雪風と氷碧眼《ディープフリーズ》   作:LR-8717-FA

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CALL.26 "狭間の気持ち"

 トリステインは当初の予定通りゲルマニアとの軍事同盟を締結していた。

 その1ヶ月後にトリステイン王女であるアンリエッタと、ゲルマニア皇帝アルブレヒトの結婚式が取り行なわれる手筈となっている。

 それに連なるようにしてクロムウェル率いるレコン・キスタもとい新生アルビオンがトリステインに対して不可侵条約の打診をしてきた。

 同盟の締結は済んでいるとはいえ、未だに軍事面でお互いのゴタゴタが絶えないトリステイン側としては願ったりだったので

 相手の思惑がどうであれその不可侵条約もまた締結される流れになった。

 しかし表向きは安定したかに見えても、トリステイン単独の国力はゲルマニアにもアルビオンにも大きく劣っているという事実には何ら変化は無い。

 政治家たちはいつどこで手のひらを返されるかわからず戦々恐々しながら胃を痛める日々を過ごすことになる。

 

「うぬぬ……」

 

 だがトリステインを取り巻く政治情勢の変化を他所に日々増大していく悩みを胸に顔を顰める少女が1人いたりもした。

 1ヶ月後の結婚式を前にルイズは任務達成の褒美としてそのままトリステイン王家に伝わる水のルビーを頂いたり、

 アンリエッタ直々の指名で王族の結婚に際して詔を読み上げる巫女に任命されたり、

 その詔の内容を考えるためにこれまたトリステインの秘宝の1つとされる始祖の祈祷書という古ぼけた本を預けられたりもしていたが、

 そういった諸々のことが蚊帳の外になってしまう別の問題が今のルイズにはある。

 

「何だってのよもう……」

 

 うぅ~と唸りながら寮の自室の机で頭を抱えながらルイズの頭に浮かび上がるのは使い魔のサイトの姿。

 思えばルイズとサイトの間にも召喚の儀式から始まりギーシュとの決闘、フーケによる破壊の杖の強奪、

 そしてつい最近終えたばかりのアルビオンでの極秘任務など実に様々な出来事があったと言っていい。

 元を言えば人間であろうと使い魔、その辺の動物と何ら変わらない相手故に羞恥心などどこ吹く風かと思いきや、

 下げたくない頭は絶対下げないという確固たる信念でギーシュに、貴族に勝利した姿に心動かされ大金はたいて水の秘薬を買い込み治療をしてあげたり、

 同じように貴族としての意地を貫こうとした自分のことを助けてくれたり、かと思えば調子に乗って夜這いを仕掛けてきたので評価が犬以下にまで落ち込んだり……

 

「ど、どさくさ紛れにご主人様にキスするだなんて」

 

 悶々としてきた脳内と共に思い出す感触が気を失ったまま帰路へとついていた時のこと。

 ウェールズや裏切ったワルドのことなども合わせて様々な苦難が待ち受けていたアルビオン。

 どのような手段を用いたのか朦朧としていたあの時ではわかる筈も考える余裕も無かったのだが、

 そんな中でもはっきりと思い出せるのが自分のことを見つめる普段の抜けた雰囲気とは違うサイトの顔と唇に残る温かな感触。

 

「そ、そうよ。ご、ご主人様のことを身を挺して守るのは使い魔として当たり前のことであって――」

 

 本性を現したワルドを前にして、自分を真っ先に庇い奮戦してくれたのは紛れも無くサイトであった。

 口ではどもりながらそんなことを言いつつも、あの時ルイズは殺されそうな自分を守り闘ってくれたサイトのことが本当に嬉しかった。

 幼い頃からの親友の恋人が死にゆくを止められない、ずっと憧れだった婚約者の裏切り、

 失意の連続にあったルイズにとってあの時のサイトは救い以外の何物でも無かったと断言してもいいだろう。

 

「い、今だって成果を挙げた分の見返りを……で、でも……うぅ~」

 

