時刻は16時15分。模擬戦の開始予定時刻5分前だ。
生徒会室で達也に言った通り、家からCADを取ってきてもらう為に開始時刻に間に合わない。だから達也から先に始めてもらう様に言ったのだが、桐山さんが飛ばして間に合わせてくれるらしい。
それでどちらから先に戦闘するかを服部に聞いた所、神綺から先にやることとなった。
「本当に間に合うのか?」
「どうでしょう....なんとかしてみせます、と聞いただけですから」
「あまりにも送れるようだったら司波君から先にやってもらうことにするぞ?」
「えぇ、構いません」
「そうか。....にしても北山君はどんなCADを使うんだ?」
暇つぶしだろう。ちょっとした好奇心から摩利が聞いてきた。
「特化型です。先程お伝えした通り、近接の物理攻撃となります。....服部先輩。本当によろしいんですね?」
最後の確認だ。念には念を入れて、後々のしこりをできるだけ残さないようにする。
「あぁ。俺が二科生なんかに負けるはずがないだろう。お前が俺に近づく前に倒す、それだけだ」
「そうですか」
見え見えの敵意を軽くあしらいながら神綺は目を瞑ってCADが届くのを待っていた。
すると、演習場のドアが開く音が聞こえた。
「おや?」
と摩利の反応に違和感を覚えた神綺は目を開けてドアの方に視線を送ると、
「...雫?」
「お待たせ、神綺」
「どうして雫が?」
「桐山さんじゃ構内の構造がわからないからかわりに持ってきた」
そう言いながらCADが入っているケースを掲げながら雫がこちらに向かってきた。
「まさか妹君が来るとはな」
「私自身驚いてますよ。....それじゃぁケースを」
「ん」
と雫からケースを受け取ると、演習場に備え付けられている机に置き、ロックを外す。
カチャ...
そう軽い音が演習場に響き、ケースを開ける。その中には2つのトンファーが仕舞ってあった。
「ん?それは...?」
「トンファーです。昔から日本にある武器ですね、それを少し改造したオーダーメイドです」
刀などの主流武器はどこでもCADとして売られているが、トンファーは中々売っておらず、オーダーするしかなかった。
「ほぅ....」
物珍しい様子でCADを眺める摩利を横目に、神綺は上着とネクタイを脱いで雫に渡す。
「持っていてくれ」
「わかった。...頑張って」
「あぁ」
「準備はいいか?」
「えぇ、私はいつでも」
と神綺は軽く準備運動をして体の調子を確認する。
「服部は?」
「私も準備できています」
対して服部は動かずに片腕に手を翳したまま、神綺を睨んで答えた。
「それでは、よろしくお願いします。服部先輩」
「図に乗るなよ。二科生の癖に生意気なことをベラベラと、格の違いを教えてやる」
「よし、時刻は16時18分。予定通り20分になると同時に開始とする。両者、所定位置につけ」
と摩利が指示をする。そうして二人が位置につくのを確認すると、
「これからルールの説明をする。直接攻撃及び間接攻撃において、相手を死に至らしめる術式は禁止だ。そして回復不能な障碍を与える術式と肉体を損壊させる術式も禁止だ。いいな?」
「「はい」」
「だが今回は北山君の要望もあり、服部も了承した為、骨折未満の直接攻撃を認める。....そうだ北山君。聞き忘れていたが、蹴り技は使うか?」
「いいえ?」
「そうか、ならいい。続けるぞ、勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合のみだ。そして、開始前にCADを起動するなよ。したらその時点で反則負けとする。なにかあれば私が力づくで止めるから覚悟しておけ」
「「はい」」
とルールを了承した二人は頷く。
神綺は気を引き締めて合図を待つ。対する服部も気を引き締めた表情をしてはいるものの、誰が見てもわかるほどの慢心をしていた。相手が二科生であるという余裕からだろう。
それに呆れながら神綺は相手の軽い分析を始める。
(服部先輩は汎用型CADか。どんな技で来るか見ものではあるんだが....どうも慢心が過ぎるんじゃないか?あれは足を掬われるぞ....)
