申し訳ないとしか言いようが無いです……
充電期間中にまさかのゼロ魔新刊が発売したりで驚いてます。
とりあえずテファがチートな魔法に目覚めたとかでそこが……
あとリハビリ的な意味もあって今回ちょっと短いです。
ハルケギニアの国家の中でも最大級の力を誇っている大国ガリア。
トリステイン、ゲルマニア連合と神聖アルビオン共和国との争いが間近に迫っているということもあり、国内では日に日に緊張が高まっている。
現状は一応中立の立場を発表し静観の姿勢を保ってはいるのだが、だからといって国内の軍が何もしないわけが無い。
現在のガリアのトップがあの無能王ということもあり、何時如何なる時、どのような命令が下されようとも万全の態勢を整えておかなくてはいけないのである。
故に国内最大規模の軍港であるサン・ロマンにはガリアが誇る頑強な戦艦が所狭しと居並んで羽を休めているのだが、
特に旗艦である木製空中戦列艦『シャルル・オルレアン』の姿は圧巻の一言に尽きる。
一度王が号令をかけるだけで、亡き王弟の名が付けられたこの旗艦と共に、最強の艦隊は苦も無くあらゆる戦力を圧倒することであろう。
「今のは……どうやら今度は黒真珠号がやられたようです」
「またか! それもこんな真昼間からだと!? これでは戦争介入どころか両用艦隊が全滅してしまうではないか!」
しかしガリアの軍人、より正確に言えば空と海2つの戦力の要である
シャルル・オルレアンの第二作戦室から外を見る艦隊参謀のリュジニャン子爵の静かに事実だけを淡々と伝えるような口振りと、
その内容に心底憤慨しているのは艦隊総司令であるクラヴィル卿である。
「まったく、わしは国王陛下の信頼を預かる身であるというのにこれではいい恥晒しではないか……せめて犯人の目星くらいはついているのか?」
「…………」
無言で首を横に振るリュジニャンの姿を目にしてはクラヴィルの表情が益々苦々しげなものへと変わっていくのも無理からぬこと。
国内戦力の要である以上、クラヴィルが指揮を執るこの両用艦隊は有事となれば真っ先に最前線へと投入される。
である以上、他の艦隊以上に整備を万全にしておかなくてはいけないのもまた当然のこと。
そんな折に発生しているのが艦隊の爆発事故……という名の艦隊襲撃事件なのである。
今し方爆発を起こした黒真珠号で3件目、既に6隻もの艦を失っているとあってはクラヴィルとしても気が気ではない。
「ですが閣下、艦隊増強に伴い水兵の数も増える一方、出自の怪しいものも多数おります……」
「それくらいはわしもわかっておる、だが現在の国内外の情勢を鑑みればそうも言ってられないのも事実であろう」
「それでも割り切れないものもあるというもの、全てはあの無能王の無策でごろつき同然の連中を次々と迎え入れているのがいけないのです、そもそも艦隊を増強するというのは歩兵を増やすのと違って」
「口が過ぎるぞリュジニャン、我々は軍人だ、政治批判が仕事ではない」
「……申し訳ございません」
リュジニャンの言うことをクラヴィルとしても全く理解してないわけでもないのだが、それでも自分で言ったように今はそんなことを気にしている場合ではない。
艦隊の爆破という確固たる事実が突きつけられている現状で最も最優先すべきなのは、それを起こしている犯人の確保であることは、
クラヴィル、リュジニャン含めた艦隊上層部の総意である。
「とはいえ空や海では無敵を誇る我ら両用艦隊軍も現状のとおり陸では無力同然、よって今回は王政府に援軍を要請した」
「その援軍とは一体?」
「北花壇警護騎士団」
「北……ごろつきどころの話ではありませぬな。よりにもよってあの連中を……」
「仕方の無いことなのだ、我々が空の熟練者であるように、艦隊爆破を行っているネズミを燻り出すには闇の熟練者を呼ぶしかあるまい」
立場が入れ替わるようにクラヴィルの語る理由に一応の納得はできるものの、それでもリュジニャンはあからさまな不満を隠そうともしない
本来存在し得ないはずの裏の任務を専門に取り扱う闇の住人たちである北花壇警護騎士団の存在はガリア国内の正規軍人の間でも有名である。
が、表舞台の戦場で名を上げる軍人たちからすれば、どんな些細な反抗であろうと見逃さず監視し報告し、
時には国の命令一つで名だたる歴戦の将ですら一切の躊躇無くその首を狩るともされている北花壇騎士団の存在は、
