ALDNOAH.ZERO~ある火星騎士の物語 (休載中) 作:jorjue
失踪はしないので長い目で見て欲しいです。
「なんなのだ!あの機体は!?」
クルーテオ城に帰還したブラドは愛機、アルギュレを見つめながら先程戦った地球のカタフラクトを思い出す。アルギュレの頭部は見事に凹み、鎧を連想させる全身の装甲は銃弾による傷により無残な姿になり果てている。
「ブラド卿、ご無事で!?」
ブラドに声を掛ける人物がいる。スレイン・トロイヤード、確か主人たるクルーテオの召使い、そしてアセイラム姫の教師としてこの城にいる地球人だ。それはいい。しかし、こいつは今何と言ったか?無事だと?
「何が無事なものかッ!!我が名誉は地に落ちた!!それの何処をみて無事と言った!?」
「っ!」
スレインもこの城にいて長く、ブラド卿の人柄もある程度知っている。実力主義で滅多なことがない限り地球人だろうと侮辱しない。だが、そのブラドが憤っている姿をスレインは見たことがない。
「バートン伯爵、ですか?」
「いいや、オレンジ色の小賢しいやつにバートン伯爵との決闘に水を差され、バカにされただけだ…そんなことよりスレインよ、伯爵についていなくて良いのか?」
「それは…」
クルーテオ伯爵とは先程分かれたばかり。
『クルーテオ伯爵』
背後から薄汚い声が聞こえる。またあいつか。今度は何を言いに来た。
前回は姫の仇を討つなどと、身の程をわきまえぬことを言っていたが…
『私にも、アセイラム姫の仇を討たせてください』
はぁ、またそれか。どうやら躾がなってないようだな。
『貴様にその資格はないと言ったはずだが?』
左手に持つ杖でスレインの左頬を叩く。が、今回は様子が違う。
『私をッ!バートン伯爵の元へ出撃させてください!!クルーテオ伯爵!』
そう、『目論見』は執拗いの一言により失敗に終わりブラドが戻るまでここにいた。
「そうか…伯爵は身分に厳しいお方だ。貴様も武勲を上げたいのはわかるがそれは叶わぬぞ」
違う、武勲などいらない!!
「私は!ただアセイラム姫の事が…!!」
驚愕。ブラドの心境はいま、驚愕に満ちている。ブラドとて火星の生まれ、地球人を疎まないことはない。が、その地球人であるスレインが武勲でなく仇討ちを望んでいるとは思ってもいなかった。
しかし、ブラドはクルーテオの騎士。主の決定には逆らえない。
「フン…」
ブラドは静かに自身の部屋に戻った。
それを見つめるスレインはゆっくりと顔を上げ、アセイラム姫との出会いを思い出す。アセイラム姫に命を救われた、あの時を。
「戦死!?トリルラン卿が!?」
『ああ、無念だ。狼藉者が我が領地に行った隕石爆撃に巻き込まれて…』
謁見の間から出たザーツバルムクルーテオの連絡を受け、隕石爆撃の判断を後悔した。次元バリアを装備したニロケラスなら問題ないと判断した自分が愚かしい。なぜトリルランに連絡するという事が思いつかなかったのか?