 悩めば悩むほどわからなくなってくるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール16歳。

 立派な貴族たらんと常に高圧的な態度でいることが多い彼女であるが、何だかんだ他の者たちと同じで年頃の生娘。

 異性に対して意識してしまうきっかけなどその辺にいくらでも転がっていたというだけであって。

 

「って馬鹿じゃないのわたし、所詮使い魔なのに……」

 

 今までサイトに任せていた朝の洗顔や洗濯を1人でするようになったり、

 普段は特別な計らいで床に座らせていたところを、同じ貴族のテーブルで食事を摂らせてあげる様にしたり、

 功績を挙げた事に対する恩返しでしかないと言い訳をして見ても、やはり胸に灯るのは別の何か。

 

「…………使い魔なのに……どうして……」

 

 自分でも本当にわからなくなった変化が着替えを見せなくなったり一緒のベッドで寝てもいいと言ったことだろうか。

 特に着替えは以前まで使い魔に見られても何も感じないと平然としていた筈なのに、今では妙に意識してしまう自分がいる。

 そもそも使い魔だろうと人間の異性に裸体を晒していた今までの方がおかしかったのかもしれないが、それでもルイズにとって大きな変化であったことに変わりは無い。

 それら一連の変化をサイトは「以前襲われそうになったから警戒してる」だの「動物同然のダメダメな自分にまで施しをしてくれるくらい優しくなった」だの妙な方向で捉えていたりもしたが、

 その辺は数日前の就寝時における会話で誤解を解消してある。

 

「ああん、もう!!」

 

 遂には悩みすぎで大声を上げながらガリガリと頭を掻き始めてしまう。

 せっかくの綺麗なピンクブロンドのサラリとした髪が乱れてしまうも今のルイズはお構いなし。

 ワルドに感じた物とも違う、説明のつかないもやもやとした気持ち、それをサイトに抱いている自分。

 本当にこれが恋なのだろうか? そうだとしてもプライドの高いルイズは平民でしかも使い魔のサイトに恋心を抱いているなど素直に認めることが出来ない。

 大体人間の使い魔なんていうややこしい立場が今の自分の悩みをよりグチャグチャにしているようで……

 

「…………あ」

 

 と、人間の使い魔というフレーズが出てきたその時、ルイズの頭が連想したのが同じ学院に通う碧眼の2人組。

 思えば自分がアルビオンでサイトを引き留めたきっかけも、その内の1人である青髪の少女に諭されたからではなかったか。

 

「よし」

 

 冷静に考えればルイズの抱く貴族のイメージからはかけ離れた行動だったのかもしれないが、

 今は少しでもこのもやもやを晴らしたいと強く思っていたルイズはそんな自制心など蚊帳の外であり、

 自室の椅子から立ち上がって行動を開始していた。

 

 

*

 

 

 賭博場でのイカサマ暴きという任務を終えての2日後。

 互いの関係に大きく変化があった後とはいえ、以前にも述べたようにタバサとウラヌスの基本的な行動まで変わったわけではない。

 

「おはよう」

「ああ」

 

 朝の陽ざしが眩しい中、寮の自室のベッドの上でむくりとタバサが目を覚ませば、そのすぐ傍らでは既にウラヌスがいつもと変わらぬ瞳を携えて壁に腰掛けている。

 僅かなやり取りの後にタバサはベッドから起き上がって着替えを手にし、テキパキと朝の身支度を進めていく。

 ウラヌスはウラヌスで部屋から出るわけでもタバサを凝視するわけでも無く、特別意識した行動をするわけでも無く日によってまちまちに時間を潰している。

 ハルケギニアに召喚されて幾数月、多少は人間らしさというものが出てきたウラヌスではあったが異性に対する羞恥心などといった感情は未だ希薄。

 故に眼前で服を脱ぎ捨て白く美しい肢体露わにするタバサを前にしても別にどうと思うことも無い。

 一方のタバサも羞恥心が枯渇しているとかそういうことではないのだが、それでもやはり一般的な同年代の少女と比較するとズレていることも確か。

 召喚当初から気にしていなかったし今更ウラヌスが自分の着替えをどうこう感じたりもしないなどと割り切っている。

 傍から見れば不自然極まりない光景なのかもしれないが、2人にとってはこれが自然となってしまっているのだから仕方ない。

 

