雪風と氷碧眼《ディープフリーズ》   作:LR-8717-FA

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CALL.22 "本気、焦燥"

 ワルドとの激戦の跡地と化した礼拝堂、そこに木霊するのはウラヌスの絶叫。

 目の前の白髪の男、グラナに向けられていた全員の注目が一斉にウラヌスの方へと切り替わる。

 

「ウ、ウラヌス……? アイツ、貴方の知り合いなの?」

 

 キュルケがウラヌスに対して尋ねる声も恐怖が入り混じり恐る恐るといった感じになっている。

 一応は自分たちと共にいる者と既知の仲であるならもしかしたら味方なのかもしれない、などという願望にも似た考えがあったりもしたが、

 キュルケもまたタバサと同じようにこれまで見たことも無い様な鬼気迫るウラヌスの姿を前にすれば、

 少なくともそんな生易しい関係の相手ではないのだろうということもすぐに理解できてしまうことだった。

 

「派手にやられたもんだななあおい……でもまあ、そっちの皇太子をぶっ殺すって任務はちゃんとやれたみてえで何よりだ」

「な、何故……貴方がこんな場所に……!!」

 

 一方でグラナはウラヌス達の後ろで未だ倒れ伏したままのワルドへと声をかけていた。

 ワルドもワルドで今までの戦闘の最中で見せていた高圧的な本性はどこへやら、

 ウラヌス達と同様、どうしてここにグラナがいるのかといった動揺の表情がはっきりと刻まれていた。

 

「とりあえずあれだ、悪いがこっからは俺の領分なんでね、すまねえけど引っ込んでてくれ」

「は!? いや、うおあああああああああ!!!?」

 

 しかしワルドの意志などどこ吹く風、グラナはいきなりワルドの方へと右腕を向けると、何といきなりワルドの体がふわりと宙へ舞い上がる。

 そしてそのまま腕を横薙ぎに振るうグラナに連動するかのように、ワルドは何者かに糸を引かれているかの如く浮かんだままあっという間に礼拝堂の窓から外へと吹っ飛んで行ってしまった。

 

「何だよ今の……アイツもメイジなのか?」

「そんなまさか……今野が彼の仕業だとしたら杖も使ってない、第一レビテーションだとしても大の大人1人をあんな軽々と振り回すことなど……」

 

 今のやり取りで少なくとも味方などではないと判断していたサイトは、疲労困憊の体を引き摺りながら未だ意識を失っているルイズを庇うようにして緊張を高めている。

 キュルケやタバサと共に立つギーシュも、今し方グラナの行使した力に動揺を強めていくばかり。

 ハルケギニアの人間の間で常識となっている魔法の力も全ては杖という媒介物があってこそ。

 逆を言えばそれを用いずに魔法と同様の力を使う者を目にするという事は一瞬にして常識が異常へと変貌する証でもあるのだ。

 

「そんな…………」

「タバサ……? どうしたのよさっきから一体……」

 

 しかし、その異常の正体を知っている人物が今のこの礼拝堂に何人か存在しているというのも事実である。

 その内の1人であるタバサは自身のことを心配するように声をかけるキュルケのことすら全く意識に入ってこない程、驚愕の連続に身を晒されていた。

 グラナの使った正体不明の力、超高度なレビテーションのようなソレの持つ力の性質が何なのかをわかってしまっていたから。

 

(テレキネシス……だとしても、あんな少ない動作であれだけの……)

 

 ワルドを吹き飛ばしたのは魔法などではない、自分も目覚めたPSIの力によるものだと。

 それも素人や初歩的なレベルの物ではない、タバサですら背筋を凍らせるくらいに尋常ならざる力の大きさを今の初動でグラナから感じ取れてしまったのだ。

 それこそ自分が持つ全力でさえ鼻で笑えるレベルに思えてくる文字通り次元の違う力、そんな持ち主が自分の隣にいる男以外に何故いるのか?

