ALDNOAH.ZERO~ある火星騎士の物語 (休載中) 作:jorjue
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新芦原市を脱した伊奈帆達はマグバレッジが部下に先行させて出航させた強襲揚陸艦『わだつみ』との合流地点、『イーストブライド軍港基地』に到着した。
「まだ『わだつみ』は到着してないようですね…」
マグバレッジが案じているのは『わだつみ』の姿がないことだ。先行して出航した筈なのにここにはわだつみの姿がない。
「今は考えても仕方ない、とにかく補給と整備を急ごう。…しかし、ここも放棄されたか」
「まだこの辺りの被害は少ないのに…」
「賢明な判断だろう、粘ったとこで被害が増えるだけだ。ならばとっとと逃げて戦力を温存させるに限る」
「…」
鞠戸の考えにマグバレッジは口を閉ざす。急に黙するマグバレッジに戸惑う鞠戸だが、整備を手伝うべく船へ向かおうとする…が、突如海岸の堤防に足を運んだ。
「鞠戸大尉?」
「…」
返事がない。軍人としては模範的だ、滅多なことはしないだろうとマグバレッジは発令所へ戻る。
「…ッ」
鞠戸は自身の手を見る。異常に震える手。
何時になれば、自分はこれを克服できるのだろうか。
「マグバレッジ艦長、揚陸艇です」
「通信はできますか?」
「ジャミングはありますが…問題ありません!」
「こちらダルザナ・マグバレッジ大佐、応答されたし」
『こちら強襲揚陸艦『わだつみ』所属、小林少佐。お待たせしましたマグバレッジ大佐』
友軍の船に安堵するブリッジ、だが『わだつみ』は…?
「ご苦労様です。不見咲は?」
『不見咲中佐の命令により我々はアパルーサ小隊と共に1番艦で先行、『わだつみ』到着までマグバレッジ艦長のサポート及び及び避難民の警護にあたります』
「了解しました。到着次第、補給と整備を急いでください」
『了解。…その、マグバレッジ艦長』
「どうしましたか?」
急に口篭る小林少佐の口から怪奇な現象が聞かされた。
『実は、わだつみのセンサーがある宙域で戦闘が起きているのをキャッチしました』
「戦闘?しかも宙域ですか…しかしわだつみのセンサーは宙域の戦闘をキャッチするほど高性能では…まあいいでしょう。そして、その宙域は?」
『…イーストブライド軍港基地、その上空です』
「…ッ!」
そして、シエルの乗るメリクルが超大質量の物体の落下を観測した。さらに、これはシエルにも馴染みあるもの。直ちにシエルはマグバレッジに回線を開く。
「マグバレッジ艦長!!」
『どうしましたクラムスコイ卿?』
尋常ではないシエルの慌てようを冷静になって聞くマグバレッジも驚く事が起きる。
「揚陸城が…ここに降下してきます!!」
ザーツバルムの奇襲から難を逃れたジョルジュは新芦原市から1番近く、被害も少ないイーストブライド軍港基地を狙い降下した理由は地球の少年、界塚伊奈帆らに会えるからだ。ガラティンをすぐに用意できるようにしたのもそれが大きい。
だが、戦闘の影響か揚陸城の機能は60%まで下がっている。防衛機能にダメージが多く、さしずめ備えのない城と言ったところか。
落着地点はイーストブライド軍港基地から西へ3kmの荒野。ここならば建物もなく周りへの被害は少ない。
着地を確認したジョルジュは揚陸城を出撃、リジェクトには劣るが有り余る出力により全て機動系に回された推力は並のカタフラクトでは追いつけないものとなり、ものの1分程度で基地に到着した。
「あ、あれは…!」
「…」
補給作業を手伝っていたカームが声を上げ伊奈帆は口を閉ざしたままその機体を見やる。それは新芦原で助けてくれた黄昏のカタフラクト。
『また会ったな、界塚伊奈帆君』
「…ジョルジュ、バートン」
彼らは、互いに敵である筈なのに協力しあう『仲間』と再会した。
『ザーツバルム様!バートン城が降下を開始しました!目的地は日本付近!』
「全軍を撤退させよ。我が到着後、謁見の間を使用する」
『了解』
勝った━━━
ザーツバルムが最初に得た感想はそれだ。
