先のアルビオン艦隊の奇襲による爪痕が残るタルブ村では細々とではあるが復興が進められている。
家々は飛竜のブレスや騎士の魔法によって焼かれ吹き飛ばされ破壊されと散々な有様になってはいたが、その殆どは修復済み。
何より投入された戦力と比較すればその被害はかなりの小規模に収まっていたからこそというのもある。
そしてその復興が復興の為の労力が最小限で済み、村民の殆どを死なすことなく避難させられた一番の立役者は村の中に存在するのであって。
「ふぅ……」
トリステイン魔法学院の夏季休業中、シエスタもまた暇を貰って故郷へと戻ってきていた。
メイド服ではなく薄手の普段着、されど照りつける夏の日差しの暑さで額に汗を滲ませる彼女はバスケット片手にある場所へと向かっている。
本当ならこの休暇を利用して想い人であるサイトもタルブへと招待し、甘々な一時……とまではいかずとも、少しでも距離を縮めておきたいという目論みもあったりした。
が、そんなこんなをサイトの主であるルイズと言い争っている矢先に割り込んできた伝書フクロウ。
結局、サイトは王宮からの通達だとか何とか言って数十分後にはルイズと共に学院の外へと行ってしまっていたのである。
哀れ計画が丸潰れになってしまったシエスタは傷心したまま帰郷していたのである。
事前にサイトさんを連れてくるなどと息巻いていただけに、彼女の父親は「娘を悲しませたな、許せん!」などと怒りを見せていたり。
「……うん、こんな所でへこたれてなんかいられないわ。ファイトよシエスタ、私の方が何倍も好きって気持ちは強いもの」
自分に言い聞かせるようにしてシエスタは歩きながら空いている左手で拳をグッと握って気を引き締め直す。
恋する乙女だからこそわかってしまう同族の瞳、よりにもよってそれが現状サイトと最も長く同じ時間を過ごしているルイズに見られるようになったのはシエスタとしても誤算であった。
プライドが高く些細なことで当たり散らし、使い魔であるサイトの扱いだってぞんざい極まりない。
故に自分がサイトに対して色々と手助けをしているのにそれすらもルイズは気に入らないという素振りを見せるばかり。
だがそれがいつだったかを境に貴族としてのものから、やきもちや嫉妬といった感情が入り混じっているということに気付いてしまったシエスタ。
彼女こそ生粋のハルケギニアの人間であり、平民である自分が貴族にむやみやたらに逆らってはいけないという認識はしっかり刻まれている。
だからこそ逆に平民であろうと貴族に一矢報いることが出来るという可能性を示してくれたサイトに心底惚れてしまったのだし、
相手が貴族であろうとこの気持ちにだけは嘘は吐けないとルイズとだって真っ向からやり合うという勇気を見せているとも言える。
「おやシエスタちゃん、またあのアトリエに差し入れかい?」
「あ、はい。今日はお客様もいますから多めにと」
「相変わらずシエスタちゃんはいい子だねえ。私もあのことには感謝しとるけどやっぱりちょっとまだ怖いって気持ちは抜け切らないもの」
いえいえそんなと謙遜の笑みを見せながら道中でシエスタが会話をしていたのは近所のおばさんというヤツである。
シエスタが向かっている先、今では村中で英雄詩すらされているその男におばさんは元から苦手意識を持っていたし今でもそれは変わらない。
そんな相手と親しくお付き合いをして、こうやって差し入れまでしているシエスタのことを健気ないい子と評していることからの好意であった。
シエスタもまたそういった言葉にペコリと頭を下げてお礼をしながら、話もそこそこに再び歩き始める。
そして数分もしない内に辿り着いたのは村はずれにポツンと佇んでいる寺院、ある男のアトリエ。
「ヴィーゴさん、いらっしゃいますか? お昼の差し入れを……」
コンコンとノックをしても中から返事は無し、恐る恐るキィッと扉を開けてみると中には誰もいない。
作りかけや完成品の作品がいくつか並ぶ中、シエスタが目にしたのはアトリエの端にある開きかけの扉。
成る程と納得し、バスケットを揺らしながらその扉を開いて更に先、地下へと続く階段を下っていく。
「ヴィーゴさん?」
目的の相手を呼ぶ声が薄暗い地下空間に響く中、シエスタはとある部屋の先から人の気配がするのを感じた。
以前やってきたタバサやウラヌスと訪れた場所とは違う、この場所に良く足を踏み入れる自分すらまだ入ったことの無い場所。