 自然とタバサは杖を握りしめる手に入る力が揺らぎ、カタカタと震えが生じ始めている。

 

「さってと、何て言ったらいいんだろうなあ……こういう時は懐かしの同朋と再会できたことを喜んだりしておくべきなのか?」

「……アンタにそんな殊勝な感情があると思っているのか……! 何故、アンタがこんな所で……!」

「ん、ああ……そうだな。言っちまえば俺もお前と同じだ03号、死ぬはずだったがどういう経緯か召喚なんてもんでこの世界に呼ばれちまった」

 

 そしてもう1人、ウラヌスからすれば力の正体を知っているだとかそういう話どころではない。

 到底敵などとは思えない気の良さそうな笑顔を見せながら、されどどこかぎこちない動作のグラナは自分にとって最も因縁深い相手。

 その男が、もう二度と決してその背を追うことは叶わないと思った相手がこうして生きて自分の目の前に立っている。

 しかもグラナは今何と言った? 自分と同じように"死ぬはずだった"ところを召喚されたと……

 

「天戯弥勒は、レジスタンスの連中はどうしたんだ!! 弥勒の計画は!!」

「落ち着けっての。計画はパーだ、ミスラの奴が裏切ったんでな。俺と弥勒はそれを止めるために力を使い果たして死んだ……筈だったんだがなあ」

「!!……元老院が、だと……そうか…………よりにもよってアンタがそんな無様な結末だったとはな……」

「おいおい無様とか失礼なこと言うなよ? これでも俺はあの終わりには満足してたんだぜ、そもそも俺からすりゃミスラのヤローは最初から胡散臭かったからな」

 

 ウラヌスとグラナ以外のその場の人間からすれば全く意味が分からない、彼らが元いた世界での話と迎えた終焉。

 レジスタンス、エルモア・ウッドとの闘いの末に先に果てたウラヌスは、全てを見届けたグラナとは違い真実を知らなかった。

 自分たちのリーダーである天戯弥勒、その男がグラナと同様に重用していた計画のキーパーソンであったW.I.S.E元老院ミスラ。

 弥勒の新世界創生計画も結局は全てミスラの手の内であり、自分たちは弥勒諸共利用されていただけの存在に過ぎなかったのだと。

 その蛮行を阻止するべくグラナは闘いを投げ出しミスラを滅ぼし、残った渦巻く悪意、星を食らう怪物を弥勒と共に止めて果てた。

 が、数奇な巡り合わせとでも言うべきなのか、グラナもまた死したはずの身が五体満足のまま、ハルケギニアのある男に召喚されていたのである。

 

「だがまあ、弥勒の計画がどうなろうと結局のところは俺やお前にはそこまで関係はない、そういうもんだろう?」

「言われるまでも無い。俺は元より闘えれば、アンタを超えるために強さを得れればそれで全てが回るんだよ」

「強さねえ、こっちに来ても相変わらずみてーだが……ふーん?」

「何がおかしい……!!」

 

 会話もそこそこにウラヌスは両腕に得物である氷の銃を現出させて、見開かれたままの瞳と共にその双方の銃口をグラナへと向けている。

 味方のタバサやキュルケでさえ、物理的な息苦しさすら感じさせるプレッシャーを放ち続けているウラヌスは、何かのきっかけがあればすぐにでもグラナに飛びかからんとしている程。

 だがそんなウラヌスを正面から見据えてもグラナは少しも物怖じしないばかりか、どこかからかうような視線と口振りで周囲にいるウラヌス以外の人物を見渡していた。

 その中でもグラナが注目していたのは青い髪の小柄な少女タバサ、視線が交差しビクリと体を跳ね上がらせるタバサの姿に、自分の召喚主の面影を見ていたのだ。

 

「いや、お前も随分丸くなったもんだなと思ってよ。俺らに取っちゃ歯牙にもかからねえだろうそんなガキどもと一緒にいるだなんて昔のお前からじゃ考えられねえってな」

「今のアンタがそんなことを言えたクチか? 弥勒とさえ対等に付き合っていたアンタが何故誰かに使われるような立場にいる」 

「使われてるだなんてとんでもねー、俺は俺の意志でこうしてるだけだっての。まあ最近退屈ではあるがそれも全部は弥勒と同じ、あの男のことがあってだ」

「あの男……アンタの召喚主はアンタが付き合うだけの器の奴だとでも言うのか? PSIも使えん有象無象が巣食うこの世界で?」

「世界ってもんは広いんだ03号 例え俺らと同じ力が使えなくても、俺の内を少しでも理解できる奴はいるもんだって感動したくらいなんだぜ? それだけ衝撃的だったんだよ、ジョゼフのヤローは」

「!!!?」

 