「朝食に行く」

 

 いつもの制服姿に着替え終わったタバサの一声で、ウラヌスがその後に続いて部屋から出て廊下を歩いていく。

 タバサの数少ない趣味が食事であり、自然と歩幅も大きくなるそんな一時だったりする。

 

「……おい」

「……(コクン)」

 

 しかし歩き始めて数分後、この日はいつもと違う何かがいることを2人はすぐさま察知していた。

 廊下の途中で立ち止まり勢いよく振り返ってみればその先には……誰もいない。

 正確に言うと曲がり角の物陰から誰かしらの気配を感じはしていたのだが。

 とりあえずそのことを一旦心に留めておいた上で2人はまた歩き始める。

 

「それじゃ」

「ああ」

 

 食堂入り口前で頷き合い、タバサだけ中へと入っていってウラヌスが入口のすぐ横で終わるのを待つのもいつも通り。

 ぞろぞろ他の生徒が雪崩れ込んでいく中、ウラヌスはやたらとチラチラこちらに意識を向ける桃髪の少女と目が合ったりしたが別に何かを返すわけでも無し。

 その少女の後ろには普段はいなかったパーカー姿の少年が付いていたりもする。

 

「…………そう言えば、あのガキはどうして……」

 

 ここでウラヌスがふと疑問を抱いたのは今し方食堂の中へと消えたパーカーの少年、つまりはサイトのことである。

 魔法は使えない、剣技のレベルも別段高いわけではない興味ゼロの有象無象。

 その筈だったが以前のアルビオンでの決戦では確かに、本気を出したスクウェアクラスのメイジを偏在含めた3人を一度に相手をして相討ちまで持っていっていた。

 ウラヌスがサイトを見限ったのはその僅か数日前の女神の杵亭での決闘騒ぎの際であり、あの時は手加減したワルド相手に惨敗。

 だというのにそれほど時間が経たずしての再戦でのあの結果、疑問に思わない方が無理がある。

 自身が特別視しているタバサもPSIが覚醒して以来、目覚ましい成長を見せているがそれも本人の才能とそれ以上の手を緩めることない多大な努力による賜物。

 何の訓練も無しに、していたとしても僅か数日ばかりでいきなりあそこまで実力が上がるなど本来ならあり得ないことなのだが。

 

「やはりあの左腕のアレが原因か?」

 

 顎に手を当て記憶を辿っていくウラヌスが思い至ったのはサイトの闘う姿を始めて間近で見た時、すなわちギーシュとの決闘。

 あの時は剣技以前に一般人同然だったサイトが剣を手にした途端に動きを急変させ、あっという間に7体のゴーレムを蹴散らして見せた。

 その最中でウラヌスがタバサと共に注目していたのがサイトの左腕のルーン、すなわちガンダールヴの証。

 今まで一方的に嬲られていた相手がいきなり強くなるなどおかしな話であり、原因と言えそうな物は記憶の中ではあれくらいだ。

 ワルドとの闘いを直接見たわけではないのでウラヌスの中では憶測にしかならないが、

 それでも今のサイトに対する評価は有象無象から多少の興味ありへと変わっており、加えて左腕のルーンにより一層の注目もしている。

 

「……行くか」

「うん」

 

 と、ウラヌスが思考を巡らせて数十分、朝食を終えたタバサが戻ってきていたので一旦打ち切ることにする。

 尚も背後から感じる違和感を他所にその後は久方ぶりに授業へと参加していた。

 そこでもやはりいつも通り、席に座るタバサの横にウラヌスが沈黙したまま控えているだけ。

 が、授業中にもやはりチラチラと自分たちの方を気にする視線が向けられているのを確かに感じていた。

 

「この後はどうする?」

「昼食後は鍛錬の方に時間を使いたい、貴方は」

「そうだな……今日は俺も付き合うとしよう」

 