言ってしまえば悪魔とか死神とかそのような類にすら見えてしまうものであり、非常に毛嫌いしていると者が数多い。
クラヴィルとリュジニャンもその例に漏れないのである。
「指令、王政府より使者殿が参っておりますが」
「来たか、精々手練れの者であることを願うが」
と、そんな噂をしている内に甲板士官がノックと共にお目当ての人物の来訪を告げる。
やんわりとその声を制し、やってきた使者に中に入るように命令を下し、数秒もしない内に作戦室の扉が開かれる。
「……!!」
そして不満と僅かな期待を抱いて迎え入れた2人の感情は一瞬の驚きの後に失望へと変わり、
更に騎士の背後に立つもう1人の姿を見据えた瞬間に再度の驚きと恐怖へと変わる。
数秒の内に幾重にも表情をコロコロと変える2人の前に立っていたのは小柄な青髪の少女とその背後に立つ青年。
まるで血の繋がった家族だとも思えてしまうくらいに、両者が携える瞳はあまりにも無機質で冷たい。
「ガリア北花壇騎士タバサ、その従者ウラヌス、王命により参上」
そんな指令と参謀の驚きを他所に、いつもと変わらぬ平坦な口調で騎士――タバサは形式的名乗りを上げ、
背後に立つ青年――ウラヌスもまた普段どおりに無言を貫いていた。
*
「大変失礼を致しました特任少佐、遠路遥々首都リュティスからいらしたというのに……」
「気にしてない」
甲板士官の1人であるヴィレーヌという名の物腰丁寧な少尉の案内の下、タバサとウラヌスは事件現場へと歩を進めている最中である。
魔法学院の夏季休暇の終わりも間近に迫る中、今回タバサが任務として下されたのがこのサン・ロマンにおける艦隊爆破事件の真相究明である。
急激な戦力増強の件も含め、ガリアに対して不信感を持つ類の人種は国内外問わずして多岐に渡る。
そんなきな臭い連中の1つであろう今回の事件の犯人を狩り出すためにタバサが遣わされたということ。
どちらかといえば今回の任務は諜殺目的よりも厄介ごとの押し付けとしての側面が強いか。
「お前らの上がどうしようが何とも思わん。こっちの目的の邪魔をしない限りはな」
「そ、そうですか……」
相も変わらずな傲岸不遜な態度を全く崩さないウラヌスにはヴィレーヌとしても困惑の色を隠せない。
どの道諜殺だろうと厄介ごとの始末だろうとウラヌスの言うようにその目的に大して違いは無い。
タバサにとって北花壇騎士の任務は自己研鑽の場、それがどのような状況下、シチュエーションだろうと変わらない事実。
故に、明らかに舐めきった言動でクラヴィルがタバサとウラヌスを軍議にも参加させずにとっとと部屋から追い出しても2人は特に思うところなど無いのだ。
「着きました、こちらになります」
「ほう、またずいぶんと派手にぶち壊したものだな」
「ええ……乗員の半数は難を逃れたのですが……それでも残りの半数が艦長諸共犠牲に」
やがて辿り着いた黒真珠号爆破の現場を前にして表情を曇らせるヴィレーヌを他所に、タバサとウラヌスはしげしげと現場を観察している。
全長50メートル、合計32もの砲を装備したフリゲート艦の勇姿は今やどこにも無く、
辺りに漂っているのは無数の木片にぐにゃりと折れ曲がった鉄塔、鼻を突き刺す油の匂いだけ。
腐敗を防ぐためのタールが塗られた黒い木片をタバサは拾い上げてじっと見つめる。
「原因の目星は?」
「お恥ずかしいことに何も……魔法によるものなのか外的に仕掛けられたものが原因なのかそれすらわかっていないのです」
「主戦力の艦隊軍人が何とも情けないことだな。それとも、お前らを欺ける今回の犯人が少しはできる奴だということか?」
ふぅと吐かれるため息とともに侮蔑するかのようなウラヌスの物言いに対し、
国内でも北花壇騎士と共にメイジ殺しとして名が知れ始めている彼の正体を知っているヴィレーヌは何も言い返すことができない。
爆破の主原因自体は艦にたっぷりと搭載された黒色火薬の引火によるものなのだが、不明なのはその着火原因である。
ウラヌス自身はガリア軍の内情をよく知らないこともあり、その他の有象無象と同レベルの見方しかしていない。
後半に吐き捨てられた内容も多少は自分の期待に添える歯応えのあるものが……もしくはタバサの研鑽となるに値する者が犯人であってほしいという、僅かな期待を込めてのものだったりもする。