「フッ、火星の天才もこれまでか…月面基地にて我が直接手を下したかったが、これはこれでよかろう…」
月面基地にジョルジュが向かうようならそのままジョルジュを幽閉、その後密かに処理すればよかったがジョルジュは恐らく見抜いたのだろう、この提案を蹴った。
しかし、ザーツバルムにはまだ策があった。降下せざるを得ない状況にさせる事。揚陸城の設計上、上からの攻撃には弱い。ステイギス隊を上から攻撃させたのはその為。ディオスクリアの姿を下から映し出させたのは降下させないためだったが…罠と気づいたか。しかし航宙船を横に付けさせたのは間違いであったな。そうしなければ回頭も出来たであろうに…
どちらにせよ、これであやつの力を削ぐことは出来た。あとは仕上げ…
「どう抗うか、楽しみにしてますぞバートン卿…」
歪んだ笑みが浮かぶ顔を余所にザーツバルムは自身の揚陸城へ帰還する。
「伯爵、お疲れ様です!」
「大義である。我が愛馬の補給と整備、損害を調べよ」
「ハッ!」
「『謁見の間』を使用する!月面基地に連絡せよ!!」
『謁見の間』
それは、城などによくあるものではなく、月のハイパーゲートの技術を応用したもの。
量子テレポートにより、瞬時にヴァース本星に5感を送り、いつでも皇帝陛下の下知を聞けることができる装置。しかし、今回は具申、及び報告のために使用するのだが。
程なくザーツバルムは謁見の間に到着し、謁見の間の中央にある球体に手を当てると謁見の間からザーツバルムの姿が消え、ザーツバルムはいまヴァース帝国の中心たるレイレガリア皇帝の御寝所の前にいる。
「皇帝陛k…む?」
ザーツバルムは御寝所の中より聞こえる声に耳を傾ける。若い声だ。しかし、次の一言でザーツバルムの警戒は最大まで引き上がる。
『アセイラム姫は…生きておられます。僕が地球におりた際、地球のカタフラクトに守られた状態でその姿を見ることができました』
「っ!」
生きている━━アセイラム姫が。
これはまずい。バートン城の緊張はこれであったか。ここまでこれば辻褄が合う。
しかし、これは同時にザーツバルムにとって危機である。このままでは休戦、そして反逆者捜索に踏み切られる。なんとしても皇帝陛下を説得せね………!
(そうか、その手があったか…)
つくづく、我は女神に微笑まれる。
そしてザーツバルムの頭に策が閃いた。なぜ今まで出てこなかったのか、そう思える策が。これならばバートン卿とやりあう必要はない…
「では、失礼します」
恐らく何処かの揚陸城にいる兵士だろう。さらに地球でアセイラム姫が降りた地は日本、つまりクルーテオ城の物か。今はいい。まずは皇帝陛下を言いくるめなければ。
「皇帝陛下、37家門が一人、ザーツバルムでございます」
「うむ…入るがよい」
入室…やはり陛下の体調も悪くなっているか。
「皇帝陛下、此度は陛下の孫娘を地球の卑劣なる者共に奪われた事、お悔やみ申し上げます」
「うむ…大儀で、ある」
やはり精神的ダメージは大きいか。ならばこの話、食いつくはず…
「しかし陛下、このザーツバルム。真実を掴みましたぞ」
「ほう…真実とな?」
「はい。どうやら地球の反ヴァース勢力を煽動しアセイラム姫を暗殺させた人物がおりました…ヴァース帝国に」
「なんと…!?それは、真か?」
「はい、その首謀者は…ジョルジュ・バートン伯爵にてございます。私は先程、バートン卿に事の次第を問い質すべくバートン城に向かいましたが話を聞いた途端私を城から追い出し、私が乗っていた航宙船を攻撃してきました」
「なんと…かの天才が、我が愛娘を陥れた元凶だったとは…」
「陛下…この戦、私の独断により開戦の火蓋を切ってしまいました。しかし、今一度!皇帝陛下の名のもとに、暗殺などという卑劣な手段をとる地球の者共とそれを利用し姫様暗殺を企てたバートン卿に、どうか!大いなる裁きの声を…」
「ううむ、よかろうザーツバルムよ」
「有難く存じます、皇帝陛下」
これで、我の邪魔をするものは居なくなった。後はこのまま地球侵略、そしてジョルジュの始末だ…
「…時に、ザーツバルムよ」
「如何されましたか、皇帝陛下」
…先の兵との話か?