 そして授業を終えてぞろぞろと他の生徒たちが移動を開始する中でのやり取り。

 時間さえあればタバサは勿論、グラナとの再会により奮起したウラヌスもPSIの鍛練は少しも欠かすことは無い。

 午後からの授業出なくてもとりわけて問題がある物でも無かったので、そういう流れで決定。

 昼食を終えてウラヌスはタバサと共に学院の人目に付かない隅の方へと移動して互いにPSIの鍛練を始めようとしたのだが、

 

「…………」

「…………」

 

 朝廊下を出てからずっと自分たちに纏わりついてきている些細な違和感。

 他の生徒が多数いた学院内でならいざ知らず、2人だけには人影も見られないような今ですら感じられるソレ。

 

「「ライズ」」

「って、うおあああっ!!?」

 

 流石に人目に付きたくないPSIの鍛練でまで放っておくのは見過ごせなかった2人はライズを発動。

 瞬時に学院の壁影に隠れ潜んでいたバレバレの違和感……ルイズの背後へと回り込んでいた。

 

 

*

 

 

「観察?」

「そ、そうよ……悪い!?」

「アンタは人知れず他人に後をつけられて不快に思わない変人なのか?」

「ぐ……」

 

 草原の一角で2つの碧眼を前に正座させられている桃髪少女という珍妙な構図が出来上がっている。

 掻い摘んで言えば朝からずっと2人のことを尾行していた人物の正体はルイズ。

 人間の使い魔であるサイトとの関係性に悩んでいたサイトは同じく人間の主従であるタバサとウラヌスに注目し、

 2人の日常行動を見ていれば何か自分の悩みを解決できるキッカケが得られるんじゃないかと思い立っていたのである。

 尤も、幾多の実戦を経験してきたタバサとウラヌスには稚拙なルイズの尾行は最初から気付かれていたわけであって。

 この段になるまで放っておかれたのもルイズが素人丸出し故に脅威とは思われていなかったからでもある。

 

「あまりいい趣味とは言えない」

「う……は、恥ずべきことをしていたってちゃんと反省はしてるわ……」

 

 アルビオンでの任務を通してそこそこの繋がりは生まれていたものの、それでもルイズとタバサの関係はまだまだ薄いと言っていい。

 ゼロのルイズと蔑まれて周りに壁を作っている高圧的なルイズに、基本我関せずで周りと積極的に関わろうとしないタバサでは相性が良いとは言い難い。

 尾行などせずに素直にルイズがタバサに自身の悩みを聞きに行ければ良かったのかもしれないが、ルイズの性格を考えるとそれも難しいか。

 

「そもそも私とウラヌス、貴方と彼ではタイプが違いすぎる。観察したところで得るものがあるとも思えない」

「そ、それくらい切羽詰まってることなのよこっちとしては」

 

 口調は尚も平坦なまま続けられるタバサの言葉に思い入る部分は多々ありながらも、それでもルイズは引き下がろうとしない。

 互いに力を探るため、同じ力を持つ者同士として、そして今では純粋にお互いの存在を他とは違う特別だと思っている。

 召喚されてから今日までの間に2度程大きな変化があったとはいえ、タバサとウラヌスの関係はおおむねそんな感じであろう。

 主に仕える使い魔などとは程遠く、大抵の他者に興味を持たない中で認め合うパートナーといった感じか。

 ではそれを踏まえた上でルイズとサイトはどうなのかと言えば対等のパートナー、などという言い方はどう贔屓目に見ても出来ないであろう。

 ルイズの意識の変化である程度待遇が改善されつつはあるが、それでもルイズの中でのサイトの位置づけは自身の使い魔であるということに変わりは無い。

 サイトにしたってルイズのことを対等の相手として見るというのは……

 本人は可能ならばそうしたいかもしれないが、彼もルイズの性格をそれなりに把握してきているので今更そんな関係を望んでもいない。

 統合して言えば一応の主従関係でありながらも、どこかぎくしゃくしているといった感じか。

 

「彼に好意を抱いている?」

「こ、こここここ好意ってべべべべ、別にそんなんじゃ!! そ、そうよ!! 主人として使い魔に愛着の1つくらい見せてやろうとするのは当然の務めであって……」

「……? 今のタバサの言葉に慌てる要素があったのか?」

 