シエスタはその部屋の扉を再びノックする。
「――はいはーい、誰かな……っと、シエスタどうしたの?」
「は、はい、そろそろお腹も空く頃かなと思ってヴィーゴさんとカプリコさんにお昼ご飯をと思いまして……」
「うわあい、やったあ! ありがとうシエスタ!」
「ヴィーゴさんは中に?」
「うんそうだよ、作業中みたい」
部屋の中から出迎えたのはアトリエの主ヴィーゴではなく、額に目立つ傷を持った黒髪の少女カプリコ。
2日ほど前に見たことの無い形状の飛竜に跨りフラリとやってきた彼女の目的は、どこで知ったのかヴィーゴに会いたいということ。
最初こそ村の英雄であるヴィーゴのことをあまり表沙汰にはしたくない村人たちが警戒していたのだが、
ヴィーゴが直々に姿を現し、嘗ての同朋であるという説明をしたことですんなりと受け入れられていたのである。
シエスタもその内の1人であり、カプリコはヴィーゴが現状で最も特別に思っている相手ということやPSIが使えることなども含めてすぐに懐いていた。
シエスタもシエスタで幼い弟、妹の面倒を見慣れていることも合わせ、天真爛漫なカプリコのことを良く思っていたのだ。
「ヴィーゴ! シエスタがお昼ご飯持ってきてくれたって!」
「む……そ、そうか……わざわざ地下にまで来てもらってご苦労だったなシエスタ……」
「いえいえそんな、ヴィーゴさんも忙しいでしょうしこのくらいならお安いご用ですよ」
カプリコの元気いっぱいな声に部屋の最奥で作業を進めていたヴィーゴが振り向いてこちらへとやって来る。
ニィッと不気味な笑みを浮かべるヴィーゴに対してシエスタも特に気にした様子も無くにこやかな笑顔で答えていた。
サイトのような恋愛対象ともまた違うが、タルブ村での決戦以降、シエスタの中でのヴィーゴに対する好意は更に大きくなっている。
「しかし今回は残念だったなシエスタ……お、お前の父親からも聞いたが……せっかく恋人を連れてこようと思ったら失敗したとか……」
「こ、ここここ恋人だなんてまだそんな!! で、でも残念だったのは否定しませんけど……」
「ホントにね~、シエスタみたいないい人をほっぽっとくなんてそのサイトって人、失礼なんじゃないかな~?」
「サイトさんにもご都合がありますから……そ、それに私はカプリコさんに会えただけでもそれで嬉しいですから」
「んふ、そんな風に言ってくれると私も嬉しいな! ホントはヴィーゴに会ってみたくてだったけど、楽しさ倍増なんだよ!」
「ふ、ふふ……俺も本当に驚かされたぞ……ウラヌスに続いて、お前やジュナスまでこっちに来ていたと知ってな……」
「ヴィーゴさんのお知り合いと聞いた時は私も同じでした。しかもええっと、クリエイターでしたっけ? 私なんかよりも凄いPSIも使えて……」
「凄いって言うならシエスタもだよ。ウラヌスと同じでヴィーゴもまたすんごい変わってるしね! こっちの人たちはみんなを変えちゃう不思議な力でもあるのかなー?」
各々シエスタの持ってきたバスケットからサンドイッチを掴んで、それを口に運びながらの楽しげな談話。
夏の日差しを遮る涼しげな地下空間の一角で、穏やかな時間が流れていた。
*
ガリア首都リュティスのヴェルサルテイル宮殿、王の住まうグラン・トロワにて。
今日も今日とてジョゼフは無能王と呼ばれるに相応しくロクに政務もこなさず、客人の相手をしていた。
月夜の光が差し込む窓際の小さな円卓で彼が相対するのはそれまで以上の珍客、青い髪をたなびかせ尖った両耳を持つ人とは違う異形。
「……成る程、確かに実に興味深い話ではあるな。で、何故こんな時にわざわざ俺の下に赴いてそんなことを話に来たのだ?」
「クスクス……それが筋書きだからとしか今は言えないね。そしてボクもまたキミに多大な興味がある、ビダーシャルの報告内容以上の、ね」
頬杖を突きながら邪悪に笑うジョゼフに対し、同じくらいの底知れない不気味な微笑を浮かべて話をしているのはエルフのヴァルナ。
その特徴的なエルフ耳だけでなく、自分やグラナやウラヌスとも違う、遥か遠くの虚空を映し出しているかのような瞳を持つこのヴァルナに、
ジョゼフもまた一層の興味を寄せて彼の話に聞き入っていたのである。
ヴァルナも蛮人側の交渉相手として見出された普通とは違うジョゼフという狂人相手に気を悪くするどころか同じように多大な関心を寄せている。
「お前たちエルフは入れ札で時の指導者を選出し、統領と呼ぶのであったな」