「話によれば、アセイラムは生きていると供述しているものがいる。それについて、貴公の所見を聞きたい」
成程、やはりその話か。
姫様は生きている。そして生きていようが死んでいようが今は問題ではない。問題は矛盾の無いよう話さなければならない。
「アセイラム姫が!?それが真であれば早急にバートン卿を討ち、姫殿下の身を保護せねばなりますまい…因みに陛下、その報告してくれた兵士の名は…?」
クルーテオ城にいるのは分かっている。が、名前を割り出せなければ意味が無い。
「名は、スレイン・トロイヤード。クルーテオに仕える者だ」
「なッ…!?」
『トロイヤード』…そうか。皮肉なものだな…
(そう思いませぬか?トロイヤード博士…)
そして、ザーツバルムは謁見の間を出た…
一方、伊奈帆らとジョルジュは再会を果たし、お互い情報共有をしていた。
「成程、つまりザーツバルムという軌道騎士が姫殿下の暗殺を狙っていた、と」
「はい。そして、揚陸「揚陸城を攻められ、地球に逃れてきた。そうですね?」…その通りだ、界塚君」
「そっか、だからメリクルのセンサーと揚陸艇のセンサーが遥か上の宇宙での戦闘をキャッチしてたのね。そんな大気圏ギリギリで戦ってたらメリクルだと簡単に拾えちゃうし」
マグバレッジ艦長が首謀者の確認、ジョルジュと伊奈帆が説明、いつの間にかジョルジュの腕に抱きつくシエルが先程の原因不明の戦闘の理由を共有しあい、これからについて考えることになった。
「こうなった以上、ザーツバルム卿も手段は選ばない筈だ。私を反逆者に仕立て上げ、我々に攻撃の手を付けるはず」
「そうなればこちらはあなた方のカタフラクトに頼らざるを得ない…」
「…そうでもないかもしれない」
「界塚弟?」
どうやら界塚君に策が閃いたようだ。
「界塚君、どういうことかな」
「ジョルジュさんの揚陸城が近くにあるということは今のうちに火星のカタフラクトデータを僕たちで抑えること。そうすれば、弱点やどこに敵がいるかもわかるかもしれない」
「成程な、確かに火星カタフラクトの力は圧倒的だ。戦車じゃ話にならないくらいにな。だが、アレイオンや型落ちのスレイプニールでもどうにかなるというのは界塚弟が証明した。なら後は情報てわけか」
鞠戸が補足を入れ肯定した。しかし、
「すまないが…それは出来ない」
「え?どういうことですかジョルジュさん!」
韻子が声を上げる。同時に、周りにいた避難民や連合軍兵士も声を上げる。
「静かに!!」
マグバレッジ艦長の鋭い一声が周りにいた人達を黙らせる。流石に女性佐官の一喝は伊達ではないようだ。
「…私も説明もなしにその発言は受け入れられません。バートン卿、話してくれますね?」
やはりマグバレッジ艦長は優秀だ。この人が味方についてよかっただろう。故に答えは
「もちろん、ここには戦争に関係ない一般人もいる。私とて無抵抗の人々に銃を向けたくもない」
一区切りつけて、理由を話す。
「では話そう。まず、火星カタフラクトのデータについてだが、軌道騎士の伯爵一人一人が別個の軍隊を所有しているようなものだ。つまり、友好な関係でなければ情報は引き出せない。例外があるとすれば姫様や皇帝陛下のような、起動権を貸し出している皇族の方が起動させた物ならばデータが付与された状態になる」
「えーと、つまりどゆことスか?」
起助君はわからない人の気持ちを代弁してくれた。ふむ、簡単に言うとすれば…
「アセイラム姫や皇帝の人が起動させたものには全てのカタフラクトのデータがついてくる…逆に貸し出された人が起動させたものはデータがついてこない…そう言う事ですか」
「その通りだ、界塚君」
界塚君もやはり優秀だ。どうやら彼らは寄せ集めにしては切れ者ばかりの恐ろしい集団のようだ。
しかし、良きせぬことが起きた。
『バートン様!!』
どうやら揚陸城にいる兵からの様だ。
