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でもそれじゃ話を書きづらいしあまり面白くない。
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そして変更して完成した悪ふざけに等しい今回(以降)の何か。
……何にせよ、後半は色んな意味で閲覧注意です。
トリステイン魔法学院では大勢の生徒たちがその日も変わることの無い日常を各々謳歌していた。
朝に目が覚め食事を摂り、授業が終われば入浴や自習、使い魔とのコミュニケーションなどを楽しむ。
そんな中、爛々と輝く2つの月が照らしだす中庭の一角、シミ1つ無い綺麗なクロスのひかれた簡素な丸テーブルとイスのラウンジ腰掛ける1組の金髪男女。
「ああ、そんなに美しいと君以外の女性が目に入らなくなってしまうよモンモランシー……その髪なんて月の光できらきら輝いて、まるで金色の草原のようだ」
「ええ、どうもありがと」
フリル付きのワイシャツに薔薇のワンドを携え、まるで舞台役者の様な身振り手振りで目の前に座る少女に愛を語っているのはギーシュ。
そして彼の言葉を受けて表情はツンと澄ましながら内心満更でもない気分でいる金髪巻き毛で大きな赤いリボンが何とも可愛らしいツリ目の少女。
彼女の名はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。
ルイズらと同じ学年のトリステイン出身の貴族であり、プレイボーイのギーシュの特にお気に入りの女の子、というより数ヵ月前まではれっきとした恋人同士でもあった。
ハルケギニアでは珍しくも無い典型的な貴族主義者の1人でもあり、男女付き合いは男性側がリードして当然というようにルイズと同じく高飛車が目立つ。
(……口では調子いいこと言ってるけど、でもやっぱり信用しきれないわ)
よりを戻したいという理由もあってモンモランシーを口説く言葉に熱が入るギーシュではあるが、
対照的にモンモランシーは嬉しさ半分の一方で、ギーシュに対する疑念が晴れないどころか膨らむばかりでもある。
召喚の儀が終わって数日の頃に起こったサイトとギーシュの決闘騒動、その発端は浮気がバレたギーシュによる逆ギレ。
その時の渦中にいた1人が何を隠そうこのモンモランシーであり、ギーシュにワインを思いっきりぶちまけて実質別れを告げてからそれっきりなのだ。
今でこそ怒りもだいぶ収まりそこそこ話をする機会も増えてきてはいるのだが、それでもまだモンモランシーはギーシュのことを完全に許したわけではない。
そのことをギーシュもわかっているからこそ必死なのであり、今日もまたこうして月の下でワイングラス片手に乾杯というシチュエーションに持ってきているのである。
(どうする、やっぱり使っちゃう?)
相手の内心の憂いなど知ったことかとばかりに愛の独白を続けるギーシュから、モンモランシーはチラリと視線を自身の懐のある物へと向ける。
彼女は水のドットメイジでありその二つ名は『香水』。加えて率直に言うならば戦闘向きの魔法を扱うメイジではない。
ハルケギニアの水の魔法はタバサのように水そのものを操ったり、風の属性と組み合わせることで氷の魔法に変質させるだけでなく、
秘薬、ポーションと呼ばれる特殊な魔法役を制作して治癒や治療を行ったり精神の変容を発生させるといった使い道もある。
『香水』の二つ名が示す様にモンモランシーは後者のタイプであり、得意とする水魔法を活かした香水作りで小金を稼いだりもしている。
というより彼女の実家であるモンモランシ家は領地干拓の失敗を主原因に経営難に陥っており、その跡取り娘であるモンモランシーも懐事情が寂しいという理由があってこそでもある。
