ALDNOAH.ZERO~ある火星騎士の物語 (休載中) 作:jorjue
それを一体、何人の人が見つけられただろうか。
少なくとも彼、界塚伊奈帆には見えたそれ。
「伊奈帆は?手伝ってくれるよね?」
この学生の中で唯一の女性、網文韻子は伊奈帆に問いかける。ほか二人の男子はあまり乗り気ではないようである。どうやら火星のお姫様を歓迎するパレードの運営か何かを手伝うのだろうがそれどころではないかもしれない。故に返答は
「今すぐここを離れよう」
「「「え?」」」
そう、それとは
「ミサイルが来る」
その言葉に遅れて発せられた爆発音。アセイラム姫の乗っているであろう車両の後方に位置する車がミサイルにより爆発、次いで両サイドの車両も爆散した。
その煙を抜け純白のリムジンが走り回る。
しかし、悪夢は終わらない。
ミサイルがまだ2発も追尾してきている。一発は躱したが2発目が車の近くに当たり、爆風により車が転倒した。
「みろ!車から誰か出てきたぞ!」
「姫はまだ生きている!」
それは頭上からくるミサイルが無ければ安堵の息を漏らしていたかもしれない。
よって、為すすべもなく3本目のミサイルがアセイラム姫に直撃した。
20:05、ニューオリンズを始めとした各国主要都市に衛星軌道に駐留していた揚陸城37機の内19機が降下、その衝撃により都市部の構造の脆かった建造物は軒並み破壊された。
変わり果て、更地になったそこには新たな支配者と言わんばかりに火星の揚陸城がその威容を愚かな地球人達に見せつけていた。
『とある地球軍兵士の戦闘記録』
F-15 パイロット:ALEX・F・SAUNDRES
あれは悪夢だった。目の前にいる敵の要塞から雨のようにミサイルが降ってきたかと思えばそれは海底にあるケーブルを狙っていた物だった。さらに空母から最後の通信には通信衛星も破壊されているらしい。完全に連絡手段がなくなった俺達はただ敵の要塞を叩くしかなかった。それが俺達の任務であり、侵略者から守る手段だった。だがアイツらはそんな俺達の決死の攻撃でさえあざ笑うかのようにどこからもなく撃たれた照射レーザーに斬られた。幸い俺は脱出装置が起動して助かったがほかの奴らはみんなあれに斬られて爆散しちまった…パラシュートが開いて海に落ちるまで、俺は仲間の断末魔が耳から離れず、目の前にいる敵の揚陸城に怯えるだけだった…チキショウ!俺はなんて無力なんだ!!
翌日、伊奈帆は朝食の玉子焼きを作っていた。
予定として伊奈帆の唯一の家族である姉、界塚ユキの車で避難することになっているのだが…なかなか来ない。
仕方なく伊奈帆は姉へ電話する。すると一秒もせず繋がったではないか。
「ユキ姉、まだ家にはつかないの?朝ごはん食べた?」
「それどころじゃないわ!お姉ちゃん今待機任務かかって今動けないの!」
姉の界塚ユキは地球軍の軍人である。階級は准尉。カタフラクト操縦技術は中々だが時折寝坊するため階級があまり昇格しない、所謂デきる女の弱点というべきか。
「ユキ姉の車で避難する予定じゃなかったっけ?」
「え…もしかしてナオ君まだウチに居るの!?どうしてみんなと逃げなかったの!?」
「判断は臨機応変!いざとなったら自分を信じて決断する!お姉ちゃんいつも言い聞かせてるでしょ!?」
「ペニビ「何!?」何でもないよ。巡回中の輸送車に拾ってもらうことにする。玉子焼きは食べておくよ」
「気を付けてね…」
「ユキ姉こそ」
外を出ればいつもであれば通勤通学ラッシュで発生する車の渋滞や人だかりが無くなり、当たりには静寂が居座っている。
(あ、ちょっと苦い。焼きすぎかな?)
玉子焼きの味を確かめると同時に輸送車を探す。しかし車の音一つしないここはまだ走っていないようだ。
(あれは…?)
