ロングビルが手綱を握る馬車に揺られながら一行は森の中を進んでいく。
馬車と言っても屋根の付いていない、云わば荷車に近い形状の物だったのだが、
これはいつフーケに襲われてもすぐに戦闘を行えるようにとの配慮をしての物である。
「手綱役なんて付き人にでもやらせればよかったじゃないですか」
「気にしないでくださいミス・ツェルプストー、それに私は貴族の名を無くした者ですし」
「名を……あの、差し支えなければ詳しい事情をお聞かせ下さらない?」
温和な笑みを絶やさぬままにキュルケに声を返すロングビル。
学院長の秘書、ということ以外は学院内でもとりわけ詳しい素性が知られていなかったりもする。
オスマンが個人的なお気に入りとして見ているのも関係しているのだろうが、貴族でない人間がどのような経緯で学院で働くことになったのか、
キュルケの中で探究心と好奇心がみるみる内に膨れ上がっていき、続け様に質問を返していた。
それに対するロングビルの返答は無言の笑み、つまりは聞かれたくない話題であることの意思表示。
「ふぅ……素性が気になると言えば貴方もそうよねえ?」
「何がだ?」
「とぼけないでよ。一撃でフーケのゴーレムをどうこうできるなんて手練れのメイジでも難しいのに、そんな芸当ができる人間が側にいるとなれば気にもなるわよ」
深く突っ込むのも野暮だろうとキュルケも察し、溜め息一つの後に今度は興味の対象を向かいに座っているタバサの更に横にいるウラヌスへと向ける。
フーケ襲来の報と学院長室での事情聴取、何より目撃直後の衝撃が強すぎたなどあらゆる要因が合わさって頭の片隅に追いやられていたが、
キュルケとしてはロングビル以上にウラヌスが何者なのかということに興味が尽きない。
只者ではない力の持ち主であることはヴィリエを吹っ飛ばした際にわかっていたことだが、それに加えて今回のゴーレム撃破である。
ハルケギニアでは存在しえない筈の異質そのものな力の持ち主に対して、何の疑問も興味もわかないという方が珍しいと言えるだろう。
「あの氷の槍、凄かったじゃない? 何かのマジックアイテムなの? 詳しく教えてちょうだいな」
「言ってもアンタにはわからないことだ」
「ツレないわね~あんなトンデもない物使えるんだからもったいぶらずにちょっとくらい説明してくれてもいいじゃないの」
相変わらずウラヌスは素っ気なく切り捨てるだけであり、予想はしていたとはいえキュルケも少し不満げな表情を浮かべている。
マジックアイテムでも先住魔法でもない、この場にいる者の中ではウラヌスだけが用いているPSIという力。
その存在をハルケギニアの人間が"普通なら"知り得る事など無いだろうし、ウラヌス自身もそれを吹聴したりする気も無い。
最も長い時間行動を共にしているタバサでさえ、魔法とは根本から違う異形の力という認識を持っているだけでその正体については知らない。
それをキュルケに説明することなど、今のウラヌスからすればまず無いことであろう。
「全く、誰彼かまわずに他人の事情を聞こうとするなんて色ボケツェルプストーは本当にデリカシーが無いのね」
「ふん、私が誰に何を聞こうがあんたには関係ないでしょうヴァリエール」
「トリステインの貴族は無暗に聞かれたくない過去を詮索したりしないの、アンタのお国がどうかは知らないけどね」
だがキュルケが更に食い下がろうとする前にその行動をピシャリと制するようにルイズが口を開いていた。
「相変わらず融通の効かない堅物さんねえ、そんなんだからあたしまでとばっちりを食ってるって言うのに」
「とばっちりって何よ? 志願したのはアンタが自分からでしょう?」
「タバサとウラヌスは問題ないとしても、使い魔の後ろで隠れてるしかできないアンタを行かせたら誰がサイトを守ってあげるのよ?」
