「「ただいま」」
家に帰るとリビングに紅音が足を組んで椅子に腰かけていた。
「あら、おかえり。待ってたわよ」
「俺になにか?」
「ちょっとCADの調子が良くないのよ。見てほしくてね」
「あれ?最近調整したばかりじゃ...」
たしか先週の土曜に調整したはずだ。百歩譲って念を入れて調整するにしても、早すぎる。
「そうなんだけどね、今日講演に呼ばれたんだけど...その時に違和感がね」
「それは不味いな....了解。メンテナンスするよ」
CADの扱いはとてもデリケートだ。少しでも狂ってしまえば魔法が使えなくなるような事態が起こる可能性もでてくるのだ。
「頼むわね」
「それじゃいつも通り装置に寝てて。雫、上着をよろしく」
と紅音からCADを受け取ると上着を脱いで雫に手渡す。
「わかった。....じゃぁ次に私のもいい?」
「雫の?.....わかった、どうせ今週末にやる予定だったしな」
「ありがと」
礼を言うと神綺は頭を切り替えてCADメンテナンス用の機材が置いてある部屋へと向かった。
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「よっと...さてさて?」
メンテナンス室につくとCADを機材にリンクさせ、自分のアカウントを呼びだす。
「指紋認証よし。....後は紅音さんを待つだけか」
「ごめんなさいね、ちょっと遅くなったわ」
と待っていると先程の普段着と違い、薄いバスローブの様な物に紅音は着替えていた。これはCADのメンテナンスの際に、使用者のサイオン情報を解析しなければならないのだが、その時に薄着でないと正確に記録できないという欠点があるのだ。その為に薄着になることが原則となっている。
「別にいいさ。...さ、寝て」
「はーい」
紅音を寝台へと寝かせると同時に神綺は機材に備え付けてあるキーボードを叩いく。
「母さん、調子はどう?」
「特にないわ。いつも通り」
「そう。今回感じた違和感はどのような?」
「そうねぇ....なんて言うのかしら。異物につっかかる様な感じ?あ、言い例えがあるわ」
「ん?」
「血管が詰まって血液が流れにくくなってるような...そんな感じ?」
「そ、そう....」
なんとも異様な、それでも的を得ているような例えに言葉をなくす。
だが疑問が産まれる。なぜ、そのような不具合がたったの数日で出てくるのか、だ。
「.....取りあえずもう大丈夫だよ。起きて」
「もういいの?」
「前回とさほど変わってないからね、上書きも短い」
「.....ちょっとさ」
「ん?」
「今回は一からやり直して欲しいの。上書きだけじゃなくて」
「....不安?」
「そりゃぁ....神綺にやってもらってるんだし、安心だけど。けど、今まで感じたことのない感覚だったから」
「念には念を....ね。わかった、少し時間掛るけど」
「気にしないわ。よろしく」
「了解....それじゃぁ組み直しますかね」
そう呟きながら神綺はコンソールを立ちあげて紅音のCADの解析を始める。
「えっと....前回のデータ引っ張ってきてっと.....ん?」
「うへぇ....私にはさっぱりだね」
今神綺の目の前の画面には前回インストールしたデータと今現在のデータが表示されている。といっても莫大な量のアルファベットが絶え間なくスクロールしながら表示しているような状況だ。今神綺が何をやっているのかも、調整の知識がない紅音には未知の作業だった。
しかし、当の神綺には不可解な現象に眉をひそめた。
「どうしたの?」
「おかしい....」
「え?なにが?」
「前に俺がインストールしたデータが改変されてる」
「...なんですって?」
「母さん。あの後、俺以外にこのCADを弄らせた?」
「いいえ?そんなことするわけないじゃない」
「だとしたらなぜ....」
データの改変など、今神綺がやっているようにメンテナンス機でやるほかに方法がないのだ。
そして神綺しか弄っていないデータが改変されているなど....おかしいのだ。
「わからないな。それじゃぁ俺以外にCADを触った者は?」
「え?そうねぇ.....いないと思うわ。...ん?」
「心当たりが?」
「え、えぇ...今回の公演主よ。名前は津久田恭二っていう人よ、その人にCADを見せてくれって言われて.....まぁ、その場で少し渡しただけだし....目の前で取られないようにずっと見てたわ」
「津久田....その人にあやしい様子は?」
「なにも?ただ裏返したりしてこの装飾を見てたわ。気になったみたい」
「そう。....それ以外に触ったりした人はいない?」
「いないわね。彼だけ」
「.....なら、これからはその人を警戒しておいた方がいいね。なにがあるかわからないから」
「...えぇ、そうね。元通りに直るかしら?」
「勿論。なんの為に引き受けたと思ってんのさ」
「冗談よ。神綺の腕はずば抜けてるもの」
「それは買いかぶりだけどね....もっとすごい人はいるさ」
「いいえ?前にも何回かサポートさせてくれって企業が申し出てきたけどどこもダメだったわ」
「そんなことが....ま、認めてもらえてるのはありがたいよ」
「実際神綺に頼んでから負担も格段に減ったからね。そのマニュアル操作っていうのかしら?それのお陰?」
「確かにこの設定方法が一番使用者の負担を軽減させられるね。そして最大限に性能を使えるからいいこと尽くしってやつだね」
「でも見たことなかったわ。そんな調整方法」
「たしかに難しいね。自分でも最近やっとできるようになったんだし」
CADの調整方法は数種類ある。
機械に最適化させる方法、そして神綺の様に全て手作業で構築する方法だ。他にも数種類あるが割愛する。
しかしマニュアル操作には欠点もある。それはデータが膨大すぎる為に把握するのも一苦労ということ。
世間を騒がしている整備士にこのマニュアルで頼んでもまともに調整できるのは一握りだろう。それだけ高難易度の調整方法なのだ。
「でも自分の能力をカバーするにはこれしか方法がないんだし、嫌でも憶えるさ」
「ほんと....変な体質よね。干渉はずば抜けてるのに処理が壊滅だなんて」
「本当だよ...」
と悪たれを付きながらも神綺は手を止めずにキーボードをたたき続ける。
「ついでに少し処理を軽くしておくから」
「えっ もっと軽くできるの?」
「微々たるものだけどね」
「いや、助かるわ。年取るときついのよ」
「そんな年じゃないでしょうが....よし、終わったよ」
「もう?」
「前回インストールしたデータに少し手を加えただけだからね....はい」
そう言いながらCADを紅音に返す。
「ありがと。またお願いね」
「わかってる。少しでも違和感を感じたら遠慮せずにまた聞いて」
「そうさせてもらうわ。....次は雫かしら?」
「そうだね。ついでに見るよ」
「....雫を襲わないでよ?」
「は?」
急に何を言うんだ、という冷たい目で神綺は紅音を見る。
「ちょっ 本気にしないでよ、軽い冗談じゃない」
「俺妹に襲う趣味はないんだけど?」
「だから冗談だってば」
「...はぁ。まぁいいさ、雫呼んできてくれる?」
「わかったわ、メンテナンスありがと」
そう言いながら紅音は先程と違い軽い足取りで雫を呼びにメンテナンス室を出ていった。
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