雪風と氷碧眼《ディープフリーズ》   作:LR-8717-FA

25 / 43
プロットの変更を行った結果、最終的にこんなことに。


Another CALL.02 "四と五と七"

 ブリミル教の総本山として存在しているロマリア連合皇国。

 ハルケギニアでは唯一神と呼べる存在である始祖ブリミル、その弟子の1人フォルサテが興したとされており、

 国土面積こそそれほど広くは無い物の、宗教色が非常に色濃く他国にも非常に強い影響力を有している。

 時に光の国とすら称されることのある権威と歴史に溢れた国ではあるものの、

 そういった評判とは裏腹に神官と平民の間に広がる格差は大きい物で、他国の貧富差のそれを上回っているなどなかなかにきな臭い一面も抱えていたりする。

 また軍事力に関しても、数年前までは他国で異教徒狩りを行えるほどの質量を有しており、

 ここ数年表立った戦乱に参加はしていないが、底の知れない力を持つ決して容易に手出しの出来ない国としても認知されている。

 

 

「成る程、こちらも手がかりは無し、ということか」

「はっ、我々の調査した限りではもうこれ以上の収穫は見受けられないかと」

 

 そんなロマリアの実質トップを治める教皇の住まう宮廷の一室、そこに集うはフードですっぽりと顔を隠す謎の集団。

 世俗的な金銭や権力欲には無関心な者たちが殆どな中、神官たちが一際力を入れているのは伝説と名高い始祖ブリミルの操る虚無に関する情報。

 その日その場に集まっていたのは各国に散り、密かに情報を集めている密偵団の一員たちであった。

 

「となれば後はガリアの深部かトリステインか……ということになりますか」

「ガリアは元より、トリステインもゲルマニアやアルビオンとの関係も踏まえればいずれは荒れることになりますな。早い内に手を打たねば……」

 

 聖地奪還という最終目的の為、ロマリアはトップである教皇を始めとして虚無に関する情報を集めるのに躍起になっている節すら見られる。

 部屋の中にいる密偵たちの誰もが神官としての正装に身を包み、1つの目的の為に意志を共有している厳格そうな者たちばかり。

 今回の報告においてはあまり収穫が見られないことに一同が顔を曇らせる中、その中で一際異彩を放つ容姿をした男が1人。

 

「……わかりました。一先ずの報告はいつも通り行っておきます。近いうちに僕も出ましょう」

「は……? チェザーレ殿自らが、ですか?」

「ああ、少し前から薄々と気になっていたこともありますから」

「またお戯れを……少しはご自分のお立場というものをお考えになられてはどうなのですか?」

「はっはっは、いやすまない。けど立場を解しているからこそさ。僕にとって聖下のご期待に応え、実りある情報を持ち帰りたいと願う気持ちは一緒なのだからね」

 

 呆れたように口をとがらせる密偵団の言葉もどこ吹く風、気の良さそうな笑みを浮かべている青年の名はジュリオ・チェザーレ。

 教皇聖エイジス三十二世の側近を務める助祭枢機卿にして聖歌隊の指揮も務めている、月目と呼ばれる左右色の違うオッドアイを有する、

 恐らく世の女性が見れば10人中、8人か9人はその容姿に心奪われるだろう整った顔立ちを持つ美青年。

 大昔のロマリアの大王の名をそのまま受け継ぐ彼は時に突拍子もないことを言い出す変わり者の神官としても有名であり、時にそれが国内でも悩みの種となっている。

 そして飄々と振る舞うジュリオの右腕に刻まれている物、それは始祖の使い魔の1つ、神の右腕ヴィンダールヴの証。

 

「ではその辺りのことはまた後程、後の整理をよろしくお願いしますよ」

 

 そして言うだけ言ってジュリオは密偵団の報告室を後にして宮殿内の廊下を進んでいく。

 道行く途中で何人かの神官に頭を下げながら向かうのはこの国のトップである教皇がいる謁見の間。

 行為の神官ですら容易にその姿を直接目にすることは許されないその部屋の主に、ジュリオは顔パス同然で入ることができる。

 何故なら神の右腕、ヴィンダールヴとして自信を呼び寄せたその主こそが教皇その人なのだから。

 

「失礼します」

「ああ、待っていましたよジュリオ。丁度整理が終わった所ですからね」

 