「誰がそんな情けないことなんてするもんですか!! わたしの魔法で何とかして見せるわ!!」
「笑わせないでよ!! 未だに何をやってもどっかんどっかん爆発させるしかできないくのに!!」
売り言葉に買い言葉、こうなってはキュルケも引き下がるつもりなど毛頭なく、またいつものように口論が始まってしまう。
「ちょっと待てお前ら、こんな時にまで喧嘩なんてするなよ」
「黙ってなさいよ! そっちのタバサの使い魔にまで遅れを取ってる癖に……! 少しは活躍してくれないとわたしだって恥をかくのよ!」
「なっ……それとこれとは無関係だろうが」
遂にはサイトが間に入って取り成そうと試みるが、却ってルイズに対して火に油を注ぐ結果にしかならない。
サイトからすれば理不尽でしかないだろうが、奇妙な平民(とルイズは思い込んでいる)でしかないウラヌスが力を発揮する前でそれを見ているしかできないという現実は、
同じ人間の使い魔であるサイトに対しても、何より立派な貴族たらんと硬い意思を持ち続けている自分にとっても我慢ならないことだったのである。
「フン……」
「…………」
仮にも危険な任務の前だというのに、それに不釣り合いな不穏な空気が流れる一方。
そんな中でも碧眼の主従は割って入るでも止めようとするでも無く、各々で時間を潰しながらマイペースを貫いていた。
*
しばらく進んだ後に馬車は歩みを止め、森の奥深くをロングビル含めた6人が進んでいく。
まだ昼間だというのに夜だと錯覚してしまうくらいに、木々が鬱蒼と生い茂り日の光を遮断している。
その方が盗賊の隠れ家らしいという意味では合っているのかもしれないが。
「私が聞いた情報によるとフーケはあの中に潜んでいるとのことです」
しばらくの間小道をまっすぐに歩いていたが、やがて開けた場所へと出る。
ロングビルが指差したのは学院の中庭ぐらいの開けたスペースと、その中心にぽつんと佇む人気のない小さな丸太小屋。
全長数十メートルを超えるゴーレムを操る強力なメイジが潜んでいるかもしれない居場所を前にし、約1名を除いて全員の間に緊張が走っている。
「前置きはいい、いるならいるで叩き潰すだけだ」
「あ、ちょ、ちょっと待ちなさいよアンタ!!」
……で、その例外1名ことウラヌスは1人でさっさと丸太小屋の方へと行ってしまう。
慌てて呼び止めようとするルイズのことなどお構いなしであるが、ウラヌスがフーケのゴーレムを撃破した光景はロングビルを除く全員が直接目にした事。
どの道、中の様子を確認する偵察兼囮役が必要だと考えていたタバサとしてはこれはこれで好都合と思っていた。
「蛻の殻だ、来たければ勝手に来い」
数秒も経たない内にウラヌスが小屋の入り口の前で振り返り、後ろの5人にそう言った。
外で見張りをすると言ったルイズと、辺りの偵察に行ってくると言い残して姿を消したロングビルを除いた残りの3人も小屋の中へと入っていく。
埃の被ったテーブルに転がった椅子、崩れた暖炉に隅に積み上げられた薪、別段罠なども見られない至って普通の一室。
壁に寄り掛かるウラヌスを除き、サイト、キュルケ、タバサが部屋の中を物色していく。
「見つけた」
そしてこれまた特に時間がかかることも無く、タバサが部屋の端に置かれたチェストから乱雑に持ち上げた物体。
それは何とフーケが盗んでいったはずの破壊の杖そのものだった。
「呆気ないわね、こんな簡単に見つかるなんて」
やれやれという風にキュルケは肩を竦めている。
フーケが待ち構えていることも想定していたというのに、よりにもよって盗まれた秘宝がそのままこちらの手に返ってくるなど拍子抜けもいいところだろう。
「ちょ、ちょっと待てよ、それが本当に破壊の杖ってやつなのか?」
「ええそうよ、私も確かに宝物庫で目にしたもの」
