「では、出発致します」
「お願いします」
神綺と雫が乗り込むのを確認すると運転手の桐山さんがそう言った。
するとアクセルが踏まれリムジンは加速した。
「そういえば、今日も寄るのか?」
「うん。今まで通り、....神綺は嫌?」
これだけの会話では何を指しているのかが全くわからない。しかし、彼らにはこれだけで十分だった。
「まさか。彼女を嫌うなんて俺にはないよ」
「嬉しいけどなんか複雑」
「?」
「それより、ありがとう神綺」
「急にどうしたんだ雫。俺、なんか雫にしてあげたか?」
急にお礼を言われてもなにかしてあげた記憶がない。
「うん。一高に入学してくれた」
と雫は微笑んだ。
雫の言った一高。これは八王子にある『国立魔法大学付属第一高校』のことだ。
今現在、日本国内に国立の高等魔法教育機関が9校あり、その内のひとつだ。
そして毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいるエリート校として知名度も高い。
そんな学校に神綺と雫は入学したのだ。
「そりゃぁ雫にお願いされたしな。それに....紅音さんがうるさかったし」
「た、確かにあれはひどいと思ったけど....それ以上に私は嬉しいな」
と感情表現の乏しい雫だが、それでもわかるぐらい声を弾ませていた。
「なら入学した甲斐があったよ。まぁ....自分でもよく受かったものだと思うよ」
とシミジミに言っていると、
「雫様、神綺様。到着致しましたよ」
と桐山が告げる。
「....あの、桐山さん」
「?なんでしょう、神綺様」
「その様やめてもらえませんか?」
「なにを仰いますか、それは無理なお願いでございますな」
「......」
「諦めなよ、神綺。それ何回目?」
「しょ、しょうがないだろう....こればっかりは慣れないんだ」
確かにリムジンに乗るのは慣れた。だが北山家に養子縁組した為神綺も北山家の息子となる。その為様つけになるのは仕方のないことなのだ。それが神綺にとっては苦痛のようだ。
「はっはっはっ、もうそろそろ慣れてほしいものですな。さ、光井様がお見えですよ?」
そう言われ窓の外を見ると、
『ごめ~ん!』
と光井と言われた女子が慌ててこちらに駆けていた。
女子がリムジンに近づくとドアが開き
「ごめんね!寝坊しちゃった....」
「グッドタイミングだよほのか。今来たばかり」
「それよりも乗りな」
「あっうん!」
彼女は光井ほのか。雫の幼馴染であり、俺の友達でもある。彼女も神綺達と同じく一高の試験に受かり、入学する。
「では、出発致します」
「いや~ 嬉しいなぁ....あの一高に受かったんだ~」
とうっとりしながらほのかが呟く。
「それも私達3人共。これほど嬉しく思ったことはないよ」
とサムズアップしながら雫も続く。
「あの一高だもんな....」
「でも....」
「っ......」
とほのかと雫は急に言葉を詰まらせて神綺の制服を、厳密には左胸の所に視線を送っている。
「ん、これは仕方ないさ。当然の結果さ」
「でも!」
「......」
「これでも自分自身受かったのが不思議なんだぞ?わがまま言える立場じゃないさ」
「....裏口」
「おい....それお前が言っちゃいけないやつだぞ。それに、実力がなければその内ボロがでる。後.....もし俺が裏口入学したとして、お前達は喜ぶか?」
「.....」
「.....」
彼達はなにを話しているのか。それは一高を含めた国立魔法大学付属高校での教育体制が関係している。
例に一高では、試験で200人を採用しその内上位100名を『一科生』そして残り100名を『二科生』としている。
さらにいえば一科生は教員から魔法実技の個別主導を受けられるのに対し、二科生は個別指導はおろか教員に教えてもらうという機会すらないのだ。
この様な格差がなぜ生じているか、それは指導をできる教員が不足している為こうせざるおえないのが現状だ。
このことから一科生が二科生を下に見て優越感に浸ることが多々あるが、それでもたった200枠の内にでも入ったエリートなのだ。二科生だからといっても、普通の高校と比べればレベルは全然違う。
話しが逸れたが、一高では一科生には制服に八枚花弁のエンブレムが刺繍されているのだが、二科生にはそのエンブレムがない。
元々は業者の作成ミスだったのだが、それを直そうとせずに定着してしまったのだ。それにより一科生と二科生の溝は更に深くなり、一科生がなにかと二科生に対し傲慢な態度を取るようにもなる。
「別にいいだろ?俺が『二科生』だったとしても....まぁ、今までみたいに同じクラスになるのは無理になるがな」
「....不覚。テストで手抜けばよかった」
「はっ その手が!」
「馬鹿かお前らは....お前らは実力で『一科生』になったんだ。俺みたいな落ちこぼれなんか気にせず青春を謳歌しなよ」
と神綺は言うが二人はそれを良しとしないらしい。
「なんでよ!神綺君頭良かったじゃん!手抜いたの?」
「んなわけあるか。確かにペーパーでは手ごたえがあったが....ここは実技が優先される。それだろ?」
「うっ....でも」
「でももなにもないぞ。俺は何も不満に思うことはない、これでいいじゃないか」
「神綺は自分を卑下しすぎ、干渉力だって高いし一科生でもおかしくないレベル」
「おいおい....お前らは知ってるだろ?俺は処理速度が深刻だって」
今まで語ってはいないが、魔法は、『事象に付随する情報体(エイドス)』を改変する事を指す。
しかし、改変はできるが0から1を作るということはできないという性質もある。
さらに言うと、魔法式を構築(処理速度)し、その式を元にエイドスに干渉し改変する
(干渉力)ことで初めて魔法を使用した、となる。
魔法科高校は魔法を使う魔法師を育成する学校。
ということはテスト内容も実際に魔法を使う際に重要になる物を採点基準にするのだ。
その基準の中で魔法式を構築する速さが採点項目となっている。しかし神綺は構築する速さが遅い為に点数が低くなったのだ。
さらに言えば雫の言う干渉力も同じく採点項目だが、神綺は干渉力は並み以上の才能があった。その為、処理速度で点数を落とした分を干渉力で補って受かったってとこだろう。
「なんか納得できないな~....」
「そりゃぁそうだよ。中学の時のテストも神綺とほのかは1位2位を争ってたもんね」
「うー」
「もうなにを言っても結果は変わらない。もういいだろう?」
「....神綺はサッパリしすぎ」
「....褒め言葉と受取って置くぞ」
「さぁ、お嬢様方。もうそろそろで国立魔法大学付属第一高校ですよ」
「さ、降りる準備だ」
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