が、モンモランシーが今回持ち出してきていたのはコツコツ溜めてきた資金を全て注ぎ込んで作り上げた、法律で作成・使用の制限までされている禁断の秘薬だった。
「ああ、モンモランシー……」
「慌てないでギーシュ、まずは乾杯といきましょう」
「おっとそうだね、何事もまずムードが大事なのだから」
流れに身を任せるままスッと唇を近づけてくるギーシュを人差し指で制し、モンモランシーはまず自分のペースへと持っていこうとする。
今回秘薬を持ち出してきたのも全ては目の前にいるギーシュのことを悩んでのことであった。
決闘騒ぎの一件以来何かと自分のことを気にかけてきたギーシュにモンモランシーも徐々にまた心が傾きかけていたのだが、
それでも彼の浮気癖、プレイボーイっぷりが矯正されたわけでもないし、いつまた同じ過ちを犯すかもわからない。
何だかんだモンモランシーもギーシュのことを気にかけているのであるし、だからこそ恋人同士という関係を保っていた。
故にこそまた浮気やら何やらでもやもやした気分になるのはまっぴらごめんでもあったということ。
因みに自分が作った秘薬の効果を検証したいというメイジとしての純粋な興味神もちょっぴり含まれていたりしたのだが。
「あ、裸のお姫様が空を飛んでるわ」
「なぬっ!? どこにいるんだい!?」
唐突に棒読み口調で指さすモンモランシーに超反応してギーシュは食い入るように夜空を見渡していた。
つい数秒前まで調子いいこと言ってたくせにこんなあからさまで不自然すぎる嘘にまで引っかかるこの体たらく。
やっぱり持ってきて正解かもしれないと、モンモランシーは内心で呆れながらもワイングラスの片方に取り出した秘薬を垂らしてすぐにさっと懐へと戻した。
「嘘よ、じゃあ改めて乾杯しましょうか」
「お、おいおい驚かさないでおくれよモンモランシー……」
裸のお姫様が空を飛んでいるなどという言葉に騙されるギーシュもギーシュであるが、目的は既に達しているモンモランシーは特に言及することは無い。
ばつが悪そうに笑うギーシュとニッコリ笑顔のモンモランシーがワイングラスに手を伸ばし、
……ドドドドドドドドド!!!
「うおおおおおおおおおっ!!!」
「な、なんだなんだ!?」
「ってなによっ!?」
……切る前に突風と爆音とともに闇の向こうからギーシュとモンモランシーの方へと疾走してきたのはサイト。
生きは絶え絶え、汗はダラダラ、だがそれ以上に今まで見たことないくらいの必死さが顔と雰囲気で伝わってきていた。
ムード満点な所を、はたまたもう少しという大事なチャンスを邪魔されてギーシュとモンモランシーは突然の乱入者であるサイトに声を荒げるも、
それどころではないサイトは2人ことなどお構いなし、これ幸いと言わんばかりに2人の着いていた丸テーブルのクロスを持ち上げる。
「す、すまん! 少しの間匿ってくれ!! 誰が来ても俺がここに隠れてることは言うなっ!!」
「あ、おいサイト、せめて事情を説明し――」
何事かと尋ね直す暇も無くサイトはテーブルクロスの内に身を潜めて息を殺して動かなくなる。
わけがわからないと後頭部をポリポリ掻くギーシュに、未だ状況を整理しきれずポカンとなるモンモランシー。
「って、それどころじゃなかったね。少々無粋な輩が入ってきてしまったがさあモンモランシー」
「え、ええそうね」
気を取り直してギーシュはまた気の良さそうな笑顔を浮かべて席へと座り直しモンモランシーに話しかける。
机の下に平民が、それもあのゼロのルイズの使い魔がいるという状況に不満が無いわけでは無かったが、
目下の目的はギーシュと良い空気になることではなく大枚はたいて作り上げた秘薬の効果の程を検証すること。
ならばこれくらいで文句を言ってる場合ではないとモンモランシーも席に着き直していたのだが、
(あれ……私どっちに入れたんだっけ?)
