自配機から出てきたトレーの数は5つ、しかしここには神綺を除いて6人。一人分足りないのだ。それを不思議に神綺が思っていると、おもむろに摩利が弁当箱を取り出した。
へぇ、と意外に思っているとあずさと深雪が立ちあがり、自配機から出てきたトレーを運ぶ。
いくら自動で食事を作ってくれるとはいえ、自配機対応のテーブルでないかぎり自分で運ぶしかない。
そして各自にトレーが行きわたり、なんともいえない会食が始まる。
だが問題は話題が無いのだ。なんせ殆ど今が初対面であり、話したことさえなかったのだから。
それは会長達もわかっていたのだろう。最初から準備していたかのように今の食事についての会話が進む。そこで深雪が
「そのお弁当は、渡辺先輩がご自分でお作りになられたんですか?」
特に深い意味もなく、ただ円滑に会話を進める為に言ったセリフであり、他意はない...はずだ。
「そうだ。....意外か?」
「いえ、少しも」
少し意地悪そうに、深雪をからかう様に摩利は聞いたが、間髪いれずに隣に座っていた達也が返した。
「....そうか」
すると摩利は少し恥ずかしそうに手元を隠した。
達也が摩利の指、絆創膏の貼られている指を見たのだ。それに摩利は気恥しくなり手を隠した、といったところだろう。
「それにしても北山君。君もお弁当なんだね」
すると誤魔化すかのように摩利は神綺へと矛先を変えた。
「えぇ、小さい頃から料理はしていましたから」
「でもここには食堂だってあるだろ?」
「えぇ、しかし妹が作ってくれとせがまれたもので」
そう。昨日の夜に言われたのだ、弁当を作ってくれと。
「妹?」
「北山雫...さんでしたっけ?」
「えぇ」
「へぇ、司波君だけでなく北山君にも妹さんがいるのか」
「えぇ....」
「それよりも摩利?あなた、話したいことがあったんじゃないの?」
神綺が面倒くさくなりそうだと思い、なにかと話題を変えようとしたとき、真由美が摩利にそう言った。
「おっと、そうだった。.....なぁ、司波君、北山君」
「なんでしょうか?」
「なんですか?」
「君達、風紀委員に興味はないか?」
そう言いながら摩利は片肘をついて軽く身を乗り出すように前に出た。
「風紀委員...ですか」
「といわれましても....」
「え?ちょっと摩利?どういうこと?」
よほど摩利の言ったことがぶっ飛んでいるのだろう。真由美が今まででは考えられないほどの驚愕を見せたのだ。今まで仮面の様な物をかぶっている印象があった彼女が初めて素を見せたように神綺は感じた。
「ん?真由美も知ってるだろう?風紀委員の前年度卒業生の枠がまだ埋まってないこと」
「そ、そりゃぁ知ってるけど....あれはまだ人選中よ?」
「それは勿論私も知っている。だが昨日のアレだ」
昨日のアレ、それだけでも神綺は理解してしまった。自分は昨日術式解体を使用した。おまけに自分と達也は術式を読み取ったことも話したのだ。嫌な予感しかしない。
「アレって...」
「放課後のことだ。あの時、君達は見事に起動中の起動式を読み取った。それは相当なアドバンテージになる」
と摩利が面白そうに言うが、流石の神綺も黙っていない。今朝の冗談半分で言ったことが当たってしまった。これは大変なことになる。
風紀委員。名前からして風紀を乱す物を取り締まる、まだ仕事内容なんてしらないが厄介以外なにものでもない。
神綺は目立ちたくないのだ。....どこから組織の奴が見ていて、どこで自分の情報を掴むかが自分の力では調べることができない今、自分から姿を現しに行くのは得策ではない。
無論、すでに見つかっていて泳がされているのであれば話は別だが....目立たないに越したことはない。
「すみませんが渡辺先輩、風紀委員の仕事内容がわからない今。決断の仕様がないのですが」
それには達也もおもったらしく、軽くうなずいていた。
「それもそうか。....といっても字のごとく、構内の風紀を乱す者を取り締まる。簡単にいえば、魔法を無断使用したり、魔法による喧嘩が起きた時に仲裁に入り止めるか、実力行使で鎮圧する役職だな」
「....少し待ってください。今、実力行使と仰いましたか?」
「ん?あぁ」
なにかおかしい所はあるか?と言いたげな顔で摩利は返す。
「....それを二科生である俺と神綺に?御冗談を」
「冗談じゃないさ」
とさも当然のように摩利は言う。
流石にそれには神綺と達也は頭を押さえる。
「...あのですね渡辺先輩?達也はどうかしりませんが私は実技の成績が悪い為に二科生なのですが?」
「私もそれには理解しかねます。実技の成績が悪い私が風紀委員など勤まるはずがないのですが?」
「ん?実技がそんなに重要か?」
「ねぇ...摩利?実力行使って様は魔法の戦闘の様な物でしょう?それは実技の成績も関係してくるのだけれど...」
と達也達と同じく頭を押さえた真由美がツッコム。
「あぁ、そういうことか。なに、君達が戦うわけではない」
「「...は?」」
上級生に向かって言う言葉ではないが、こんな反応をしても仕方ないと思う。
「私が君達をスカウトする理由は、起動式を読み取ることのできる能力だ。実力行使は私で何とかなる」
「でも摩利...」
「考えてみろ、ここの刑罰は魔法の種類や規模で重くもなり、軽くもなる。真由美のやるように魔法発動までに起動式を壊してしまうと正確な刑罰は処せないだろ?だからといって発動まで待つのはバカだ。となるとだ。起動式を読み取り尚且つそれを破壊する手段を持っている...北山君、君だ。君が入ってくれればこっちは大助かりなんだ」
「っ....」
神綺はこれほどまで魔法の発動を無闇にしたことを後悔したことはなかった。
しらない間に自分に矛先が向いているのだから。
(たっ 助けてくれ達也!)
(冗談はよしてくれ、そしたら俺に矛先が来るだろ)
咄嗟に隣の達也に救援を求めたが撃沈。
そこで
「おっと...予鈴か。しょうがない。君達は放課後にまたここにきてくれ。勿論司波さんもだ」
と先延ばしという形で昼休みはお開きとなった。
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