「と……あちらはヴィレ号ですね、まだ片付けが済んでいないようですが」
「そう……? 彼女は?」
そんなやり取りもそこそこに、黒真珠号爆破跡地の次にヴィレーヌに案内された別の爆破地点。
黒真珠号の時と同じように散らばった木片と折れ曲がった鉄塔が見えるその場所には先客がいた。
背後からでも聖職者であることがわかる藍白二色の聖衣を纏う1人の女性が熱心に祈りを捧げているのである。
「ああ、シスター・リュシーですよ。ヴィラ号の艦付き神官だったものです」
タバサの質問に何てこと無いように答えるヴィレーヌの声を聞いて女性――リュシーがタバサたちの方へと振り向く。
二十歳そこそこの若く美麗な顔立ちに長い金髪を頭の上で結い上げているリュシーは如何にも聖職者であるということがわかるオーラが漂っている。
3人のうちで唯一ウラヌスだけは僅かな疑問を頭に浮かべているのだが、始祖ブリミルを信仰するハルケギニアの住人にとって、
毎日の祈りや告解、死者に対する儀礼は欠かせないものであり、それを担う艦付き神官もまた艦隊にとっては欠かせない存在。
元々異なる世界の住人であり、そういった事象に馴染みの無いウラヌスがそのようなリアクションを取るのもまた必然と言える。
「あの、彼女たちは」
「ああ失礼、こちらは首都からいらした花壇騎士殿とその従者様です、今回の事件の調査に参ったのですよ」
「そうでしたか」
少しの間を置いておずおずと3人の方へと近寄ってきたリュシーであったが、ヴィレーヌの説明を聞いて緊張で凝り固まっていただろうその表情が解れて行く。
それを確認した上でタバサはリュシーに対して聞いておきたいことがあったので自ら口を開いた。
「あなたは告解を受け持つ?」
「はい」
極々自然に肯定の意を示すリュシー。
告解、つまりは何かしらの罪を犯したものがそれを懺悔し許しを請う行為を担っているかということ。
神官にとっては重要な仕事の一つであるのだが何故そんなことをタバサが尋ねていたのかといえば、
「事件の手がかりになりそうなことを聞いたら私に教えて欲しい」
「ちょ、ちょっと特任少佐……彼女は聖職者です。告解に来た人間の秘密を漏らすことなどありえませんよ
リュシーと同じように平坦な口調でさも当たり前のように話すタバサに対し、すぐ隣でそれを聞いていたヴィレーヌが彼女に囁いている。
その声にはどこかしら不信感や不快感といったような感情が含まれていたのだが、その対象はタバサに向けられたものではない。
そしてその向けられた先が何なのかを真っ先に理解したのは、突如として不満げな表情を見せるリュシーであった。
「貴方は聖なる任務をどのようにお考えですか? 告解を聞き届けなくてはいけないわたくしたちは云わば神の代弁者、その秘密を漏らせば彼らは己の罪と向き合うこともできなくなるのですよ。わたくしたちの仕事は人を裁くことではなく正しく導くことなのです。例えそれが犯罪者であろうと」
「存じていますよシスター。尤も、艦付き神官にわざわざ此度の事件の告解を行うような犯人がいるとも思えませんが……」
凛とした表情で真っ直ぐに言い放つリュシーの言葉はどこまでも聖職者としての己の意思を体現したものである。
やれやれと肩を竦めるヴィレーヌの姿を見るに、こういったリュシーの言動は初めてではないだろうということはタバサにも容易に想像できる。
だがそれを踏まえても自分たちもどうにかして事件を解決しなくてはいけない事情があり、その為には少しでも多くの有益な情報を得たいというのが本音である。
「くだらん戯言を聞きに来たわけじゃあない。お前はただ役に立ちそうな情報を得たら黙って教えればそれでいい」
「まあなんという……犯罪者も等しく神の御子であるのですよ、神の前では等しく平等です」
「フン、寝言は寝て言うことだな。この世界の現実を見てそんなお綺麗な連中ばかりだと思えるのか? お前を含めてな」
そんなタバサと同じ、あるいはそれ以上に極端な考えを持つウラヌスは冷徹なまでにリュシーに言葉のナイフを突き刺していく。
ウラヌスとてタバサに召喚されてからそこそこの年月をこのハルケギニアで過ごしている以上、この世界の大まかな情勢はだいぶわかってきている。