「ジョルジュだ、何があった」
話を聞きながらシエルにも見えるように浮遊ディスプレイをずらす。
『さ、先程皇帝陛下が地球とバートン様に向けお言葉を!!録画映像を回します!』
「シエル、姫様をこちらにお連れせよ!」
ジョルジュは浮遊ディスプレイを操作し、画面を大きくする。画質は多少粗くなるだろうが問題ではないだろう。
程なく、シエルに連れてこられたアセイラム姫と地球の人々で揚陸城から送られた映像を再生する。
『地球の者共、そしてジョルジュ・バートン伯爵、私はヴァース帝国皇帝、レイレガリア・ヴァース・エンヴァースである。此度のわが愛娘、アセイラムの暗殺について言っておかねばならないことがある』
「おじいさま…」
「姫様…」
姫の身を案じたくはあるが、皇帝陛下が私に何を仰せになられるのか…予想は付いているからこそ辛い時間になりそうだ。
『今回のアセイラム暗殺については、ヴァース軌道騎士のジョルジュ・バートン伯爵が地球の反ヴァース勢力を煽動し、地球を我がものにすべく動いたと聞いた。それによる証拠もザーツバルム伯爵より提出された。ヴァースの騎士たちよ!ヴァース帝国皇帝、レイレガリア・ヴァース・エンヴァースの名のもとに、地球を攻めよ!我が愛娘を奪った者共の地を、焼き払え!そして、バートン伯爵については全ての軌道騎士が貴公を許してはおらぬ。皇族に牙剥いた愚かな選択を悔やみながら果てるがよい!!』
そして、映像は切れた。
「…ッ!」
「姫様…」
今、姫様の心は痛まれておられるだろう。自らの肉親が、自身の味方を滅ぼしに来たのだから。
「ごめんなさい、バートン卿…貴方の方こそ、辛い立場になってしまい…」
「姫様、揚陸城でどうか休まれますよう…シエル、姫様を揚陸城の御寝所までお連れせよ」
「了解しました」
アセイラム姫はシエル、エデルリッゾにより揚陸城へ向かわれた。
…そして、ジョルジュの勘が警告音を鳴らした。
「まずいッ!」
「バートン卿?」
「マグバレッジ艦長、周囲警戒を!!ここは東京に近い!つまり…」
「まさか…東京を占領した揚陸城からのカタフラクトが!?」
「総員第一戦闘配置!周囲警戒を厳に!1番艦発進用意!」
ジョルジュの焦りをマグバレッジ艦長にも伝わり、小林少佐はカタフラクト隊と1番艦のクルーに準備を急がせた。
急な状況変化に韻子やカーム、起助は戸惑うが伊奈帆がいるならば何とかなるだろう。彼の冷静さは私に勝る物がある。指揮官として申し分無い。
『バートン様!』
「どうした!」
揚陸城からの通信だ。先ほどとは別の慌しさがある。
『イーストブライド軍港基地を北に2キロ付近にカタフラクト反応!先ほど、スカイキャリアと思しき反応があったため、クルーテオ城より運ばれたものかと!』
クルーテオ城から…タルシスか!?それならばこちらに分が悪い。タルシス相手では地球のカタフラクトも打つ手がない…
『こちらアパルーサ3-3!敵を発見!応戦します!』
「まずい、不用意に攻撃してはダメだ!相手の武装を確認してから包囲攻撃を!」
「アパルーサリーダー!相手の出方を見て応戦してください!不用意に攻撃してはいけません!」
マグバレッジ艦長の指示により地球のカタフラクト隊は慎重に攻撃するだろう。
この間にガラティンを起動させる!
『アパルーサリーダーよりアパルーサ小隊各機、敵の出方を見る。攻撃は慎重にせよ!アパルーサ3-3、敵の武装はなんだ!?』
『こちらアパルーサ3-3、敵カタフラクトは近接型、剣のようなものを使用してました!現在は右手前の壁に隠れている模様!』
『剣か…懐に入られる前に仕留めるぞ!奴が姿を表したら攻撃する』
『アパルーサ1-1了解!』
『アパルーサ2-2了解!』
『アパルーサ3-3了解!』
「フッ、飛び道具とは無粋な。だがこの『アルギュレ』に斬れぬ鎧などない。つまり…」
弾丸とて同じ事!