そうだ、自分はバートンに執着しすぎていた。最早あやつに力は無いのだ。今は我が手にあの青き星を手に入れるために策を練らねばならないのだから。
そして、誰がトリルランの最後を見たか知らねばならない。あやつが下手な事を口走っていた場合、処理する必要がある。
『トリルラン卿は食客として尽くしてくれた。バートン伯爵の調査隊に加わろうと姫様の忠誠心も高い勇敢な人物だった』
「…それで、トリルラン卿の最後を見たものは誰だ?」
『私が飼い慣らしているスレイン・トロイヤードという地球人だ。隕石爆撃もこの者の証言だ』
「スレイン・トロイヤード…だと?」
これはまずい。繋がってしまった。陛下の御寝所で話していた内容が繋がってしまった。処理する必要があるが…トロイヤード博士…。
「クルーテオ卿、そやつに監視の目をつけておけ。バートン伯爵の息がかかったものかもしれぬ」
『なんだと?私の前ではその素振りは見せなかったが…むしろ姫様に無駄な忠誠心を持った狗だ、頭が回るとは思えないが…』
「バートン伯爵が足を見せないように指示をしていたのかもしれん。何にせよ、地球人だ」
地球人…そう言うだけでたいていの火星人は聞き入れる。
『…わかった、ザーツバルム卿。貴公の判断に従おう』
「ああ、何かあれば連絡してくれクルーテオ卿」
通信が切れた。同時に、クルーテオ城にいる『自分』の配下に通信を繋ぐ。程なくして、メインスクリーンに配下が現れる。
『お呼びでしょうか、ザーツバルム様』
「至急、ニロケラスの状態及びトリルランの死体を確認したい。それに、スレイン・トロイヤードの動向についてもだ…やれるな?」
『命令のままに』
すでに矢は放たれた。今の状況は辛うじて優位に立ってはいるが、足を見せたらいつでも転落してしまう程度の差だ。
「これは…呼び戻すべきか?」
ザーツバルムの『騎士』を呼び戻す…現状を打破するには良い機会か。確かに今は手を打たねばならぬ…。よし、
「月面基地へ繋ぎ、マルネを呼べ。バートン伯爵追撃に関する判断を一任させる」
「了解」
ザーツバルムも動き出す。いま、天才は窮地に立っている。今が攻め時なのだから出し惜しみはいけない。まずは揚陸城から攻め落とす。
あれから伊奈帆たちは『わだつみ』に避難し、アルギュレ撃退を受け、伊奈帆は勲章を貰う機会を得た。
元々マクバレッジ艦長の推薦だったが、そこにバートン伯爵の後押しもあり、今回の授与に至る。
そして、アセイラム姫、バートン伯爵、シエルにエデルリッゾがガラティンとメリクルに乗りわだつみに乗艦した。マクバレッジ艦長は初め、懐疑に思っていたがあのまま揚陸城にいるよりはあちらを囮とし、こちらで動くというバートンの説明によりわだつみ乗艦を許可した。
そんなある時、韻子は表情の変わらないいつもどおりの伊奈帆を見つけ、話しかける。
「あ、伊奈帆!」
「ん…韻子か。どうしたの?」
いつもどおりの伊奈帆で安心する韻子は更に口を開く。
「どうしたの?じゃないでしょ!すごいじゃない、勲章なんて!マクバレッジ艦長直々の推薦で、えーと…あ!バートン伯爵?の後押しもあったんでしょ?」
「そうだけど…そんなに凄いのかな?」
「そりゃすごいよ!貰った人見たことないもん!」
確かに、貰った人は伊奈帆も見たことない。それは…
「それは「ずっと平和で、実戦がなかったからだよ」…鞠戸大尉」
「え?鞠戸教官?」
伊奈帆の説明を横から説明する鞠戸大尉。その言葉には軍人としての重みのある言葉だった。
「教官?ここは学校じゃないぞ網文」
「…スミマセンでしたー鞠戸大尉」
そう、ここは軍艦であって学校ではない。教官ではなく『大尉』なのだ。戦時下のなか、規律は厳しくしなければならない。
「これからは勲章も珍しくなくなるぞ?戦時下の中だ、名誉くらいしか出せる褒美はないからな…まぁ、名誉の為に死ぬってのも悪くない。惨めに死んだり…惨めに生き残るくらいなら、な」
…傍からみたら兵士でもない学校に絡んでる酔っ払いの図ではあるが、その言葉は『鞠戸大尉』として聞くと、重い言葉になる。
すると、後ろのドアが空き鞠戸大尉。引き止め役が姿を現す。耶賀頼医師だ。
「鞠戸大尉、ちょっと宜しいですか?」
「んぁ…?ったく、わーった。今行くよ先生」
その部屋は元々倉庫だったが、耶賀頼医師が病室にするべく改良した部屋だった。
「軍艦で開業かい、先生?」
「働かざるもの食うべからず、若者の夢を壊すのはあまり感心しませんね、大尉」
そう言い耶賀頼医師は鞠戸大尉に近づき匂いを嗅ぎ、大尉の胸ポケットに隠れていた酒を取り出し軽く振る。