 始祖ブリミルに関する情報書を中心に、多数の本で埋め尽くされた図書館の様な外患の謁見室。

 その部屋の奥の椅子に座っていたのがジュリオの主、聖エイジス三十二世、ヴィットーリオ・セレヴァレ。

 ハルケギニア全土の神官と寺院の最高権威者である教皇にして、形式上の地位はハルケギニアの各国王よりも高い。

 20歳前後で教皇に就任した異例の若さのその男は、見る者すべてを包み込むような慈愛に満ちた笑顔とオーラを纏ってそこにいる。

 争いの絶えぬハルケギニアの平和を望み、それでいて自らのちっぽけな手では全てを救うことはできないと自覚をしている現実的な一面すらも持ち合わせ、

 そういった全ての人柄を統合して彼のことを熱狂的に信ずるロマリア市民は数多い。

 

「やあ、お仕事ご苦労様ですジュリオさん」

「……君も戻ってきていたのか」

 

 そして謁見の間にいたのはヴィットーリオ1人だけではなかった。

 僅かに顔を顰めたジュリオの前に、ヴィットーリオの傍らに立っていたのは同じようににっこりと微笑む金髪ショートの男。

 ハルケギニアでは一際異質な奇妙な服装や頭の装飾を付けている男は、何を隠そうジュリオとほぼ同一の存在。

 ヴィットーリオの使用したサモン・サーヴァントにジュリオと共に割り込むような形で呼び出され、

 使い魔としての契約こそ結ばなかったが、ジュリオと同様に直接の謁見を許された側近の1人としてロマリアで活動している。

 

「密偵団からは特に目ぼしい情報は挙がっていませんでした。やはりもう少し探索の範囲を広げてみるべきかと」

「あはは♪ 全くどうしようもない役立たずですね、あれだけ時間をかけて手がかりも掴めないなんて」

「そんなことを言ってはいけないですよ、彼らもまた同じ想いを共にする兄弟たちなのですから」

 

 笑顔はそのままに密偵団を無能と毒吐く男をヴィットーリオはやんわりと制するだけ。

 あまりに無礼極まる物言いに、それに強く出れない主の姿がジュリオはやはり気に入らなかった。

 系統魔法とも先住とも虚無とも違う異質の力の持ち主、本来なら異端とすら呼ばれてもいいそれをヴィットーリオは快く迎え入れ、

 その男に命じているのは同じ力の持ち主の探索という密命である。

 自分たちロマリアが求める四つの四、それに並びうる何かがこのハルケギニアにはあるのだと。

 

「まあ、僕の方は星を1つ見つけました、尤も、1番小さい奴ですが。驚きましたよ、まさかゲルマニアであんな目立つ形でいたんですから」

「ふむ……とはいえあまり不用意に刺激してもいけないでしょう、そう遠くない内にジュリオと共に探りを入れてきて貰えますか?」

「……聖下の命であるなら、僕はそれに従うだけです」

「はい、僕もそれで構いませんよ」

 

 不満は内に溜め込んだまま、即座にヴィットーリオの前で膝をつくジュリオとは対照的に、金髪の男は立ったままにこやかに返すのみ。

 本来なら死んで果てていた筈の男がヴィットーリオに従っているのに特に深い理由は無い。

 ただ自分のことを追いやるわけでも無く、純粋に力を貸してほしいという願いを汲んでのことであった。

 元よりその笑顔の下にどす黒い感情を隠し続け、己を偽り続けて生き延びてきた男にとって、

 同じように他国や他者を欺き、自分たちの目的の為に邁進し続けるヴィットーリオとジュリオとは何となく波長が合うという理由もあってのこと。

 どうせ1度は死んだ身なのだから、少しくらい好きに気まぐれに生きるのもいいと感じていたのだ。

 

 

――あなたは戦士じゃない、常に余裕ぶってどこか自分が傷つかない道を選んでいる。

 

――私はずっと命を懸けて闘ってきた。

 

――そんな奴にアタシは負けない。

 

 

(……それで結構、それが僕という存在なんだ、だから誰にも文句など言わせない)

 

 召喚の直前、今際の際に自分に向けてきた2人の少女の言葉。

 僅かに顔を歪めながらもそれを飲み込みながら男……元W.I.S.E第四星将シャイナは偽りの笑顔と共に部屋の天井を見上げていた。

 

 

*

 

 

