転生とは、死後に別の存在として生まれ変わること。──Wikipedia参照。
ということで佐為転生と言ってますが主人公はオリ主であって佐為ではありません。別の存在であり同一。育った環境が違うので口調や性格に差異あり。注意。
誰にも言えない秘密だ。
本堂誠は寒い座敷牢の中でその小さな体を自分の腕で抱きしめながら、恐ろしさに震えた。
彼が自らの秘密に気づいた時、まだたった七歳だった。
真っ暗な牢に泣きそうになることがあった。いない母をおもって恋しくなったことがあった。実子を監禁する非道な、父とも呼びたくない男を殺したくなったことがあった。
いつもいつも、心の奥底でなにかを求めていた。ぽっかりと空いた心の穴を埋めたいと、そう思っていた。それは監禁されていた故の思いだと本堂誠は自身の物足りなさをそう感じていたが、七歳の時にそうではないのだと気づく。
事実、胸に開いていたのだ。
穴が。
ぽっかりと。
藤原佐為。それが抜け落ちた心の名前だった。
本堂誠はいつも問いかけていた。
「お前はいつ戻るの」
幼いころ、暗くて寒い座敷牢の中でいつも問いかけていた。問いかけても座敷牢に答えが響くことはなかった。蝋燭がゆらゆら揺れる牢には子供のすすり泣く声しか響かない。
けれどある時、答えがあった。
「極めるまで」
深い眠りの中で抜け落ちた心の残滓が答えたのだ。たったそれだけの声だったが、誠には十分に伝わった。
──藤原佐為は神の一手を極めるまで帰ることはない。
神の一手。それがどこまでも尊く、遠く、幻影のようにつかみどころのないものだと誠は心の奥底で知っていた。果たして自分が生きている間に抜け落ちた心が帰ってこれるのだろうか。さみしさに涙が止まることはなかった。思ったとおり、何度恐ろしくて震える夜を超えても、何度太陽を見ることのない朝を迎えても、抜け落ちた彼がさみしさに泣く幼い誠の心に空く穴をふさぐことはなかった。帰ってこなかったのだ。彼は本堂誠の身体以外にも、居場所を見つけていた。
七歳の時は血塗れた碁盤。そして十四になった時には進藤ヒカルという少年へ。
誠にとってそれは裏切りにも似たひどい行為だった。
けれど認めないわけにもいかなかった。
さみしくて、つらくて、悲しかったけれど。二人は、二人で一人。藤原佐為が心の奥底から望む願いを誠は無碍にはできなかった。神の一手を極めたい。心の残滓がいうその願いに、ならば極めればいいと誠は涙を湛えながら自身に言い聞かせた。佐為の願いは彼の願いでもあった。神の一手を極めるためには、碁の神と謳われた佐為と拮抗する強者が必要だった。籠の中の鳥では、彼の願いは叶えることはできない。
誠は寒い座敷牢の中で、ぽっかりと穴が開いた胸を抱えながら待った。佐為の帰りを、ただひたすらに。
誰にも言えない秘密だ。
異常性は、きっちりとわかっていた。
一体誰が信じるというのだ。一体誰が、受け入れるというのだ。心の中に穴があいてる。埋めるべきものが他人にとり憑いている。進藤ヒカルならば、誠のもう一つの魂を受け入れた彼ならば、あるいは受け入れてくれるかもしれない。そうも思ったが、その前に彼の眼前には重々しい格子が広がっている。出られるわけもなく、会いに行けるわけもない。
誰にも言えない秘密だ。
誰にも言えないまま死んでいこう。
本堂誠には秘密があった。
彼は藤原 佐為という平安時代の幽霊を心に飼っていた。
それは本堂誠の前世の姿だった。
幽霊は彼の心に穴をあけて長い間彷徨っていたけれど、誠が十七歳のころに彼の心へと帰ってきた。遅すぎると彼は怒った。おかえりなさいと彼は泣いた。帰ってきた頃には現世への未練をきれいさっぱりに昇華させた彼は、真実本堂誠へと生まれ変わった。それがどうしようもなくうれしかった。神とも呼ばれるそのお化けは、誠にとって何にも代えがたい"自分自身"だったのだ。