「でも待て、何でこんなもんが…………」
銀色の筒状の物体である杖とは程遠い外見の秘宝に最も強い反応を見せたのがサイトであった。
直接目にした事こそ無いが、少なくとも自分くらいの年頃の人間ならば見た目でそれが何なのかわかってしまうくらいの馴染みはある。
そしてそれは、本来このハルケギニアという世界にはある筈の無い物だということも。
「……随分とまた、アンティークな物が出てきたもんだな」
「や、やっぱりアンタにもわかるのか、これが」
「え? サイトだけじゃなくてウラヌスもこれを知っているの?」
未だ入り口横の壁に寄りかかったままのウラヌスでさえ僅かに反応を見せたことが、サイトに秘法の正体をより確信させることになる。
破壊の杖について知っているふうな口振りのサイトとウラヌスには、キュルケだけでなくタバサも意外そうな表情を浮かべていた。
尤も、サイトはともかくウラヌスにしてみれば、その破壊の杖は自分の板世界からすれば違う意味で珍しい部類なのかもしれないが。
「きゃああああああ!!」
「ルイズ!?」
が、キュルケが2人に真意を問おうとした直後、小屋の外から聞こえてくるのは重々しい衝撃音と見張りをしていた筈のルイズの悲鳴。
真っ先に反応して小屋の外へと飛び出していくサイトに続き、キュルケ、タバサ、ウラヌスも続いていく。
「な、ゴーレム!? フーケは別の場所に……」
「秘宝をあんなわかりやすい場所に野ざらしにしていたのはエサ代わりといったところか」
青空をバックに姿を見せていたのは見間違える筈も無い、土くれのフーケが操る巨大なゴーレムである。
突然の襲撃に慌てるキュルケを横に、冷静に敵の意図を察して説明を始めるウラヌス。
そんな2人を他所に真っ先に動き出していたのがタバサであった。
「ラナ・デル・ウィンデ――」
先手必勝と言わんばかりに愛用の長杖を前へと突き出し、即座にスペルを紡いで魔法を発動。
放たれる風の鎚、エア・ハンマーは以前にウラヌスが狙ったのと同じゴーレムの脚の付け根に一直線に向かっていく。
「ッ…………」
「あれで無傷……!」
だが、タバサの得意とする風の一撃はウラヌスの放ったそれとは違い、ゴーレムの巨体をほんの僅かに揺るがしただけで傷一つ追わせることができない。
珍しくタバサが悔しそうに声を漏らすその横で、今度はキュルケがワンドを取り出し魔法を行使する。
火のトライアングルである彼女の代名詞、ファイヤーボールがゴーレムの体にぶつかるも、全く意に介さず炎は霧散してしまう。
「む、無理よ、こんなのあたしたちには!」
「……退却」
時間をかけて策を練れば対抗できなくも無いのだろうが、敵が目の前に迫る状況で悠長にそんなことをしている暇など無い。
今の二撃でこちらへと気付いたゴーレムから逃れるべく、キュルケとタバサは一目散にその場を離れていく。
後に残った2人――サイトは外にいた筈のルイズの姿を探し始め、ウラヌスは少しも臆することなくじっと敵の姿を捉えている。
「さて、今度はもう少しくらいは耐えて――――……何だ?」
「ルイズ、アイツ何してんだよ!?」
対等には程遠いが少しくらいなら楽しめるだろうと、いつものようにウラヌスが攻撃を始めようとした矢先、
2人が気付いたのがゴーレムの背後で起こった爆発に、杖を掲げるルイズの姿である。
「逃げろルイズ! そこにいちゃ踏み潰されるぞ!」
「嫌よ!! あいつを捕まえればもう誰もわたしを馬鹿にしない!! わたしをゼロのルイズなんて呼ばない!!」
「そんな意地を張ってる場合じゃないだろう!! 勝ち目のない戦いに挑んでもしょうがない、ただの無謀だ!」
必死に叫ぶサイトを前にしてもルイズは退くことなく、杖を振り上げたまま魔法を、ゴーレムに向けて爆発を起こし続ける。
眼前で立ち止まる敵2人に、何の外傷にも繋がらない爆発を起こしている背後にいる敵1人。