 トリステインの北東に位置している広大な土地を有する帝政ゲルマニア。

 元は小さな国々が乱立する都市国家群であったが、それらを1つに統合した結果生まれたばかりの若い強国。

 国土面積はトリステインの10倍近く、有する軍事力も強大な物。

 アンリエッタの婚約に際する軍事同盟も、アルビオンの脅威に対抗するためにゲルマニア軍の力を借りたいという目的の為。

 また、ゲルマニアも誕生したばかりということで歴史が浅く伝統や慣習に縛られにくいという点で他国から軽んじられることが多い。

 皇帝アルブレヒド三世がアンリエッタとの婚約を望むのも、トリステインの有する長い歴史を取り込みたいという思惑があってこそ。

 

「おい、これで全部だろうな」

「ああ、きちんと確認したさ。早く持っていこうぜ、でないとまた前の連中みたいに頭吹っ飛ばされちまう」

 

 一方でトリステインなどとは違い柔軟な考えのゲルマニアは、金と力さえあればメイジでなくとも貴族になれるという特殊な国でもある。

 一山当てようと野心を胸に秘めた荒くれ者たちが集う関係で、治安も悪化しているという弊害もあったりするが。

 そんな中で馬車に多量の荷物を積んで長い道を進んでいるのは、そういった野心家の中で一際大きな成功を収めたある領主の下に貢物を運ぶ2人の男。

 ここ数年で皇帝にすら意見を言える程に領地と軍事力を増大させているその領主はゲルマニア内でもかなりの有名人となっていた。

 

「よぉ、頼んだブツはきちんと耳揃えて持ってきたか?」

「へ、へえ、確かにここに……」

 

 領地の門をくぐり、ある1つの監査屋敷に入った馬車と男たちを待ち構えていたのは威圧感を放つ銀髪の男。

 やはりハルケギニアの一般的な貴族の纏う者とは違う特殊な衣服に、左胸には光の失われた球体が付けられている不気味な姿のその男こそが、

 ゲルマニアで一気に頭角を現している例の領主に他ならない。

 

「ひふみ……ああ、ちゃんと数揃えて持ってきたみてえだな。ご苦労」

「あ、ありがたき幸せ……そ、それで例の件については、その」

「ああ心配すんな。ちゃんと払うモン払う奴にはそれなりの見返りを与えてやるのが俺の主義なんだよ」

 

 恐る恐るといった領主の答えを聞いた男2人は、渡す物だけ渡したらとっとと去って行ってしまった。

 その姿に特に不満を見せることも無く、領主である銀髪の男は大量の貢物を前ににんまりと笑みを浮かべている。

 

「……カカカ、悪くねえな」

 

 力による絶対的な支配、男の是とする考えがゲルマニアという国家に合っていたからこそ築き上げることの出来た地位。

 思えば死んでいた筈の自分を何故か五体満足で……それも寿命を大幅にすり減らす前の状態で呼び寄せたメイジとかいうわけのわからん輩。

 召喚するなり使い魔になれなどと言ってきた男を逆ギレ同然に爆殺し、その地位を奪い取ってそのまま増幅させてきて今に至る。

 プライドを粉々に砕かれ全てを投げ打ってまで闘い果てたのも今は昔。

 絶対的な力での支配の下、男は自分の望む細やかな王国の中で力を振るい続けている。

 支配の方法こそ恐怖そのものであり、ふとした弾みで消されることも少なくは無いが、それでも貧困に喘ぐ民衆というのは単純な物で、

 財を有する存在の下にはどれだけみっともなく頭を下げようと、自分たちに最低限の庇護を与えてくれるのなら付き従うものなのだ。

 

「し、失礼します……」

「お前か、どうしたんだ?」

「そ、それが……西南地区においての開発が、野盗の襲撃によって大幅に遅れているとの報告が……」

「……チィ!!」

 

 

ドォン!!