 対話の中で次々と漏れ出していくウラヌスとグラナの生の感情……いや、同じ初期のグリゴリ実験体である彼らのそれを感情と呼べるかどうかという疑問もある。

 だがその最中、突如としてグラナの口から出てきた名前はタバサにとってはこれまでの衝撃すら凌駕するワードに他ならない。

 ジョゼフ、聞き違えでなければそれは自分にとって最も忌むべき名前、愛していた父親の直接の仇の名前。

 

「貴方がどうしてあの男の名前を……貴方はあの男とどういう関係なの……?」

「おお、ってことはお前がジョゼフの言ってたアレか! そうかそうか!」

「教えて……! 貴方とジョゼフの関係は……!」

「アイツに召喚されて一緒にいるってだけだ。にしてもジョゼフ話の通りだな、いつか自分を殺すに相応しい復讐鬼……何より驚いたぜ、まさかここに来て3人目の、それもこっちの世界で初めての同類にまで会えるたぁな!」

「ッ……!!」

 

 憎しみと怒りで顔を歪めるのはウラヌスだけでなくタバサも同様になっている。

 尚も敵対する意思などまるで感じられないグラナの語る内容、自分とウラヌスと同じ関係だったという衝撃の事実。

 だがタバサにとってそこから生じる驚愕以上に、グラナの立場から来る抑えきれない復讐心の方が勝り始めていた。

 何故ならあの男の……ジョゼフの最も近くにいる人間ならば、それは自分にとっても決して避けることの出来ない相手だということ。

 

「さてまあ思い出話はこの辺でいいだろ、俺もちょっくら本格的に体を動かしてえと思ってたところだしな……お前もそろそろ収まりがつかなくなる頃だろ03号」

「……いつだってそうだなアンタは……! そうやって俺のことを見下し、自分が常に優位にいると信じきっているッッッ!!!」

 

 尤も、タバサの抱く復讐心や憎しみといった感情など、次元を1つ超えた先にいる2人の男にとっては何ら意味を持たないと言っていい。

 挑発するように右手をクイッと自分の方へと向けるグラナの態度に、僅かに残されていたウラヌスの自制が遂に砕け散る。

 間髪入れずにウラヌスは両腕の氷の銃から弾丸を乱射、周辺被害など意に介さずグラナへの攻撃を開始する。

 その何発かを体に浴びて凍結しながらもグラナは飛び上がり左の拳を眼下のウラヌスへと振り下ろす。

 

「っらあああ!!!」

 

 気合一閃、放たれるのはテレキネシスで空気を固め飛ばすことによる莫大な圧力を伴う衝撃波、横へと飛び退くウラヌスのいた床が一瞬にして凹み巨大な穴を空ける。

 衝撃はそれだけに留まらず、たったの一発で床だった場所は粉々に粉砕されていくつもの瓦礫片が辺りに飛び散っていく。

 唐突すぎる戦闘の開始に反応の遅れたウラヌス以外のメンバーは、グラナの一撃による余波をそれぞれ防ぐのに必死であった。

 

「ッはあ! 丸くはなっても根っこは変わらねーみてーだな03号!! イルミナも使えねえ筈なのによくもまあやりやがる!!」

「そっくりそのまま返してやる! アンタの力は少しも衰えない、故に俺が超えるに値する!!」

「超えさせねーよ! 今のてめえ程度にはなぁ!!」

「超えてやるさ! 俺をポンコツと呼び、見下したアンタを倒し超えるという俺の目的の為に!!」

 

 狭い礼拝堂内を縦横無尽に駆け回り、互いに激昂しながら力と力のぶつかり合いを繰り返すウラヌスとグラナ。

 ウラヌスの放つ氷の弾丸が辺りを凍結させ、投げ放たれる氷の槍が突き刺さり、凍った地面や壁をスケートで駆け回っていく。

 そんなウラヌスの氷結空間を撃ち破る様にグラナが振るい続けるのは次元違いのテレキネシス。

 軽く腕を振るうだけで周囲の空間そのものが叩きつけられるかのように凍った礼拝堂ごと周囲が粉砕されていく。

 そのどちらも、常人は愚か歴戦のメイジですら1発まともに喰らうだけで即死クラスの猛撃であると言っても過言ではない。

 