貴族と平民、6000年もの間この絶対的な力関係が存在しているこの世界において、人は皆等しく平等であるなどと誰が感じられるだろうか。
自分が元いた現実世界、ひいてはその後の崩壊世界ですら強者と弱者ははっきりと分類されて当然だったのだから、
リュシーの言葉がウラヌスにとっては単なる綺麗事、戯言の類に聞こえてしまうのも至極当然のことだったのである。
「……あなたはとても悲しいお方なのですね」
自分の在り方を散々に扱き下ろされてもリュシーは特に声を荒げるでもなく、沈痛な面持ちでウラヌスを見つめた後にペコリと一礼してから去っていく。
それに対してウラヌスは何をするでもなく、側にいたタバサと共にヴィレ号跡地の現場検証を再開していた。
*
結局その日はヴィレ号での現場検証も含めてこれといった手がかりが見つからず、タバサとウラヌスはシャルル・オルレアン号に宛がわれた自分たちの部屋へと戻ってきていた。
曲がりなりにも国の要請で正式に派遣されてきた騎士とその従者故にそれなりの待遇を以って対応されているということでもある。
尤も、出された食事は貴族士官向けではなく水兵のものと同じな辺り、クラヴィルを始めとする艦隊軍人はタバサたちに対するその心の奥底を隠そうともしていなかったが。
彼らにとって幸いだったことの一つはそういった行動の諸々を、タバサもウラヌスも気にすることは皆無だったということであろう。
「散々警備を強化している割には有益な情報を掴めてないとはな」
「水兵同士の繋がりも密接、それに彼らもそこまで弱いわけではない。貴方が言ったことも間違いではないのかもしれない」
「そっちの望ましいくらいだがな、俺にとってもアンタにとっても」
用意された夕食である塩漬け肉と固いパンを黙々と口に運びながらタバサとウラヌスは会話を重ねていく。
リュシーと別れた後の現場検証の最中でヴィレーヌから聞き出した情報によれば、
最初の襲撃以降に警備の人数は三倍にも増強され、非番を除いた全ての貴族士官が駆り出されていたとのこと。
にも関らず犯人はそれらの警戒網を容易く潜り抜け、誰にも気づかれること無くその後2回も同様の犯行を成功させているのである。
元から在籍している700人もの貴族士官たちはタバサが口にしたように皆身元のしっかりした者たちばかりで、
それぞれが同じ戦場を共にしてきたということもあってか家族のように繋がりが強いとのこと。
となればそういった者達が裏切るとも考え難く、やはり犯人は補充されたばかりの水兵かもしれないというのがヴィレーヌの見解だった。
「犯行の証拠もこれといって見つからなかった」
「あの甲板士官が最後に言っていたように自爆でもしているのか?」
「可能性がゼロじゃない以上、考えておく必要がある」
「どういう人種であれやることは変わらないがな。新教徒だかなんだか知らないが俺には関係が無い」
もう一つヴィレーヌが伝え聞かせていたのが今までの実行犯たちの背景について。
魔法の使える貴族ならともかく、平民では火薬に着火するための手段は限られてくる。
しかし、その着火のために用いた道具でさえ3度の犯行を許した今でもそれらしいものは欠片も見つからないのである。
その前提を踏まえたうえでヴィレーヌが導き出した推測が自爆である。
彼もまた熱心なブリミル教徒の1人であり、彼も嫌っている伝統ある教徒たちとは違う新教徒の類ならそういった手段も嬉々として使ってくるのだと悪態を突いていた。
ヴィレーヌがリュシーに対して向けた不信感も、こういった事情が絡んでいたりもする。
といっても、ウラヌスが言うようにタバサにとっては飽くまでも新教徒という推測は犯人特定のための一要素でしかなく、
旧派閥と新教徒の認識の違いと根底にある争い自体には何ら興味を感じていなかった。
「……まあ、怪しいという意味合いではもう決まりきっているようなものだけどな」
「確証が足りない、もう少し時間が必要。どちらの手段を取るにしても」
食事を終えて各々の暇つぶしに耽る中でタバサとウラヌスがそれぞれ呟いた内容。
確かに物的証拠や手がかりは得られなかったが、それ以上に有力なナニカを2人は既に掴んでいた。
裏の人間だからこそわかるもの、クラヴィルの言ったように闇の熟練者である2人はある人物に犯人の目星を付けていたのである。
「…………」