「アルドノアドライブ出力上昇、エネルギージョイント接続、ブレードフィールド展開…」
アルギュレの左腰部から鍔のようなものが出現する…この『刀』は紛れもなく全てを両断する刀…
「アルドノアドライブ出力最大、プラズマジェネレーター起動準備完了!!」
そして『刀』は静かで滑らかに、だが確実にアルギュレを隠していた壁を切り裂いていく。
壁が切り裂かれ、爆発する。一気に立ち込めた爆煙をアルギュレの『刀』は目の前に立ち込める煙を邪魔だと言わんばかりに払い、その剣風により煙が晴れる。そこには…
「抜刀…!!」
まるで、武者のような鎧をつけた西洋の騎士が立っていた。
程なくアパルーサ小隊はアルギュレに切り裂かれ、損害らしき損害を与える事も出来ずに壊滅した。
『マグバレッジ艦長、発進準備整いました。そちらは?』
「待ってください、機関室にて原因不明の故障発生!発進できません!」
「…小林少佐、先に沖へ出てください。そこから砲撃及びミサイル攻撃を」
『了解しました。ではご武『少佐!!』なん…ッ』
ノイズが走る。まさかと思いつつ1番艦へ目を向けるブリッジクルー。そこには、投擲されたのであろう『刀』がブリッジに深々と突き刺さっている1番艦の姿。
「艦長!」
「!?」
注意が1番艦へ向いていたのが不味かった。敵カタフラクトの『刀』は2本あったようだ。もう一本をこちらに投げようと振りかぶっているアルギュレの姿がそこにある。
「回避ッ!!」
間に合わない。だが、これしかない。
死を覚悟したマグバレッジは投げられた『刀』を睨みつけながら戦死━━━━!!
『させるか!』
不意に、右側…つまり沖のほうから黄昏の機体が現れた。右手に重厚な雰囲気を出している白金の両刃剣を持ち、背中には特徴的な推進翼が付けられた機体。
火星カタフラクトの原点たるディオスクリアの制御を受け付けないほど高い出力を持った、5つしかない禁忌のアルドノアドライブを装備した機体。
「ほう?自ら討たれに出たか、バートン伯爵。ならば望み通り、このブラドが伝説の聖剣を叩き折ってみせよう!主たるクルーテオ伯爵によい土産が出来る!」
百戦練磨の武騎士は、伝説の聖剣に挑み━━━
「その刀で私に挑むには些かこちらに分があるが…いいだろうブラドよ。貴様の流儀に合わせてやる。聖剣の名を戴いたこの『ガラティン』…百戦錬磨の騎士殿が相手ならば不足はない」
アルギュレは1番艦に刺さった刀を回収し聖剣へ向ける。
ガラティンは右手にある両刃剣を左腰へ当て、居合いの様な型を取る。
しかし、これは決闘ではなく戦争、イレギュラーは存在する。
銃撃音。決して弱くはないそのマシンガンの弾がアルギュレに襲い掛かる。
「なんだ!」
右を見るとそこにはオレンジ色の機体があった。今の銃撃はその機体からのようだ。
『界塚君か』
オレンジ色の機体…スレイプニールに乗り込んだ伊奈帆はコクピットに響くジョルジュの声に返答しながらアルギュレに銃撃を浴びせる。
「ジョルジュさん、韻子…仲間がクレーンに1人、カタフラクトに乗って敵カタフラクトの後ろにある荷物の後ろに二機います。ジョルジュさんの力は『まだ』見せなくてもいいのでは」
『…そう言う事か、いいだろう。しかし君たちだけで大丈夫か?』
「問題ありません。倒せなくても、戦闘出来ないような損傷にすればいい」
『わかった、気をつけろよ。彼の技量は私も知っている。手強いぞ』
「わかりました。では後ほど」
通信を切り、アルギュレに集中する。
マシンガンを連射するが全て一振で弾頭が破壊される。
今装填しているのはHE弾、これは弾頭の中に炸薬が詰まっている弾頭。あの『刀』に触れた瞬間弾頭が爆発したと考えるなら、『刀』の正体は高熱量のビームで出来た刀。
ならば…
「AP弾ならどうだ」
AP弾…これは硬い装甲を貫く弾種で、爆薬の類は入っていない。つまり、あの刀の熱量で誘爆せずそのまま貫通する鉛の弾。
これならば敵カタフラクトの装甲にダメージを与えれる筈。
「フン、考えたな…炸薬の入っていない弾なら宙で爆発しない…と」
不利な筈なのにほくそ笑むブラドはアルギュレを相手カタフラクトから見て横向きになるよう足場を変え、刀を相手に向けた状態にする。
「だが!」
発砲されるAP弾をブラドは剣先で弾くように刀を動かした。普通なら非実体剣なのですり抜ける筈なのに弾丸は弾かれているのを伊奈帆は冷静に自身の知識から似たような現象を引っ張り出す…
まず現象の内容は