橋の下に女の子二人組を見つける伊奈帆。この状況で橋の下にいるということはこの状況があまり理解出来ていないのだろうか…一人は背を向けているから年齢は分からないがもう一人は明らかに10代いや、もしかしたら10最高に満たないかも知れない。
何はともあれ、見過ごすことはできないだろう。伊奈帆はその二人組に声をかけた。
「あの…早く逃げないと。新芦原全域に避難勧告が出てる」
返事はない。
「旅行者の人?言葉は…」
「すみません…」
手を差し延べた時だった。背を向けていたまだ若い女の子が伊奈帆の左腕を掴み、伊奈帆を地面に縫いつける様に左腕を背中に押し付けホールドさせた。
「…わかりますね」
「はい。無礼を承知でお願いしたいのですが、このままの体勢でお話いただいても?」
「どうぞ」
「私達は然るべき機関に赴き、自らの無事を伝えたいのです」
「大使館ですか?この状況で機能しているとは思えない」
どうやら外国人、それもその国の大物のようだ。どうやら付き添いの女の子は侍女といったところか。しかし…
「昨日のヴァース皇女暗殺事件依頼地球連合は「アセイラム姫は!!」」
声を急に荒らげた。伏せている体勢のため顔はあまり見えないがそれでも悲しみの顔であるのはわかる。声や性格からして予想できなかった。
「生きています。彼女はパレードに参加していません。慣れない地球の重力で体調を崩し、代わりのものが…勿論、尊い命が失われたという事実に変わりはありませんが…」
「心中お察しします…」
成程、確かにそう考えたらヴァース皇女は生きている。だが何故彼女はそれを知っているのか?さらにアセイラム姫と思われるドレスを身に纏った女性がミサイルによって殺害されたのもこの目で見た。そして彼女らがヴァース帝国の手先、つまりは情報を混乱させるために潜入させた人達かもしれない。ヴァース帝国に関連してる人には変わりないだろうが伊奈帆の判断は
「個性的な仮説だ」
そう簡単に信用できる話ではない。だが、彼女たちも人間だ。ここで見捨てるのは界塚伊奈帆個人としてできない。故に、
「もうすぐ輸送車がこっちにくる。友人にメールしておいたんです。貴方達の話を信用はできないけど…一緒に行こう」
それが、彼の『決断』だった。
その後、韻子達の乗る輸送車が到着し伊奈帆達と近くで車がガス欠になり困り果てていた耶賀頼蒼真という、伊奈帆達の学校でカタフラクトを扱う兵科教練の教官、鞠戸孝一郎大尉の医者が乗り込んだ。
やはりというべきか彼女らは伊奈帆の男友達の目に入る。
「それにしても…ロシア?いや、北欧系か…?新芦原じゃあ珍しいな」
カーム・クラフトマンの行った言葉がきっかけで男子は彼女の話に持ちきりだった。
「男子…」
と、呪詛に近い言葉を発する韻子。
突如、車の前が巨大な鉄の塊で埋め尽くされた。それは『KG-7アレイオン』、地球の主力カタフラクトだ。兵科教練で使われてる機体、『KG-6スレイプニール』の発展型で装甲と出力が増えた機体だ。
『貴方達、何やってるの!?ここは避難完了してるはずでしょ!?』
それはとても聞き覚えがある声だった。
「その声…ユキさんですか?」
『韻子ちゃん!?もしかしてナオ君も…ああもう、どうして…』
馬鹿で阿呆で赤点のくせして進学を希望する(カーム談)箕国起助が通信機を取る。
『つかカタフラクト隊が出撃するてことは、敵がくるんすか?この街に?』
『そうよ!東京から熱源が近づいてる。このエリアも航空隊がやられたら交戦区域よ!引き返して!』
『でもフェリーに行く道はここを抜けないと!』
『兎に角!安全な場所を探して逃げて!』
珍しく(?)融通の聞かないユキである。
そんな会話を知らない熱源体はさらに新芦原に近づく。
地球連合軍日本支部は東京より接近する航空機を発見した。役割としては運送目的のようだが兵装も確認でき、運んでいるのは紫色の火星カタフラクト。進路は新芦原市、アセイラム姫暗殺の地へ向かっているのは明白だ。
だから迎撃に出た航空隊の隊長はまさかミサイル数十発が爆発より先に消失するとは夢にも思ってなかっただろう。敵航空機が発砲、予想以上に弾速が早かったのか回避が間に合わず主翼などに被弾、他の機体はコクピットやエンジンをやられ爆散している。
脱出装置を起動するも目の前から航空機が向かってくる。為すすべもなく最後の一人はミサイルと同じように消失した。
火星カタフラクトが界塚ユキ准尉の乗るアレイオンを消失させるその時、別の火星カタフラクトが現れた。
そのカタフラクトは紫色の火星カタフラクトから地球人を守るような、少なくとも地球人をどうこうしようという素振りはない。
そんな黄昏の火星カタフラクトから声が発せられる。
『そこの地球人、聞きたいことがある。私の名はジョルジュ・バートン。軌道騎士37家紋の一人である。バートンの名に誓って諸君らに危害を加えないことを誓おう』
『私が聞きたいのはアセイラム姫殺害についてだ。この件は火星人の反逆者がアセイラム姫を暗殺した可能性が高い。殺害現場を見たものは何でもいい。気づいたことはあるか?』
そこで、界塚伊奈帆は記憶を整理する。
暗殺現場に使われたミサイルは6本。
ではそのミサイルはどこから飛来してきただろうか?