だがここに来てモンモランシーは痛恨のミスをしてしまったことを悟る。
ギーシュと座っている机の上に並べられた2つのワイングラス、サイト乱入のゴタゴタでどちらに秘薬を混入したかをド忘れしてしまったのだ。
(マ、マズイわ……このままだと……)
どうしたんだい、早く乾杯しようじゃないかと首を傾げているギーシュなど最早視界に映らず、モンモランシーは内心冷や汗ダラダラである。
何せ万一自分が手にした方のワイングラスが飛躍入りだったりして、しかも想定通りの効果が発揮されればそれはもうとんでもないことになるのが目に見えている。
一般的に普及してるような簡単なポーションとかだったら別に気にしないのだが、今回ばかりはそうもいかない。
「何やら騒がしいから来てみたが、何かあったのか?」
「む……今日は随分無粋な客が多いものだね。ウラヌス、タバサ、悪いが見ての通り今僕たちは大事な話の真っ最中なんだ」
「そうか」
「…………」
が、悩むモンモランシーや不機嫌に口を尖らせるギーシュを他所に、サイトに続いて更に別の2人が姿を現していた。
*
グラン・トロワでのジョゼフからの出頭要請を終えて、ウラヌスとタバサは学院への帰路へと着いていた。
移動用の竜篭の中はとりあえず何事も無く一段落ということで行きよりは落ち着いた空気が流れている。
「ライズを発動した貴方に認識させない動きをあの男がした?」
「ああ、奴の言葉が事実ならばグラナでも無理だったらしい。実際、俺も推測する限りでは奴の全力でも確実に捕らえられるか確信が持てないからな」
「そんな技術をジョゼフはどこで……」
宮殿の一室で待機させられ戻ってきたウラヌスに対してタバサが気にかけたのは彼自身の安全確認、次いでジョゼフと何を話していたのか。
ウラヌスは出来る限り簡潔に纏め"一部省略しながらも"ジョゼフの語った内容を口にしていた。
タバサとしてもジョゼフが持つウラヌスへの興味だの、世界を壊そうとしているだの、人間らしさついての問答だの、
父親を殺した男の真意など気にするところではなく……いや、全く興味が無いと言えば嘘になるのだが、
それでもウラヌスからの又聞きの限りではタバサには理解し難いことばかりであった。
タバサの目の色が変わったのは対話の途中でいきなりジョゼフが行使した正体不明の力と、全く反応させずにウラヌスの背後を取ったという部分に入ってから。
「彼はガリアでも無能王と呼ばれていた。だけど、私は元々他者を欺くための演技だとも予測していた、けど……」
「あの男の持つだろう真の実力が予想の遥か上だったことに驚いている、という感じだな?」
「……否定はしない、スピードという一点のみだとしても、貴方の上をったというだけで並大抵のことではない」
「だろうな。俺としてもそういう意味では益々あの男への興味が掻き立てられているのも事実だ」
ギュッと杖を握り締めて表情を強張らせるタバサとは対照的に、ウラヌスは無表情のままながらも内心では気分を高揚させている程。
元よりグラナと対等の関係を築くほどの男ということで一定の関心は抱いていたのだが、あの正体不明の高速移動を見せつけられてそれも一気に大きくなっている。
「しかも見た限りではPSIを使わずに、だ。あれでPSIまで修得したらそれこそ超常的な強さになるだろう」
「私やシエスタという前例がある以上はあり得ない話ではない。貴方が側にいたようにあの男にはグラナがいる、それを考えれば寧ろ……」
「怖気づきでもしたか?」
「……あの男への脅威が一段と高まったのは確か、だけどそれで諦める気も絶対に無い。足りないのなら足りる様になるまで積み上げていくだけ。何も変わることは無い」
「まあアンタならそう言うんだろうな。それは俺も同じ、というよりより真剣に取り組まなくてはいけない。一部分とはいえグラナ以外に初めて上が現れたんだからな」
その力の一端が明かされたジョゼフ、しかもそれは未だ遠い壁であるウラヌスよりも更に高き位置にあるかもしれないという次元違いの力。
だがそうだとしてもタバサはその冷たい両瞳の奥でメラメラと静かに燃え上がる復讐の炎を鎮めることは無い。
自分で言ったようにやることは何も変わらない、只管にPSIを始めとした己の実力を磨き上げ続け、復讐を確実に果たせるだけの、
それこそウラヌスやグラナといった圧倒的強者たちの次元に少しでも足を踏み入れられるだけの力を手にしなくてはいけないという確かな決意。