 

 

 ……尤も、そういった人間の心理を考慮しても領主の男は傲慢で短気すぎる嫌いがあることも事実であったが。

 自分の気に食わない報告をしたという理由だけで反射的に領主は己の力を振るい、報告してきた領民を爆殺してしまう。

 

「単細胞どもが……その程度の問題も自分らで解決できんとは……! まあいい、次はもう少しまともな手駒を囲い込まなくてはな」

 

 領地内で地位を与えているのは自分がわざわざ見出したそこそこ優秀なメイジや平民の傭兵達。

 そいつらが期待通りの仕事をしないというだけで用無しと判断し処理するのに十分な理由となってしまうのである。

 普通に考えれば暴動が起きてもおかしくないような非道であるが、それが生じないのもやはり男が持つ地位と財力、

 何より、男自身のハルケギニアにおける異質そのものな圧倒的な力によるもの。

 

「今度こそ誰にも邪魔させねえ……いずれはこの国を取り、世界を取り……俺の望む支配を世界中に轟かせてやる……!」

 

 ぱらぱらと自分が起こした爆発の残骸が散る中で銀髪の男――

 元W.I.S.E第七星将ドルキは野望に満ち溢れるギラついた目で重々しく呟いていた。

 

 

*

 

 

 時間は少し遡り、ルイズ一行がアンリエッタからの極秘任務の為にアルビオンへ向かって数日の頃、

 トリステイン魔法学院の草原の一角にある水汲み場で洗濯に精を出している年若い少女のメイドが1人。

 

「うーん、今日もいい天気になりそう」

 

 洗い終わった洗濯物をパンパンと弾き、かごに入れてから伸びをしているメイドの名はシエスタ。

 トリステインでは珍しいボブカットの黒い髪にそばかす、整った綺麗な目鼻立ちに脱いだら意外と凄いプロポーション。

 学院勤務の他の平民たちからも働き者な明るい良い子として認知されている器量良しな少女である。

 

「それにしてもサイトさん……ミス・ヴァリエールと一緒にどこに行ってしまったのかしら……最近、姿を見れなくて寂しいなあ」

 

 だが、洗濯籠を両手に持ち歩くシエスタに浮かんでいるのは珍しく沈んだ表情であった。

 花も恥じらう17歳の乙女シエスタ、彼女には今異性として意識している男性が1人、それがルイズの使い魔として召喚されたサイトだったりする。

 同じ平民の身でありながら決して理不尽に屈さずに正面から貴族を打ち倒して見せたその背中に惚れ込んで、

 以来、何かと主人に冷たくされるサイトのことを食事面を主として何かとアプローチを繰り返しているのである。

 食堂で賄いを食べさせてあげる度に顔を綻ばせるサイトの姿を何度も目にしている内に、シエスタの想いは強くなるばかり。

 今日はどんなことをしているんだろう、今日の賄いは美味しく食べてもらえるだろうか、主人のミス・ヴァリエールに酷いことをされていないだろうか。

 仕事に支障こそ出ていないが寝ても覚めてもサイトのことばかり。

 故に、ここ数日そのサイトに会えないということにシエスタは寂しさを覚え、その分サイトへの想いが強まる一方だったのである。

 

「……ケガとかしてなければいいんだけど、あ、でもその時は今度こそ私のおまじないで助けてあげられるのかな……?」

 

 大量の洗濯物をてきぱきと干していきながらぽつりと呟くシエスタが右手を翳すと、突如として淡い光を発していた。

 先住の魔法とも違う、家族の中でもシエスタだけが使うことの出来るちょっとした傷を治すことができる不思議なおまじない。

 随分前に自分の出身地であるタルブ村に姿を現して一騒動を起こしたある男から教えてもらった力。

 村の外では目立たないように、絶対に軽々しく使ってはいけないと家族から釘を刺されているが、

 自分が想いを寄せる異性の傷を治すのに使えるのなら寧ろ本望かもしれないとかそんな風なことも考えていたりする。

 

 

……ズヌゥウウ

 

 

「や、やあ……シエスタ……」

「わひゃあ!!? ……って貴方は……! どうして学院にいるんです?」

 

 と、洗濯物を3分の2ほど干し終えたシエスタの前にいきなり姿を現したものが1人。

 それも、学院敷地内の草原から這い出る様にして上半身だけをぬるりと現してきたのである。

 オレンジ色のぼさぼさヘアーに常人とは違う見開かれ乾いた瞳、どもりの混じるたどたどしい口調、何より背筋の凍りつきそうな不気味なオーラ。

 明らかに異常なその男を前に、シエスタは登場直後こそ驚いたものの、それが誰なのかをわかった途端に落ち着きを取り戻して普通に話し始めていた。

 

「い、いや……最近シエスタと……会えてなくて寂しかったから……か、顔を見に来たんだ」

「それはそれで私も嬉しいですけど……でも、今私1人だからいいようなものを、他の人に見られれたら大変なことになるんですよ、ヴィーゴさん」

「し、心配はない……俺の潜航師(ゾーンダイバー)の力があれば、そんなヘマは……しない」

 

 まるで仲の良い兄妹のように話しているシエスタと話している男……元W.I.S.E第五星将ヴィーゴである。

 本名を鬼瀬鋭二という彼は本来、己の孤高の感性のままに幾多の人間を作品として殺害してきた稀代のサイコキラー。

 ハルケギニアにおいても異常としか言いようのない精神構造を持つ男が何故にシエスタと普通に関わりがあるのか?