匂いは大丈夫、酔ってはいない。ただし…
「少し飲みましたね?大尉」
「悪いかよ、先生。好きなときに飲ませろっつんだ」
「まあいいでしょう、酔っているわけではないようですので、問題は起こさないでしょう」
「…」
鞠戸大尉は口を閉ざす。いつもと違う態度に耶賀頼医師は『あの事』を聞いてみる。
「『種子島レポート』…ですか?」
「犯した罪は魂にこべりついて、いつまでも付きまとう…ましてや、裁かれない罪は…死ぬまで赦されることはない…そういった意味では、酔ってるのかもな」
鞠戸は首についている昔の戦友に付いていた物を手に取る。それはドッグタグ…名前は、ジョン・ヒュームレイ…15年前のヘブンズ・フォールの『直前』に戦死した鞠戸の罪。
「ヒュームレイさん…」
耶賀頼は呟く事しかできなかった…。
その頃、ジョルジュとシエルの火星騎士組はアセイラム姫の警護と同時に頭の中ではザーツバルムに対抗する策を練っていた。
(揚陸城の修理が完了したら何処か守りに適した地で持久戦を…いや却下だ、相手は国家。持久戦を展開してしまえばこちらが干上がる。さらに隕石爆撃によって一掃されてしまう。クッ、姫の無事を伝えたくとも月面基地はザーツバルムの管理下、頼みのクルーテオ卿もブラドを送ったということはこちらを敵とみなしている…少なくとも、今は無理だ…)
どうしても手段がない…このわだつみも備蓄が有り余っている訳ではない。生き残るには心細い…
さらに、向こうは上から追跡できる。範囲は限られているが、それからも上手く隠れなければならない。
今の所、バートン城からの通信情報により大気圏外の揚陸城の位置が送られ、そこから監視地域を逆算して航海しているが、いつまで持つか…
いかにガラティンといえ、大気圏内では十全の力をふるえない。メリクルは問題ないが、カタフラクトの大軍が来たら、性能によるが押し切られてしまう。
「バートン伯爵?」
そしてここはクルーテオの領地に近い。いや、クルーテオ領だろう。ブラドがまた来る可能性もある。早急に離脱を…ノヴォスタリスクの連合軍基地、だが補給なしでは難しい。どこか良い場所は…
ある。ここから近く侵略されにくい場…
「ジョルジュ、考え過ぎ」
急に、頭から痛みが伝わってきた。何事かと振り向けばシエルが拳を作りこちらを見ている。犯人はこいつに違いない。
「急に殴るなシエル。どうした?」
「どうしたじゃない、姫様がお呼びだったよ?」
「え━━」
シエルの後ろを見ると心配そうに見つめるアセイラム姫がそこにいた。
「バートン伯爵、やはり状況はよくありませんか?」
「…はい。我々も戦力はありますが、国家と戦うには些か以上に戦力不足。極力戦わないことを前提にしていかなければ海という制限の中、疲弊しきってしまいます」
そう、海とは広大な分、補給に困ってしまうのだ。はやく陸地を探そうにも軌道騎士の占領は始まっている。宛を探すにも一苦労だ。
「地球は我らにとって不慣れな地。やはり地球の民と逃げ延びるしかありません。彼らにとって私やシエルは強大な戦力。我々にとって彼らは案内人。協力していかなければ死んでしまいます」
そんな時だった。ジョルジュ達がいる休憩室にマクバレッジ艦長が寄ってきたのだ。
「バートン伯爵…それに、姫殿下まで…迷ってしまわれたのですか?」
それにバートン伯爵は今後のことを話していたと伝える。マクバレッジは何かを思い出したかのような顔をせ、
「伯爵、補給地が見つかりました。そこで一度補給をしたいのですが、バートン伯爵の見立てを聞きたい」
「…この状況下で、火星騎士の侵略対象になりやすい地を避け、この海域からそう遠くもない…『種子島』ですね?」
それを聞き、驚きながらこちらを向くマクバレッジ艦長。どうやら正解のようだ。
「伯爵のその慧眼には慣れるしかありませんね…言葉も出なかった」
「大袈裟ですよ、マクバレッジ艦長」
本当に敵にならなくて良かった、と本気で思うマクバレッジ艦長。互いに若くして軍を率いる立場にある以上、その実力に敬服せざるを得ない。自分より若いのに自分以上の戦略眼を持つのだから。
「それで、種子島でも大丈夫でしょうか?」
「私は大丈夫だと思いますよ。あの地に揚陸城を降下させるのはいくらなんでも難しい。ならば、あそこは一度別の地に降りてから制圧せざるを得ない。スカイキャリアもそこまで物資を運べるわけじゃない…恐らく敵の手に落ちてはいないでしょう」
