書いてて思ったけど、少し蓮太郎の性格が変わってるね。正義感が若干強くなってる感じかな?
一台の原付が、制限速度を超える速度で公道を突っ走っていた。乗っている少年の顔色は優れない。
通りすがりの中学生だろう少年から借りた原付を必死に飛ばしながら、焦る表情を浮かべる彼ーーー里見蓮太郎の心の内は、深い後悔の念で埋まっていた。
あの時、あの瞬間、自分はあの少女を助けられた筈だった。あの警官どもは、周りに事情すら聞かずに少女を拘束した。
大抵の警官は、“呪われた子供た”をきちんと裁こうとはしない。普段は子供たちを人間扱いしない癖に、ああいった行為をした時だけ、彼等は都合良く子供たちを人間扱いするのだ。
それ以前に、彼等の乗ったパトカーが進む先にはめぼしい警察署どころか派出所すらない。
だからこそ、その光景を見て、蓮太郎は分かっていた筈だ。この後、少女の身になにが起こるかを。
それなのに、自己の保身に走り、見捨ててしまった。
ーー里見蓮太郎。お前がなりたかった民警は、こんなものだったのかッ?
無辜の市民を守り、正義を遂げる偉大な仕事が、民警というモノではなかったのか。
お前は見た筈だ。あの時の少女の想いを。少女の伸ばした手を。その手を取り、助け出してやることが、お前の目指したのモノであった筈だ。
ぐるぐると様々な想いが、脳裏を駆け巡る。
そしてなにより、自分に対しての震えるほどの怒りがこみ上げてくる。ハンドルを握りしめる手に力が入る。
だが、俺が今やるべきことは、いち早くあのパトカーに追いつくことだけだ。
グリップを捻り、さらにスピードを上げる。先ほどの怒りに当てられてか、無意識の内に義眼も解放していた。車の合間を縫うように見事に抜けていく。
そのままスピードを落とさず、猛スピードで駆けていく。
そして、倒壊したビルや、廃屋などチラホラと見え始め、外周区に入ったと理解できた。
その時だった。
蓮太郎の耳にパァンッ! という乾いた音が聞こえて来たのは。
「クソッ!!」
吐き捨てるように零れた怒りの声が、悲しいほど静かな東京エリアの闇に響く。
蓮太郎は銃声の聞こえた方向へと思い切りアクセルを捻る。
ーーお願いだ、間に合ってくれッ。
それだけを思い、周囲を視線を巡らせる。蓮太郎はまだ倒壊の危険のない建物を粗方見て回る。
そして、モノクロの車は何軒か回ってすぐに見つかった。
「ッ!」
蓮太郎は原付を停める間も惜しんでそのまま跳躍した。原付がコントロールを失い、横滑りになりながら前方にあった金網に激突し失速。
少年には悪いが、心のうちで謝るだけに留める。
捻れた電波塔の横に停車してあるパトカーに駆け寄ると、案の定もぬけの殻だった。蓮太郎の鼓動がドクンといっそう早くなり出す。
焦る心を抑えられずに壊れた電波塔へと走る。錆び付いた鉄柵に向かって一気に跳躍。天辺を掴み、全力で引き寄せ乗り越えたところで、小さいが確かに声が聞こえてきた。
そちらに目を向けると、痩せ眼鏡と角刈りの警官が血濡れたコンクリートに倒れている少女へと、拳銃を向けていた。
ーーその時、蓮太郎は自分の中で何かが切れた音を聞いた。
「やめろおおおおおぉぉぉぉぉッッッ!!」
着地するや否や、脚部に仕込まれたカートリッジ底部をストライカー撃発。擬似伏在神経に沿って配置されたエキストラクターが空薬莢を
爆発音と共に、吹き飛ばされるような加速感を感じながら前方へと
驚いた二人の警官が、こちらに拳銃を向けるよりも早く、制圧する。勢いを多少殺しながら、痩せ眼鏡の警官腹部へと掌打を放つ。白目を剥き昏倒。