互いの認識が共通していることを確認した上で、ふとタバサはちらりと部屋の中を見渡し、そしてある1つの絵に視線を固定する。
来賓用の貴族士官室ということもあって装飾もそれなりに凝ったものになっており、壁には歴代の艦隊指令や両用艦隊旗艦の肖像画が飾られている。
その一画にある若く凛々しい青髪の男性士官の絵にタバサの視線が向けられている。
「話には聞いていたが、それがアンタの父親か」
「……(コク)」
別に特別何かをしていたわけではないウラヌスも、今のタバサの向ける先にあるのが何なのかを情報としては知っていた。
タバサにとっての大切な家族、今は亡き優しい父親、現王ジョゼフの弟でありこの旗艦の名にもなっているシャルル・オルレアン。
実物よりも厳格さを増して描かれているとはいえ、その姿はタバサの思い出の中にある父の姿とそう変わらないもの。
(……あの男はどうして、この艦に父さまの)
直後、タバサの頭に過ぎった1つの疑問。
父を殺した最大の仇にして復讐の相手であるジョゼフは、どんな理由があって自ら手にかけた弟の名をこの両用艦隊旗艦に付けたのかということ。
王としての権利だけでなく命すら奪い、その家族である自分や母すらも苦しめているというのに、
何故、国内の主要戦力である艦隊の機関にその名を冠するのか、その心境が全く理解できそうにも無い。
尤も、どういう理由であれ自分の大切な父を殺した復讐相手の心内など詳しく知りたくも無いというのが今のタバサの気持ちでもあったが。
如何なる事情があれ、現王ジョゼフが父を殺した憎き仇であることは揺るがないのだから。
「一つ聞かせろ」
「……? ウラヌス?」
その段になって唐突にウラヌスはタバサに声をかけていた。
予想外のタイミングにタバサは多少キョトンとしながらもウラヌスのほうに向き直る。
ウラヌスは相変わらずの無表情であったが、その裏にいつもと違う何かがあることをタバサは見抜いていた。
「アンタにとってその父親というのはどういう存在だったんだ?」
「……大切な家族、大好きな人だった。だから、父さまを殺したあの男を私は許せない」
今や台頭のパートナーとなりつつあるウラヌスに対しても変わることの無い答え。
それを聞いてウラヌスは特に何か反応を返すでもなく無言のままタバサを見つめていたのだが、
「……家族という繋がりに興味を?」
「さて、な。人間らしさとやらに疎い俺にはそうであるかもわからん。まして、血の繋がりだけで大切だと思うなど、それこそ縁遠いことだ」
「……だとしても、私にとってこの想いは譲れないこと、家族という繋がりはそれだけ深い意味のあることだから」
「ヴィーゴの奴はアンタと真逆のことを言っていたがな……カプリコとジュナスともまた違うか……やはりわからんな、こういったことは」
PSYの実験のためにゼロから作り出された実験動物の3番目。
最初から血の繋がった家族そのものや人間らしさという自覚がウラヌスには存在していなかったこともタバサは知っている。
嘗てのW.I.S.E.幹部である星将たちは皆それぞれが特殊な出自にあるが、
他者との繋がりを何も知らずに生み出されたという意味ではウラヌスと彼の宿敵であるグラナが該当する。
ジュナスとカプリコの繋がりについては言うまでも無く、カプリコに至っては自分が更に知らない愛という感情も理解している。
リーダーである弥勒は、PSYの実験に関る前は養護施設に預けられての穏やかな時間を過ごしていた過去が存在する。
ドルキやシャイナについてはよく知らなかったのだが、それでも異なる力をひた隠しにしながらも表社会でそれなりの期間生きていた筈である。
ヴィーゴにとっての家族という存在は己の絶対的な感性を否定する忌むべき存在でしかなかったと本人から聞いたことはあるが、
それでも作られた自分とは違って血の通った存在というものが身近にいたことも確かなのである。
「……わからんものだな」
つい最近自身が自覚し始めたばかりの感覚を、嘗ての同胞達の殆どが大なり小なり持っていたことに気づき、
ウラヌスは表情を僅かに俯かせたまま思考の海に沈んでいく。
「……ふふっ」
そんなウラヌスの姿を見てタバサは、召喚されたばかりの頃の彼のことを思い出しつつ、
同時に今の在り方を間近で見ながら僅かに笑みを零していたのであった。
次回更新は……なるべく早めにはしたい。