケットに手を入れたまままるで睨むように返答したウラヌスに対してもタバサは動じずに無言でコクンと頷く。

 イルミナの機能が停止してはいるが、そもそもウラヌスは01号こと第一星将グラナと同じ初期のグリゴリ実験体。

 胎児の段階で細胞レベルで遺伝子を弄られており、身体機能は素で常人を軽く凌駕しているのである。

 例えイルミナが無くともウラヌスからすれば、食事を抜いたところで活動には何の支障も無い。

 今のウラヌスが興味を持っているのはこの世界の力である魔法とそれを操るメイジ、その2つ。

 いずれは自身の求める闘いの相手となる者たち、力を見極めるために一度くらいはこの学院で行われる授業を大人しく見ているという考えでいた。

 そんな思惑を抱きながら、ウラヌスは身支度を終えて部屋の扉を開けて廊下へと出ていくタバサの後をついていく。

 

「おはよう、キュルケ」

「あら、おはようタバサ。それに使い魔さん♪」

 

 その途中で廊下で出くわしたのが2人の少女に1人の少年。

 タバサが挨拶をした褐色肌の赤毛の少女、キュルケは実ににこやかな笑みを浮かべてタバサとウラヌスに返事をしていた。

 

「あらあら、人間を召喚したなんて聞いた時にはびっくりしちゃったけど、なかなかどうしてイイオトコを呼んだものじゃないの。貴方、お名前は?」

「ウラヌスだ」

「ふふ、私キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー、気軽にキュルケと呼んでくれてもいいわ。これから仲良くしましょ、カッコいい使い魔さん」

「そのつもりは無い、そもそも俺はコイツの使い魔になったわけでもないしな」

「あらん、意外と冷たいのね。でもそんなクールな態度もス・テ・キ♪」

 

 長ったらしい名乗りに見せつけるかのように開かれた胸元、妖艶な身振りと口調の数々。

 酷い言い方をすればウラヌスはキュルケのことをウザいとすら思っていた程だった。

 少なくとも自分の知る限りでこういうタイプの異性と接した経験はほぼ皆無であったということもある。

 キュルケのお眼鏡に適うイケメンではあったのだろうが、生憎、出生が特殊すぎるウラヌスにはキュルケのアタックは全くの無意味である。

 

「そんなことはどうでもいい、お前もメイジなんだろう? どれだけの実力を持っている」

「私の魔法に興味がおあり? 私は火のトライアングル、激しく燻る恋の情熱の様に全てを焼き尽くす火の魔法の使い手よ」

「ほう?」

 

 めげずに自身の得意とする魔法に付いて自信満々に答えるキュルケの言葉に僅かながらも反応を示すウラヌス。

 呼び出したばかりのタバサもそうであったが、目の前にいるこの女も属性が真逆とはいえ、この世界では優秀の部類に入る力の持ち主らしい。

 何より、操る属性はウラヌスが最期となる筈であった火の使い手だということも興味対象の1つ。

 自分の体を焼き尽くしたあの少女と同じレベルの火を使えるというなら、それも悪くは無いかもしれないが流石にそれは過度の期待か。

 ともあれウラヌスはタバサと合わせて一応の観察対象としてキュルケに意識を向け始めている。

 

「ちょっと!! わたしのこと無視してんじゃないわよ!!」

「あら? パッとしない平民の少年を呼んじゃったゼロのルイズは黙ってなさいな!!」

「何よ!! それを言うならそっちにいるタバサだって同じことじゃない?」

「見た目の時点で勝負は決まってるようなものよ、そっちにいる子とこのウラヌスじゃあねえ」

「……何か勝手に理不尽なことを言われた気がすんだが」

 

 ウラヌスの思考を掻き消す様に割り込んできた怒鳴り声と、その対象をからかうように会話に応じ始めるキュルケ。

 キュルケと言い争っている小柄なピンクブロンド髪の少女がルイズ。

 タバサと同じで人間の使い魔を呼び出してしまった特異者の1人。

 そのルイズの背後で件のもう1人の人間の使い魔である平賀才人は自分の知らぬ所で敗北を叩きつけられてしまったことに不機嫌そうな顔を浮かべたまま。

 

「でもやっぱり、使い魔ならこういうのもいいと思わない? ねえ、タバサにウラヌス?」

「…………」

「ってあらら、どうしちゃったのよフレイム?」

 

 その場にいたのは5人だけではなくもう1匹、キュルケが呼び出した使い魔であるフレイム。

 真紅の鱗にギョロリとした両目、猛々しさを感じさせる火竜山脈から召喚されたサラマンダー。

 火属性の使い手であるキュルケにピッタリのそれは、何故かキュルケの背後にくっついたまま動こうとしない。

 視線の先にいるのはタバサの背後に控えるウラヌス、視線だけで相手を撃ち貫けるのではないかと思えるその冷たい瞳を前にフレイムは言い知れぬ恐怖を感じていたのだ。

 