力を、強さを求めて闘いに身を投じ止まることなく前へと進み続けるという想いはウラヌスとも共通していることなのだから。
「俺も何かを変えるつもりは無い、あの男の力がどうであれ復讐という目的はアンタ自身のものな以上、今更どうこうは言わん……がまあ、アンタ自身が手を貸してほしいと言うなら吝かでもないが」
「……ありがとう、でも大丈夫、今後も貴方の助けを借りることは多いかもしれないけど、それだけは私自身の手で成さなくてはいけないことだから」
「そうか……」
淡々と平坦に、されどどこか静かにぽつりと呟かれたウラヌスの言葉に、タバサは彼の方へと顔を向けてほんの僅かな笑みを零す。
手を汚してほしくないだの傷つけさせたくないだのといった思いとは無縁であるし、故にタバサの復讐という目的を止めるつもりも無い。
しかしそうだとしても、果たせる見込みが全く無くむざむざ死ににいくのを黙って良しとするのも気が進まない。
ウラヌスにとってタバサは闘い抜きに特別な存在、だからこそ彼女自身の意志を尊重しつつも彼女自身の安否も気にかける。
そういったウラヌスの微妙なバランスの下での自分への気遣いが本当に嬉しくて、タバサは珍しく表情が崩れていたのだ。
「さて、この後はどうする?」
「まだ時間的にも体力的にも余裕がある、少し鍛錬をしておきたい」
「なら俺も付き合うとしようか」
そんなこんなで会話を続けている内に2人を乗せた竜篭はトリステイン魔法学院のすぐ近くへと辿り着く。
地面に降りこの後のことについて軽くやり取りした後、2人は学院の正門を潜って歩いていく。
ジョゼフのこともある以上、タバサもウラヌスも今以上に少しでも力を上げておきたいと気持ちが逸っていたと言える。
「……? 何だこの音は?」
「向こうの方」
ところが、どこか人目に付かない場所に移動しようと思った2人が同時に察知したのは遠くの方から聞こえてくる不自然な物音。
タバサがスイっと指を指す方向にウラヌスも視線を向け、2人揃って歩いていく。
やがて1、2分も歩いた先に見えてきたのは丸テーブルを挟んでどこかポカンとした表情を見せている金髪の男女、ギーシュとモンモランシーである。
「何やら騒がしいから来てみたが、何かあったのか?」
「む……今日は随分無粋な客が多いものだね。ウラヌス、タバサ、悪いが見ての通り今僕たちは大事な話の真っ最中なんだ」
「そうか」
「…………」
不機嫌そうな表情を隠そうともしないギーシュであるが、それを受けたウラヌスもまたどこ吹く風という感じで無表情のまま。
傍らに立つタバサも無言のまま2人のことをジッと見つめており、モンモランシーに至ってはワイングラスを見つめたまま硬直している。
更にもっと言えばウラヌスもタバサも2人以外に机の下に何者かが潜んでいるのをとっくに見抜いていたりもしたのだが、
別に自分たちが害を被るようなこととも思えなかったので口にしないだけ。
「さあモンモランシー、彼らのことは気にせずに――」
「ちょ、ちょっと待ってギーシュ。私の方のグラスに虫が入ってしまったみたいなの、だからワインを注ぎ直させて貰えないかしら」
「何と、本当に無粋なことばかり続くな今日は! よりにもよって愛しいモンモランシーが口に付ける物を汚すとは」
気を取り直してウラヌスとタバサから視線を外して今度こそというところで、慌ててモンモランシーが言い出した言葉。
一見すると虫なんて入ってないのは側にいるウラヌスにもタバサにもわかることだったが、モンモランシー自身が嫌がっていることにギーシュはわざわざ言及しようとは思わなかった。
傍から見てれば不自然な身振り手振りでモンモランシーはグラスを傾けて中身を地面に捨てようとしていたのだが、
「……もったいないから、私がもらっておく」
「え? あ、あのちょっと!?」
その直前にモンモランシーの持つグラスをひょいっと手に取って傾けたのがタバサ。
見た感じ汚くは無いし虫含めた異物が混入している形跡も見られない、何よりガリアから出発してここに来るまでにそこそこ喉も乾いていた。
ならどうせ捨てるならここで自分が飲んでしまっても別に問題ないだろうと、ちょっとした気紛れから起こした行動。
何故か不自然なまでに仰天しているモンモランシーを他所にタバサはクイッと中のワインを一飲みにする。
芳醇な香りと共にアルコールの刺激が頭へと伝わり喉を潤していく、ギーシュがこの日の為に用意しただけあってそこそこにいいワインであった。