「血統で決めることを愚として王と呼ぶのは侮辱に値するとか言ってるけど。ボクからすればどっちもどっち、無駄にこだわってる時点で何も変わりはしないよ」
部族の中では英雄とまで呼ばれているヴァルナは、まるで同族であるエルフの在り方を小馬鹿にするような発言までしている。
アリィーやルクシャナに見せていた態度とは全くの正反対、内に蠢く本性を剥き出しにしているのもジョゼフという人間が相手だからこそ。
「だからキミたちが呼ぶ聖地、ボクらエルフが呼ぶ
「それを表向き抑え込み彼奴らの目を欺いているということだろう? 全く、エルフの連中の中にもとんだキツネがいたものだな!」
「クスクス……力なんてのは使い方次第で光にも闇にも変わるものだよジョゼフ、キミが持つ悪魔の16の1つも、キミが従えている7つの星の1番目もね」
「連中は俺やグラナも含めた全てが揃うことを何よりも恐れていると言っていたな?」
「ああ、ブリミルの力は災厄をもたらすってね。ボクからすればとんだ見当違いさ。あの力はボクの主を手助けするのにも役立つのだから」
統領含めた誰にも明かしていない、ヴァルナのみが知り得ている真実をジョゼフに余すことなく話していく。
常人が聞けば突拍子もない世迷い事だと一蹴するであろう話にさえ、ジョゼフはうんうん頷きながら反応を示している。
そういった反応もまた、ヴァルナにとっては全て事前にわかっていたシナリオに沿ってのことでしかない。
「で、キミが蛮人の治める国の中でも最も強大な力を持つ王だという理由でビダーシャルが交渉相手にしていたわけなんだけど……」
「ああ、あの男には以前、例の毒薬のことも含めて世話になったこともあったからな」
「争いを好まないからキミに防波堤を頼んでその見返りを与える、そういう方向で進めたかったみたいだけどね評議会の連中は」
今尚消えることなくタバサの母親の精神を蝕んでいる毒も、ヴァルナの所属するエルフの部族によって供給されたもの。
人間の遥か先を行く技術の使い手であるエルフに恐れを抱くことなく目を付けていたジョゼフ。
力を不用意に行使したくないエルフたちは、悪く言えば自分たちの手を汚さずに事を収めるためにジョゼフと彼の国であるガリアの力を利用しようという腹積もりだったのである。
「でもまあ、最初に話した通りボクはそんなくだらないことを論ずるためにここまで足を運んだわけじゃない」
そんなことを言ってヴァルナは、両目に蠢いている虚空の闇をより深いものへと変えてジョゼフを見つめている。
ヴァルナがエルフとしての姿を取っているのも、このハルケギニアではそれが最も都合がいいからに過ぎない。
彼の目的は人間の為でもエルフの為でもその他の誰の為でも無く、空の彼方より自分の下へと近づきつつある主の為、その一点のみ。
「……世界を喰らう化け物、そんなものが存在するとお前は言ったな?」
「そう、我が主はこのハルケギニアという世界そのものを捕食し、新たな空へと旅立つために生まれ変わらなくてはいけない。ボクはその代弁者なんだよジョゼフ」
「そんな大層な化け物の使いが、どうして俺に接触し己の素性を語っているのだ?」
「簡単だよ、それは君が望んでいることでもあるからこそだ」
口元の両端を更に大きく吊り上げて、得体の知れない狂笑を浮かべながら楽しそうにヴァルナは告げていく。
ハルケギニアという世界そのものの崩壊、狂っているとしか言いようの無い大願を胸に秘めている男に近づいたのその目的は、
「だから、俺がエルフにでなくお前個人に手を貸せと、そう言うのだな?」
「そうとも。悪魔の16の内の1つを早々に手に出来ることは計画をより早められることに他ならない。ましてその最初の相手が共通の目的を持っているとなればずっとやりやすいだろう?」
「ククク……成る程なあ、俺に何もかもを捨てさせてお前の誘いに乗れということか?」
「望むのならキミが召喚した1番目の星も連れてきてくれると尚の事ありがたいんだけどね。彼が同意するかは別として」
スッと右手を前に差し出すヴァルナの言葉は正に狂気の誘いと呼ぶに等しい。
自らの能力によって導き出したシナリオ、いずれやってくるであろう終焉と新生。
その為に自分という個人に協力しろということを告げるために、彼はジョゼフに接触したのである。
世界の崩壊を望んでいる狂王、お前ならば自分の目的に協力してくれるだろう? という意志の提示。
シュッ!