どちらを先に潰そうか迷っているのか、ゴーレムは立ち止まってのそのそと顔を動かし続けている。
「あんただって言ったじゃない! 下げたくない頭は死んでも下げたくないって!」
「そりゃ確かにそんなことも言ったけど!!」
「主のわたしだって同じなのよ、誇りがあるの! 魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない!! 敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!!」
学院の秘宝を盗むという大罪を犯した敵を前にして何も出来ずに逃げの一途を講ずるしかない。
魔法が使えないという大きなコンプレックスを持つ分、誰よりも誇りを重んずるルイズはそんな情けないことは決してできなかった。
故に、無謀と言われようが勝ち目が無かろうが、逃げ出すという選択肢を取ることができなかった。
尚も爆発を起こし続け、真剣そのものな瞳でゴーレムと闘い続けるルイズを、判断を終えたゴーレムは一切の躊躇なく踏み潰そうと脚を振り上げる。
「あのバカッ……!! って――」
「きゃあ!!」
「長々と目障りなんだよ」
剣を手にして駆け出そうとするサイトよりも更に早く、彼の前を瞬時に追い越していく人影1つ。
ルイズが成す術無くゴーレムの下敷きになる寸前、ウラヌスがルイズの小さな体を突き飛ばし、間髪入れずに右脚を大きく振り上げる。
「…………少し無理があったか」
「う、嘘だろ!?」
如何にライズで跳ね上げた一撃だろうと、十分に練っていない状態では数十メートル規模の敵の攻撃に対しては有効打にならなかったようだ。
それでもウラヌスの蹴りによって今までビクともしなかったゴーレムの巨体がグラりと揺れ、バランスを崩す。
またしても超常的な力を眼前で見せつけられたサイトとしては開いた口が塞がらない。
「ッ……そうだよ、このバカ! 死ぬ気だったのか!? いくら貴族のプライドが大事だからってなあ……!!」
だがそのことよりもまずはあまりにも無貌な無茶を仕出かした主人の方だ。
飛ばされてきたルイズを受け止めていたサイトは、彼女の体を抱き止めたままの形でゴーレムから距離を話す様に駆け出しルイズの方へと顔を向けて怒りを露わにする。
ルイズの意地っ張りで頑固な部分はサイトにも分かり始めていた面ではあったが、それでも今度は流石に限度を超えていた。
「だって、悔しくて……! アイツやアンタみたいな平民にも出来るのに……それでも馬鹿にされて……」
「ル、ルイズ……」
ルイズはサイトの腕の中でぽろぽろと涙を零して心内の悔しさを吐露していく。
因縁の相手であるキュルケにも、自分の使い魔である平民のサイトにも、更には同じく貴族ではないタバサが呼び出したウラヌスにさえ、
その誰にも自分は劣ってしまっているという現実、何も出来ずにキュルケの言ったように助けられるだけの情けない自分がいるだけでしかないという事実がルイズの胸を締め付けている。
貴族として凛と気を張っていた端正な顔立ちは歪み、顔を真っ赤にして泣きじゃくる今のルイズは年相応の女の子でしかない。
ずっと張りつめていた物が途切れてしまった今のルイズを前にして、サイトは困惑を見せる。
思えば決闘の時や治療の際にも、ずっと自分の身を案じてくれたこのルイズこそが本当の姿なのではないかと。
「……くだらない、所詮は力無い弱者の戯言だろう」
「んなっ……助けてくれたのは感謝してるけど、言い方ってもんがあるだろう!!」
だがしんみりした気持ちも束の間、いつの間にかバックステップでサイトとルイズのすぐ側へとウラヌスが戻ってきていた。