「ま、召喚されたばっかりだしこういうこともあるのかもしれないわね。それじゃ、食事に行きましょうかタバサ」

「……(コクン)」

「おほほほほほ!! それじゃお先に♪」

 

 燃え上がるような赤毛をサラリと掻き上げてキュルケは勝ち誇った高笑いを見せつけてから歩き始める。

 その後ろをフレイムがちょこちょこと付いていき、更に背後から無言のままタバサとウラヌスが続いていく。

 残されたルイズは散々馬鹿にされたことに憤慨し、サイトはそれを宥めようとするばかり。

 

(……何だったんださっきのヤツ……格好は俺に近い筈だったのに……)

 

 だが、ワガママな主人の相手をしている最中でサイトが考えていたのは別のこと、自分と同じ人間の使い魔として呼ばれたウラヌスという男について。

 同じ境遇の者同士、挨拶の1つでも交わしておこうかなどと考えていたサイトであったのだが、それが出来なかった。

 キュルケの使い魔であるフレイムと同様に、ウラヌスの持つ冷酷な瞳を見た瞬間に言葉を失っていたのである。

 外見はこのハルケギニアと違う自分たちの世界と同じ類の物であるということすら軽く吹き飛ぶだけの恐怖がサイトには刻まれていた。

 そしてサイトにはウラヌスが、自分が暮らしていた世界とすら根本からして違う場所の住人であるということを知ることなど無い。 

 

 

*

 

 

 朝食の最中は自分で言ったように、ウラヌスは食堂の入り口でタバサがその時間を終えるのを黙って待っていた。

 その際に、廊下で出会ったルイズとその使い魔であるサイトとの間でまた一悶着があったのだが、ウラヌスには関係のないこと。

 いつもの調子を崩さずに無表情のまま戻ってきたタバサと、それに随伴するキュルケに連れられるままにやってきた教室の1つ。

 何段にも連なる複数の長机に生徒が座り、部屋のどこからでも見えるように最奥中心部分に教壇が備え付けられている。

 現実世界の大学の講義室に近い作りの部屋であるが、そういった知識はウラヌスには無い。

 キュルケと並んで席に着くタバサの傍らに黙ったまま静止する。

 少し離れた位置には先程のルイズとサイトが同じような体勢でいたが、ウラヌスがそちらに意識を向けることも無い。

 

(それにしても、本当に人間というのは俺とあのガキだけのようだな)

 

 視線だけをちらちら動かしながらウラヌスは生徒が各々従えている使い魔たちに目を向けていく。

 種類も大きさも多種多様で一種独特の風景になってはいるが、ウラヌス自身が聞いていたように生徒以外の人間は自分とサイトという名の少年1人だけ。

 ウラヌスと同様、周囲の生き物たちを物珍しげに見渡しながらサイトは主であるルイズを質問攻めにしていたが、

 対してウラヌスは特に何をするでもなく、一通り観察を終えたら後はまた静止状態に戻るだけだった。

 自分たちの組織が破壊しつくしたあの世界、禁人種と呼ばれる化け物が闊歩するような世界にいたウラヌスからすれば、

 多少の目新しさこそあれど、強い興味を惹かれるような生物はいなかったということ。

 

「皆さん、春の使い魔召喚の儀式は無事に成功したようですね」

 

 やがて教壇に姿を現したのは紫色のローブを纏った中年女性のメイジ。

 温和な雰囲気を纏ったふくよかな女教師の登場と共に騒がしかった教室がしんと静まり返る。

 

「このミセス・シュヴルーズ、こうやって新学期に皆さんの使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」

 

 シュヴルーズと名乗るその女教師がにこやかに笑みを浮かべながら教室一帯を見渡していく。

 と、そこで目に留まったのはやはりというかルイズとその傍らにチョコンと立っているサイトと、タバサの側で控えているウラヌス。

 

「おやおや、ミス・ヴァリエールとミス・タバサは変わった使い魔を召喚したのですね」

 

 恐らくは何のいとも悪意も無い、純粋な興味から発した言葉だったのだろうが、

 シュヴルーズの一言をキッカケにして再び教室内がどっとざわめき出す。

 飽くまでも無言のままでいるタバサとウラヌスに、によによと笑みを浮かべるキュルケを除いて、

 教室内の注目の的となっているのがルイズとサイトであった。

 