「そうかそうか――――ならば、こうなることもお前の予測通りなのだな?」
ヴァルナと同じ狂笑を崩さぬまま、一瞬にしてジョゼフの姿はヴァルナの目の前から掻き消えていた。
それと同時に飛び散る一筋の赤と、ヴァルナが感じた右頬の焼けつく様な痛み。
背後に移動したジョゼフの方へと振り向けば、彼の右手には赤く染まった短刀が握られている。
「戯けが。お前の言う全てが真実だとしても、そんな誘いに乗ると思ったのなら見当違いも甚だしい」
「あれれ? キミも望んでいた筈だろう? こんなどうでもいい世界など壊れてしまえばいいと」
「そこに間違いは無い。が、それは俺自身の手で成し遂げなくてはいけない。手助けとしてお前やエルフの力を借りるならともかく、俺がお前の手助けをして世界の壊れゆく様を黙って見ているだけで何の価値がある」
さして驚く様子も無く右頬の血を拭うヴァルナに向けて紡がれる、先までの笑い声とは違う呪詛のような重々しいジョゼフの言葉。
世界の崩壊を望んでいるという点では確かに相違ないが、ジョゼフにとってそれは飽くまでも手段に過ぎない。
シャルルを失って以来、凍り付いてしまった感情を呼び起こす為に世界を滅ぼそうという目的を持っていたのであって、
他人が主導となってそれを勝手にやるとあっては、ジョゼフとしても心底面白くない。
「それにな、今の俺にはまだこの世界で少々見てみたいものもある。それを成さずにお前に付いていってやるつもりなど無いんだよ」
自分の内を理解した対等の相手であるグラナ、そのグラナと同じで自分を人間と称し膨大な力を持つウラヌス、
そしてそのウラヌスを呼び込み、自分の感情を呼び起こす者の最有力候補として目を付けている姪のシャルロット。
今のジョゼフにはそういった興味の対象が複数存在しており、そういった者たちの行く末を見届けぬままに、それも望まぬ行為に手を貸してやるつもりなど無かったのである。
「まあいい、多少の変更はあれどやるべきことに変わりは無い。ボクの『スイテン』は絶対なのだから」
「抜かせ。あまり舐めた口を叩くなよ、中途半端な怪物が」
頬の傷が一瞬にして塞がり、立ち上がったヴァルナも優雅に両腕を広げてその力を解放していく。
相対するジョゼフもまた少しの手加減もせずに右腕の短刀を構え直し、再びヴァルナに向けて攻撃を再開。
夜の闇が支配する中、狂王と蛇の激突が始まっていた。
*
ロマリア連合皇国の宮廷、トップである聖エイジス三十二世ことヴィットーリオはある部屋にいた。
教皇の謁見の間と同じくその場所は、ヴィットーリオを始めとして限られた人間しか足を踏み入れることを許されない禁断の空間と言ってもいい。
ハルケギニアという世界には大凡不釣り合いな物品がごちゃごちゃと並ぶ中、ヴィットーリオがいるのはその最奥。
精巧に整えられた祭壇の先、天を貫かんばかりに刻まれているのは何かを訴えかけるかのような巨大な壁画。
「………………」
両膝を突き両手を組んで目を閉じ、祈りをささげる様に目を閉じている今のヴィットーリオはとても人と呼べる状態には無い。
霧か幻かのようにゆらゆらと全身が揺蕩いながらも、まるで太陽のような眩い光まで放っている。
この空間はヴィットーリオがある力を行使する為に最も集中できる空間であり、己の背負う過酷な運命に従うままに宛がった場所でもある。
「……そうですか」
そしてヴィットーリオが目を開いたと同時にその姿は一瞬にして元の人へと戻っていく。
ゆっくりと立ち上がりながら憂いを帯びた表情を見せる彼の鼻からは僅かにであるがツーッと赤い液体が覗いていた。