下敷きになりそうであったルイズを救ったのも確かだが、ルイズの気持ちなどまるで無視した物言いにサイトの怒りの矛先がウラヌスへと向かっていた。
得体の知れない力を持つ自分と同じ人間の使い魔であろうと、看過できないことだってある。
しかしウラヌスからすればやはり、ルイズの持つ誇りや悔しさといった人間らしい感情もまた彼にとって不要な要素でしか無いもの。
「誇りを掲げるのは勝手だ、だが結局はそれに伴う力が無ければ何もならん。今も同じだ、力の使い方も知らない分際で安っぽいプライドにこだわるから自分の無謀にも気づかん。口を動かす暇があるならもっとまともに頭を使って動け」
普段以上に口数が多いのも、単にウラヌスが一定の興味をルイズに抱いているからという理由もある。
力が無ければどんな綺麗事を並べた所で無様な結果しか生み出さないということは、あの崩壊世界を支配する側だったウラヌスだったからこそ言い切れる事。
力を、強さそのものを目的とする自分でさえ決して越えられなかった相手がいて、希望を胸に諦めずに立ち向かい続けてきた反抗勢力に敗れ去った。
故に、自分の力量もわからずに吠えるだけのルイズの姿はウラヌスにとって滑稽にしか見えなかったのである。
そこには自分を超えるかもしれない潜在能力があるかもしれないルイズに対する、ウラヌス自身も自覚していない感情が含まれていたりもするのだが。
「……ッ……、いいぜ、アンタがそんだけ言うんなら俺だって見せてやるよ! 口先だけじゃない力ってやつをな!!」
冷たい視線で吐き捨てられる主人を馬鹿にする言葉を聞かされては、使い魔であるサイトも黙ってはいられない。
怒りと共に心を強く持ち直し、抱き上げていたルイズを降ろしてから視界に入れたのはゴーレム出現のゴタゴタで投げ捨てられていた破壊の杖。
すぐさまそれを拾い上げて肩に抱えるサイトは先端をこちらへと向かってくるゴーレムへと定める。
本来ならこんな物、自分に扱えるはずがないのに今のサイトにはその使い方が手に取るようにわかっていた。
諸々の手順を手早く済ませ、安全装置を解除、トリガーにかけられている指に力を入れてグッと押し込む。
「こちとらゼロのルイズの使い魔だ、テメエみたいなデカブツに負けてられるかっ!!」
ドォオオン!!!
決死のサイトの吠える声と耳をつんざくような音と共に放たれた巨大な弾丸は吸い込まれるようにしてゴーレムの巨体に直撃。
巨大な爆発を起こすと同時にゴーレムの上半身を木端微塵に吹っ飛ばす。
下半身だけになったゴーレムは少しの間呻いていた物の、すぐにバランスが取れずに崩れ落ち、元の土くれの山へと変わっていった。
ルイズはその一連の光景を呆然と見て居る事しかできなかったが、やがて力が抜けたようにヘナヘナとその場に崩れ落ちてしまっていた。
「凄いじゃないサイト!! ウラヌスにも負けず劣らず、流石はあたしのダーリンね!!」
「のわああああ!!」
その段になって今まで逃げ隠れていたキュルケとタバサがその場に姿を現す。
駆け寄ってくるなりキュルケはサイトへとダイブ、そのまま彼に抱きついて豊満な双丘をこれでもかと押し付けながら全身で嬉しさを表現していた。
「何が起きたの?」
「そっちのガキが例の秘宝とやらを使ってゴーレムを吹っ飛ばしただけだ。あんな骨董で壊れるんじゃ、やはり見た目通りの土の塊でしかなかったようだ」
「貴方も、秘宝の正体を知っていた?」
「一応はな、俺にとっては骨董品レベルの代物だが」
されるがままに押し倒され尻餅を付くサイトを横目に、タバサはつかつかとウラヌスの方へと近づき事の経緯を問う。
率直に事実だけ述べるウラヌスにしても、サイトが破壊の杖を使えたこと以上に破壊の杖と呼ばれるそれがここにあることに疑問を浮かべていたりもした。
(……狙いは正確だった……でも、圧倒的に力が足りなかった)