「魔法が使えないからってその辺にいる平民を連れてくるなよゼロのルイズ!」

「違うわ、コイツはちゃんと私の魔法で召喚したのよ! 私だって誰が好き好んでこんな平民なんかを!」

「嘘吐け、サモン・サーヴァントが上手くいかなかったんだろう!」

「そんなわけないでしょ!! 第一、平民を呼んだって言うならそこのタバサだって同じじゃない!!」

「自分の失敗を誤魔化そうとするな、ゼロのルイズ!!」

「くっ……!! 先生、かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱しました!」

「なっ……僕はかぜっぴきじゃなくて風上だ!!」

 

 後に続くのはルイズを馬鹿にする小笑いから放たれた、マリコルヌと呼ばれた小太りの生徒の罵倒。

 顔を真っ赤にして反論するルイズの反論によって言い合いは火が付きヒートアップ。

 お互いがやけっぱちになり言葉の応酬が続く中、ウラヌスもタバサも何も言わずに言葉一つ発しないまま。

 

(くだらんな)

 

 言葉に出さないだけで、ウラヌスは心の内でマリコルヌ含めた殆どの生徒に対して嘲笑していたりもしたが。

 まさかこの場にいる生徒とやら全員が、キュルケやタバサのようなこの世界で言う優秀の部類に入るわけでもあるまい。

 その優秀レベルでさえ、ウラヌスの感覚で言えば自分の全力には程遠い相手でしかない。

 ゼロだ何だと馬鹿にしたところで結局のところは文字通りの子供の喧嘩、どんぐりの背比べにしか映らなかったのだ。

 

「むぐっ」

「はごっ」

「お二人ともお静かに、お友達をゼロだのかぜっぴきだのと呼んではいけません、罰としてそのまま授業を受けること」

 

 その言い争いを沈めたのも知らずの内に原因の張本人となったシュヴルーズの放った魔法によるものだった。

 シュヴルーズが杖を一振りしただけで、ルイズとマリコルヌの口が粘土らしき物体の塊で塞がれていた。

 

「あれも魔法とやらか?」

「そう、ミセス・シュヴルーズは土属性のトライアングルメイジ、さっきのように土や粘土を作り出したり、ゴーレムを従わせて戦わせたりする」

「そうか」

 

 寮内の部屋で見せて貰った力の循環とルイズたちに起こった変貌。

 その出所についてタバサから答えを得たウラヌスは新たな情報を基に認識を改めていく。

 四大系統の魔法というのは魔力を物理的な力として外部に発現させる物。

 ウラヌスの認識からすればバーストに近い力なのだという風に捉えている。

 で、眼前の教師と名乗るシュヴルーズはキュルケやタバサと同じ3つの系統を操るトライアングルメイジ。

 これはつまり、力の扱いについての指導を行う教師と同じレベルのキュルケやタバサの実力が高いのか、

 それともちょっと優秀なレベルの生徒と同程度でしかないシュヴルーズのレベルが低いだけか、

 そこまでのはっきりした認識を決定付けるにはウラヌスには情報が不足している。

 

(まあ、それを抜きにしてもあの女は無いな)

 

 思考に耽るウラヌスを他所にシュヴルーズは授業を進めていく。

 四系統の魔法の在り方やランク付けなど、昨日の時点でタバサから聞き及んでいる情報は置いておくにして、

 土系統の魔法の使い手であるシュヴルーズの解説と実践して見せる錬金の魔法はそれなりに興味深い物でもある。

 PSIとは全く別系統の力、魔法による土塊や粘土の形成、それを全く別の物質へと組み替える魔法。

 成る程確かに、応用力と練度の向上次第では戦闘にも大いに役立つ能力であると言えよう。

 が、それを踏まえても目の前のシュヴルーズというメイジからは、何というか覇気という物をほとんど感じない。

 つまりは闘いに参加するような人種ではなく、如何にランクが高位であろうと自分が闘いを挑む価値は無いだろうなどという判断をしていたりもした。

 

「では、この錬金をミス・ヴァリエール、あなたにやってもらいましょうか」

「え、わ、わたしですか? 」

 

 と、錬金についての一通りの講義が終わったところでシュヴルーズがルイズを指名してくる。

 いきなりのことにルイズはキョトンとしていたが、その段になってまたしても教室全体がざわめき始める。

 

「ミセス・シュヴルーズ、その……やめておいた方が」

「おや、何故ですかミス・ツェルプストー?」

「危険ですから」

 

 そのキュルケのたった一言に全力で同意する教室中の生徒たち。

 理由を知らないウラヌスやサイトにしてみれば何のことやらだが、これはこの場にいる生徒たちの共通認識であった。

 

「危険、どうしてです?」

「ルイズを教えるのは初めてですよね?」

「ええ、ですがミス・ヴァリエールがとても努力家だということは私も聞いていますよ」

 