「お、おいおいタバサ、いくら捨てるものだからって――」
「どっせえええええええい!!!!」
「ごふぅぉあああっ!!??!?」
タバサの行動を咎めようとしたギーシュに対し、何故かモンモランシーは彼の後頭部をガッシリ掴んで机に思い切り叩きつけていた。
哀れモンモランシーではなく激痛と共に机と全力でキスする羽目になったギーシュのことをウラヌスは冷ややかに見つめていた。
「何がしたいんだアンタらは、まあいい、用が済んだなら行くぞタバサ」
「うん――――………?」
「どうした?」
「??? …………ッ……?」
別に特に興味を持ってるわけでも無い連中の茶番をいつまでも見てるつもりなど無く、早々にウラヌスはタバサに声をかけてその場を立ち去ろうとする。
が、異変が生じたのは正にその時、ウラヌスと視線の合ったタバサは数秒の沈黙の後、いきなりポッと頬を真っ赤に染めていたのだ。
何の前触れも無いタバサの表情の変化は気になり、ウラヌスは追加で声をかけてみたのだが、
「ッ!!!!!!」
「お、おい待て、どこへ行くんだ?」
頬どころか顔全体を茹蛸の様に真っ赤にしてタバサは脱兎の様に学院本棟へと駆け出してあっという間にいなくなってしまった。
手を伸ばしたウラヌスは何が起きたかもわからずにしばらくその体勢のまま動かなかったが、
「……何だと言うんだ?」
何にせよここで呆けていてもどうにもならないと、ウラヌスも姿の見えなくなったタバサを追いかけてその場から消えていく。
「…………グ、グェエエ……」
「あぁぁぁあああぁぁぁああ…………」
後に残されたのは未だに机に突っ伏したまま白い煙を上げつつ亡者の様な情けない声を上げているギーシュと、
タバサとウラヌスの背を見つめながら顔面蒼白で僅かな気迫を絞り出すようにして唸っているモンモランシーの姿。
「ちょっとアンタ達!! サイトの姿を見なかった!?」
……因みにウラヌスとタバサの存在によって本来ならばルイズに降りかかる筈だった災厄が回避されたのはまた別の話である。
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駆け出したタバサの姿を追いつつ探しながらウラヌスは学院女子寮の廊下を歩いていた。
無論、何故にタバサがいきなりあのような行動を取ったのかという疑問に?マークを浮かばせまくりながらである。
「もしや、俺があの男と話している間に何か仕込まれたのか……いや、帰還中の仕草を見る限りじゃそんな前兆は全く無い筈だった……」
1つの推測として打ち立てたのが、グラン・トロワでのジョゼフとの対話中に何かされたのではないかということ。
考えてみればあそこはタバサの復讐相手、つまりは敵の本拠地とでも言える場所であり、ジョゼフの性格も加味すれば無い話ではない。
だがそんなことなど自分よりもずっと多くあの場所に来た経験のあるタバサが考えていないはず等ない。
例えジョゼフの手の内の者に何かをされるとしても、今のタバサが易々とその術中に嵌められるなどよっぽどのことでも無ければ起こりえない筈。
これがグラナならわからなくもないが、あの男ならそんなまどろっこしい手段に出るくらいなら真正面から叩き潰す筈であるしもっとあり得ない。
「……だとするなら原因は何だ?」
だからこそ、その予測の信憑性がどんどん薄まる一方であり、それ以外の予測がてんで思いつかないということがウラヌスを益々混乱させていく。
つい数秒前まで鍛錬をしていこうと話し合っていた筈なのに、自分の顔を見るなり逃げる様にして駆け出していくなど、
ウラヌスの知る限りでは普通とはかけ離れすぎているタバサの行動である。
もしかしたら自分の知らない何かをまだ隠していたのかもしれないが、だとしたらタイミングが不自然すぎる。
とにかく考えれば考えるだけド壺に嵌まっていくばかりであり、ウラヌスとしてはお手上げ状態であった。
「……とりあえず問い質すしかないな」
そうこうしている間にウラヌスはタバサのいる寮の部屋の前へとやってきていた。
わからないのなら仕方ない、向こうが先にアクションを起こしたのだから聞いてしまった方が手っ取り早いだろう。
「入るぞ、タバサ」
そう結論付けた部屋の奥に人の気配があることをしっかり確認した上で扉に手をかける。
鍵はかかっていないようでギィッという音と共に扉は開かれ、ウラヌスにも見慣れた部屋の様子がその瞳に――
ガバァッ!!
