「うーん……。これと、これと、あとこれも必要だよね」
棚に並べられているキャンプ用品を手に取り、ウンウンと唸る帽子被った朱莉をバイト歴三年の
ホームセンターの隅っこの方に位置するこのキャンプ用品区画。ここが俊之の担当エリアだった。
今日もほとんど来ない客を前に、欠伸をしながら商品を並べていた。
そろそろ在庫整理のフリしてサボるか、と腰に手を当て凝り固まった腰を鳴らす。
こんな世の中でキャンプ用品なんて買いに来る酔狂な輩はいないと毎度毎度思っているが、仕事が楽なので言わないことにしている。
スタッフ以外立ち入り禁止と書かれた扉に向かい、歩を進める。
そこでふと視界に入った。また小学生三、四年くらいだろうか。まだ小さい子供が一つのキャンプ用品に頑張って手を伸ばしていた。
これを見て見ぬ振りが出来るほど、俊之は非情にはなれなかった。
少し駆け足でその少女の元に向かうと、手を伸ばしていたキャンプセットを手に取る。
「これでよかったかな?」
「あっ、はい。ありがとうございます」
少女は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐさまぺこりと頭を下げてきた。
「いやいや、お礼は要らないよ。一応店員だからね」
そう言うと、少女はクスリと笑った。
「じゃあ、それのお会計お願いします」
「ん、了解」
先にレジに向かって歩き出すと、後ろをちょこちょこと少女がくっついて歩いてくる。
その姿が愛らしくて、思わず顔がにやけるが前を向くことで隠す。
以前、友人の一人が結婚して子供が欲しいと言っていたのを思い出した。俊之はあまり子供は好きではなかったが、この姿を見ると少し子供が好きなっていた。
いつか、自分も恋をして、結婚して、子供を作ったりするのかなぁ。
そんな自分らしくない想いに思わず苦笑が漏れる。
ーーだけど、悪くない未来なんだろうな。
俊之は柄にもなくそう想った。
◆◆◆◆◆◆
「ふぅー、これで全部かな」
両手いっぱいの荷物を抱え、疲れた表情を浮かべた朱莉は大きく息をついた。その表情とは裏腹に、声は満足気に弾んでいた。
「お金は……七割は使ったかな」
懐から取り出した財布には、松崎から貰ったお金が入っていた。
けっして少なくない額のそのお金を無駄遣いしないように気をつけながら、必要なものだけを買ったが、かなり減ってしまっていた。
あの時一緒に貰った黄色のバックパックは、裏路地に隠してある。流石にあの大きなバックパックを背負って店に入ったら怪しまれると思ったからだ。
人目を気にしながらこっそりと裏路地に入り、バックパックを回収する。先ほどかったキャンプセットを手早く詰めていく。
ナイフやマッチ箱、毛布や小型のテントなど色々なものが入っている。
それらを詰めていくと、余ったスペースはなかった。少し余るかと思ったが、計算違いだったようだ。
身の丈ほどあるバックパックを背負い、こっそりと裏路地を駆けていく。
このまま裏路地を抜けて外周区に出る。そして、外周区を経由して外に出る。計画とも言えない陳腐なものだが、今の状況ではそれで事足りた。
それもそうだろう。外から東京エリアに入ってこようする者はいようとも、出ようとする奴なんかほとんどいない。
「ーーえっ。い、今のって……」
なんの問題も起きない筈だった。……さっきまでは。
パァンッ! という乾いた銃声を聞くまでは。
ここはもうすでに外周区だ。先ほど足を踏み入れたから分かる。そして、朱莉は知っていた。この外周区で鳴る、乾いた音の意味を。
何度も見て、聞いたこの音の正体を。 どくどくと嫌に心臓の音が聞こえる。思考するまえに、朱莉は既に走り出していた。
呪われた子供たちの力を解放して、全力で走っていた。
段々と大きく見えてくるモノリスに嫌な汗が顔を蔦る。壊れるままに放置されている建造物が嫌に目に入る。
そして、見つけた。
立ち止まった先に見える、ねじ曲がり、半ばから折れた電波塔の脇にポツンと止まっている、場違いなモノに。
白と黒のモノクロのボディ。その上には赤い筒が乗っている。
自分のような、子供たちにとっては悪魔とも呼べるものを。
再び聞こえた、パァンッ!という乾いた銃声が、東京エリアの暗部に虚しく響きわたった。
ごめんなさい、遅くなりました。
やっとスランプから復活です。
すこし少ないですが、次の回は多いと思いますので。
次回はついに……。
追記:2015/8/31
そろそろ出来上がります……。