「弾頭が蒸発して弾頭が弾かれてる…」
蒸発している点で言えばいくらでもあるが相手の刀は超高熱量の刃、熱量と関連する物といえば…
「ライデンフロスト現象か…なんて熱量だ」
弾が切れたマガジンを捨て、換装する伊奈帆を見てブラドは伊奈帆のスレイプニールに突撃する。
それにより、伊奈帆は懐に潜られた。間一髪で銃と右腕を失うだけで済んだが、二振目が来る。
「終わりだ…!」
「いいや、動きは見えている」
伊奈帆は残った左腕で白刃取りを応用し、アルギュレの右腕を掴み振り降ろしをさせなくした。
「なにッ!?」
驚いたブラドだが、すぐに冷静さを取り戻す。戦場で冷静さを欠いた行動は死に繋がる。百戦錬磨たるブラドだからこそできる落ち着きだ。
「面白い、その機体でどこまで耐えられるか、見せてもらおうか」
アルギュレは近接型のカタフラクト故に余分な出力は全て油圧系にある。つまり、人間で例えるならば筋力が凄いという事だ。
対してスレイプニールは装甲をできる限り削った機体で小回りが効く機体。力で対抗できる機体ではない。
スレイプニールの体制が徐々に下がっていく。これ以上は限界だろう。
だが伊奈帆は冷静だった。
この状況でも冷静な理由、それは…
「もう少し…右かな。よし、韻子」
『いっけぇえええ!!』
鈍い音が周囲に響いた。それはクレーンのアーム部分にあった硬い鉄でできた荷物が遠心力により勢いを増しアルギュレの左メインカメラに衝突したものだ。
突然の攻撃にブラドは憤る。まさか兵器ですらないものに遅れを取るとは思ってもなかった。さらに、メインカメラは左半分全てを潰したのかノイズがかかって見えない。
「おのれぇ…地球人が!!」
伊奈帆がその隙に斬られた右手から銃を回収し、発砲する。同時に…
「カーム、起助」
『待ってたぜ伊奈帆!』
『くらえ火星人!!』
そして戦局はさらに伊奈帆へ味方する。
湾岸方面からアルギュレが砲撃されたのだ。
「不見咲!?」
『マグバレッジ艦長。わだつみ、戦闘海域に侵入します』
「…不見咲君、君がモテない理由を教えましょうか?」
『…?焦らす方が良いと聞きましたが』
「それは相手がこちらに好意を持っていないと意味がありません」
緊張感のない会話で戦闘中なのだと忘れてしまいそうだが不見咲に限ってそれはない。彼女ほど職務に忠実な軍人はいないのだから。
「中佐、カタフラクト隊攻撃準備完了です」
「全機、構え」
カタフラクトがわだつみの看板やハッチから銃を構える。中には威力の高い狙撃銃を構えるカタフラクトもいる。
そして号令は下った。
「撃て」
アルギュレは文字通りの十字砲火を浴びている。その隙に伊奈帆のスレイプニールはわだつみに向かう準備の整った揚陸艇に乗り込み、カームと起助もそれに続く。
「待て!くッ、おのれぇぇえええぇぇえ!!!」
こうして、伊奈帆はアルギュレを撃退した。
「なるほど、わだつみが間に合ったのは偶然として近寄らせないようカメラを破壊したか…」
揚陸城に戻ったジョルジュは観戦中、シエルからアセイラム姫の『我儘』を伝え聞いていた。最初は実現不能と思っていたが界塚君らをみて考えを少々変えていくことになった。
「おかしいな、私は現実主義なのだがな」
「現実主義な人が貴族の娘に婚約なんてしないよ?」
「それもそうだな…」
ジョルジュの執務室には二人しかいない。故に盗聴の心配もないためシエルもアセイラム姫の我儘をジョルジュに話せた。返答は…
「いいだろう、彼らになら任せられる。どのみち揚陸城も修理せねばならない」
「なら…」
「ああ、まずは彼らを支援しないとな。リジェクトはここに置いておくとして、私とシエルだな」
「私も?…揚陸城のみんなは大丈夫かな?」
「クラウディアが不在になってもここの兵は優秀だ。対応もできるし、カタフラクトもある」
バートン城はアセイラム姫の信任の元、兵力はザーツバルム城やクルーテオ城の3倍はある。その分食料も減るのだがジョルジュはスパイを恐れて食客を招いていないため、人員的には他の城と遜色ない程度なのだ。つまり、軍として完全に独立された、ジョルジュ派だけの軍なのだ。
(ザーツバルム…貴様が手段を選ばぬのなら私も相応の手を打ってやろう…事情があろうと貴様の思い通りにはさせん)
そして彼は隣に最愛の人を侍らせ執務室を出た。
策に嵌る天才は這い上がるべく手段を模索する。そして騎士は再戦を申し込むべく強襲する。次回、海上の憂い。少年の信念に、策士は牙を剥く。