「!!!!??」
「ん………っんぅ……!!」
映し出される前に突如としてウラヌスの眼前に迫ってきたのはついさっきまで探していた見慣れた少女の顔。
だがそんなことを考える前にウラヌスはまたしても珍しく目を見開かせて目の前の状況により一層の混乱を強めていくばかりであった。
当然だろう、何故かタバサが扉を開けるなり飛びかかってきてその両の手をウラヌスの首後ろに回してガッチリホールド。
挙げ句、躊躇うことなく小さくて可愛らしい顔を押し付けて、そのまま熱いキスにまで及んでいたのだから。
有無を言わさず唇を塞がれてわけもわからぬまま立ち尽くすウラヌスに対し、熱っぽい声と吐息を漏らしながらタバサはトロンとした視線と共にウラヌスの唇を貪っている。
熟年の恋人ですらそう無いだろう、何とも濃密で妖艶で甘々な空気を醸し出すタバサである。
「グ……ッ!!」
「あっ……!!」
勿論、何をされてるのかを察したウラヌスは反射的にタバサを突き飛ばしていた。
悲しいかな彼は元グリゴリ実験体、まともな恋愛感情とその他諸々の素養などあるわけが無く、
今し方タバサから喰らったアッツアツのディープキスも単純に苦しくて不快だった程度の印象しか無い。
尤も、それ以上にウラヌスは今のタバサにどことなくヤバい物を、生物としての本能が警笛を鳴らす何かを感じてしまったりもしていたのだが。
「何のつもりだ……! まさか本当におかしくなったかタバサ!」
普段の冷静で我関せずな姿などどこにもなく、グラナと再会した時と同じくらいの動揺の下でウラヌスは声を荒げていた。
床に叩きつけられながらもゆらりと立ち上がった今のタバサからは言いようの無い不気味なオーラが漂っている。
だがその裏にある真意が何であれ、如何に特別であるタバサであろうと自分に害を加えようとするのなら少々手荒に行かなくてはいけない、
のっそり顔を上げたタバサの次なる行動にウラヌスは警戒心を全開にしている。
「……好き」
「……は?」
「……今さっき気付いた、自分の気持ち、抑えられない本当の気持ち、わかった、私は貴方のことが好きだということ……!」
そして次にタバサの口から発せられた第一声はまたしてもウラヌスの意識が彼方へと飛んでいきそうなくらいに予想の範疇を超え過ぎたもの。
呆然とするウラヌスを前に、タバサもまた普段の姿からかけ離れている――頬を赤く染めハァハァと息を荒げ、無機質さなどまるで感じさせない熱を帯びた瞳と感極まった声でまくし立てていく。
「好き……! 好き! 貴方のことが大好き!! このハルケギニアで誰よりも好き!! この世で生ける全ての生物の中で貴方を一番愛しているの!! ウラヌス!!!!」
「………………」
両手を頬に当てて体をくねらせながら只管に愛の言葉を叫んでいく、異常としか言いようの無い状態にあるタバサ。
そんな彼女を前にしてウラヌスは「何この可哀想な人……?」とでも言いたげな哀れさに満ち満ちている細められた視線を向けているのであった。
全然関係ない呟きだけど、個人的にアニメ・漫画のクールキャラで特に好きなのは、
綾波、長門、タバサ、桜子、キョージュ(GA)、トオル(Aチャンネル)の6人だったり。
桜子は本心かなりピュアだし、アビスも一緒にいるから、
クールキャラに分類するには微妙かもしれないが。