 意味不明と言わんばかりにウラヌスが首を傾げるのも、男女の惚れた晴れたといった話題に対する認識が異次元の彼方であることを考えれば仕方ないこと。

 ただ、ほんの僅かな一言で頬を赤く染めて大袈裟な身振り手振りで慌てまくるルイズの姿を見れば、タバサにも大体今のルイズがどういう状態にあるのか察しはつく。

 タバサ自身、恋という感情がどのようなものかはさっぱりであるが、知識面だけで考えてもルイズはそれに近い物を使い魔のサイトに抱いているのではないかと。

 

「貴方達の関係は貴方たち自身の問題、私がとやかく言ったところで何かが変わるとも思えない」 

「うぅ……確かにあんたの言う通りかもしれないけど……」

「……ただ、それでも1つアドバイスをするなら――」

 

 目に見えてしゅんと落ち込むルイズを前にすると、タバサとしても悪いという気持ちが生まれてしまう。

 譲れない目的がある以上、あまり余計なことに気を回す余裕が無い立場ではあるが、

 元来のシャルロットしての彼女は心優しくそれなりに面倒見の良い性格だということも影響しているのかもしれない。

 

「何か目に見える形の贈り物でもすればいい、そうすれば彼も貴方に対する認識が変わるかもしれない」

「お、贈り物って……食事とか寝床の改善はしてあげてるけど……」

「使い魔に対する主人の行為としてではない。貴方個人が彼に思っていることを形にする。どんな物でも、思いを込めた贈り物は人の心を動かす物」

 

 毒で錯乱し今では幻想の娘としてボロボロになる程母親が抱き続けている物。

 今の自分と同じなのタバサと名付けた人形も、嘗て娘を想う母から貰ったプレゼント。

 今でもシャルロットは覚えている、満面の笑みでプレゼントしてくれた母親のことを益々好きになったその時のことを。

 その経験談を元にタバサはルイズに対し、サイトに自分から何かプレゼントをしてあげればどうかとアドバイスを送っていたのである。

 

「……そ、そう……わかったわ。は、話を聞いてくれてあ、ありがとうね……」

「構わない」

 

 元はと言えば自分の失態から始まった一連の対話であったが、それでもルイズは他人に礼を言うということに慣れておらず、ついついそっぽを向いたまま素っ気ない言い回しになってしまう。

 タバサは別にそういったことを気にするタイプではないし、ルイズがそういう類の人間であることも理解しているのでとやかく言うつもりは無かったが。

 何やら奇妙な話し合いではあったが、一応の回答を得たルイズはそのままスタスタ歩いて去って行った。

 

「……結局、アイツは何がしたかったんだ」

「これも人間らしさ、というものの1つ。貴方にはわからなくても無理は無い」

「そうか。まあ、アイツとあのガキがどうなろうが俺達には直接的には関係のないことでしかないな」

 

 傍らで様子を見ていたウラヌスにはやはり理解の及ばない話題ではあったものの、

 だからといってそれがわからないことで損があるとも思えなかったので、タバサの回答に納得した上でそれ以上の追及はしない。

 時間をそこそこ取られてしまったが、とりあえず周囲にルイズ以外の気配も見られないのでPSIの鍛練を始めること。

 

(恋……私とウラヌスなら、どうなるのだろう……?)

 

 その最中、タバサは内心でそんなことを呟いていたりもした。

 純粋に大切に思い合うパートナー、今の気持ちが恋というものに変わることはあるのだろうかなどと想いながら。

 

 

*

 

 

 それでもってタバサからのアドバイスを受けてから翌日、ルイズは早速行動を開始していた。

 昼食後の暇な時間帯、学院東に広がるアウストリの広場、そのベンチの1つに腰掛けて作業を進めている。

 

「……久しぶりにやったけど、こんなに難しかったかしら?」

 

 始祖の祈祷書をすぐ横に、うんうん唸るルイズが手にしているのは針と毛糸玉、つまりは編み物である。

 周囲で各々昼の時間を楽しんでいる生徒の集団を見やりながら時折溜め息を吐く切なげなルイズの横顔はまるで美麗な絵画のよう。

 今正に彼女を悩ませているサイトも認めているところであるが、高慢な態度が鳴りを潜めた少女としてのルイズの姿は本当に可愛らしく美しい物なのである。

 