(まぁそれはいいか。それでだ、相手は腐っても一科生。処理速度諸々が俺よりも上なのは明らかだ。そしてあの慢心、....短期決戦で決めるのは明らかだ。さっき先輩は言ったな、近づけれる前に倒す...と。ということは、加重で動きを止める....後はそうだな、移動でおもいっきし壁に叩きつけることも可能か。後は....いや、今簡単にわかるのはこのくらいか)
「よし、そろそろ始めるぞ」
(後はいくら予想してもキリが無い。....あちらが短期で決め込むならこちらもそれで行く...)
考えるのをやめ、これからの戦闘の方に集中する。狙うは一度、それで無理ならゴリ押しでいくしかない。
「よーい...」
神綺は深呼吸し、体の余分に入っている力を抜く。そして服部はCADの嵌めてある腕を神綺の方へと軽く掲げる。
「はじめ!」
「っ」
合図と同時に服部はCADのボタンを操作し、照準を神綺に合わせる。
「な!?」
いや、神綺のいたであろう場所に指定をした。だがその場にはもう神綺の姿はなかった。
どこにいる、そう思いながら一度起動式を破棄して再度神綺を探していつでも座標を入力できるようにする。だが、
「っ」
前方にいなかった為、無意識的に真後ろへと振り返った瞬間。喉元と背中になにか硬いものが押し当てられたような感覚を感じて服部は硬直する。
すると耳元から、
「....これが実戦ならばこれで喉元を掻き切られてあなたは死にますね。どうします?」
「っ...ま、負けだ」
と軽く放心気味に服部は降参宣言をし、膝から地面に崩れた。それを見ながら神綺は拘束を解いて未だに勝鬨をあげない摩利の方をジッと見る。
その視線に気がついた摩利は
「し、勝者...北山神綺」
「...ありがとうございました」
勝鬨を聞いた神綺は控えめに服部に向いて礼をして、そわそわとしていた雫に近づき、
「ありがとう、上着を」
「おめでとう。勝ったね」
「服部先輩が油断していたからだ」
「あと伝言。ママが呼んでたからすぐに帰ろ?」
「わかった」
そう言いながらネクタイを結び、上着を着ようとすると、
「き、北山君。ちょっと待ってくれ」
「ん?なんでしょうか」
腑に落ちない、と言った表情で摩利が
「あの移動は一体....加速術式を事前に展開していたのか?」
「移動....あぁ、服部先輩の後ろを取った動きですか?」
「そうだ。目で一瞬追えなかったぞ....」
「そりゃぁ目で追われちゃ意味ないですから。....といっても簡単です。合図と同時に私は服部先輩の左腕の下に潜り込むように走ったんです」
「なっ 走るって言ったってあの速さは...」
一瞬の動きを走るで片づけられたことに納得のいかない摩利は眉をひそめる。すると達也が
「あれは縮地だろ?」
『縮地?』
「達也は知ってたか、正解だ」
「その...縮地とは?」
おずおずといった様子であずさが聞いてくる。
「先程私がやったまんまです。瞬時に距離を詰める武術です」
「そんな技が....」
「そして私が服部先輩の足元に伏せた時、先輩は私が消えたと錯覚して無意識に後方へと視線を動かしたんです。そのタイミングで私は立ち直して首元にこのCADを当てたんです」
「....そういえば首を掻き切る、と言っていたが....実際に可能なのか?」
「可能ですよ。見てください、グリップの先にプラスチックがありますよね?これを硬化して思いっきり擦れば摩擦で切れますよ」
「そ、そうか....」
「ルールには該当しないはずです。確かに、切っていれば失格ですが....ただかざしただけですから」
「それはわかっている。今さら勝敗にイチャモンをつけるつもりはない」
「わかりました。...では、家で母に呼ばれているようですので、お先に失礼します」
「え?あ、あぁ。真由美もいいよな?」
「えぇ、今日はありがとうね」
「いえ、ではお疲れ様です。....達也も頑張れよ」
「あぁ。またな」
そして再度摩利達に一礼し、演習室を後にした。
閲覧ありがとうございます。
お粗末ですけど挿絵入れました。いつか描き直す...かも?