「ひ、ひいぃ!! な、何なんだこれはああ! 天変地異!? この世の終わり!? 僕たちは一体全体何を見てるって言うんだぁ!?」

「いいから黙って落ち着きなさいっての! 騒いでるだけじゃ巻き込まれて死にかねないわよ! ほらダーリンとヴァリエールもこっちに!!」

「わ、わかってるよ! いつっ……! どうなってんだよ本当に……!」

「俺が聞きてーくれえだよ相棒!! あんな化け物、本当にブリミルの奴が蘇りでもしやがったのかっての!!」

 

 つまるところ、完全なとばっちりを受けているキュルケ、ギーシュ、サイトには溜まったものではないということ。

 人為的な力によるものとは考えたくも無い光景にギーシュの頭は一瞬で許容限界を超えてショートしてしまっていた。

 キュルケはギーシュを落ち着かせながらもウラヌスとグラナの闘いに巻き込まれないように安全位置を探し回り、時に飛んでくる余波を魔法で防ぐのに必死だった。

 サイトはまだ目を覚ますことないルイズを守りながら、消耗しきった体に鞭を打ちデルフリンガーを振るって対抗している。

 

「ほら、タバサも早く!」

「…………!!」

 

 戦闘に釘付けになっているかの如くなタバサに対して叫ぶキュルケ。

 ハッとしたようにタバサは自分の方へと飛んできていた瓦礫の1つを咄嗟に唱えたウォーター・シールドで防ぐ。

 自身の不覚を反省しながら、それでもタバサは目の前の激闘へ向ける意識を少しも緩めることは無い。

 

(…………レベルが……違いすぎる…………どうして……)

 

 真っ先にわかったのが、わかってしまったのが今の自分と、ウラヌス、グラナとの次元を隔てたと言っていい力の差。

 ウラヌス自身にも期待をかけられていたように、例えどんなに時間がかかっても少しはウラヌスと真っ向から闘えるだけの実力を、

 それを得ることが可能になった新しい力であるPSIを手にして直向きに鍛錬に励み続けてきたつもりだった。

 しかし、現時点でもハルケギニアの一般的なメイジすら軽く凌駕し始めているタバサでさえ、自分の存在の小ささを思い知らされるような闘いが目の前で繰り広げられている。

 

(追いつけてなんていなかった……あれが、あのグラナという男がきっとウラヌスの……)

 

 特別と呼んでくれた、自分にとっても特別な相手。その男が自分にかけてくれていた想いなど所詮はちっぽけなものでしかなかったのではないか。

 タバサですら今初めて目にしているウラヌスの本気、真の実力、それはまさしくハルケギニア中のメイジが束になろうと決して止まらないかもしれないと思わせる程の強大な力。

 そして同じ力を手にしていたから、いや、手にしてしまったからこそタバサにはわかってしまう。

 次元違いの力を以てして闘っている本気のウラヌスでさえ、敵対するグラナという男の力には遠く及ばないだろうということ。

 初撃のテレキネシスの衝撃波の段階で思い知らされた、あれは最早同じ人間と呼ぶのさえ憚られるような化け物だと。

 言ってしまえば化け物同士の喰らい合い、そこに割って入れるような力も度胸も、所詮この世界の人間の延長線上程度の自分には叶わないことなのかもしれないと。

 

(私は…………!!)

 

 ギリッと噛みしめられる奥歯と歪められる表情が現しているのは恐怖か、悔しさか、それとも別の何かなのか。

 いずれにせよタバサは全力で闘うウラヌスと自分の仇に近しい立場にいるグラナという男、そのどちらにもどうすることができないことに歯痒さを感じるばかり。

 すぐ側にいる親友や学友たちと同じように指を咥えて見てるしかない現状が我慢ならない、だけどそれ以外にできることなど何もないのだと。

 どうしようもない無力感がタバサの心を瞬時に支配していったのだが。

 

「あ……ッ……!!」

「え――タバサ!? アンタ何考えて――!!」

 

 その矢先に前に向けた視線の先に映っていた光景、それを目にした瞬間にタバサは無力感など一瞬にして霧散し、

 呼び止めようとするキュルケの声もお構いなしに駆け出して行っていた。

 

 

*

 

 

 礼拝堂内は最早その面影などほとんど見えなくなっている言っていいも同然な状態へとなっている。

 時間にすれば僅か10数分、その間の闘いの爪痕で床も天井も始祖を象った神々しい銅像も、その全てが破壊され跡形も無く吹き飛んでいる。

 後に残っているのは必死に逃げ惑い防御に専念する者たち数人と、そんな壮絶極まる光景を生み出している張本人の2人だけ。

 