そして、次の目的地が決まったことによりわだつみはヘブンズフォールの中心部、種子島へ向かうこととなった。皮肉にも、恐怖に怯える鞠戸を乗せて…
「ふふふ…あはははははは…」
月面基地のある一室。その部屋は銃のパーツが散乱しているが、それにさえ目を瞑れば騎士として恥じない一室であるだろう。尤も、その人はその限りではないが。
その男はある女性を恨んでいた。火星のために捧げたこの身より有能な彼女に。
「ようやく会えるなァ…クラウディア?」
ある一枚の写真…そこには若き日のヴァース最強と最凶が揃って写っている写真が。
「感謝しますよ、ザーツバルム様…
このマリネ、あのクラウディアを討ち取りヴァース繁栄という大望を成し遂げることができる…ッ!!」
月面基地に格納されたその機体は限りなくヒトに近かった。だが、その性能はヒトならざるもの。
『サー・マリネ卿、周囲にデブリが多いため発進まで暫くお待ちを「デブリ如き問題にならねぇよ。出るぞ」なッ、サー・マリネ卿!お待ちを!!』
月面基地を出たその機体は全長6m程度の超小型カタフラクト。装甲も申し訳程度の厚さしかなく、スラスターも1つしかない本来なら作られるはずの無かった機体。それが運用されてる理由はそのアルドノアドライブにある。
この血を連想させる赤紫のカタフラクトのアルドノアドライブは…俗に言う禁忌のアルドノアドライブなのだ。
目の前に巨大なデブリが迫る。が、マリネは歪んだ笑みを浮かべ何もない空間を『蹴った』。
すると赤紫のそれは巨大なデブリの真上に位置する空間に現れ、さらに何もない空間を『強く蹴る』。
するとスラスターも無しに有り得ない加速を得て地球に向かっていった。
「じゃあな。オレの部屋はあのままでいい。いままで世話になったな」
『サー・マリネ卿!!』
そしてヴァース最凶の騎士は自らの主の元に向かう。5つしかない禁忌のアルドノアドライブを搭載したマリネ専用カタフラクト『オートクレール』は青き星を大いなるヴァースにさらなる繁栄へと捧げるべく黒き宇宙を跳ぶ。
『クラウディア卿!ここは我らに任せ補給を!』
「わかった、しばらく任せる!!」
イーストブライド軍港基地近くに降下したバートン城はクルーテオ城からの執拗な攻撃に耐えつつも着々と逃げる術を整えていた。それは揚陸城をもう一度宇宙へ移動させ、別の場所へ降下させるというものだ。
だが、別の場所が見つからずどうしようかと悩んでいた兵士たちだがジョルジュの指令文にはノヴォスタリスク連合軍基地。地球の人々はここへ避難し、現状を維持しているとのこと。だが、地球の周回軌道と揚陸城の上昇、さらに降下させるとなるとどうしてもズレが生じてしまいうまく降下できない、というのが計算上の数値で証明されてしまった。
そして今、クルーテオ勢の4度目の攻撃を凌いでいた。だが、向こうと違いこちらは補給にも限りがある。食料については問題ないのだが弾薬が足りてない。
「もう少しで上昇する準備は整う!それまでの辛抱だ!一発一中を心がけろ!」
揚陸城に入るなり檄を飛ばすクラウディア。それにより城内の兵士の士気も上がり防衛という名の攻めにも勢いが増している。
クラウディア得意の陣形で、防衛と見せるよう敵を誘い後退する前衛部隊に対し、誘いに乗った敵を狙い撃つ後衛隊。崩れたところをクラウディア率いる親衛隊が速度で攪乱、これを繰り返すことでこちらの損害を減らしつつ敵を減らす虎狼の陣により今までを凌いだ。しかし、攻撃の要たる弾薬が不足しているため満足に戦えてないこの戦況に不安を持つ兵士も少なくはない。だが、このバートン城にいる兵士は精鋭の中のよりすぐりを集めた部隊、判断力まで鈍ることはない。
お陰で負傷者はいるが戦死者なしという状況だ。
だが、それで戦況が良くなっている訳ではない。やはり補給が満足にできていない為に皆の疲労は少なくない。
(やっぱり私達でも補給ができてないとなると辛いか…だが、もう少し耐えてくれ、みんな…!!)
それと同時に、クラウディアは銃撃が鳴り響く中、自身の主たるジョルジュの心配もあった。いくらシエルが共にいても本領を発揮できないのでは心配にもなる。
(大いなる我らが星よ、ジョルジュ様とシエルをお守りください…)
「クラウディア卿!リジェクトの補給終わりました!」
「了解だクロウ!今行く!!」
ヴァース最強の乗り手は自らの主を憂う暇もなく、銃弾の雨が降る空を飛ぶ。
策士は最凶を呼び出し、最凶は最強を屠らんと自らの牙を研ぐ。騎士は宿敵に刃を突き立てんと再戦の火蓋を切る。次回、最凶の申し子。不吉なる騎士には、血塗られた生き様が相応しい。