━━確か、車の進行方向の逆からではなかったか?
さらにあれは護衛の車とアセイラム姫を乗せた車と分かれていた。ということは近くに観測、若しくは誘導していた者がいるはずだ。
ミサイルとはいえ、新芦原市は海に面している。軍港もあるが地球側が発射したとは考えづらい。とすればビルや立体駐車場などからの発射だろう。
そしてこのバートン伯爵と名乗る火星人…火星人が姫を暗殺していると考えている。だとすれば…きっとこの話に興味を持つ。
伊奈穂はその黄昏の火星カタフラクトに近づく。
「僕とそこの女の子、あとそこに居る男子学生はあの現場にいました。暗殺の状況はそちらも知っているかもしれないけどミサイル6本による攻撃、ミサイルは車を追尾するように動いていた。きっと、近くに観測か誘導をしている人が居たんだ。あらかじめセンサーを車に付けるのは警備上不可能だ。そしてミサイルの飛翔距離もある。きっと近くのビルか立体駐車場で発射したんだと思います」
「ちょっ、伊奈穂!?」
「この火星カタフラクトは少なくとも今は僕達に敵対はしていない。なら、調べる方法の多い火星側に情報を共有すべきだ」
韻子は黙るしかない。正論ではある。が、相手は敵なのだ。恐ろしくもある。何にせよ、伊奈穂は動いた。後戻りなどもうできないのはこの場にいる全員が理解した。
(ジョルジュ・バートン伯爵…彼が私を暗殺なんてする筈がない。なら、ここで正体を明かした方が…!)
伊奈穂に連れてこられた二人の女の子の内、姉に見える方が立ち上がる。その行動に侍女は何事かと思いながらついていく。が、その侍女をジョルジュは知っていた。なぜならジョルジュはその侍女を侍らす人を知っている。だからだろうか、侍女を侍らすどこにでもいそうな容姿をする女の子に向かいアセイラム姫と呼んでしまったのは…そして、それが周りの地球人にも聞こえてしまったのは。
蘇るのは伯爵の位を得た際の晩餐会。元々生活基準が低いヴァース帝国ではあるがこの時は新たな37家紋のジョルジュを迎える祝いの場、食事も豪勢だった。そして、レイレガリア皇帝に付き添うアセイラム姫。そして、アルドノアドライブの起動権を貸し出す儀式。その時からジョルジュは皇家の忠臣であり続けると決意した。
そして彼は今、死んだと思っていた姫の生存に涙した。
ザーツバルムは衛星軌道から新芦原を監視していた。だがトリルランは退却し代わりに3機の火星カタフラクトがそこにはいた。その様子にザーツバルムは思わず舌打ちしてしまう。『ガラティン』、『リジェクト』、『メリクル』。バートン伯爵専用カタフラクトとその親衛隊とも言える二機。バートン伯爵は既に行動していた。後手に回ってしまったザーツバルムは彼の揚陸城監視は無意味と判断し、地球に降りた彼らを監視することにした。
(我の愛馬、ディオスクリアの複数のアルドノアドライブを制御するという特性が適用されなかった5つしかないアルドノアドライブの一つ、ガラティン…)
だが、弱音は吐いていられない。『騎士たるもの、牙剥くものを倒すのは凡庸、牙剥かせぬほどに格差を見せつける事程肝心』、バートン伯爵が自身に挑む、そんな事を考えさせないためにはどうするべきか?
彼とて彼ほどの天才ではないが火星屈指の策士である。ザーツバルムは策を練る。邪魔物を一掃し、己が悲願を叶えるために。
ある者は生きるため。ある者は自らの一族のため。二つの思いが交差するとき、大地が轟く轟音に震える。次回、反逆の学生たち。その叫びは絶望か、それとも。