「そ、そうよ……わたしは誉れ高きヴァリエール家の娘……恥も無く体をしな垂れかからすような下品な連中とは違うのよ……」

 

 ぶつくさ言いながらも編み物を続けるルイズであったが順調とは言い難かった。

 元々魔法が使えないルイズに母親がせめて器用になる様にと幼少期に仕込んだ趣味だったのだが、

 残念なことに始祖は魔法だけでなく編み物の才能も与えなかったということなのだろう。

 それでも悪戦苦闘しながら必死に作業を進めるのもタバサのアドバイスだけでなく、自分の使い魔をたぶらかす2人の女性の存在があってこそ。

 小柄で愛らしいというのも魅力の1つかもしれないが、逆を言うとルイズは同年代の者と比較すると女性らしい起伏に乏しいと言わざるを得ない。

 当然そんなことを本人の前で面と向かって言おうものなら1秒後には失敗魔法の爆発が飛んでくるだろうが、事実であることは覆せない。

 

「こ、これだって恋、な、なんかじゃないわきっと……そ、そうよ……使い魔に対するご主人様からのご褒美であって……」

 

 前日に言われたタバサのアドバイスをもう忘れているかのような言い訳、相変わらず素直になれないルイズである。

 それでもこうやって行動に移せるだけ彼女としては大きな進歩でもある。

 自分は恥じらいも無く体を寄せ付けてアプローチするような色ボケや、食事程度で好感度を稼ごうとする田舎娘とは違う。

 わざわざ自分がこうして手作りで編み物までしているのだ、完成すればきっとサイトだって自分に感謝感激するに違いない。

 未だに心の中のもやもやに決着は着かないが、それでもこうして明確に行動しているだけでも気分が軽くなっているのをルイズは感じている。

 完成した物をサイトに渡すところまで漕ぎ着けられれば、きっとこの悩みもはっきりするのではないかと。

 

「よ、よし…………」

 

 だが今し方述べたようにルイズに編み物の才能は無い。

 やりきった、みたいに声を出して途中経過を見てもすぐさま顔を歪めてしまう程に散々な物。

 ルイズとしてはセーターを編んでいたつもりだが、手の中に納まっている糸の塊はとてもセーターには見えない。

 精々捻じくれ曲がった不格好なマフラーがいいところ、もっと悪く言えばヒトデのオブジェにも見えなくはない。

 

「……ダメね、いったん落ち着きましょう」

 

 編み物という選択自体が間違いだったかなどと自己嫌悪に陥りそうな気持ちをどうにか奮い立たせ、

 ルイズはベンチから立ち上がり編み物用具と作りかけのセーター、始祖の祈祷書などを抱えて学院の女子寮へと戻っていく。

 気持ちを落ち着けるためにアウストリの広場を選んだが、こんな不格好な物を周りの生徒に見られでもしたらそれこそ何を言われるかわかったものではない。

 量の廊下を歩く中でルイズは、もっと別の選択肢も考えてみようかなどと思考を巡らせ、到着した自室の扉をゆっくりと開く。

 

「あ…………」

「え!? あ、あの……ミ、ミス・ヴァリエール……?」

「う、あ、ま、待てルイズ!? これにはふかーい事情があってだな―――」

 

 が、部屋に入った直後にルイズが見たのはあまりに予期せぬ光景。

 使い魔のサイトがいるのは別に当たり前、問題なのはもう1人、先に述べたばかりの2人の女性の内の1人であるシエスタ。

 そのシエスタが何故に服の胸元をはだけさせたまま、サイトに押し倒されているというのか。

 

 

ドォン!!

 

 

 ……現実の時間に換算すれば僅か10秒ほど、それでもその間に状況は目まぐるしく切り替わる。

 全てが終わった後には既に部屋の中にシエスタの姿は無く

 ルイズの放ったハイキックの直撃を受けて盛大に吹っ飛び、部屋の隅でピクピク震えるサイトの姿があるだけだった。

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