そして、流れるように呆然と立つ角刈りの警官の顔を裏拳で強打。鼻血を出しながら後ろ向きに倒れていくのを見届けながら、『百載無窮の構え』を取り残心。
ドサッと裏拳を喰らった角刈りの警官が倒れる。
制圧を確認。建物の隙間から流れる風に髪が攫われるのを感じながら調息。
ハッとすぐに我に返ると、血濡れたコンクリートに横たわる少女を見ると足が重く、後悔に染まっていく。
だが、近づいていくと少女の胸部がゆっくりとだが動いていることに気がつく。
ありがとう……。誰に向かって言ったかもわからない言葉が不思議と零れた。急いで少女を病院に連れて行かなくては、折角起こった奇跡に意味がなくなる。
だがーーー、
「ッ!」
そして、少女との距離があと数歩となった時、蓮太郎の第六感が盛大に警報鳴らし、瞬間距離をとる。
蓮太郎がコンマ数秒前に居た場所に数本の
「な、なんだ……?」
コンクリートへと突き刺さった黒い物体を見て、蓮太郎の表情が驚愕に染まる。それがバラニウムの漆黒の色に酷似していたからだ。
驚愕が解ける前に、その黒い物体は溶けるように消えていく。
そして、コンクリートへと突き刺さったときに舞った粉塵が晴れると、そこには血濡れの少女を抱えた
その少女は、こちらを警官の仲間と勘違いしているのか、瞳に怒りの光がある。
それに気づいた蓮太郎は誤解を解こうと一歩を踏み出す。
「待ってくれ。俺は敵じゃーー」
「……ルナっ!」
「ッ!」
少女が誰かの名前を叫ぶと足元からーーいや、正確には
「影から……? そんな馬鹿な…」
蓮太郎が思考に浸る間も無く、再び黒い物体が蓮太郎目掛けて伸びてくる。それを義眼を解放し、紙一重で躱す。義眼が演算を開始し、未来予測の位置を暴く。
頭部を狙ったそれを、身体を捻り義肢である右腕で受け流す。ギィンッと金属音を立てながら、それはコンクリートへと突き刺さり、粉塵をあげる。
その隙を見逃さず、後ろへと大きく跳躍し距離をとる。
狐耳の少女は血濡れの少女を背負ったまま、こちらを見ているだけで何もしてこない。いや、目には焦燥が浮かんでいる。
「……君は、その子の知り合いなのか?」
「………」
頷きもせずにこちらを睨みつける少女を見れば、それは一目瞭然だった。
蓮太郎は両手を上にあげ、敵意がないことを示す。
「…今、その子はとても危険な状態だ。俺にはその子を助ける手段がある。だからその子を渡してくれ」
「……その必要はない」
「……どういう意味だ?」
「私ならすぐに助けられる」
「それは、どういう意味だ?」
「……貴方が知る必要は、無い」
蓮太郎は無言で威圧するが、少女は目を一瞬たりとも離さなかった。蓮太郎は小さく舌打ちをした。
「……絶対助けろよ」
少女は無言でこちらを一瞥した後、抜け落ちた天井の穴へと跳躍すると、崩れた壁から外へと消えて行った。
蓮太郎はそれを見届けると、苛立ちを隠せずコンクリートの側面を殴りつける。手から血が滲むが、そんな些細な事には蓮太郎は気づいていない。苛立ちの矛先はあの少女にではなく、当然の如く自分自身に対してだった。
しかし、あの少女は一体………、
思考の海に浸る寸前、チラリと視界に入った警官たちを見て、小さい舌打ちが零れる。
「…まずはここから逃げないとな」
考えるのはそれからだと言い聞かせ、蓮太郎は早足にその場所を去って行った。
前回投稿時に日間ランキングに載っているのをたまたま発見し狂喜乱舞しました。気づいた人は……ヽ(´o`;
これからも、頑張って書いていきますのでよろしくお願いしますm(_ _)m