「グゥ……!!」

「そらそらどうしたんだ03号!! 腕が下がり気味だぜ!!」

「舐める……なッっ!!」

 

 極限まで高められているライズの肉体強化と、最高クラスのテレキネシスによる物体操作の組み合わせ、

 宙を自在に飛び回り幾多の拳撃を放ち続けながら余裕を全く崩さずに豪快に笑っているグラナ。

 それに対してウラヌスもまたライズと氷碧眼、氷結した地面を駆けながらの高速移動の中でグラナに攻撃を繰り返すも、

 対照的に、ハルケギニアに来て初めて消耗というものを見せていた。

 

「ふん……!!」

「はぁ! 甘えんだよ!!」

 

 荒くなり始めた呼吸の下、連続して繰出されるグラナの拳による衝撃波が僅かに残っている礼拝堂の壁面に巨大な大穴を開けながら彼方へと突き抜けていく。

 一瞬の跳躍で跳び上がり回避し、上下逆の耐性のままグラナの背後を取ったウラヌスが氷の銃から弾丸を発射、グラナの体を凍結させる。

 だが、やはり普通の人間なら指1本動かせないだろうそれを、グラナは体に力を強く込めるだけですぐさま粉砕してしまう。

 

「そうさ! 何も迷うこたねえんだ03号! 外の世界を見てみたかったという俺の願望、それがあっても俺もお前と同じように闘いを求める本能は消しきれないってなあ!!」

「そうだ……それが俺たちグリゴリ実験体にあるべき姿、強さと闘いを求める事こそが全てなんだ!!」

 

 01号と03号、第一星将と第三星将、両者を隔てる力の差は歴然、あまりにも大きな物。

 だがそれをわかっていても、消耗が激しくなってきているウラヌスはそれでも闘いをやめるという考えが頭に浮かぶことなど無い。

 闘いと強さの探求、空っぽの狗だった自分を目覚めさせ初めての敗北の傷を刻み付け、生涯をかけて超えると強く誓った男が目の前にこうして生きて存在している。

 その男と、グラナと闘うことこそがウラヌスにとって決して何にも代えることの出来ない時間となり、自身が最も強く生を受けた意味を実感できる時間そのものなのである。

 この闘いの先がどうなるかなど、超えれるかどうかの確信などウラヌスにとっては全て思考の外。

 ハルケギニアに来て以来一度も発揮できずに溜めこまれていた本気の闘いに対する渇望、それが今最も膨大な衝撃でこじ開けられ流れ出している。

 故に自分の生き死にさえ関係ない、彼にとって闘いと生はほぼ同意義、グラナとの闘いという望み続けた時間の中でならその身がどうなろうと知ったことではないのだ。

 

「ディープフリーズ!!」

 

 上下逆さまの体勢を空中で正し、グラナのテレキネシスで操作された多大な数の瓦礫の山による弾丸を、氷の弾丸の凍結で留め、スケートによる滑走でグラナから距離を取る。

 そのまま続けて、徐々にすり減らされていく力をウラヌスは何の躊躇も無く解き放っていく。

 凍結の力は一気にその勢いを増し、ウラヌスの右手の上に形成された氷塊が周囲を極寒の世界へと変貌させていく。

 

「まだまだあっ!!」

 

 だがやはりウラヌスがどれだけ力を表出させようとも、相対するグラナがそれを遥かに超える強者であることを覆すことはできない。

 両手の拳を握りしめて全方位にバーストエネルギーを拡散、四方八方から迫っていたウラヌスの凍結を渦巻く力の奔流と共に押し返して見せる。

 巨大な力を行使するのにタメを生じさせ、隙を見せたウラヌスにグラナは地割れが起きる程の踏み込と共に近づいていく。

 

「どらあ!!」

「ぐっ……!! ぁがあ……!!」

 

 互いに決定打を与えるに至らなかった中、遂にグラナの全力の拳がウラヌスの腹部を捕らえていた。

 ライズを最大限に引き出し、氷碧眼の凍結エネルギーを纏って防御に回してまで、グラナの放つ拳はウラヌスに血を吐かせるほどのダメージを与える。

 バキバキと骨が砕かれる不快な音と共に吹き飛ぶウラヌスに、グラナは手を休めることなく追撃の衝撃波を2連続で放つ。

 

 

ギュオウ!!