一方でタバサは、実力を知っているとはいえ自分で傷一つつけることの出来なかったゴーレムをただの土呼ばわりするウラヌスを前に、
グッと拳を握りしめて悔しい気持ちを抑えようとしていた。
「でも待てよ、肝心のフーケってやつはどこに――――」
と、キュルケの拘束から逃れて立ち上がったサイトが切り出すのは主犯であるフーケについて。
一番の障害であったゴーレムこそ退けはしたが、術者であるフーケはまだ見つかっていないのだ。
サイトの一言にハッと気付いたかのように他の者たちも辺りを見回し始めるが、
「おっと、動くんじゃないよ」
「ってえ……ミス・ロングビル!? どうして貴方が……!!」
声を張り上げるルイズが見つけたのが、偵察に行っていた筈のロングビルの姿。
その手に持っているのはサイトが使った破壊の杖、その先に立っているのはウラヌス。
学院長の優秀な秘書としての温和な笑みはそこには無く、浮かんでいるのは猛禽類の様な獲物を狙う獰猛な鋭い視線。
突拍子の無い事態の変化に付いていけず、ウラヌスを除く全員が驚愕を浮かべるばかり。
「簡単なことさ、あのゴーレムを操っていたのは私、つまり貴方達が探していた土くれのフーケってことさ」
「ミス・ロングビルが……!?」
「せっかく破壊の杖を手に入れたのに使い方がてんでわからない。それじゃあ宝の持ち腐れ。でも魔法学院の誰かならこれの使い方を知っているかもしれない、そう思って貴方達をおびき出したのよ」
「な……そんな理由で私たちのことを……」
「それにしても流石は破壊の杖、まさか私のゴーレムを一撃で吹っ飛ばす力を持ってるなんて」
口早に次々とまくし立てていくロングビルこと土くれのフーケ。
理解が追い付かずに混乱しながらも真意を問いただそうとするルイズとキュルケもしっかり捉えながら、
フーケは茂みの影でしっかり観察していた通りの手順で、破壊の杖の発射準備を進めていく。
圧倒的な優位に立っていると確信しながらも、まだ油断はできないと思っているのは破壊の杖の先に立つ相手の異常な実力の為。
「さてちゃんとしたお別れも言えないところ悪いけどまずはアンタから消えてもらうよ! どんな力を隠してるかは知らないけど、流石にコイツの一撃を受けりゃ木端微塵だろうからねえっ!!」
「ウラヌスッ!!」
「…………!!」
キュルケが叫ぶ、タバサも目を大きく見開き動こうとする、ルイズは直後の悲劇を想像して両手で目を覆ってしまう。
ウラヌスが自分のゴーレムを単独で退ける力を持っているのは当然フーケも承知のこと。
だからこそ、真っ先にその危険人物を始末しなくてはとこの場に現れた時点で決めていたのだ。
勝ちを確信した妖艶な笑みと共にフーケはトリガーを押し込む。
「…………え?」
が、直後に訪れたのは静寂。破壊の杖からは何も放たれることは無い。
魔の抜けた声を上げるフーケだが、直後に思考を焦りが埋め尽くしていく。
「な、どうして!?――あぐっ!!」
「……残念だけどそいつは魔法の杖なんかじゃない」
大慌てで何度も何度もトリガーを連射するフーケに、サイトは剣を片手に一瞬で肉薄して柄の一撃でフーケを昏倒させる。
またしても何がどうなっているのかわからずに混乱しているルイズ、キュルケ、タバサ。
ずっと破壊の杖を向けられっぱなしだったウラヌスはと言えば、直立不動のまま呆れたように気絶したフーケを見下ろしている。
「『M72ロケットランチャー』 1発しか弾を込められない俺達の世界の武器だ」
「……まあ、使えたところでそんな骨董武器で俺を倒せる道理も無かったがな」
破壊の杖を拾い上げるサイトに、フーケの首根っこを掴み上げて引き摺ってくるウラヌスの2人がルイズたち3人の方へと戻っていく。
二転三転する状況の末に、破壊の杖もフーケの身柄も確保し終えて任務は無事に終了となった。