 

「それよりどうなんですか、新しい作品の方は製作が進んでいます?」

「じ、順調だ……あと2日もかければ……シエスタにも見せれるとお、思う……」

「そうなんですか。いつも楽しみにしてますから、ヴィーゴさんの作品。まるで本当に生きているみたいで……」

「ふふふ……む、昔の作品は本当に生きて……いたようなものだったがな……」

 

 ヴィーゴという男を少しでも知る者がシエスタのその言葉を耳にすれば、シエスタも同じように異常者であると勘違いをすることだろう。

 だが、今のヴィーゴは率直に言ってしまえば口調や態度こそ変わらないものの、芸術に懸ける感性は別人と言っていい程に変わった。

 ドルキと同じように自分を召喚した者を殺し、当て所無くトリステインを彷徨っていた先に辿り着いたのがシエスタの故郷であるタルブ村。

 感情のままに姿を現しその手にかけようとしたのがシエスタの家族であり、逃げ惑い恐怖する中で立ちはだかったのがシエスタという少女であった。

 

 

――お、お前は……俺が怖くないのか……?

 

――こ、怖いです……! 本当は今すぐにだって逃げ出したい……! だ、だけど! 大事な家族を失うことの方がずっと怖いんです!!!

 

 

 傷に呻き逃げろと叫ぶ両親の言葉も聞かず、無表情で立ちはだかるヴィーゴの真正面に、大粒の涙と恐怖に震える体でそれでも退くことの無かったシエスタ。

 そんな健気で勇気ある少女の顔に、ヴィーゴはどこか見覚えがあった。

 

 

――お前が……バカだからだ……

 

――明日殺すと言った俺に……家族はいるのか……守る人間はいないのかと……逆に気遣うバカだからだ……

 

 

 自身の天才的で唯一絶対の孤高の感性を忌むべき物として見下した家族という醜い繋がり。

 それを問い、自分のことを本気で心配したあの少女とシエスタのことがダブって見えたその瞬間。

 ヴィーゴは携えていた武器を降ろして己の中で自問自答を繰り返し、数多の紆余曲折を経てタルブ村の用心棒的な存在として今は生活している。

 その傍らで作り出される絵画や彫刻といった芸術品……当然、生きている人間など使われていない純粋なヴィーゴの感性が打ち込められた新たな作品たちは、

 単なる美麗で形式ばった物とは違う、見る者を妖しく虜にする型破りな物としてトリステインの一部貴族の間でも名が知られるようになってきており、タルブ村に少なくない収入をもたらしていたりもする。

 今でもヴィーゴを奇異の視線で見る者は少なくないが、シエスタのように好意的に接する者も増えてきているのである。

 

「い、今の俺がいるのも……お前のおかげみたいなものだシエスタ……だ、だから俺はお前に付いて行くと決めているんだ、からな……」

「ふふ……会った時は私も本当に怖かっただけでしたけど……でも今ならわかります。ヴィーゴさん本当は優しい人なんだって」

「て、照れることを言うな……」

 

 乾いた狂気の瞳はそのままに、ニコリと花が咲いたように笑うシエスタの笑顔を見てヴィーゴもニヤニヤと笑みを浮かべている。

 究極の"創造"は天才的な"破壊"から生まれる。だがそれは何も物理的な意味だけでなく精神や概念も含まれている。

 己の感性と信条のまま、死に際に会った少女との交流で芽生え、シエスタという少女との出会いで確固たる形となったモノ。

 今までの自分の常識と価値観を"破壊"し、新たな自分を"創造"した末に新生したヴィーゴは平和な世界で第二の人生を送っているのである。




五番目の方のキャラ変更が凄まじすぎるかもしれませんが、
この辺はPSYRENの小説弟二巻を参考にしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。