 

 

「!!……くう……ッ……!!」

「あん?」

 

 しかし、2発の衝撃波を押し留めたのはウラヌスの意志によるものではなく、突如として横入りしてきた1対の幻影の巨腕。

 持てる力の大半を消費してバーストを発動し、ドラグーンを両腕で形成してウラヌスを狙っていたグラナの衝撃波を防御しようと試みた。

 だが防御の為に集中させた力でさえ、グラナの単調な攻撃2発を防ぐだけでタバサの脳にズキリと痛みを走らせて消滅してしまう。

 

「……おいどういうつもりだお前? 今何をしたかわかってんのか?」

 

 いきなりの乱入者にグラナの感情が急速に冷え込み、タバサに負けず劣らずの人形のような無表情へと変化する。

 感情豊かに振る舞っているように見えてその実、グラナの見せるそれは全て後天的にプログラムされた見せかけでしかない。

 人間らしさを芽生えさせるために、怒りを感じたらこの表情、喜びを感じたらあの表情と細かく決められたデータ通りにしか表情は変えられないのだ。

 故に、想定外の事態が起こると途端にグラナは表情の一切を失ってしまうのである。

 

「これはソイツと俺の闘いなんだ、それを邪魔するってのはあな――」

「特別だから。この人は私にとって特別な人だから。だからどんな理由があっても、もう二度と失いたくないから」

 

 乱入することなどできるわけがない、したところでゴミのように殺されるだけ。

 それをわかっていた筈なのにタバサは、後ろで尚も苦しみ呻いているウラヌスの姿を見た瞬間に咄嗟に体が動いてしまっていたのだ。

 無機質な表情の下で膨大なプレッシャーをぶつけてくるグラナを前に、数多の死地を潜り抜けてきた自分でさえ、今すぐに逃げ出したいと思ってしまうくらいの恐ろしさを感じている。

 だがそうだとしても、全身が恐怖に震えてまともに動けなくても、タバサは今のウラヌスを黙って見ていることなどできなかったのである。

 例え彼の闘いを汚すことになろうとも、己の内の全てを打ち明けられ、自分に力を与えてくれて、自分を特別と呼んでくれた自分にとっての特別でもある人間を失う悲しみの方が何倍も恐ろしかったから。

 

「そうかい」

 

 悲痛とも言えるタバサの気持ちなど全く意に介さないグラナが再び拳を振り上げてタバサを排除しようとする。

 闘いの障害になるものは等しく払い除けるだけ、それが物であろうと人であろうとグラナにとって違いは無い。

 

 

ゴギィ!!

 

 

「ぐぐっ……!!?」

「……余所見をするとはいい度胸だなグラナ……! アンタの相手はコイツではなく俺だろう!!」

 

 そんなタバサとグラナの相対に映像の焼き増しの如く割って入ったのは今度はウラヌスの方だった。

 タバサに意識を取られていたグラナに対し、ライズの跳躍で一瞬にして肉薄したウラヌスは、グラナの横顔に思い切りとび蹴りを入れていた。

 予期せぬ攻撃にグラナは初めてその巨体を弾き飛ばされ、数メートル程転がりながら床に倒れる。

 

「いつつ……んあ、これは……」

 

 攻撃の命中した右頬を擦りながら立ち上がったグラナは、続け様にその違和感を察知する。

 何故自分は痛いと思いながら頬を触っているのか、そして何故触った頬、正確には右の口元から血が流れているのか。

 プロトタイプの化け物として決して、1人を除いて決して揺るがされることの無かった自分が、

 ライズによる肉体強化からの蹴りの一撃程度で傷らしい傷を負っているという現実。

 

「……くくく、くはははははは!! そうか、そういうことかい!!」

「この期に及んでまだ俺を見下し笑うか!」

「んなわけあるかよ!! よーくわかったぜ03号、お前は何も変わっちゃいねえが確かに変わってるってことがな!!」

 

 その正体が何なのかを直感的に捉えたグラナはこれ以上ないくらいに豪快に笑い続ける。

 呆気に取られるタバサを横目にウラヌスは再び激昂して吠えるがそれでもグラナが止まることは無い。

 自分を追うだけのうっとしい奴、同じ組織に身を置いた同朋、異世界で再会した敵、

 あらゆる形で認識が変わっていったウラヌスに対して、初めて羨ましいという類の感情すら浮かんだことが自分でもおかしくて仕方ないのだから。

 