懐から取り出したハンカチでそれを拭いつつ、次いでヴィットーリオは祭壇に予め置いておいた1つの鑑をそっと手に取る。
「……私がこのような力に身を染めること、それは貴方への反逆にも等しいのかもしれない、始祖ブリミルよ」
懺悔の如く呟かれるヴィットーリオが覗き込んでいるのは始祖の円鏡と呼ばれる物。
トリステインの始祖の担い手、ルイズが持つ始祖の祈祷書と同じ古来より伝わる重要な秘宝の1つ。
彼もまた四大系統とは違う、伝説と称される虚無の系統の担い手の1人でもあり、それとは更に違う異なる力の持ち主でもある。
「ですが、人の理を大きく外れた力を持とうと……数多の兄弟たちを切り捨てようと、私には成さねばならないことがある」
歴代の欲に塗れた教皇などとは格が違う、清貧の2文字が良く似合う多数の支持者を得ているブリミル教徒の筆頭である彼が抱える多大な秘密。
誰に褒められるわけでも称えられるわけでも無い唯一つの信念と目的の為に、ヴィットーリオはあらゆる策を裏で講じている。
その策の元となるのがついさっきまで祭壇の前で行っていたある力の行使によって導き出される物々でもある。
「ここにいたんですか、相変わらず熱心なことですね」
「……熱心にもなりますよシャイナ、ジュリオと共に貴方を召喚し、私に授けられた使命が間違いではなかったことを悟りもすれば」
その場に1人しかいなかった筈のヴィットーリオにかけられた声、その持ち主であるシャイナが変わることない偽りの笑みを携えて歩み寄って来ていた。
シャイナもまたこの空間に立ち入る許可を持ち、全ての真実を知る者の1人である以上、ヴィットーリオも特に咎めるようなことはしない。
「それで、また何か変わったことでもあったんですか?」
「担い手の1人が蛇に接触したこと、更にいずれ遠くない未来に7つの星が一同に集うと」
「それはまた興味深い、僕もまだ3人しか見つけていないというのに」
「天は、星は全てを殊更に示し語りかけてくれています。私はその声をほんの少し聞かせて貰っているにすぎません……そしてその星の中に、いずれこのハルケギニアの脅威となるであろう悪しき光が紛れているとも」
真剣そのものなヴィットーリオが語る言葉の内容はどれもが抽象的であり、常人がそのまま聞いただけでは少しも理解できないだろう。
だがそうでない例外、シャイナにとってはそのどれもが興味深いものばかり。
彼もまたヴィットーリオの言う7つ星の1つであり、その全てが集うという言葉の意味の示す所に強い関心を向けているのだ。
「成る程、ではやはりトリステイン・ゲルマニア連合軍とアルビオンによって近々行われるだろう全面戦争、それに僕たちも介入することにも変更は無いと?」
「ええ、貴方やジュリオにもまた迷惑をかけることになりますが……準備をお願いできますか?」
「はい、何だかんだ僕も楽しいですし、貴方が命令するなら異存は無いですよ」
ニコリと形式的な笑みを見せながらシャイナは、徒歩で部屋を後にする。
ヴィットーリオの側近という立場上、彼もまた多くの重要な密命を抱える身であり、それらに少しの文句も言うことはない。
一度死した身であり明確な目的があるわけでも無く、偽りの笑顔で他者を誤魔化し息を潜める様に生きることしかできなかった今の自分が持つ役割をただ忠実にこなすだけ。
(あのサイキッカーが僕を倒した時に見せたあの力……それと同じ物を彼が使っているというのも……)
それ以外にもう1つ、死の間際に自分が目にした膨大で異質な力。
それと同じものを操ることの出来るヴィットーリオへの興味も胸に秘めながら、
シャイナは自分の任された役目を遂行する為に、テレポートを使って姿を消した。