その一言と同時にルイズがすっと立ち上がり

 

「やります」

「ルイズ、やめて!!」

 

 キュルケの正に必死というのが相応しい一言に教室のざわめきが益々強まっていく。

 他の生徒のリアクションも、大半がルイズを引き留めようとするものだったが、肝心のルイズはお構いなしといった感じだ。

 少々緊張気味に教壇の方へと歩み寄っていく中、前触れも無くウラヌスの横にいたタバサが読んでいた教本をパタンと閉じて立ち上がる。

 

「どうした?」

「キュルケの言っているように危険、巻き込まれたくないなら離れた方がいい」

「そ、そうよウラヌス!! アンタも早く隠れなさい!!」

 

 スタスタと背を向けて教室を出ていくタバサに、それに同意するように必死にウラヌスに呼びかけるキュルケ。

 事情を知らないウラヌスからすれば説明が抽象的すぎることもあり、ますます疑問を浮かべるばかりになってしまう。

 

「ミス・ヴァリエール、錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」

 

 そして学院の関係者でありながら同じようにその共通認識を知らないシュヴルーズは、ルイズの緊張を解す様に優しく声をかけていた。

 それに答える形でルイズがすっと目を閉じて脳内にイメージを形成、そのまま振り上げたワンドを目の前の石へと向ける。

 

「!!!!――――」

 

 瞬間、発生したのは耳を劈くような爆音に目を開いていることも困難な程の眩い光に壮絶な暴風と飛び散る瓦礫。

 何の警戒も抱いていなかったウラヌスが直感的に危険を感じてライズを発動した直後、

 教室内はルイズを中心に凄まじい大爆発を起こし、部屋中の物を吹っ飛ばして見るも無残な光景へと変貌させてしまっていた。

 完全無防備に近かったとはいえ、ライズを発動したこともあってウラヌスは目立った傷も負っておらず、爆風で巻き上げられた汚れがコートに少し付いたくらいに留まっていた。

 

「ちょっと失敗したみたいね」

 

 爆煙が収まった先でムクリと起き上ったルイズが何てことないように言ったそんな一言。

 本来は物質を変質させるだけの筈の錬金の魔法を唱えた筈でこの有様、これがちょっとと呼べる筈も無い。

 爆発を間近に受けて仰向けになって伸びてしまっているシュヴルーズも他所に、続いて教室内に飛び交うのは、

 この光景を生み出したルイズに対する数々の批難の声。

 

「だから言ったんだよ! ルイズにやらせるなって!」

「いつだって魔法の成功確率ゼロじゃないか!!」

「ゼロのルイズ!!」

 

 悔しさいっぱいのまま、顔を真っ赤にして目に涙を浮かべながらルイズはプルプルと震えている。

 その様を間近で見ていたウラヌスと、ルイズの使い魔であるサイトはこの段になってようやく、ルイズがゼロと呼ばれている原因を理解するに至っていた。

 

(何だったんだ……? あのガキの魔力の循環……)

 

 ところが、空になった席のすぐ横でルイズを見下ろしていたウラヌスの意識は、その場の誰とも違う別の部分に向けられている。

 錬金を発動するために杖を振り下ろした瞬間、ルイズの体内と杖先に込められた魔力。

 それはタバサやシュヴルーズといった、今までウラヌスが実際に目にしてきた魔法の使用者たちを圧倒的に凌駕する物だったということ。

 

(……PSIの力で言えば01号……グラナレベルの力の奔流が一瞬だけ見えた……もしアレを十全に扱って今の爆発を起こせたのなら、ドルキのバーストなど子供の児戯だ)

 

 自分と同じW.I.S.Eの星将たち、その一番上と下の存在を比較してのルイズに対する評価。

 第一星将の持つPSIの力にすら匹敵しかねない魔力量が見えたのは本当にほんの一瞬、直後に起こった大爆発も第七星将のそれと比較したら規模もコントロールも遥かに劣る。

 だが、それでも魔法を発動する寸前のルイズに、今まで見たことも無かった途轍もない力が見えたのも事実。

 イルミナス・フォージの力を持っていた頃の自分すらも超える、自分の目指す壁や組織に引き入れたリーダーにも並びうるだけの力。

 そんな物をどうしてこんな小娘が持っているのかなど、ウラヌスには全くわからなかったが、

 

「……俺と対等にやりあえるだけの、実力者ならばな」

 

 どれだけ凄い才能を秘めていようとも、その使い方を知らないのでは何の意味も無い。

 だがそうだとしても、ウラヌスの中でのルイズへの評価は現時点でのキュルケやタバサと同じ、

 何の興味も無い有象無象とは違う、頭一つ分飛び出た存在へと変わっていた。

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