「いいぜ……今日はこのくらいにしといてやる、お前もそっちの嬢ちゃんもまだまだ見込みがありそうなのがわかっただけでも収穫だからあな」

「!!……そうやってまたアンタは俺を足蹴にし、闘いを一方的に止めるのか!!」

「そうだ、追うお前と追われる俺、あの時と同じになっただけだ。また腕を上げたら闘いに来りゃいいだけのことだ!!」

 

 そう言ってグラナは今日の中でも一番の力を込めて斜め下方向へと拳を振るう。

 空に浮かぶアルビオンの大陸ごと揺るがすその一撃は、礼拝堂の床から更に先を深々と突き抜けて地面を抉り抜き、眼下に青い空を覗かせていた。

 

「再会といいモン見れた駄賃代わりだ、まだ俺を生きて追う気があるならそこの穴からとっとと地上に戻れ」

「何を馬鹿な……! アンタを追うのならそんなことなど――」

「お前にもわかってることだろ? 1人ならともかくそっちの嬢ちゃんたちもいるんだからな。じゃあな、また生きて闘えることを祈ってるぜ03号」

 

 一方的に闘いを打ち切り言うだけ言ってグラナはテレキネシスで跳び上がり、崩落した礼拝堂の天井から遥か遠くへと姿を消していった。

 尚も吠えながらウラヌスは手を伸ばすも消耗した今の自分では去っていくグラナを追跡することは叶わないだろう。

 しばらくの間、台風のように全てを掻き乱して去って行ったグラナの消えた空を呆然と見つめているしかできなかったが。

 

「…………!!!」

「…………」

「ちょ!? ここに来て何のつもりよウラヌス!!」

 

 いきなりウラヌスがカッと目を見開いてタバサに氷の銃の片方を向けたとあってはキュルケが慌てふためくのも無理はない。

 しかし無言のまま得物を向けるウラヌスとそれに沈黙したまま相対するタバサにもそうなる理由が十分に理解できていた。

 本気の闘いを汚されるということはウラヌスにとって死を与えるに等しい屈辱と言っていい程のこと。

 タバサもまた闘いを糧とするウラヌスの激情を理解しており、理解していながらも自分の気持ちが止められなかった。

 故にされるがまま死ぬつもりこそないが、どうあろうとここはウラヌスの采配に委ねる心構えだった。

 

「…………フン、話は後だ。これ以上ここにいても仕方あるまい、行けるか?」

「……問題ない、貴方より消耗は少ない、大きさを調整すれば4人乗せて地上に戻るくらいならどうにかなる」

 

 予想に反してウラヌスは武器を収め脱出の手筈について確認を取りタバサも静かにそれに答える。

 ウラヌスもだいぶ消耗はしていたが、地上に戻るまでPSIを維持し続ける程度ならどうにかなる。

 コクリと頷くタバサもまたドラグーンを発動、ルイズを追っていた時よりもサイズを増した竜の背と翼を形成する。

 

「んなっ!? なななななななな……何なんだねこれは!?」

「説明をしている暇はない、早く乗って」

「あ、ああ……でもちょっと待ってくれその前に……」

 

 やがてこの礼拝堂にも敵がやって来る可能性が高い以上、ウラヌスはともかく自分たちがいつまでもこの場に留まっているわけにはいかない。

 予想外の事態の連続にまたしても脳内がパンクしているギーシュをキュルケが無理やり首根っこ掴んでタバサのドラグーンの背に乗せる。

 サイトも同じように驚きながらも、物言わぬ死体のまま放置されていたウェールズの死体に駆け寄り何かをして手を合わせた後、ルイズを背負ってタバサのドラグーンへと乗り込む。

 そして先陣を切ってグラナの作った大穴から大空へと飛び出すウラヌスに続いて、4人を乗せたタバサのドラグーンも宙を舞いアルビオン大陸から離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その最中、ウラヌスの脳裏にはある1つの大きな疑問が生じ、こびりついたまま離れることなく広がり続けていた。

 あの時、一瞬とはいえどうして自分は闘いの邪魔をしたタバサに対してはっきりと

 

 『失いたくない』

 

 などという感情を抱いていたのかと……




公式の時点でチート級のキャラを二次創作で書くと
物凄い持て余してしまうということをこれでもかと実感させられてしまった……
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